悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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二章開幕です。


二章 EP・ステリア
21# 親子


 窓から差し込む朝日をどす黒いモーニングコーヒーに照らす。

 

 今日も朝が来た。

 

 傍に立つカルロスが、優雅に礼をする。

 

「おはようございます、ローファス坊ちゃん。面会希望のお客様が来られています。既に客間でお待ちです」

 

「…追い返せ。何時だと思っている」

 

 不機嫌に返すと、カルロスは懐中時計をチラリと見た。

 

「時刻はもう9時を回っております。今日は少々遅めの起床でしたな」

 

「…来ているのは、また港町の商業組合の奴らか?」

 

「はい、今回は役員だそうです」

 

 …であれば、対応せん訳にはいかんか。

 

 俺は溜息を吐く。

 

 …最近、溜息を吐く事が増えた気がする。

 

「…朝食は会談の後だ」

 

「御意」

 

 俺は応対用の黒いスーツに袖を通し、寝室を出て客間へ向かった。

 

 *

 

 ローグベルトから帰還して早三ヶ月が経過していた。

 

 ローグベルト——と言うよりも、港町を含むその周辺地域の問題は、全てが解決した訳ではない。

 

 クリントンにより行われた違法な増税により、貧困化した町や村は数多くある。

 

 拉致され、奴隷として売られた住民達も、まだ全てが保護された訳でもない。

 

 違法な奴隷商も、たったの二組を潰しただけで、裏社会に根を張る奴隷市場は未だ健在だ。

 

 その上、問題のクリントンが死に、代官役人が不在となったお陰で、事後処理にも遅れが出ている。

 

 俺自身が代官役人の座に収まれば随分とやり易かったのだが、12歳と言う年齢の事もあり、父上からは当然拒否された。

 

 一先ずは代理で派遣された代官役人を締め上げ、俺の指示に忠実に従う傀儡に仕立てて、その後の事後処理に当たってはいる。

 

 …が、村々の貧困化に対する解決の目処は立たず、奴隷の保護の進捗も遅々としている。

 

 暗黒騎士と言う優れた駒が使えれば話は別だが、奴らは父上の直轄だ。

 

 俺の権限では好きに動かせない。

 

 一時的処置として、貧困化した一部地域の当面の免税の触れを出したが、まあ焼石に水だな。

 

 一時的とは言え、税が免除されている分幾ばくかの余裕は出るだろうが、貧困と言う問題は根強く、根本的解決には至らない。

 

 その上、ライトレス領の財源も有限である以上、いつまでも免税を続ける訳にもいかない。

 

 早急に打開策を講じなければならないのだが、傀儡化した代理の代官役人も、大した案は持ち合わせてはいないらしい。

 

 そして、港町の商業組合からの請求だ。

 

 クリントンの奴め、魔物討伐の折の物品調達…船や大砲、ポーション等その全てを後払い、しかも請求先はこの俺、ローファス・レイ・ライトレスに指定していたらしい。

 

 本来であれば、商業組合がそれだけの物品を後払い等で済ます等あり得ない事だが、クリントンの代官役人としての地位が信用に繋がったらしい。

 

 全く、面倒な置き土産をしてくれたものだ。

 

 お陰様でこの三ヶ月は、事後処理等の書類仕事や、商業組合の連中との度重なる会談で碌に休む暇も無い。

 

 港町の商業組合の連中との話し合いは、当初こそ平行線を辿った。

 

 商業組合からの要求は請求書通りに支払え、ビタ一文負ける気はない、だ。

 

 対するこちらの返答は誰が支払うか、取引はあくまでもクリントンがやった事で、こちらは勝手に名前を使われた被害者である、だ。

 

 そもそも契約書に俺のサインが無い以上、取引は不成立…なのだが、クリントンの奴は取引の際に、ライトレスの紋章が印字された契約書を使用していた。

 

 これが非常にややこしい事になっている。

 

