悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜 作:黒川陽継
酷い気分だ。
身体中が痛いし、頭痛も激しい。
左腕も無いし、ついでに左眼も見えない。
ここまで最悪の気分になったのは、幾千幾万と殺され続ける夢を見た以来だ。
意識が戻っても、当然の様に身体は動かない。
上半身を起こす事すら出来ない為、目を動かして周囲を見る。
視界に写るのは、燃ゆる焚き火と、ゆらめく灯りに照らされる岩肌だ。
近くからは絶えず聞こえてくる波の音。
ここは浜辺付近の洞穴か何か?
幸いにも命は助かった様だが、海図を確認した限りだと、魔の海域付近に手頃な島など無かった筈だ。
ならばここは何処なのか。
漂流している所を何処ぞの島の住民に助けられたのか?
一緒にいた筈のフォルはどうしたのか。
共にこの島に漂着しているのか?
まあ、色々と疑問はあるが、一先ずは助かった事を喜ぶとしよう。
しかしカルロスめ。
直ぐに助けに来る様に言い含めていたと言うのに、目覚めた時に近くに居ないとは何事か。
次会った時には灸を据えてやらねばなるまい。
ふと、悪寒の様な嫌な気配を感じ、洞穴の端を見る。
「——!?」
そこには…青白く光るタツノオトシゴがふわふわと漂っていた。
俺はこの存在を、知っている。
「ルーナマールだと!? 貴様が何故こんな所に…!?」
青白く輝くタツノオトシゴ——ルーナマール。
こいつは、まるでタツノオトシゴの様な姿をしており、宙に浮かんでいるが、魔物では無い。
こんな小さな形をして、膨大な魔力を内包する存在。
海を司る、水の高位精霊だ。
そして物語において、ルーナマールには、常に一緒に行動する存在がいた。
「貴様がここに居ると言う事は——ぐっ!?」
無理に身体を起こそうとするが、左半身が酷く痛み悶える。
幾千幾万と殺された事で痛みには多少の耐性はあるつもりだが、それでも痛いものは痛いし、動かないものは動かない。
だが動かねばならない。
ルーナマールがここに居ると言う事は、近くに奴がいる可能性があるのだ。
「ぐ、ぬぬ」
俺が一人痛みに悶えていると、俺に掛けられていた毛布——と呼ぶには些か薄汚い獣の毛皮が、むくりと動いた。
毛皮がはだけ、中から出てきたのは、肌に一糸纏わぬ姿の少女だった。
少女は俺を見ると、どこかやつれた顔に安堵を浮かべる。
「目、覚めたんだな…」
それを見て俺は、目を剥いて仰反る。
俺はこの少女——いや、この女を知っている。
今は物語開始よりも3年前の為、当時よりも幼さはあるが、この金髪に翡翠の瞳は忘れようも無い特徴だ。
何より、水の高位精霊ルーナマールが共に居る時点で間違い無い。
物語におけるヒロインの一人。
主人公勢力の中で、俺に対して最も強く、執拗に敵意を向けてきた女。
水の高位精霊ルーナマールを相棒とする、精霊憑きの女船乗り。
「ファラティアナ・ローグベルト…!」
俺は反射的に上体を起こし、手の中に暗黒球《ダークボール》を形成しようとして——それが出来ずに血を吐いた。
「——かはっ」
くそ。
魔力枯渇の影響か、魔法を行使するだけの魔力が足りず、身体が拒絶反応を起こしたのだ。
まさか、下級魔法一つ行使する魔力すら回復していないとは…。
通常に比べ、魔力の回復が遅過ぎる。
く、フォルの奴は何処に行った。
こんな凶悪な女と二人きりなど冗談では無いぞ。
マジで殺される。
「——ッ!? おま、大丈夫かよ!?」
俺が吐血した事に驚き、背中をさすってくるファラティアナ。
…どう言うつもりだ。
なんだその心配そうな声は。
貴様は俺に対して理不尽な罵倒しか口にしないイカれ女だろうが。
そもそも何故、ファラティアナがこんな所に居る。
まさか、幾千幾万と殺され続けた夢の続きではないだろうな。
「離れろ…! 貴様、俺を殺す気なんだろう…!」
「は、はあ!? …あ、首絞めの事か? 意識、あったのか…あれはすまん、変な夢を見たと言うか、寝相が悪かったと言うか…」
胸やら下半身やらを隠しもせずにも目を逸らしながら言い訳をするファラティアナ。
まずは前を隠せ、羞恥心とか無いのか貴様は。
と言うかこいつ、俺が寝ている間に首を絞めて殺害を試みたらしい。
やはりこの殊勝な態度は俺を油断させる為の演技か。
しかしだ、ならばどうしてそのまま殺さなかったのか。
絶好のチャンスだった筈だ。
まさか、俺が魔力枯渇である事を知っていて、魔法を使えず、碌に抵抗出来ない状態の俺を痛め付けて殺す為に…?
