悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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192# 最悪の事態

 三ヶ月が経過した。

 

 

 時は《竜王祭》当日、その早朝。

 

 《霊峰》の頂上に建てられた社の祭壇、その地下深く。

 

 陽も届かぬ社の最奥。

 

 そこは何人たりとも、姫巫女ですら入る事は許されぬ禁足地。

 

 神殿にも似た雰囲気があるが、しかし神聖さは欠片もない。

 

 決して触れてはならない陰気、そんな空気が場を満たしている。

 

 最奥、暗闇の中にぽつんと小さな祠がある。

 

 その周囲には夥しい数の鎖が蜘蛛の巣のように張り巡らされており、その封印の厳重さが窺える。

 

 一見して触れただけでも千切れてしまいそうな程に劣化した鎖であるが、それには神力が宿っており、人間ではどれだけ魔法に精通していようと破壊する事はできない。

 

 神力が宿る鎖を断つには、同じく神力が必要。

 

 千年の時が経ち、劣化しようともそこにあり続けるのはそれが理由。

 

 《竜王祭》にて姫巫女により執り行われる鎮魂の儀は、封印を重ね掛けする事で《邪竜》を抑え込む為のもの。

 

 それはローファスが聖女フランより定期的に受けている封印の重ねがけに近い。

 

 仮に鎮魂の儀が邪魔されようとも、この無数の鎖による封じ込めがある限りは直ぐに《邪竜》が復活する事はない。

 

 しかし物語では、ボレアスが鎮魂の儀を邪魔した事で《邪竜》が復活を果たした。

 

 本来であれば鎖の封印が発動し、一時的に《邪竜》を拘束して復活を遅らせる。

 

 一時的な猶予——それこそが地神が組み込んだ術式であり、なんらかの要因で鎮魂の儀が遂行できなかった時の保険。

 

 

「フ、フフフ、フハハハハッハッハッハッ!」

 

 社の最奥、小さな祠の前。

 

 周囲から伸びる古びた鎖は全て断ち切られ(・・・・・)、神力が舞い散る中、一人の男が両手を広げ高らかに笑う。

 

「準備は整った! 偉大なる我が祖(・・・)! 《邪竜》——又の名を《煉獄の魔王》スペルビアよ! 間も無く復活の時ぞ! いざ! その虚ろなる最強の肉体を我が手にぃぃ!」

 

 下から翡翠の魔力が溢れ出し、祠が吹き飛んだ。

 

 地が割れ、地下深くに封じられていた《邪竜》が頭を出して咆哮を上げる。

 

 聞くものが聞けば失神する程の威圧。

 

 しかし男は、それを涼しい顔で見上げるのみ。

 

 《邪竜》は虚ろな目で男をぎょろりと見下ろすと、その顎を大きく広げ、一呑みにせんと喰らいつく。

 

 男はそれを——神力を宿す黄金の大盾で弾き返した。

 

 仰け反る《邪竜》に、男は笑って口を開く。

 

「まあ待たれい我が祖よ。今回も(・・・)まだ駄目だ。どういう訳か流れが違う。恐らくボレアスはあちら側に堕ちた。我一人を取り込んだ程度では駄目だ、また(・・)負ける」

 

 《邪竜》は男の声など聞こえていないかのように、狂ったように爪を振り下ろす。

 

 男はそれを、再び黄金の大盾で防ぐ。

 

「フハハ! 相変わらず会話もままならん! まるで獣のようだな我が祖よ! そんな状態で大暴れとは! 本能に忠実なのは結構! だがこと戦闘において、その狂い(・・)は足を引っ張っておるな!」

 

 《邪竜》の黒曜石の如き美しい鱗に目を細めながら、男は下に目を向ける。

 

 その下半身は未だ抜け出せておらず、封印も完全には解けていない。

 

「…まあ今暫し待て我が祖よ。今宵には完全復活できよう。前回(・・)ボレアス(あの乱暴者)では駄目だったからな。今回は我が、その肉体の手綱を取るとしよう」

 