 サインが無かろうと、家の象徴である紋章があるならば、契約が成立していると見做される場合もある。

 

 ライトレスの紋章の使用が許されるのは、ライトレス家の人間と、その親戚筋に当たる者、そして、ライトレス領の統治に関わる者だ。

 

 代官役人であるクリントンは、正しくそれに当て嵌まる。

 

 お陰で話し合いは平行線を進んだ。

 

 ただ、最近になって妥協案と言う訳でも無いが、ある話を組合の連中に聞かせてやった。

 

 海洋貿易をする上での目の上のタンコブ——魔の海域。

 

 そこに巣食う船喰いの悪魔を、先の航海で退治し、使役する事に成功したという話を。

 

 本当は殺して使い魔に仕立てたのだが、まあ大した違いは無い。

 

 この悪魔は俺の言う事しか聞かず、俺に通行を許された船は襲わない。

 

 そう伝えた瞬間、話し合いに来ていた商人達の目の色が変わった。

 

 当然だ。

 

 ステリア領との貿易が最短ルートで行える様になる。

 

 ステリア領は寒冷地帯と言う事もあり、ワイバーンを含め、独自の魔物が数多く棲息する。

 

 無論、その毛皮や魔石は、他領では高値で取引されている。

 

 他にも、ステリア領独自の調度品や、美品の数々は商人達からすれば正しく金の成る木だ。

 

 飛びつかない筈が無い。

 

 そこからは請求の話はパタリと止み、もっぱらステリア領との交易の話だ。

 

 主に利権や、商業に掛けられる商業税に関する話だな。

 

 全くがめつい商人共め、連日の様に屋敷に押し掛けおって。

 

 馬車で丸二日掛かる距離だぞ。

 

 それだけの利益を見込んでの事なのだろうが、来る頻度が高過ぎる。

 

「——本日は実に有意義な話し合いでございました。それではまた近い内に、ローファス様」

 

「近い内にではない。少しは来る頻度を減らせ馬鹿者共」

 

 今日も今日とて、会談は恙無く終わり、組合の役員共は満面の笑みで帰って行った。

 

 今回の話し合いで、船等の請求に関しては、商業組合からライトレス家への貸付と言う事で落ち着いた。

 

 無利子無期限の、実質返さなくても良い借金だ。

 

 まあその分、利権に関して商業組合に対してそれなりの優遇をする事になったがな。

 

 朝っぱらから数時間に及ぶ会談に付き合わされ、疲労困憊の俺は、商人共が帰った客間のソファに、だらしなく寝転がる。

 

 そうこうしていると、商人共を見送ったカルロスが帰って来た。

 

 手には、トレイに乗せられたコーヒーとハムエッグを挟んだサンドイッチ——頼んでいた朝食が準備されていた。

 

「これはこれは…随分とお疲れの様で」

 

「碌に休む暇も無い。出来る事なら、全てを投げ出したい程だ」

 

「元より、坊ちゃんがする必要の無い事です。後は御当主様に任せても良いのでは?」

 

 父上に任せるだと?

 

 そもそも、父上がクリントンの奴を野放しにしていた所為で、この様な非常に愉快な事態に陥っているのだ。

 

 任せた所で、同じ事を繰り返すのは目に見えている。

 

「無いな。父上も広大な領地の運営にさぞお疲れなのだろう。何せ、クリントンの様なクズを野放しにしているのだからな」

 

 皮肉たっぷりに言ってやると、カルロスは気まずそうに目を伏せる。

 

「あれは…派遣した監査官が買収されていたからで…」

 

「そんな言い訳は、被害を受けた民には通用せん」

 

 その結果として、幾度と殺された俺にもな。

 

 カルロスは返す言葉も無いのか、口を噤んだ。

 

 俺はそれに鼻を鳴らし、カルロスが持って来たサンドイッチを食べながら思案する。

 

 魔の海域は、その脅威はまだ顕在であった方が良い。

 

 船食いの悪魔の脅威を残したまま、ライトレスに許された船だけが通れる様にすれば、ステリア領との交易による利益はライトレスが独占できる。

 

 となると、一度ローグベルトへ行き、ストラーフを放流する必要がある。

 

 しかし、事後処理等の執務作業も然る事ながら、傀儡化した代理の代官役人とも密に連絡を取り合う毎日だ。

 

 とてもでは無いが時間が無い。

 

 いっその事、暫くの間拠点を本都の別邸から、港町へ移した方が色々と楽か?