残忍なファラティアナの事だ、十分にあり得る。
何かされていないだろうなと、自身の身体を確認する。
「あ、うん…?」
どう言う訳か、俺の身体には不器用ながらも治療された様な跡があった。
身体中に施された、包帯代わりに巻かれた破られた布。
そして、失った左腕——肘の傷口は、見覚えのあるバンダナで縛られていた。
見間違えよう筈がない。
この平民感丸出しの古びたバンダナは、フォルがしていたものだ。
よく見ればら身体に巻かれた布も、フォルが着ていた衣服を破って作られた物に見える。
これは。どう言う事だ?
この治療をしたのはフォルで、当のフォルは治療した後にファラティアナを置いて姿を消したのか?
まさかファラティアナが、フォルの衣服を用いて治療するなんて事は流石に無いだろうが。
分からん、何がどうなってこの状況になったと言うのか。
俺が警戒を解かずにいると、ファラティアナは今更ながらに己が裸である事に思い至ったのか、毛皮を俺から引ったくる様に奪うと、抱く様にして前を隠した。
そして僅かに顔を赤らめ、鋭い目付きでこちらを睨みながら一言。
「あんまじろじろ見んな…」
見てない。
なんだその普段気の強いヒロインが主人公にのみ見せる照れと羞恥が混ざり合った様な顔は。
色気付くなよイカれ女が。
あれだけ人の事を罵倒し、執拗に殺し続けておいて、今更そんな態度見せられてもマジで何も感じんぞ。
「つか、オレ——いや、アタシの本名知ってたんだな…」
「あ?」
「今さっきファラティアナって呼んだろ。兄貴…いや、親父に聞いたのか? 言えよな。知ってたなら男のフリなんかする事無かったじゃんか」
「兄貴に、親父? 男のフリだと…? 貴様、さっきから何を言って…」
ファラティアナが何を言っているのか分からず、暫し奴の顔を見据える。
いや、待て。
よく見るとこの顔、どこかフォルに…。
「——はっ?」
そして思い至る。
今の今まで、疑いすらしなかったその可能性に。
よく見ればこの刺す様に鋭い目付き、そしてこの細身で小柄な背丈。
フォルの特徴と一致していないか?
「——お、おまッ…お前ッ……そんな、そんな馬鹿な事が…!」
「いや、何をそんな驚いてんだよ…」
俺はあまりの衝撃に天を仰ぐ。
嘘だろ。
確かにフォルは、体格の良い男共の中でも、随分と華奢な身体つきだとは思っていたが。
それは若さ故と、特に疑問は抱かなかった。
と言うか、フォルはどう見ても男にしか…平民のやんちゃな悪ガキにしか見えなかった。
いや、目の当たりにした今でも信じられん。
何かしらの見間違いだったのではないか?