 今晩にも《邪竜》は完全なる復活を遂げ、世の史実を塗り替える。

 

 千年——永きに渡る屈辱は終わりを迎える。

 

 《霊峰》より荒ぶる竜王が解き放たれた時、世界はひっくり返る。

 

「いよいよ今宵だ。()よ、今度こそ貴方様がこの世界()を手中に——」

 

 《竜王祭》が楽しみだ、と男は笑った。

 

 

 紅き軌跡を描きながら空高く飛ぶ飛空艇。

 

 船室の大部屋。

 

 窓から過ぎ行く景色を眺めながら、アベルは拳を握り、緊張の面持ちで息を吐く。

 

 向かう先は聖竜国の首都、表面上(・・・)の目的は《竜王祭》剣闘大会に王国代表として参加し、優勝する事。

 

 国王よりアステリアとの婚姻を認めて欲しくば優勝して見せろと言われている為、否が応でも力が入るというもの。

 

 そんなアベルの横で、ふわりとプラチナブロンドの髪が揺れた。

 

 アステリア王国国王に代わり、外交上の理由で参加する事になった第一王女アステリアその人である。

 

 緊張するアベルの頭を、アステリアは色白の手でこつりとチョップした。

 

「いた…え。あ、アステリア…?」

 

 突然小突かれた事にぱちくりと目瞬かせながら、アベルはきょとんと首を傾げる。

 

 アステリアは呆れたように半目で睨む。

 

「なに変に力んでるのよ。お父様が言った事気にしてるの?」

 

「い、いや…そういう訳じゃ…」

 

「忘れないでよ。私達(・・)が聖竜国に行く本当の目的を」

 

 真剣な面持ちで言うアステリアに、アベルは慌てた様子で頷く。

 

「忘れてない、忘れてないよ! …復活する《邪竜》をなんとかしないと、だよね」

 

 そうよ、と腕を組んで頷くアステリア。

 

 アベルはやや遠慮がちにアステリアの顔を見る。

 

「あの…本当に前回(・・)の事を思い出して?」

 

「ええ、思い出したわよ。全部(・・)

 

 割と前からね、とアステリアは付け加える。

 

 妙な刺々しさを感じ、アベルは意を決して尋ねる。

 

「あの、怒ってる?」

 

「怒ってる? 私が? なんでそう思うの」

 

「いや…僕の気の所為なら全然…」

 

「一人で色々抱え込んであのスイレン相手に無茶して死にかけた事? それとも私をずーーーっとほったらかしにしてた事かしら。大丈夫よ、私全然気にしてないから」

 

「ごめんなさい」

 

 にっこりと笑うアステリアに、アベルは土下座する勢いで頭を下げた。

 

 それにアステリアは少し拗ねたようにプイッと顔を背ける。

 

「…謝らないでよ。貴方に怒ってないのは本当。何も知らずにのほほんとしてた自分に腹が立つだけ」

 

 奥歯を噛み締めながら口惜しげに言うアステリア。

 

 それはそれとして、とアベルの両頬をぐにっと掴む。

 

「——あ、あふへひあ?」

 

「アベル。貴方、学園で私から避けるように逃げ回ってたわよね。最初から全部覚えてた癖に。私、色々と思い出しかけてて相談したかったのに全然話聞いてくれなかったわよね? ローファスとの方が会話になってたってどういう事?」

 

「ご、ごめ——」

 

「そうね、謝って! これに関しては怒ってるんだから! 少しだけね!」

 

 学園でゆっくりと話ができていれば、もっと早くに全てを思い出していたかも知れない。

 

 事情さえ分かっていたなら、微力ながらその後の騒動にも介入して力になれた。

 

 アベルにも無茶をさせる事はなかった。

 

 まあ、とアステリアはぱっとアベルの頰から手を離す。

 

「…貴女にも言える事だけどね——リルカ」

 

 ジトっと半目で睨んだ先には、椅子に腰掛け、自前の短剣を皮砥で研磨するリルカの姿があった。

 

 リルカは肩を竦める。

 