 

 …そんな事をしようものなら、また父上が暗黒騎士を迎えに寄越しかねんな。

 

 全くままならん。

 

 ふと、カルロスが思い出した様に口を開く。

 

「そう言えば、いよいよ出立が来週に迫りましたな」

 

「…あ?」

 

 来週? 出立? 何かあったか?

 

「おや、お忘れですかな。嘔吐される程楽しみにされていたではありませんか。ガレオン公爵家主催のパーティですよ」

 

「あ、あぁ…」

 

 あったな、そんなのも。

 

 そう言えば三ヶ月前に招待状が届いていたのだったか。

 

 忘れもしない、幾千幾万と殺し続けられる悪夢を見た日だ。

 

 別に楽しみで嘔吐した訳では無いがな。

 

 パーティの主催元であるガレオン公爵家は、物語第二章のラスボスである第二の魔王レイモンドの家だ。

 

 パーティに参加すれば、レイモンドと対面する事になるだろう。

 

 恐らく物語上でも、これが俺とレイモンドの初対面。

 

 正直少し、いや、かなり気が進まない。

 

 何せ、物語では俺がレイモンドの取り巻きとなったお陰で、結果として四天王となり、最終的に殺されるに至った。

 

 いっそこのままパーティに参加しなければ、俺がレイモンドの取り巻きとなる未来が変わるかも知れない。

 

 そうなれば、当然俺は四天王にはならないし、殺される事も無くなるだろう。

 

 それに、単純にガレオン領までの道程は果てし無く遠い。

 

 ガレオン公爵家は、王国の東側に位置するライトレス領とは正反対の、西側に広大な領土を持っている。

 

 馬車で移動するとしても、片道だけで最低でも一週間は掛かる。

 

 汽車の通る王都を経由すれば多少は短くなるだろうが、それでも事後処理やら商業組合の相手で忙しい身としては、一週間以上留守にするのは…。

 

 やはりパーティの参加は見送るか。

 

「カルロス、ガレオン公爵家にはパーティには不参加と返事を出せ」

 

「は!? 突然どうされたのです、今更不参加等と…」

 

 驚くカルロスに、俺は先の無い左肘をぷらぷらと見せる。

 

「やはり時間が惜しい。まだ左腕も治ってないしな、体調不良を理由にしておけ」

 

「それは…難しいですな」

 

「うん? 何故だ?」

 

「ガレオン公爵家には既に参加すると返事は出しておりますし、何より御当主様も参加されますので…」

 

 言い難そうに目を逸らすカルロス。

 

 父上も参加?

 

 いや、よく考えればそれも当然の話か。

 

 まだ成人もしていない子息だけをパーティに招待する様な事があれば、そちらの方が非常識だ。

 

 現当主である父上が参加するのは当然の事だ。

 

 で、あれば…。

 

「カルロスよ」

 

「は、なんでしょう」

 

 俺は目を細め、窓の外を眺める。

 

「俺は来週辺りに腹を壊す事にする」

 

 カルロスは呆れた様に肩を落とした。

 

「…御当主様を騙し通せると良いですな」

 

 問題はそこだな…。

 

 *

 

 結論から言うと、参加拒否は出来なかった。

 

 早朝、屋敷の前に並ぶ三台の馬車。

 

 俺は外行きの外套を着込み、馬車の前に連れて来られていた。

 

「父上、少々調子が…」

 

