チー牛学園~君達にはこれから恋をしてもらいます~   作:サニキ リオ

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第24話 計画的退学

 俺は急いで連絡を取り、乾と浦野を部屋に呼び出した。

 

「体調は大丈夫なのかい?」

「無理しない方がいいよ」

「ああ、そっちは心配ない」

 

 俺は体調不良で早退したことになっているため、浦野と乾は心配そうな表情を浮かべていた。

 

「ちょっと心配なことがあるんだ」

 

 俺はさっき元野木と会い、彼女が退学になることを理解した上で諦めていることを伝えた。

 

「……そういうことか」

 

 浦野は俺の報告に対して神妙な表情を浮かべて頷いていた。

 

「正直、飯盛君達のことは諦めるしかないね」

「なっ」

 

 浦野はあっさりと飯盛達を切るつもりだと告げた。その言葉には何の感情も浮かんでいなかった。

 

「待ってくれ! 俺は誰も退学にしたくないからお前の話に乗ったんだぞ!?」

「悪いとは思ってる」

 

 浦野は短くそう告げただけだった。そこに誠意は微塵も感じられなかった。

 

「飯盛君達が退学処分になった後の作戦はまた僕の方で練り直しておくよ。次こそ失敗しないように努力する」

 

 次、と浦野は言う。だけど、次って何だ。一度退学になれば、飯盛達には次なんて存在しないんだ。

 

「なあ、頼むよ浦野。飯盛は確かに嫌な奴だけど、元野木は反省してちゃんと俺達に謝ってくれたんだ。やり直せるかもしれないのに、切り捨てるなんてあんまりだろ」

 

 元野木は自分の行いを心から反省していた。

 きっと、今回の中間試験を乗り切れば飯盛にだっていい影響を与えてくれるはずなのだ。

 

「友田君、智位業学園に入学できる生徒の共通点。それが何かわかるかい?」

 

 俺の必死に訴えを聞き流し、浦野は唐突にそんなことを尋ねてきた。

 入学初日にも考えた学園の目的。それは今でもわからず仕舞いだった。

 

「……落ちこぼれ、とか?」

「半分正解とも言えるだろうね」

 

 やっと振り絞った俺の回答に、浦野は苦笑しながら頷いた。

 

「この学園の生徒は、恋愛という教科において評価は落第だ」

「恋愛弱者が集められたってことか……?」

「友田君、君だって心当たりがあるだろ」

 

 俺はいまだに幼馴染への片想いを引き摺っている。そのことも浦野は掴んでいるのだろう。

 

「僕は女性不信でね。乾さんともあくまで利害が一致したことによる協力関係であって恋愛に発展することはまずないんだ」

「私が利用されてる割合が高い気がするんですけどー」

 

 浦野の言葉に乾は不満げに頬を膨らませる。

 そんな乾には目もくれずに浦野は続けた。

 

「乾さんがいろんな人間の懐に潜り込んで聞き出した過去。そこから察するに、智位業学園は恋愛弱者を更生させてより社会に貢献できる人間に育て上げることが目的だ」

 

 スポンサーや学園上層部側の趣味嗜好もあるだろうけどね、と吐き捨てるように呟くと浦野は顔を顰めた。

 

「……まるで、恋愛ができなきゃ社会貢献できないって言われてるみたいだな」

「少なくとも恋愛弱者が増えれば少子化は進む。それに女性が社会進出している今、会社内での異性同士のコミュニケーションに問題が発生することもあるかもしれない。正直、僕は上層部が恋愛脳だとしか思えないけどね」

「まったくバカげた話だよね」

 

 浦野も乾も学園の方針には不満がありそうな様子だった。

 二人は恋愛が嫌いで、ただ手を組んで学園の方針に逆らおうとしているのはわかった。

 

「それがどうして飯盛達を切ることと繋がるんだよ」

 

 しかし、だからと言って飯盛達を見捨てる理由にはならない。

 