「えー? そりゃ仕方ないじゃん。アーちゃん記憶無さそうだったし? 大体、軽々しく話せる話題でもないでしょ。この世界が実は二周目なんだよ、なんて」

 

 そもそもリルカは手配書(バウンティ)にも名を連ねる歴としたお尋ね者。

 

 王女であるアステリアには近付くだけでも一苦労、下手をすれば護衛の近衛騎士に捕らえられる可能性もあった。

 

 無論、そんな事はアステリアも重々理解している。

 

 どうにかなりそうでならなかった事に対する悶々とした気持ちとその八つ当たり。

 

「…まあ、色々と驚きも多かったわ。まさか貴女がローファスと、ね…」

 

「私だけじゃないけどねー」

 

 やや不満そうに漏らしたリルカの視線の先には、大窓に腰掛けるフォルの姿がある。

 

 他にもユスリカや、その後ろには漆黒の甲冑で身を固めた暗黒騎士——シグの姿も。

 

「本当に意外。貴女がそんなに誑し込まれてるなんて」

 

「ま、色々あったし。それよりも私は、アーちゃんの記憶が戻ってる方が驚きだけどね。使徒でもないのに」

 

「完全に思い出すまでは混乱しかなかったわよ…」

 

 疲れたように溜息を吐くアステリア。

 

 アステリアはアベルとの再会をきっかけに、前回の記憶を少しずつ思い出していた。

 

 記憶や感情の奔流に翻弄され、混乱する事もあったが、学園長の計らいで光神と接触した事である程度事情も把握できている。

 

 以降アステリアは、かつての仲間——ファラティアナやメイリン、フランとも接触し、前回の記憶があるかの鎌掛けを交えつつ交流を重ねていた。

 

 明らかに前回と異なる行動を取り、それどころかレイモンドの暴走を抑えたローファスとは話し合いの機会を設けようとしたものの、南方への遠征と重なりタイミングが合わなかった。

 

 ローファスは南方のダンジョンブレイクを収めた後、そのままステリアへの襲撃を行った帝国への報復に向かった為、そのまま話せずじまい。

 

 前回から随分と早まったタイミングで起きた帝国によるステリア襲撃であったが、その紛争もローファスによりものの数日で終結した。

 

 そして次なる騒動は聖竜国。

 

 《竜王祭》にて復活する《邪竜》の存在。

 

 それに備える為、アステリアは前回との変化に苦心しつつも、どうにかかつての仲間達を集めた。

 

 因みにアステリアの背後の席では、王女の護衛として任命された魔法師団筆頭《大魔道》メイリンが身の丈程の杖を手にちょこんと座っている。

 

 メイリンは窓を覗き込み、とんでもない速度で上空を飛んでいる事に未だに理解が追いつかず、ただでさえ小さな体を丸めてプルプルと震えている。

 

 何気に今回は飛空艇に初乗りの彼女。

 

 飛空艇——古代遺物(アーティファクト)という未解明の術式、要するに原理不明。

 

 なぜか飛んでいるこの巨大な金属の塊、いつ落下するとも知れない恐怖に震えるのは仕方のない事であろう。

 

 アベル、アステリア、リルカ、ファラティアナ、メイリン——この場にいるのは、フランを除いたかつての仲間達。

 

 《竜王祭》にて復活するであろう《邪竜》を迎え撃つ為、アステリアが集めた戦力。

 

 因みに、フランにも声を掛けたが断られた。

 

 用事があるから行けない、と。

 

 《邪竜》以上に重要な要件などないだろうとアステリアは食い下がったものの、自分など居なくても問題ないと。

 

 自分の代わりに——と《邪竜》征伐に同行する人材としてフランが指名したのはユスリカという女中。

 

 ライトレス領でローファス専属の使用人を務めていると。

 

 なぜ女中…と当初こそ訝しんだアステリアであったが、その経歴を聞くと納得した。

 

 元聖女候補であり、フランに並ぶ程の神聖魔法の担い手。

 

 特に治癒魔法に関してはフラン以上という。

 

