○
『フライホイール回転開始』
『全N²リアクター充填率102%』
『エヴァ射出口に固定完了』
「いつでもいけます」
「了解……シンジくん」
ミサトがモニター越しにプラグ内のシンジに呼びかける。
『メタトロンが飽食状態になってから、初号機が発進されて地上に射出されて対敵するまでの約6秒間で決着がつく。まさに読んで字の如くの「電撃戦」よ。あなたはエヴァに乗って、ATフィールド全開で防御に徹する。いいわね?』
「はい」
ミサトは大きく息をはいた後、
声高に作戦の開始を宣言した。
「『ナルカミ作戦』発動! 第一次接続開始」
『了解。各方面の一次及び二次変電所の系統切り替え』
八つの発電機に接続された第三新東京市の電力供給幹線系統がうなりを上げながら胎動し始める。
「全開閉器を投入。接続開始」
電力伝送システムが再稼働し、ネルフ専用臨時供給系統に直結された。
「各発電機は全力運転を維持。出力最大まであと0.7」
「電力供給システムに問題なし」
「第1から第13管区までの送電回路開け!」
「新十塚変電所及び双子山増設変電所投入を開始」
「各予備変電所投入」
「敷設されたすべての送電用超電導ケーブルに異常なし」
「第二次接続開始!」
風に揺らぐ電線がきしむ。
「電力伝送電圧は最高電圧を維持」
「超電導変圧器を投入、受電を確認」
「インジケータ異常なし!」
「すべての電力を目標に集中!」
〇
周囲の電場を感知したメタトロンの周囲に、電気の渦が生じる。本来夕日に沈み姿が見えない十字の肉体が、光の柱となってぼんやりと空中にその形を浮かばせる。
突如、メタトロンの周囲に設置された送電ケーブルが煙を吹き始めた。
〇
「圧力計に問題発生」
「送電線発火」
「消化急げ!!」
「第一リアクター『Bacchus』機能停止」
「フライホイール破損」
「第二リアクター『Kuchikami』送電開始!」
〇
「消化急げ―!!火が回るぞ!!」
幾人もの整備担当が、束となった送電線を人力で移動させていた。その傍らで消火活動に勤しんでいた者のすぐそばの電線が突然火を噴き、何人かが爆発に巻き込まれ炎に包まれた。
業火に焼かれたものの悲鳴、断末魔があたりに木霊する。
〇
『第二リアクター機能停止! 続けて第三リアクター『Soma』の送電開始』
「生き残った電力は全て三番ケーブルに回せ!」
『第三リアクター機能停止!』
〇
冷却機能が損なわれたことが要因で、第四試作N²リアクター『Gimlet』から巨大な火柱が立ち昇る。
騒然とする周囲の整備班に大きな影を落として、リアクターは一層燃え上がり、直後鋭い閃光を放った。
〇
「『Gin』の送電続けろ!」
「理論上投入すべき必要最低量の電力を送電完了!」
「……まだなの!?」
ここにきて、ミサトの声に焦りが生じた。もうすでにメタトロンが飽食状態になってもおかしくない電力が投入されている。にもかかわらず、メタトロンは淡々と『食電』を続けていた。
〇
「やばいぞ、退避しろー!」
「ダメだ!! 持ち場を離れ――…」
勝手に離脱しようとした新入りを引き留めようと叫んだ整備班長が、第六試作N²リアクター『Kidoku』から吹っ飛んできたのホイールの一部によって、胴体を真っ二つに切断された。
「うわぁっ」
そして、逃げようとしていた班員たちの目の前に、切断された班長の上半身が飛んで落ちてきた。
〇
「第七N²リアクター『Vitae』送電開始! お願いしまぁす!!」
「投入すべき電力の120%を突破!」
「いまだに「食電」は止まりません」
「頼むから計算通りにいってくれ……!!」
日向の悲痛な叫びが口から漏れ出す。
「ダメです! 第七N²リアクター機能停止!」
マヤの報告に、冷静を保っていたリツコとミサトが眉を顰める。
「生き残った送電線残り僅か」
もう、これ以上は限界だ。
「第八N²リアクター『Yashio,ori』送電開始!」
祈るように、ミサトは手元の十字のペンダントを握り締める。奇しくも敵と同じ造形。そして、父の形見。その時だった。
「……あっ、メタトロンの『食電』が停止しました!!」
誰が言ったのか、もうわからない。数多の報告の隙間を縫って、誰かがそう叫んだ。
ミサトの長い黒髪が揺れる。
そして、モニターの一ウィンドウの向こう側の少年に向かって、叫んだ。
「来たっ!! シンジ君!!」
『はいっ!!』
「エヴァ初号機、発進!!!」
T-06.00
(初号機射出。雷を噴き上げる射出台)
T-04.34
(高速でゲートを移動していく初号機)(メタトロンが感知)
T-02.89
(地上射出口解放)
(メタトロン、進路を射出口方向に転身)
T-00.00
地上にエヴァが射出された瞬間、メタトロンから極太の電撃が初号機に放出された。その電撃を、初号機を守る巨大な盾が受け止める。
『第三新東京の全ての電力インフラを復旧!』
第三新東京市の電力系統に直結された盾が、光の柱を通じて、メタトロンに過剰な電力を逆流させて送電した。
陽が沈み、暗くなった第三新東京市に、光が取り戻された。
ポツポツと天から降り注ぐ雨粒の一滴一滴のように、次々と点々とした明かりが、乾ききった街を潤していく。
メタトロンは一瞬酷く発光して、十字の光の柱となって、直後内側から爆発四散した。
街中に歓声があふれる。人々の祈りが届いたのだ。
そして、暗く沈んだ病院の一室にも今、明かりが戻る。