俺は毛皮の端を持ち、ファラティアナ——もといフォルの身体を確認するべく捲り上げる。
「うあああ!?」
フォルの絶叫に近い悲鳴と共に、直ぐに振り払われてしまった…が、その身体はしっかりと確認できた。
乳房があり、下半身に男根は無く、貧相ながらも女性らしい身体つき。
ああ、どう見ても、誰が見てもこいつの性別は女だ。
「な、何しやがる!? 裸で一緒に寝てたのはそう言う事じゃ…これは冷えたお前の身体を温める為で…!」
「ああ…?」
ふと、俺は自身の状態と、周囲の状況を改めて見る。
魔力枯渇で海に晒され、衰弱していたであろう俺。
そして一糸纏わぬ姿で、まるで暖をとるかの様に寝床を共にした様子のフォル。
ふと、昔父上の書斎で読んだ有名冒険家が書いた航海日誌に、似た展開があったのを思い出す。
航海中に海難事故に遭い、無人島に漂着する。
そして近場の洞窟で、相棒の女冒険家と裸で身体を温め合い、命を繋いだ、と。
今の状況は、正にそのベタな展開そのものではないか?
俺は色々と状況を察し、深い溜め息を吐く。
「…成る程、随分と世話を掛けた様だな」
「な、なんだよ、急に改まって」
「…しかし分からんな」
「あん?」
分からん、こいつの目的が。
こいつは貴族を嫌っていた筈だ。
にも関わらず、文字通り、その身を使ってでも貴族である俺を助けた。
まだ男も知らん様な小娘に見えるこいつが、裸で親しくもない男と寝床を共にするなど、普通であれば考えられん。
そもそもこいつはフォルだが、その正体はあの残忍極まり無いファラティアナだ。
確かに俺は、よくよく考えれば、まだこいつに恨まれる様な事はしていない。
物語で殺され続けたとは言え、今この段階で殺される理由は無い筈だ。
いや、そもそも当の物語上でも殆ど八つ当たりに近い憤りをぶつけられていたのだがな。
「貴様は貴族を嫌っていた筈だ。そこまでして俺を助けた目的はなんだ? 見返りの金銭を期待しての事か?」
「いや、何言ってんだ。助けるだろ普通に。金はまあ欲しいけど、これで貰うのは違う気がするな」
真顔でそんな事を言われてしまった。
金銭目的でも無いだと?
しかも普通ってなんだ、なんで俺が下民風情に倫理を説かれるような感じになっているんだ。
「普通だと?」
「お前だってアタシを助けたろ?」
それはまさか、魔鯨の白熱線の事を言っているのか?
あれは寧ろ、魔鯨の攻撃を防ぎ切れなかった俺の方に落ち度があった。
その落ち度の責任を他者に支払わせるのが、貴族として、ライトレス家の嫡男として我慢ならなかっただけだ。
「…お前はどう思ってるか知らねえけどな、アタシは命を助けられ、あの魔物を討伐してくれた事で、きっとローグベルトも救われる。そんな大がつく程の恩人が死に掛けてるってのに、助けない訳ねえだろ」
「…」
真っ直ぐに向けられる、混じりっ気無しの好意的な感情。
こんな事を言われたのは、生まれてこの方初めての事だ。
俺は、それをどう受け止めたものか分からず、目を逸らした。
「…勘違いするな。貴様ら下民の為にやったんじゃない」
「お前がそう言うだろうってのは分かってるよ。だから、これはこっちが勝手に感謝してるだけの話だ。お前は黙って助けられとけよ」
「なんだ、それは」
身も蓋もあったものではない。
フォルは毛皮で前を隠したまま、俺の顔を覗き込む様に近寄って来た。
「ロー、ファス」
「は?」
「名前。ローファス、で良かったよな?」
「…当たり前だろう」
こいつは今更何を言っているのか。
まさか今の今まで知らなかったのか?
まあ、確かに名乗った覚えはないが。
「ローファス、身体が冷えてるぞ。ったく、折角温めてやったのに」
「お前が毛皮を取ったからだろうが」
そう返すと、フォルは毛皮を広げて俺とフォルの身体を包み込む。
「そのまま動くなよ」
毛皮の中で肩同士が触れ合う程に身体を密着させてくるフォル。
「…何のつもりだ」
「海辺の夜は冷えるからな。こうでもしないと凍死する」
「…いつまでそんな格好でいる気だ」
「服はお前の治療に使ったんだよ」
ああ、そうだったな。
フォルの服は破られ、俺の包帯代わりに使われていたのだった。
「治療の魔法も、なんでか使え無くなってるし…」
治療魔法が使えなくなっただと?