 その上、暗黒騎士を務め、実力を買われてローファスに専属として召し上げられたと。

 

 最高位の神聖魔法使いであり、その上戦闘もこなせるという。

 

 女中にしておくには勿体ない程の傑物。

 

 足手纏いどころか、寧ろ頭を下げて同行を願いたい程の人材である。

 

 そんな訳で、アステリアはリルカとファラティアナの回収がてらライトレス領に赴き、その折に頭を下げてユスリカに同行を願った。

 

 無論、危険が伴う為アステリアが知り得る限りの事情を説明した上で。

 

 世界の危機である事、ローファスがそれに立ち向かっている事、そして——確証は持てないがきっと聖竜国にローファスが居るという事。

 

 ローファスはこれまで、一度目の世界で起きた出来事の悉くを解決に導いてきた。

 

 四魔獣の動乱も《魔王(ラース)》の復活もなく(恐らくローファスにより未然に防がれ)、《第二の魔王(レイモンド)》の謀反も先陣切って収め、《人類最高の頭脳(テセウス)》が引き起こした帝国による襲撃も平定した。

 

 この経緯から、聖竜国の《邪竜》に対しても動くだろうとアステリアは断じていた。

 

 そして、ローファス一人に任せきりにする訳にはいかないとも。

 

 そういった旨をアステリアは熱弁した。

 

 当然、この世界が二周目であるという事は伏せつつ。

 

 結果、ユスリカは二つ返事で了承した。

 

 なんだったら暗黒騎士九席(シグ)というライトレスの最高戦力の一人もついてきた。

 

 そして、その話を側から聞いていたファラティアナも。

 

 しかし——事情をある程度知るリルカだけは聖竜国に行く事に乗り気ではなかった。

 

 聖竜国で《邪竜》が復活する——そうなる未来は確かに知っている。

 

 恐らくローファスの失踪は、《邪竜》復活という脅威をどうにかする為のものだろうとも何となく思っていた。

 

 だが、当のローファスより“心配するな”、“動くな”と使い魔を通して言われていたから。

 

 きっとローファスにはローファスの考えがある。

 

 帝国でもローファスの言う通りにして全てが上手くいった。

 

 下手に動く事は、ローファスの計画の邪魔になりかねない。

 

 しかし、それでも——帝国での紛争の結末、ローファスは無傷とはいかなかった。

 

 ローファスは一人で無茶をした。

 

 一人で抱え込み、一人で少なくない傷を負いながらも勝利した。

 

 ローファスは、勝利の為なら自分の命を平気で天秤に乗せる事ができてしまう人。

 

 それはローファスの強みでもあるが、弱さでもある。

 

 だからリルカはローファスの元に行く事を選んだ。

 

 たとえそれが、ローファスの意に反する事だとしても。

 

「ねえファーちゃん。ロー君には一杯女の子がいる訳だけどさ、誰が一番に相応しいと思う?」

 

 フォルの向かいに腰掛け、リルカは問う。

 

 かつて、どこかでそうしたのと同じように。

 

 フォルは好戦的に笑って言う。

 

「んなの、アタシに決まってんだろ」

 

「ふーん? 私は、私だと思うなー」

 

 かつては譲り合っていた正妻問答も、今回(・・)は違う。

 

 今度は絶対に、一番は譲らない。

 

 ローファスが妻に優劣をつける事を望まないとしても、この想いは誰にも負けない。

 

 リルカは微笑み、チラリと後ろに控えるユスリカを見た。

 

「ユッちゃんもやるー? 正妻宣言」

 

「しませんよ。そんな恥ずかしい事」

 

 ユスリカは満面の笑みで断った。

 

 聖竜国への到着は、もう間も無く。

 

 

 同刻、暗き荒野——ローファスの世界。

 

 そこは外界とは完全に隔絶された場所。

 

 《闇の神》の目も、この《神界》にはまでは届かない。

 

 秘密の会話をするのにこれ程適したものはないだろう。

 