「黙れ。早く乗れ」

 

「今回、私は不参加と言う事で…」

 

「貴様…ライトレス家に恥を搔かせる気か」

 

「…」

 

 父上より向けられる殺意にも似た厳しい目。

 

 どうやら拒否権は無いらしい。 

 

 確かに、参加表明をしておいて、いざ直前になってキャンセルする等、貴族以前に人としてマナー違反だ。

 

 礼儀を重んじる貴族間においては、余程の非常事態でも起きない限り許されない行為だろう。

 

 もしやれば、ガレオン公爵家への印象を悪くするのは必須。

 

 公爵家の覚えを悪くする等、ライトレス侯爵家にとって、それはどう転んでも不利益にしかならない。

 

 俺は大人しく馬車に乗るしかなかった。

 

 しかし父上も、妙にピリついていると言うか、取り付く島が無いと言うか、何やら余裕を欠いている様にも見える。

 

 或いは、父上が俺を見る目がいつになく険しいのは、先日の書斎の件を根に持っているからか。

 

 何せ、父上の統治に対して“苦しむのは民です”なんて、キメ顔で苦言を呈したのだ。

 

 心証は最悪だった事だろう。

 

 そして、父上も俺に続いて馬車に乗り込んでくると、俺の向かいに腰掛けた。

 

 向かい合わせとなる俺と父上。

 

 俺は静かに席を立つ。

 

 父上の鋭い視線が俺を射抜いた。

 

「何処へ行く」

 

「…後ろの馬車へ」

 

 ガレオン領行きの馬車は三台ある。

 

 一台目が我々が乗る馬車、二台目が付き添いの使用人用の馬車、三台目がガレオン公爵家に寄贈する品を積んだ荷馬車だ。

 

 カルロスが乗っているのは二台目の馬車だ。

 

 馬車のグレードは先頭のものよりも多少落ちるが、全く持って問題無い。

 

 長い道中、父上と二人きりよりは余程ましだ。

 

 しかし父上は、短く切り捨てる。

 

「ならん」

 

「しかし、私はカルロスと…」

 

「他の使用人もいる。カルロスは兎も角、貴様が行けば皆が萎縮する。そんな事も分からぬか」

 

 父上の物言いに、俺の額に青筋が立った。

 

 舌を打ちそうになり、寸前で堪えた自分を褒めてやりたい。

 

 ただ、父上の言い分は間違ってはいない為、言い返せない。

 

 実に癪に障るが、俺は黙って席に座った。

 

「出せ」

 

 父上の短く冷たい声が響き、馬車がステリア領に向けて動き出す。

 

 長い長い、地獄の様な時間が始まった。

 

 *

 

 ステリア領行きの馬車の中。

 

 父上と俺の間にあるのは、ただひたすらに沈黙だった。

 

 親子で仲良く談笑する様な間柄でも無いし、こうなるのは目に見えていたがな。

 

 ピリついた空気、地獄の様な雰囲気。

 

 いつもの空気だが、ここまで長時間同じ空間に居るのは初めてかも知れない。

 

 気分はこの上無く最悪だ。

 

 俺は父上を視界から外し、窓の外を眺める。

 

 馬車に揺られて久しく、無限にも感じる時間が過ぎた頃、ふと父上が唐突に口を開いた。

 

「…平民の娘を好いていると言うのは、事実か?」

 

「…ッ」

 

 唐突に父上から投げ掛けられた予想外の問い掛け。

 

 俺は吹き出しそうになるのを堪え、努めて平静に答える。

 

「…報告書ですか? あれはカルロスの妄想です」

 

 父上は鋭い目で俺を睨む。

 

 まるでその真意を探る様に。

 

「…相手は漁村の娘。名は確か、ファラティアナだったか」

 

 父上の口からその名が出た事に、無性の苛立ちを覚える。

 

「いい加減にして頂きたい。下らぬ妄想話に付き合う気はありません」

 