「学園の目的は卒業までに僕らを更生させること。つまり、他者を蹴落としてでも這い上がる精神の強さも求められている。どの道、飯盛君みたいな人間は生き残れないさ」

「お前、もしかしてはじめから俺に飯盛達を切らせるつもりだったのか……!」

「一年生の間に半数が振るいにかけられるんだ。今の内に誰かを切れるようになっておかないと心が持たないだろう?」

「てめぇ!」

 

 言いようのない憤りから咄嗟に手が出てしまった。

 俺は浦野の胸倉を掴み上げると、怒りに任せて壁に叩きつけた。

 

「だから言っただろ。悪いとは思ってるって」

「微塵も思ってねぇだろ!」

「誤解だよ。僕は君に成長してもらいたいんだ。嫌な奴の飯盛君なら退学になったところでそこまで心は痛まないだろう?」

「人を踏み台にすることが成長だってのか!?」

「ああ、そうさ」

 

 浦野は全く動じることなく淡々と告げる。

 

「人生は勝つか負けるか。勝者の裏には必ず敗者がいる。君だって見ていないだけで既に多くの人間を踏み台にしているんだよ」

「お前が俺の何を知ってるって言うんだ!」

 

 俺の過去も俺の苦しみも何も知らない癖に、わかったようなことを言う浦野が気に食わなかった。胸倉を掴み上げる拳に力が籠る。

 それでも浦野は一切動じずに俺の目を真っ直ぐに見据えたまま告げた。

 

「友田主税。スノーボード男子ハーフパイフ金メダリスト友田千種(ともだちくさ)、体操個人総合金メダリスト椎名沙耶(しいなさや)の息子。伯母の友田千加代(ともだちかよ)、従兄の王子雅也も共にスノーボードハーフパイフの金メダリストだ。まさにアスリート一家だね」

「……知ってたのか」

「アスリート一家の息子でクラスの人気者。可愛い幼馴染もいた。そんな君がここにいる理由は簡単だ。失恋と挫折による自信の喪失。そうだろう?」

「っ!」

「幼馴染に格好良いところを見せようとして派手に転倒。中学では友人から腫物扱いされ、オタク趣味にハマったところでようやく新しい友人ができた。こんなところかな」

 

 俺は咄嗟に乾に視線を向ける。

 すると、乾は何喰わぬ顔で口笛を吹いていた。

 

「乾さんを責めないでくれ。知っている情報は全部僕に提供しないと協力はできない。そういう約束だからね」

「そういうこと。ごめんね?」

 

 乾は両手を合わせるとウィンクしながら謝罪をする。

 そこで完全に理解した。俺は浦野に利用されていたのだ。

 拳に籠っていた力は霧散し、俺は浦野の胸倉から手を離した。

 身なりを整えると、浦野は改めて俺に向かって告げる。

 

「君は敗者になってしまった。でも、ここで本来の勝者である自分を取り戻せるんだよ」

「俺は……」

 

 昔の自分を取り戻す。それはとても魅力的な提案に見える。

 クラスの人気者で、自分に自信の持てる生活。

 それは俺が一度捨て、再び求めてやまないものだった。

 

「大丈夫だよ。浦野君が悪いって思っとけば責任なんて感じないですむでしょ?」

「ああ、作戦を考えた責任は僕にあるんだ。君が背負う必要はないさ」

 

 それは悪魔の囁きだった。

 クラスメイト達を踏み台にして伸し上がる。どんな結果になっても浦野のせいだと思える。それで俺の求めていたものが手に入る。

 

「悪い。今日はもう帰ってくれ……心を整理する時間が欲しい」

 

 あんな啖呵を切った手前、掌を返すようですぐに返事をすることはできなかった。

 

「そうだね。ゆっくりと考えてくれればいいさ」

「じゃあね、友田君」

 

 自分の心の醜さを誤魔化すような俺の言葉に浦野も乾も笑顔を浮かべていた。

 そのまま部屋から出ていく二人の背中を見送ることしかできなかった。

 俺はどうしようもないくらい情けない人間のままだった。

 

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