 そこに居るのは、この《神界》の主たるローファスと、《邪竜》殺しをする協力者《死の先導者》レーテー、そしてその従者フィリップ。

 

 そしてついでにタブレット(テセウス)

 

 この三ヶ月の調査、検証により、確実とはいえないものの、不死身を殺す算段はついた。

 

 それは死という概念に誰よりも詳しく、誰よりも近い存在——レーテーの存在あっての作戦。

 

 レーテーは勝ち誇ったように笑う。

 

「いよいよ今晩か。ま、検証も色々したし、ほぼ確実に殺せるでしょ」

 

「良い加減な事を言うな。ほぼ(・・)確実(・・)は意味合いが全く異なる。万が一殺すのに失敗した時は…分かっているな」

 

 ローファスより叱責され、レーテーは不貞腐れたように顔を背ける。

 

「…へいへい。そん時は僕の保険(・・)を使うよ。でも、これはガチで最終手段。正直、ローファスが《禁忌魔法》とかいうのをぶっ放した方が被害的にはマシだと思うけどね」

 

「《初代の御業(禁忌魔法)》は手段としては下の下だ。魔力消費量が大き過ぎる。保険にするには、一定の魔力を温存しなければならない観点から取れる手段がかなり狭まる」

 

「噂に聞く以上に使い勝手悪そうだね」

 

 肩を竦めつつ、レーテーは最終確認するようにローファスを見た。

 

「じゃ、作戦は話した通りで。修正点とかは無しで、今晩《不死身の魔王》を殺す…良いね?」

 

「ん…あ、あぁ」

 

 ローファスは何かに気付いたようにぴくりと眉を動かすと、口元を引き攣らせながらもどうにか返答する。

 

 そんななんとも歯切れの悪いローファスに、レーテーは眉を顰める。

 

「え、なに…気になる事でもあるの?」

 

「いや…作戦通りで問題ない。ただ…」

 

「ただ?」

 

「…忘れろ。個人的な事だ」

 

「いや気になるって。思う事があるなら言いなよ、失敗できないんだから」

 

 ローファスはこの世の終わりのような顔で、冷や汗を流しながら口を開く。

 

「…繰り返すが、作戦に変更は無い。ただ、ちょっとした緊急事態というか…想定される中でも最も悪い…最悪の事態になりつつある」

 

「えぇ…」

 

 頭を抱えて俯くローファスに、何事だとレーテーは顔を覗き込む。

 

「ちょ、なになに。最悪ってどういう事。作戦に何か不備でもあった?」

 

 心配そうなレーテーに、真剣な顔で成り行きを見守るフィリップ。

 

 ふと、タブレットよりテセウスが声を上げた。

 

『…分かっているとは思うがね。これから想定されるトラブルは君の管轄だよ』

 

「少し黙っていろ! 今どう話をつけるべきか考えている…!」

 

 何か事情を知ってそうな雰囲気のテセウスに、珍しく声を荒げるローファス。

 

 本当になんなんだよ、というレーテーとフィリップの視線に、ローファスは観念したように言う。

 

「…どういう訳か、俺の婚約者と愛人と女中が聖竜国(こちら)に向かってきている。使い魔の位置から鑑みるに、間も無く到着するだろう」

 

「えっとー、それは…良かったね? ハーレムってやつ?」

 

 レーテーのよく分かっていない笑みに、ローファスは深い深い溜息を吐いた。

 

 

 ローファスと親密な者達——彼女達は知らない。

 

 この三ヶ月の間に色々と…本当に色々とあり、未だ非公開ではあるものの、ローファスは現在、姫巫女タチアナと正式な婚姻関係を結んでいる。

 

 タチアナの巧妙な手腕により結ばされてしまっている。

 

 事実関係がどうであれ、今やローファスとタチアナは紛う事なき夫婦である。

 

 こんな事が彼女達に知られれば、恐らく、きっと、いや間違いなく——冗談抜きに洒落にならない事態になるだろう。

 

 ローファスは、かつて無い程に追い詰められていた。

 

 なんかもう、《邪竜》とかどうでも良いと思ってしまう程に。

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