悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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37# 応報

 ステリア領の辺境。

 

 かつてローグベルトの娘ノルンが奴隷として軟禁されていた、旧ギラン邸。

 

 無人となったその屋敷の大広間。

 

 広間は大いに荒れ、その中央にはギランが蹲っていた。

 

「ひ、ひぃ! な、何故ここが…!?」

 

 暴行を受けた様に、頬を赤く腫らしたギランが恐怖の面持ちで仰反る。

 

 その視線の先には、黒衣の少年——ローファスの姿があった。

 

 黒と翡翠の双眸で睥睨され、ギランは萎縮する。

 

「何故居場所が分かったか、か? 答えは足元だ」

 

 ローファスの言葉に反応する様に、ギランの影から一匹の暗黒の剣魚《ソードフィッシュ》が跳ねた。

 

 昨晩接触した際に、念の為に潜ませていた影の使い魔だ。

 

 奇しくも父親と同じ手口を用いていた事に、ローファスは若干の苛立ちを覚える。

 

 因みに、現在ローファスの影に、父ルーデンスの使い魔はいない。

 

 使い魔を影に潜ませる行為は、所詮は一度限りの技。

 

 高位の魔法使いであるローファスが警戒する中で再び使い魔を潜ませる事は、流石のルーデンスにも困難である。

 

「しかし、まさかこんな所まで逃げるとは。逃亡用の転移結晶を隠し持っていたか、小賢しい奴だ」

 

 短距離転移——影渡り(シャドウムーブ)を連続使用してギランの居場所まで来たローファスは、若干の疲労を覚える。

 

 魔力消費量の多い転移魔法の連続使用は、無尽蔵とも言える膨大な魔力を保有するローファスだからこそ出来る離れ技だ。

 

 しかし流石のローファスでも、今回の転移魔法の連続使用は堪えたらしく、病み上がりと言うのもあり顔色は芳しく無い。

 

 しかしそれでも、ギラン一人を仕留めるなど、赤子の手を捻るが如く容易い。

 

 ギランは頭を床に擦り付けた。

 

「か、金なら払います! どうか、どうかお見逃し下さいませ、ライトレス様!」

 

 土下座するギランを、ローファスはゴミを見る様な目で見下し、その頭を踏み付ける。

 

「あれだけ舐めた真似をしておいて、今更命乞いか? 肥え太った成り上がりの下民風情が」

 

 ローファスは魔力の宿る足で平伏するギランを蹴り上げる。

 

「ぐへおうぁ!?」

 

 ギランは滑稽な声を上げながら、高価なソファを巻き込んで壁に叩き付けられる。

 

 身体中を青痣と血に塗れ、床に倒れ伏せるギランに、ローファスはゆっくりと近付く。

 

「この程度で何を寝ている。この位、貴様も奴隷相手にしていただろう」

 

 冷ややかに見下ろすローファスに、ギランは「お助け…お助けを…」とうわ言の様に繰り返す。

 

「この期に及んで、まだ自分は死にたく無いと駄々を捏ねるか。まあ俺も鬼ではない。生けとし生ける者全て、持つ命は一つ。儚い命は、尊ばねばな」

 

 ローファスは邪悪に口角を釣り上げる。

 

 そしてローファスの影より、無数の眼をギョロつかせる不定形の暗黒が這う様に現れ、ゆっくりとギランに近付いていく。

 

「ひ、ひぃぃぃ!? 何だそれは!? …くるな、くるなぁぁ!」

 

 恐怖から喚くギランを、ローファスは鼻で笑う。

 

「安心しろ、それは生ける物には取り憑かん。尤も、致命傷でもあれば話は別だがな」

 

 ローファスは手に暗黒の刃を作り、そのままギランの喉を深々と切り裂いた。

 

「か、かは…」

 

 ギランの裂けた喉から、血が吹き出した。

 

 一息に切り裂かれ、声すらまともに出せないギランの喉の傷に、不定形の暗黒が飛び付いた。

 

「——!?」

 

 ギランの声の無い悲鳴が響き、そのまま全身を不定形の暗黒に飲み込まれた。

 

 しかし生者であるギランの自我に押され、暗黒は首元を残して消える。

 

