チー牛学園~君達にはこれから恋をしてもらいます~   作:サニキ リオ

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第25話 冠城先生による生徒指導

 翌日。学校に行けばクラスのみんなが俺の周りに集まってくる。

 

「友田、体調は大丈夫なのか?」

「病院は行ったの?」

「RINEの返事返さないから心配したよ」

「顔色はまだ悪いけど、無理しない方がいいよ?」

 

 嬉しいはずなのに、この状況すらも浦野の掌の上だと思うと素直に喜べなかった。

 

「体調、大丈夫?」

 

 席に着くと風鈴が短く尋ねてくる。

 

「ああ、平気だ」

 

 俺は風鈴の方を向かずに淡々と答えた。

 あれから風鈴には謝ることもできず、気まずい状態になっていた。

 風鈴も気を遣っているのか、以前のようにパーソナルスペースに潜り込んでくるようなこともしてこない。

 一晩考えても俺はどうすればいいのか、答えを出せないでいた。

 その日、受けた授業の内容は一切頭に入ってこなかった。

 

「友田君、ちょっといいですか?」

 

 放課後、俺は冠城先生に呼び出された。

 緩い雰囲気を醸し出しつつも鋭い冠城先生のことだ。きっと俺と風鈴の間に流れるぎこちない空気を察したのだろう。

 冠城先生に連れられて生徒指導室に入るとお茶を出された。

 

「そう硬くならないでくださーい。ただの世間話ですよー」

「世間話で生徒指導室使っていいんですかね」

「世間話をすることで生徒の悩みをさりげなく聞き出す高等テクなので問題ありませんよー」

「それ言った時点でさりげなくないですから」

 

 この人と話していると、どうにもペースを崩される。

 冠城先生は自分のお茶を飲むと、ほっと一息ついて話し始める。

 

「友田君、あなたのおかげで多くの生徒が関係を壊さずに恋愛実習に臨めていますねー。担任としても、恋愛実習担当教師としても誇らしいですー」

「俺は大したことはしてません。本当に……」

 

 俺は浦野に踊らされていただけだ。俺の手で成し遂げたことなど、一つだってありはしない。

 

「上辺君と風見さんのペアが退学処分になったとき、蒲生君と小山内君を庇って自分の本心と向き合って多々納さんに謝罪した。あれは立派でしたよー……自分の意思でやったことですからねー」

「えっ、それってどういう……」

 

 まるで俺が浦野に踊らされていることも把握しているような言葉に動揺してしまう。

 この人は一体どこまで見えているんだ。

 

「少し昔話をしましょうか」

 

 困惑する俺を余所に、冠城先生は唐突に立ち上がって窓の方を向きながら話し始めた。

 

「昔、智位業学園を主席と次席で卒業したペアがいました。男子は愛想がない代わりにとても頭が切れ、女子はコミュニケーション能力があった代わりに頭がよくありませんでした」

「……お互いの欠点補えてていいペアっすね」

「ええ、男子生徒の考えた通りに女子生徒は動き、彼らはクラスメイト達をうまく動かしながら卒業までトップの成績を収めていました。恋人同士になったのは一年生のクリスマスの時でしたね」

 

 冠城先生はブラインドの間に指を入れて隙間から外の様子を眺めていた。

 

「恋愛実習では、ペア同士協力して課題を乗り越えていくことで生徒に成長を促します。それを二人は――いえ、男子生徒は知略を巡らせてうまく搔い潜っていました。彼のクラスでは誰もが好成績を収め、退学者もごく僅か。にも関わらず、彼らのクラスメイト達は学年が変わり、クラス替えが起こった途端に次々と退学処分になった」

「まさか恋愛面で成長できなかったからですか?」

「はい、正解です。言われるがまま課題をクリアしていただけの彼らは成長する機会を失い、そのまま退学していきました。まだ真剣に課題に取り組んだ上で退学処分になった生徒の方が成長していたでしょうね」

 

 それは俺のクラスの未来の姿に思えた。

 ふと、風鈴の言葉が頭を過ぎる。

 

『それって何の成長にもならないじゃん』

 

 風鈴には、ただ課題をやり過ごしたところで良い結果が待っているわけではないことを理解していたのかもしれない。

 

「……成長できなかったのは女子生徒も同じでした」

 

 いつものような穏やかさは欠片も感じられない声音で冠城先生は続ける。

 

「卒業後、男子生徒は女子生徒に別れを告げました……どうしてだか、わかりますか?」

 

 ガシャンという音がした後、暗い室内に乱雑に光が差し込み、室内に舞っている埃が照らされる。

 

「……女子生徒は利用されていただけということですか?」

「はい、正解です。男子生徒が首席で合格できたのも、クラスメイト達の成績をコントロールしていたからでした」

「その後、女子生徒はどうなったんですか?」

 

 俺は答えがわかっていながらも尋ねずにはいられなかった。

 

「内心で恋愛にうんざりしながらも、母校で恋愛実習の教鞭を執っていますよ。自分のような人間を増やさないためにもね。まあ、反面教師みたいなものですよ」

「冠城先生……」

「友田君、過干渉になってしまうのでこれ以上は言えませんが、これだけは言わせてください」

 

 最後にそう締め括ると、振り返った先生はいつものような穏やかな笑みを浮かべて告げた。

 

「どうすべきかではなく、どうしたいかで行動してみてください。答えはいつだって自分の心の中にしかないのですから」

 

 どうすべきかではなく、どうしたいか。

 その言葉は俺の心の中にすとんと落ちた。

 

「冠城先生、ありがとうございます。それと、胡散臭い人だと勝手に決めつけていてすみませんでした」

「あのですねー。そういうことは思っても言わなくていいんですよー? まあ、友田君のそういうところ、嫌いじゃありませんけど」

 

 冠城先生は苦笑すると、俺の背中を軽く叩いた。

 

「さ、世間話はお終いでーす。残りの学園生活、卒業まで君を教えられることを願っていますよー」

「はい、頑張ります!」

 

 ここからはやりたいようにやらせてもらう。どんな結果になってとしても自分が後悔しないために全力で行動しよう。

 

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