悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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143# 乱戦

 ダメージを受けようと、再生と共に肥大化し肉体が強化される不死身の《魔王》スロウス。

 

 その攻略法は、倒し続ける——もとい、殺し続ける事。

 

 生半可な攻撃では再生して巨大化する——ならば、再生速度を上回る程の苛烈な攻撃を浴びせ続けるしかない。

 

 スロウスの巨大化した肉体は、魔法の行使にて魔力を消費する事で収縮する。

 

 それは謂わば、攻撃を受けて溜め込んだエネルギーの排出。

 

 攻撃を受ける度に自身のエネルギーとし、それすらも魔力として攻撃手段とする——正しく不死身であり、無敵とも呼べる力。

 

 しかし、何故わざわざエネルギーの排出などという機能を備えているのか。

 

 それは、スロウス自身にもエネルギーの貯蓄限界があるからだとリルカは推察した。

 

 スロウスはただ、エネルギーを循環させて自身の都合の良い様に効率良く運用しているだけ。

 

 此度受肉により復活を果たしている——つまりそれは、敗北して前回(・・)の肉体が失われた事を意味している。

 

 決して無敵でも、ましてや不死身でも無い。

 

 リルカは《魔王》スロウスに相対する全員に、念話を飛ばす。

 

 スロウスを殺し得るレベルの攻撃を、出し惜しみせずに延々と与え続ける——それが攻略法であると。

 

『…無茶を言う。だが——成る程、ゴリ押しか。確かにそれは、ローファスらしい(・・・)作戦だ』

 

 レイモンドは苦く笑い、ヴァルムとオーガスに指示を出す。

 

『私の魔法は高威力だが周りを巻き込む。合図を出したらスロウスから離れてくれ——それと、準備に時間が掛かる。一時戦線を離脱する』

 

「…了解」

 

『こっちは問題ねぇ!』

 

 ヴァルムとオーガスの返事を聞き、レイモンドは翼を羽ばたかせて上昇し、術式の構築と呪文詠唱に入った。

 

 スロウスはそうはさせるかとレイモンドを追い縋るが、それをヴァルムとオーガスが阻止する。

 

「貴様の相手はこちらだ」

 

『小難しい事はよく分からねぇが、要するに俺は全力でこいつを殴り続けてりゃ良いんだな!?』

 

 スロウスの顔面をぶん殴りながら言うオーガス。

 

 合図を出したら避けろと言われたのが聞こえなかったのだろうか、とヴァルムは眉を顰めつつ、まあ良いかとサムズアップをする。

 

「その通りだ。お前はそのまま殴っていろ」

 

『おっしゃああああ!!』

 

 戦闘中は頭に血が昇り、極端に思考力が落ちるオーガスは、喜び勇んでスロウスに張り付いて殴り続ける。

 

 どうせレイモンドの魔法から逃げ遅れてもこいつなら死にはしないだろうとヴァルムは呆れつつ、飛翔するフリューゲルが描く軌跡で魔法陣を組み上げていく。

 

 それはヴァルムが習得している中でも最強の魔法。

 

 山よりも大きく、再生能力を持つ巨大な蛇——それを殺し続けろとは無茶を言う、と心の中でぼやきつつも、ヴァルムはそれが決して出来ないとは言わない。

 

 しかし、難易度はかなり高い。

 

 ヴァルム自身、一撃必殺、それこそ奥の手とも言える最強の魔法——《一結びの万雷(ムジョルニア)》を連発する事は出来ない。

 

 そしてそれは、レイモンドも同様。

 

 各自が必殺級の奥の手を繰り返し出し続け、殺し続ける——そんな事、普通であれば不可能。

 

 だが、この場にいる面々は人類の最高峰と呼べる者達。

 

 不可能と言われる事すら可能とする。

 

 逆にそこまで出来なければ、歴史に名を刻む程の厄災——《魔王》は倒せない。

 

 

 ふと、そんな折——飛空艇の甲板に、こつりと何者かが降り立った様な足音が響いた。

 

 それはアベル、リルカ、アンネゲルト——そして《緋の風》メンバーの誰でも無い足音。

 