原因は魔力不足か?
或いは神への信仰心不足?
ふむ、分からん。
「あんまこっち見んなよ」
だから見てない。
「俺の服はどうした?」
「あー…」
フォルは言いづらそうに目を伏せた。
「ここに運ぶ前に浜辺で脱がして、後で取りに行ったら無くなってた。多分、波に流された…すまん」
「…そう、か」
では外套の懐に入れていた各種ポーションも一緒に海の藻屑か。
ポーションがあれば少しは体力や魔力の回復の足しになったのだが、まあ無いものは仕方が無い。
そこからは色々な話をした。
話したと言っても、フォルの奴が終始話し続けるのを、ただ黙って聞いていただけだが。
その都度、興味無いと一蹴しても特に気にした様子も無く次の話題を持ち出してくるメンタルには、呆れるものがあったが。
ファラティアナと名付けたのは、幼い頃に病気で亡くなった母親で、お姫様の様に綺麗になって欲しいという願いを込めて名付けられたそうだ。
確かに、平民には似合わぬ大仰な名前とは思ったが。
その母親はいたくフォルを可愛がっていた様で、将来きっと運命の騎士様が迎えに来てくれる、なんて話をよくされていたそうだ。
がさつなグレイグの妻とは思えぬ、随分と脳内に花でも咲いていそうな女だな。
「あ、そう言えば、あの鯨と戦うローファスは勇敢で、まるで騎士様みたいだったぞ」
などと揶揄う様にフォルは言ってきた。
何故王国の上級貴族であるこの俺が、より階級が下の騎士として見られなければならないのか。
馬鹿にしているのかと怒ると、何故か笑われた。
なんだこいつは。
他にも、幼少の頃に長兄のログと次兄、そしてフォル三人で海辺を探検し、海から迷い込んだハグレ半魚人《マーマン》を兄弟で協力してどうにか撃退し、後でその危険行為がバレてグレイグに手酷い拳骨を食らった、とか。
幼馴染のノルンという少女との思い出の話とか。
本当に、どうでも良い話を延々と。
後から思えば、俺を寝かさない為に話を続けていたのだろう。
雪山で遭難し、眠る事が死に直結するように。
雪山程ではないにしろ、この洞穴の中も思いの外冷える。
焚火を灯しているとは言え、洞穴の奥が何処かに繋がっているのか、出口から時折、磯臭い寒風が吹き抜けている。
冷えた洞穴で二人、温もりを分け合いながら、夜が更けていった。
*
——ちゃーん!
——坊ちゃーん!!
聞き慣れた呼び声に目を覚ます。
この声は間違えようも無い、カルロスの声だ。
声は洞穴の外から聞こえて来ている。
寝ない様にしていたつもりが、どうやらフォルのどうでも良い話を聞いている内に意識を手放していたらしい。
魔力を集中し、手のひらに小型の暗黒球《ダークボール》を生み出してみる。
ふむ、どうやら魔力は、全快には遥かに程遠いが、多少は回復したらしいな。
これならば最低限の下級魔法ならば問題無く扱えるだろう。
魔鯨と繰り広げた様な戦闘は、当然無理だがな。
俺の隣では、フォルが俺の肩を枕にする様にもたれ掛かり、すうすうと寝息を立てていた。
「おい起きろ。迎えだ」
「ム……んあ!?」
声を掛けると、フォルは暫し寝惚けたように俺を見つめ、驚いた様に飛び起きた。
「嘘っ、寝てたのかアタシ!?」
ああ、寝ていた。
「ローファス生きてるかお前!?」
「当たり前だろうが」
誰が起こしてやったと思っているんだこいつは。
「それよりもここを出るぞ。漸く迎えが来たようだからな」
毛皮をフォルに押し付け、ふらつきながらも立ち上がる。
フォルは俺が押し付けた毛皮を投げ捨て、慌てたように俺の肩を支えて来た。
「おい、無理すんなよ」
「魔力は多少回復したから問題無い。随分と殊勝な心掛けだが、しかし貴様は…まさかその格好のまま出て行く気か?」