 そして副次効果により、肉体の傷も修復された。

 

「な、え…」

 

 突然傷が消え、ギランは呆気に取られる。

 

「こ、これは…?」

 

 疑問からギランはローファスを見た。

 

 ローファスは笑い、手に生み出した暗黒鎌《ダークサイス》でギランの胴から下を切り裂いた。

 

「ひぎゃあああ!?」

 

 響き渡るギランの断末魔。

 

 下半身を切断され、鮮血が周囲に飛び散った。

 

 本来であればショック死してもおかしくない傷であるが、首に纏わり付いた暗黒がギランの死を許さない。

 

 暗黒は瞬く間に広がり、失われた下半身を埋める様にギランの足を形作り、それにより出血も止まった。

 

「はっ…な、何がどうなって…」

 

 その顔を苦痛に歪めながら、ギランは混乱した様に自らの暗黒で出来た下半身を見る。

 

 ローファスはその暗黒が象る足を踏み付ける。

 

 胴体を切り離された時程では無いが、ギランの顔が苦痛に歪んだ。

 

 ローファスは痛感があるのか、と意外そうに目を細める。

 

「これでもう、二度と性欲は満たせぬな」

 

 ローファスは口角を上げ、暗黒の鎌の刃をギランの口に突っ込む。

 

「は、はがあ!?」

 

 口から血を流し、目を見開くギランにローファスは顔を近付ける。

 

「さて、次は頰を裂くか舌を切り取るか。然すれば食の楽しみも失せるだろう」

 

 必死の様相で小刻みに首を横に振るギランに、ローファスは続ける。

 

「何度も致命傷を受けていながら、それでも貴様が生きているのは俺の魔法によるものだ。もしも俺が魔法を解けば、傷を埋めている暗黒が消え、下半身は無くなり、喉は再び裂けるだろう」

 

 目を見開き怯えるギランを、ローファスの黒と翡翠の眼が睨む。

 

「そして貴様は、無惨な死体と成り果てる。つまり貴様が生きるも死ぬも、俺の思い一つだ」

 

「…っ」

 

 あまりの恐怖から黙り、ギランはガタガタと震えながらローファスを見上げる。

 

「良いかギラン。今後、貴様は俺に絶対服従だ。俺の意に沿わぬ事をすれば殺す、俺をイラつかせても殺す。生き残りたければ、精々俺の機嫌を損ねない事だ」

 

 邪悪に嗤うローファスを前に、ギランは項垂れる様に床に這い蹲る。

 

「そんな…全てを捨て、全てを喰らってここまで来た…なのに…儂は何を、何処で間違えた…」

 

 項垂れるギランの頭を、ローファスは踏み付ける。

 

「知れた事。貴様は下民の分際で貴族たるこの俺に楯突いた。それだけだ。分を弁えろ、家畜が」

 

「……あ、貴方様の靴を、舐めます。舐めさせて、下さい」

 

「貴様の薄汚い舌で俺の靴を汚すと? 甚だ烏滸がましい。家畜は家畜らしく、地に這いつくばっていろ」

 

「は、はいぃ…」

 

 圧倒的な力の前に平伏する事しか出来ないギランの、その心根はローファスを前にへし折れた。

 

 弱者を踏み付けるローファスは嗤う。

 

 その冷酷かつ残忍な姿は、物語にて四天王の一人として主人公達の前に立ち塞がった《影狼》のローファスを彷彿とさせた。

 

 ローファス・レイ・ライトレスは、決して善人では無い。

 

 物語において悪役であった事からも読み取れる通り、その本質は紛れも無く悪である。

 

 それは、世界が何度繰り返されようと、誰と出会い絆を育もうと、その本質は変わらない。

 

 *

 

 ステリア家、領主邸。

 

 客人として招かれ、宛てがわれた豪勢な部屋。

 

 ソファに寛ぐルーデンスは、頬杖を突いて不機嫌そうに睨む。

 

 その視線の先には、ローファスが居た。

 

 ギラン邸での騒動がルーデンスにより鎮圧され、客人として領主邸に招かれて直ぐに、ローファスは行方不明になっていた。

 