 突然の足音に、三名の視線が向けられた。

 

 三名の背後——そこに立っていたのは、暗黒色の甲冑に身を包んだ一人の騎士。

 

 その鎧に刻まれているのは、太陽を喰らう三日月の紋章——ライトレスの家紋。

 

 ライトレス家固有戦力、暗黒騎士。

 

 暗黒騎士が何故ここに、どうやって——そんな疑問を誰もが口にする間も無く、その騎士はフルフェイスの兜を外す。

 

 長い白髪が、風に靡いた。

 

「貴方は——暗黒騎士の…」

 

 アンネゲルトが驚いた様に口にする。

 

 暗黒騎士筆頭——アルバは、じろりとアベル、リルカと流し見し、アンネゲルトに目を止めて一礼する。

 

「トリアンダフィリア伯爵家のご令嬢とお見受け致します」

 

「何で、ここに…」

 

「任務です」

 

 アンネゲルトの問いに、アルバは短く答えた。

 

 任務——といってもここは国境、それもどちらかといえば帝国側。

 

 一体どんな任務で、という疑問は当然上がるが、アルバはそれに答える雰囲気では無い。

 

 アルバはちらりと、リルカが持つ呪文の束を見る。

 

「…若様の魔力を感じたので伺いましたが——どうやらこの場に若様は居られないらしい」

 

 心底残念そうに肩を落とし、ふとアルバは天上で荒れ狂う《魔王》——スロウスに目を向ける。

 

「ふむ…何らかの神格(・・)の受肉体か——それも相当上位の。攻略手段は…倒し続ける(・・・・・)? リルカ・スカイフィールド、これは若様からの指示で間違いないか?」

 

「え…あれ!?」

 

 呪文の束を手に持ち、眺めながら何でも無いかのように尋ねるアルバ。

 

 いつの間にか呪文の束を掠め取られていた事に、リルカは驚きの声を上げる。

 

「いつの間に…っていうか、読めるの、それ? それに私の名前も…」

 

 ローファスが用意した呪文の束は、高度な術式が暗号化された上で情報が編み込まれたものであり、常人に読み取るのは困難。

 

 これは恐らく、何らかの間違いで帝国側の手に渡った時の為の予防策。

 

 その暗号は非常に高度なもので、解読できたのはアンネゲルト、リルカ、そして辛うじてレイモンド位なもの。

 

 それ程までに高度な暗号を、アルバは流し見する感覚で読み取り、一瞬で膨大な情報の中から《魔王》の攻略法に関する部分に辿り着いている。

 

 当然驚くべき事ではあるが、握り締めていた呪文の束を気付かれる事無く掠め取っていたり、何気に名前を覚えられている事にも若干の恐怖を感じるリルカ。

 

 このアルバという男、明らかに只者ではない。

 

 アルバは、問いへの答えが無かった事に対し、鋭く目を細める。

 

「…同じやり取りを二度するのは効率的ではない。無駄なやり取りは省くとしよう、リルカ・スカイフィールド——空賊の小娘よ。これ(・・)はローファス様からの指示で間違い無いか、私はそう問うている」

 

 若干棘のある口調で詰められ、リルカは気圧される様に後退る。

 

「そう、だよ…ロー君の指示」

 

ロー君(・・・)、だと…? 空賊、無法者風情がなんと気安く…」

 

 表情の変化こそ乏しいが、酷く冷たい目をリルカに向けるアルバ。

 

 今にも切り掛かりそうな雰囲気を感じ取ったアベルが、リルカを守る様に前に出る。

 

「急に現れて、何なんだお前は」

 

「貴様は…確かアベル・カロットだな。先の王都襲撃の折に、若様の近くをちょろちょろと彷徨いていただけでたまたま表彰された——下民(・・)

 

「…その目(・・・)を向けられるのは随分と久しぶりに感じる。でも、やっぱり気分は良くないな」

 

 殺気にも似た目で睥睨するアルバに、アベルは睨み返す。

 

 一触即発な雰囲気に、見かねたアンネゲルトが声を発する。

 