「…ぁ」
一糸纏わぬ姿のフォルは、急いで毛皮を拾い上げ、肌を隠すように包まった。
全く、何の為に毛皮を渡してやったと思っている。
魔力を身体に通し、歩行状態も問題無い。
フォルを連れて洞穴を出ると、近海に付けられた本船と、浜辺を散策する船乗り共とカルロスが目に入った。
カルロスはこちらに気付くと、凄まじい勢いで駆けてきた。
「ローファス坊ちゃーん!」
号泣しながら縋り付いてくるカルロス。
その手には、ここらの近海で漂っているのを拾い上げたのか、びしょ濡れの俺の外套が握られていた。
「よくぞ、よくぞご無事でえええ!」
「触るなカルロス、鼻水が付くだろうが」
泣き縋って来るカルロスを鬱陶しく思っていると、他の船乗り共も集まって来た。
俺とフォルの無事な姿を見て、歓喜の声を上げる船乗り共。
そんな船乗り共を掻き分け、現れたのは一際大柄なログだ。
「無事だったか! フォルも!」
「触んじゃねえ!」
「え——ぐぼっ!?」
抱き着こうとしたログは、フォルに躱され、蹴りを入れられていた。
勢い余って、倒れ込むログ。
そして唸りながら砂に塗れた顔を上げたログは、目を剥いた。
「え」
どうやら、フォルが羽織る毛皮の下が裸である事に気付いたらしい。
ログはじっとフォルを見つめ、ぎぎぎと首を回しながらその視線を俺に移す。
フォルは睨む様にログを見下ろしながら、その身を隠す様に俺に寄り添って来た。
「…えっ」
間抜けなログの声が響く。
こいつ、間違いなく何か妙な勘繰りをしているな。
そんな一幕がありつつも、そのまま俺達は本船に保護され、無事にローグベルトへ帰還する事が出来た。
ローグベルトへの帰路の道中、ログの奴が俺とフォルとの関係性やらあの洞穴で何があったのかやらを仕切りに聞いて来たが、俺が何かを答える前にフォルから回し蹴りを喰らっていた。
カルロスの奴も、フォルが女である事には驚きを隠せていなかったが、それ以上の反応は無かった。
ログの様に何かを言及して来る事も、な。
因みに、俺とフォルが漂着したあの島だが、なんと魔の海域にあったらしい。
地図に載って居ない、発見されていない島なんだとか。
魔の海域は、古くから伝わる船喰らいの悪魔の伝説から、立ち入る船も少なく、未知の部分も多い。
発見されていない島があっても不思議では無いが、今回はそれに助けられたな。
そう言えば、水の高位精霊ルーナマールだが、いつの間にかその姿を消していた。
フォルに聞いてみたが、フォル自身もよく分からないそうだ。
そもそも、ルーナマールを目にしたのも今回が初めてで、“初代の御業”が引き起こした嵐の中、あの無人島に導いてくれたらしい。
ふむ、物語ではルーナマールは、ファラティアナの相棒として常について回っていたのだが…流石に、どういう経緯で相棒になったかまでは知らない。
しかし、“初代の御業”が天候を変え、嵐を呼んだのは想定外だったな。
フォルが居なければ、確実に死んでいただろう。
その嵐もあり、俺達の捜索が難航して発見に時間が掛かったとカルロスが土下座しながら謝罪していた。
嵐は俺の行いによる所が大きいので、寛大な心で持って不問にしてやったがな。
さて、そんなこんなで漸くローグベルトへの帰還である。
人生初の航海がまさかこんな最悪なものになるとは思わなかった。
左腕を失い、ついでに左目の視力も失った。
魔力枯渇になり、無人島で遭難までした。
だが生きて帰って来れた。
それだけでも僥倖と言えよう。
帰って来たローグベルトでは、グレイグを筆頭に住民達がむさ苦しく出迎え——られる事は無かった。
漁村ローグベルトは、どう言う訳か漆黒の甲冑を纏った集団に、占領されていた。