電撃の死闘   作:堂廻り 眞くら

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エピローグ~You are your own reason for being born you~

 

 

 

 

 

 

 将来なんてものはない。

 

 夢や希望もない。

 

「僕も、……今まで適当に生きていても、なるようになってきたし、これからもそうだろうって思ってた」

 

 だから、突然理不尽に死が訪れたとしても、一向に構わないと思ってた。

 でも最近になって思う。希望が見えないのは、私がそれを探してないからなんじゃないか、って。

 

 誰か、私を愛してくれただろうか。

 

「高田さんは誰かを愛したことがあるの?」

 

 わからない。そんなこと無駄だと思ってたから。愛しても、人と人が完全に理解し合うことは決してないのだから。

 

「悲しいイキモノなんだ」

 

 与えられることも、奪われることも。もう何も考えなくて済むように。

 

 世界を悲しみで満たしたら。

 

 孤独が私の心を埋めてゆく。

 

 私の望んだ世界。

 

「争いも

 諍いも

 支配も

 服従も

 苦痛も

 落胆もない世界」

 

 父を拒絶して、病院に引きこもって、他人とのつながりを断てば。他人の恐怖の存在しない世界。

 

「じゃあ、どうしてもう一度他人の存在を望んだの? あの日、病室を出て、何故他人を探したの?」

 

 あのまま病室で寝ていたら、楽なのに、心地よいのに。

 

 どうして私はあの日、ベッドから出たのだろう。あの心地よい体温に包まれた世界から抜け出そうと思ったのは、どうして。

 

「他人の手がもう一度、君を何度も傷つけるかもしれないのに」

 

 私のつないだ手が、他人を傷つけたり、離れたりするかもしれないのに。

 

「……どうして?」

 

 ……それでも。

 

 それでも私は、他人を望んだ。

 

 だって、私は、私が私に生まれた理由が欲しかった。

 

「生まれてきたことを認めてほしかった」

 

 群れの中で、人として生きていたかった。たとえ、もうすぐ死んでしまうとしても。

 

「だから僕に認めて欲しかったんだね」

 

 だからシンジさんに優しくした。

 

「僕は、他人に自分を認めてほしかった。自分に自信がなかったから。自分のことが、嫌いだから」

 

 独りはずっと寂しかった。

 

「だから、僕は高田さんと仲良くなって、自分に自信をつけたいと思った。自分を、好きになろうと思った。ゴメン、高田さん。僕は高田さんの好意を自分の都合で利用したんだ」

 

 私も同じ。

 

 でも、……そうか。

 

 シンジさんも同じだったんだ。

 

 私も、自分を好きになりたかったんだ。

 

「他人に認めてもらうには、まずは自分を認めなくちゃならないんだ」

 

 私自身が、私が私でいるための理由そのものだったんだ!

 

 他人は必要がない。

 

 お父さんも。

 

 彼との子供も。

 

 誰も。

 

 必要なのは、私だけ。愛だけ。

 

「おめでとう、高田さん」

 

「ありがとう」

 

 最後に、シンジさんに出会えてよかった。仲直りできてよかった。

 

 さようなら。

 

 夢は現実の中に。現実は夢の中に。そして、真実は心の中に。

 

 私自身の力で自分をイメージすることができれば、また再びヒトの形に戻ることができるはず。

 

 ヒトに……。

 

 ああ、でも、やっぱり。

 

 

 ちゃんと生んであげられなくて、ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、いいのかい?」

 

 地平線まで続く、十字架の花園。共同墓地の端の端。

 高田さんの眠る小さな墓に花を添えて、僕は僕を待ってくれた加持さんの元に帰った。

 

「はい」

「涙は止まった、か」

「僕が泣いていても、しょうがないから」

「……慰めは必要がなさそうだな」

 

 加持さんはしばらく、青空に流れる雲の形を目で追っていた。

 

「君だけじゃない。生きとし生けるもの、誰もが他者の命を奪って生きている」

 

 帰りの車の中で、加持さんは僕にそう語りかけた。

 

「それ自体は、特別な事じゃないさ」

「でも、人殺しは別なんじゃないんですか」

「そうでもない。あの娘だって、高田球沙だってそうさ。彼女は一つの小さな命を粗末に扱った。それはあの娘と……まあ、あとはあの娘の父親の責任かな」

「……」

 

 高田さんと最後に会った時。彼女の中にいた、あの影は……。いや、考えるのはやめよう。

 

「生きるって、辛いことですか。加持さんにとって」

 