「ちょっと。そんな事をしている場合じゃないのは分かり切っているでしょう。暗黒騎士アルバ、貴方は何が目的でここに現れたの。見ての通り、私達は取り込み中なのだけれど?」

 

「…これは失礼。無礼者を相手に、少々目くじらを立ててしまいました」

 

 態度を180度変え、恭しく一礼するアルバ。

 

 アンネゲルトに対して目に見えて態度を変える過度な選民主義者アルバ。

 

 余りにも露骨な態度の変化に、アベルとリルカは眉を顰める。

 

「しかし、事情は把握致しました。これより我ら(・・)暗黒騎士、及ばずながらご助力致します」

 

「助力って…相手は《魔王》よ? 下手な援護されても…」

 

「《魔王》…古の厄災ですか。若様の指示の中にもあった単語ですね。アレが本当にそう(・・)なのであれば、少々興醒め(・・・)ですが」

 

「は…?」

 

 眉を顰めるアンネゲルトを尻目に、アルバは甲板の最前に立ち、スロウスを見据える。

 

「要するに殺し続ければ(・・・・・・)良いだけ、容易い事です」

 

 アルバは天上で繰り広げられる激戦、その戦況を細かく観察する。

 

 スロウス本体に張り付き、殴打を繰り返す大男一人。

 

 全方位より絶えず雷撃を浴びせながら、並行的に大魔法の発動準備をしている竜騎士一人。

 

 また、上空より常軌を逸した魔力反応——見覚えのある白翼の魔人が最上級と思われる大魔法の詠唱に入っている。

 

 それらを邪魔せず、尚且つ利用しつつ、最大限のダメージを《魔王》に与え続ける戦法。

 

 即席での連携は互いに足を引っ張りかねない。

 

 であれば、こちらも即死級の大魔法をぶつけ続ける。

 

 重要なのはタイミング。

 

 アルバは懐より最高品質の魔石を取り出すと、空へと放り投げる。

 

 その魔石は、いつの間にか空に立って(・・・)いた一人の暗黒騎士が受け取った。

 

「私があの蛇の動きを封じる。貴様はそこに“サイ”を打ち込め」

 

「アレに…? マジで言ってます? どう見積もっても魔力足りないですけど。俺の魔力総量くっそ低いの知ってますよねアルバさん」

 

「何の為に魔石を渡したと思っている。不足分はそれでどうにかしろ」

 

「いや、それ見積もってもギリっていうか…というか、あんなのを相手するなんて聞いてないんですけど。最悪でも帝国とライトレス家で全面戦争になるだけって話だったじゃ無いですか。アレはその最悪を遥かに上回るレベルで…ぶっち切りでヤバいです。多分ですけど俺、高確率で殺されますよね。今回遺書書いてないんで、帰っても良いですか」

 

「別に構わんぞ。直属の部下である貴様の名誉は守ってやろう。殉職扱いにしてやる」

 

「…それ、どっちです? 本当に逃がしてくれる奴ですか? それとも後ろから撃たれる奴です?」

 

「さあな」

 

 目も合わせず、退屈げに話すアルバ。

 

 暗黒騎士——アルバの直属の部下であるシグは肩を落とす。

 

 これ、逃げたら後ろから魔法撃たれて殺されるやつだと。

 

小娘(・・)との連携は任せる。好きにやれ」

 

 もうシグが突っ込む前提で話が進んでいた。

 

 シグは荒々しくフルフェイスの兜を取ると、アルバ目掛けてぶん投げた。

 

 しかしアルバの魔法障壁に容易く弾かれる。

 

「んもおぉ限界だ! この仕事生き残ったら絶対転職してやるからな! このパワハラ若白髪ッ!!」

 

 黒髪と素顔を晒しながら怒鳴り散らすシグは、アルバから向けられる冷たい視線を無視して宙を蹴る。

 

「いくぞサイラ!」

 

「え、シグ辞めるの!? 本当に!? 本当に辞めちゃうの!?」

 