「アルバからも、それらしい娘の報告は聞いている」

 

「…そうですか」

 

 騎士筆頭アルバ…随分と余計な事を言ってくれたらしい。

 

 あの白髪頭、覚えておけよ。

 

「どうやら、お互いに下らぬ妄想癖のある部下を持った様で」

 

「否定するか? では、その娘を実際に連れて来て…」

 

 俺は魔力を放出し、その重圧で父上の言葉の先を捩じ伏せた。

 

 俺の殺気にも似た魔力を浴び、それでも父上は、言葉こそ噤んだが涼しい顔だ。

 

「ローファス…それは肯定するも同じ事だぞ」

 

 何処か呆れた様な父上を、俺は睨む。

 

「…では、仮にですが、それが事実としましょう。飽く迄も仮にですが。それで、どうなるのです?」

 

「そう警戒するな。別にどうもならんし、どうもせん。貴様には婚約者も居ないしな。ヴェルメイとの事も、どうとでもなる。好きにやれば良い」

 

 ヴェルメイ…俺が成人するまでに女子が生まれれば婚約すると言うやつか。

 

 俺が生まれて少ししてから、家同士で勝手に結んだ約束事だな。

 

 まあ、貴族同士の婚約等、大概そうだが。

 

「では、何故その様な話を?」

 

 俺の探る様な視線に、父上は肩を竦める。

 

「最近は親子らしい会話をしていなかったのでな、世間話だ」

 

 父上の言葉に、俺は思わず失笑する。

 

「親子らしい会話、ですか。意外ですね、まさか父上の口からその様な言葉が出るとは」

 

「何がおかしい。それに、いつ本邸に戻る気だ」

 

「本邸に戻る? 私がですか? 冗談でしょう。母上や愚弟が私に恐怖している事を、知らない筈が無いでしょう。そもそも私を別邸に移したのは父上、貴方ではありませんか」

 

 父上が別邸に移るように命じてきたのは、俺が10歳の頃だ。

 

 それよりも前、幼少の頃。

 

 今となっては実に不甲斐ない限りだが、俺はその身に宿す強大過ぎる魔力を制御出来ていなかった。

 

 その折、魔力制御を誤り、暴発した魔法に愚弟を巻き込んだ事があった。

 

 母上が怪我をした愚弟を庇う様に間に入り、父上が暴走する俺の魔法を止めた。

 

 それまでライトレス家歴代最高の魔力だの、初代の生まれ変わりだのと持て囃され、浮かれていた俺の初めての失敗。

 

 俺はその一件で、死にもの狂いで魔力制御が出来るよう努めた。

 

 来る日も来る日も魔力制御の訓練、寝る間すら惜しんで続けた。

 

 その甲斐もあり10歳で魔力を完全に制御出来るようになったが、俺は父上により別邸に移された。

 

 愚弟や母上の、俺に対する恐怖心が強過ぎて日常生活に支障をきたしていたからだ。

 

 別邸に移された事は、別に恨んではいない。

 

 当時は必死の努力も認められず、魔力制御出来るようになった事を信じても貰えず、捻くれた時期もあったが、どうでも良い話だ。

 

 今となっては、本当にどうでも良い。

 

 父上は、そっと目を逸らす。

 

「…もう二年か。既に魔力制御は出来ているだろう。それに、別々に暮らしたままでは家族間の関係は今のままだ」

 

「今更、関係の修復をしろと?」

 

「一年前、本邸に戻れと言った時、何故戻らなかった」

 

「戻りませんよ。これから先もずっと、戻る気はありません」

 

 今更、戻る必要も感じない。

 

「ローファス…」

 

 俺の名を消え入るように呟く父上から、俺は目を逸らす。

 

「話は以上です。私は少し休むので、お構い無く」

 

 俺は目を瞑り、これ以上の会話を拒絶した。

 

 それから経由地点の町に着くまで、俺も父上も言葉を発する事は無かった。

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