「誰にとってもさ」と加地さんは言った。「でもな、シンジ君。辛さのすぐそばに、幸せがあるんだ。それを忘れなければ、人はいつだって幸せになることができる。高田球沙は生きることの辛さを誰よりも知っていた。そんな彼女だからこそ、誰よりも幸せを近くで感じるチャンスがあったんじゃないかな」

「……」

 

 きっと彼女は自分の幸せを見つけることができたのだと思う。最後に彼女と会った時、そう感じた。いや、そう考えるのが、僕にとってもいいことだと思う。

 

 僕は車窓を少しだけ空けて、入り込んでくる風を受けた。

 

 きっと大丈夫。

 

 僕が何度間違えても、道に迷っても、怖くなってしまっても。

 

 例えどこに行こうと、この優しい風が僕と共にある限り。

 

 どこに行っても、きっと。

 

 

 ……帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、わかっている。そのように処理してくれ」

「なるほど、そういうことですか司令」

 

 ネルフ総司令官公務室にて。

 

 特務機関ネルフ特殊監査部所属加持リョウジ一尉。彼は特務機関ネルフ総司令官碇ゲンドウと、執務用の大きな机を挟んで対峙していた。

 総司令ただ一人のために設計されたにしてはあまりにも広すぎる空間が、閑散とした公務室の寂寥感を果てしなく強調している。公務室に差し込む光が、無駄に大きい机と、後は二人の影だけを虚しく長く引き伸ばした。

 

「『今回の使徒は存在しなかった。大規模な実践演習』……関係各所にはそのように伝えてある。後は出張中の冬月がうまくやってくれるだろう」

「真実がまた一つ、闇に葬られる、というわけですね」

「所詮、それだけの価値しかないのだよ、真実などというものにはな」

 

 二人の間には、会話を交わすにはあまりにも遠い物理的な距離と、精神的隔たりが感じられる。碇ゲンドウは始終口元を手で覆い隠しているため表情が見えないが、そんなものは必要ない程に、二人は互いの輪郭すら掴めない。

 

 それでいい。

 

 理解し合えなくてもいい。

 

 真実はなくてもいい。

 

 真実は、俺の中にさえあればいい。

 そして、俺自身の選択で、セカンドインパクトにケリをつけるんだ。

 

 加持は心の中で、そう嘯いた。

 

 ミサトの笑い声が、脳裏にふと思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大規模実践演習が終わってから、数日が経過した第三新東京市立第壱中学校2年A組。

 

 シンジの空いた席に、アスカは神妙な面持ちで佇んでいた。心配そうにヒカリがその隣に寄り添っている。

 

「バカシンジ……」

「アスカ、碇君のことが心配なの?」

 

 ヒカリの問いに、アスカは若干の動揺を隠せない。

 

「いきなり何言うのよ! 知らないわよ、あ、ああんなバカのことなんか……」

「……」

「別に心配なんか……でも……だけど、アイツ何日も部屋に閉じこもったままだったし、と思ったらいなくなってるし……一体何考えてんのよ!」

「『少しは私の気持ちもわかってよね……私が、どんなにこの胸を痛めているか……もう! 知らないっ!(裏声)』」

 

 気味の悪い声にギョッとするアスカとヒカリ。二人の元に、トウジとケンスケが現れる。

 

「おおっ! ええでケンスケ! アスカの揺れる乙女心が、よー表現できとるわ!」とトウジが叫んだ。アスカは酷く赤面した。

 

「ちょ、ちょっと! 何よケンスケ、勝手にアテレコしないでよね!」

「大丈夫よ」

 

 更に聞こえてきた謎の声にギョッとして、一同が後ろを振り返った。そこには綾波がいた。

 じっと、シンジの机に目を落としながら、教室では滅多に開けない口を開く。

 

「彼、強いもの」

「「……」」

 

 その場にいた全員が暫く茫然と綾波を見ていたが、やがてトウジが笑って腕を頭に回した。

 

「せやな、……ああみえて、強い奴やシンジは」

「信じて待とう」

 

 ケンスケもトウジに同調して頷いた、その時だった。

 

 教室の入り口のドアが、ガラっと開いた。

 

 クラスの皆が一斉に目を向ける。

 

 一同が見守る中、扉の向こうからシンジが、今、顔を覗かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう! シンジ! えろう遅かったやないか!」

 

「よう、碇!」

 

「碇君、おはよう!」

 

「Guten Morgen! バカシンジ!」

 

「おはよう」

 

 

 

 

 

「みんな……」

 

 僕には、帰る場所がある。

 

 こんなにうれしい事はない。

 

 嬉しいことはないんだ。

 

 これが、幸せなんだ。

 

 

 シンジの顔に、満面の笑顔が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おしまい

 

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