 スロウスに向けてブチ切れながら突っ込んで行ったシグに、白雷と共に現れたもはや漆黒の甲冑すら纏っていない白髪の少女——サイラが追い縋る。

 

 そんな地獄に突っ込んでいく両名を、アルバは額に青筋を立てながら見送り、溜息混じりにハルバードに魔力を込め——振り被って投擲の構えを取った。

 

 暗黒騎士達の非常にブラックなやり取りを、アンネゲルト、リルカ、アベルの三名はなんとも言えない顔で見ていた。

 

 

 山より大きく、胴体を動かすだけで暴風を巻き起こす。

 

 そんなスロウスが、天上で飛膜を羽ばたかせながらのたうち回る。

 

 大気は荒れ狂い、絶えず衝撃波が吹き荒れる。

 

 そんな死地に近付くなど、文字通り命が幾つあっても足りない。

 

 暗黒騎士のネームドであろうとも、それは変わらぬ事実である。

 

 そんなこの世の地獄に最前線で立ち続けるオーガス、ヴァルム、レイモンドの三名は、シグの目から見ても正しく化け物。

 

 怪物同士の戦いなら、同じ怪物である自分が行けば良いだろう、人間の俺に行かせるなよ、とシグは上司の顔を思い浮かべながら思う。

 

 その当の上司(アルバ)は、この天災とも呼べる巨大な蛇の動きを封じると言っていた。

 

 アルバは人間性は終わっているが、戦士としてはこの上無く優秀——それはシグも認める所。

 

 そのアルバがやると言ったのなら、きっちりとやり遂げるだろう、それも限り無く完璧といえるタイミングで。

 

 シグは、そのタイミングを待てば良いのだが、《魔王》を即死させるレベルの魔法となると、いつでも放てる様に準備しておく事と、何より位置取りが重要になってくる。

 

 幸いにもシグの魔法は、準備にそれ程時間を要さない。

 

 故に位置取りにのみ意識を割けば良いのだが、まずは自分達暗黒騎士が参戦する旨を最前線で戦う三名に伝えねばならない。

 

 スロウスに張り付いて拳を振るうゴリラは論外。

 

 上空に移り呪文詠唱をしている白い魔人も、あまり邪魔をしない方が良いだろう——そもそも、確か王都襲撃の主犯格と思われる存在である為、出来れば近付きたくない。

 

 となると、声を掛けれそうなのは消去法で黄金の竜騎士になる訳だが…

 

「速いよ…」

 

 黄金の竜騎士は、白い飛竜に乗りスロウスの周りを飛び回っている。

 

 動きが速過ぎるし、そもそもスロウスにより巻き起こされる暴風や衝撃波で荒れ狂っている為、近付く事すら困難である。

 

 しかし、最低限連携を取る上で報連相は必須。

 

 確か彼らは若様——ローファスの友人達。

 

 万が一此方の攻撃に巻き込みでもすれば、仮に《魔王》を倒せたとしても後で首が飛ぶ。

 

 どうにかして伝えねば、とシグが頭を悩ませていると——天より高笑いが響いた。

 

——フハハ、フハハハハハッ!

 

 荒れ狂う暴風の最中、それでも響き渡る程の大笑。

 

 レイモンドが呪文詠唱をしている地点よりも更に上空——笑い声の主は、両手を広げ、まるで空の主が如く天上に立っていた。

 

「あれはまさか…若様の影の使い魔…?」

 

 シグはバールデルを見るのは初めての事であるが、その暗黒の肉体と禍々しさすら覚える濃密な魔力は正しくライトレスの影の使い魔の特徴。

 

 突如として現れた闖入者。

 

 その無視出来ぬ程の強大な黒風の魔力に当てられ、自然と周囲の者の目を引いた。

 

「え、何で笑ってんの…」

 

 シグのその呟きは、その場の全員の疑問を代弁するかの様な言葉。

 

 エルフ王——バールデルは、黒風吹き荒れる中スロウスを見下ろしながら、狂った様に笑う。

 

 戦場への暗黒騎士の介入——それに続き、影の使い魔バールデルの乱入。

 

 《魔王》との激戦は、より混迷を極める。

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