 ルーデンスの使い魔はその時点では憑けられておらず、アルバがローファスの動向に注意を払っていたのだが、魔力ゴリ押しの短距離転移の連続使用をされては流石に追跡出来なかった。

 

 ローファスが戻ったのは3時間経過した後。

 

 素知らぬ顔で戻って来たローファスは、即座にルーデンスに呼び出された。

 

「やはり貴様には首輪が必要だな」

 

「首輪ですか。カルロスの事であれば、数日前より暇を出していますよ」

 

 ローファスの専属執事であり、側近であるカルロス。

 

 そのカルロスが、主人に黙ってルーデンスに色々と報告している事に、ローグベルトの一件を通してローファスは知る事となった。

 

 故に、カルロスはローファスに付けられた首輪。

 

 ローファスからすればそれなりに長い付き合いであるし、それでカルロスを罰する事は無い。

 

 しかし、それでも腹に据えかねたローファスにより、カルロスは長期の暇を出されていた。

 

 そしてローファスは、連続の転移中にアルバの追跡に気付き、転移のペースを上げて振り切っていた。

 

 アルバのローファスの監視は、ルーデンスより命じられたものである。

 

 しかしそれでも、ローファスからすれば気分の良いものではない。

 

「カルロスが居ない今のお目付け役は、アルバですか」

 

 ローファスにじろりと睨まれ、アルバは萎縮する様に顔を伏せる。

 

 ルーデンスは冷たい目をローファスに向けた。

 

「当たり前であろう。貴様、一体どれだけの問題を起こせば気が済むのだ。あの商人の屋敷でも、一歩間違えれば死んでいたのだぞ。ライトレス家嫡男としての自覚が無いのか」

 

 声を荒げるルーデンスに、ローファスは顔を背ける。

 

 これはまた説教モードに入ったか、とローファスは溜息を吐く。

 

「…説教ならば自領に戻ってから書面に起こして送って下さい」

 

「巫山戯るのも大概にしろ」

 

「この様な話、他領でする事でも無いでしょう。それよりも少しお話が…」

 

 怒りが収まらない様子のルーデンスに、ローファスは肩を竦めて話題を逸らす。

 

「…ステリア辺境伯とは、あれからお話になりましたか? 旧知の仲の様でしたが」

 

 ルーデンスは目を細める。

 

「…いや、会談は後日だ。それが何だ」

 

「先程、ギランめを手中に収めました」

 

「なんだと」

 

 ルーデンスは目を見開き、前に身を乗り出す。

 

「ギランはステリア領の経済の要。ステリア辺境伯は何としてでもギランを確保したいでしょうね」

 

「…まさか、それで交渉を有利に進めろと? だが、あの手の商人は放置すると面倒だ。身柄を押さえたなら、秘密裏に消した方が良いだろう」

 

 暗に殺せと冷酷に言うルーデンス。

 

「それならば問題ありません。ギランは決して私の命に逆らいません。逆らえば死ぬように魔法を仕掛けましたので。今後はステリア領で、ライトレス家の傀儡として働いてくれるでしょう」

 

「…」

 

 ローファスの言葉に、ルーデンスは沈黙する。

 

 肯定的な反応が無い事に、ローファスは眉を顰めた。

 

 ルーデンスは頭痛に苛まれる様に目頭を抑え、アルバを見る。

 

「どう思う、アルバよ」

 

「は。未成年ながらに冷酷かつ苛烈な手段、末恐ろしく感じます。ローファス様ならば間違い無く、王国の歴史に名を刻む当主になられるでしょう」

 

「…そうだな。貴様はそう言う奴だった」

 

 至極真顔で答えるアルバに、ルーデンスは疲れた様に溜息を吐いた。

 

 ローファスは言っている意味が分からずルーデンスを睨む。

 

「何が言いたいので?」

 

「…消せと言っておいて何だが、貴様はもう少し年相応に無邪気であった方が良い。その様な後ろ暗い政は、大人であり当主である私の領分だ」

 

 諭す様に言うルーデンスに、ローファスは肩を竦めて見せる。

 

「生温い事を…それに、別に邪悪であるつもりも無いのですがね。私はただ、ライトレスの利益を合理的に考えたに過ぎません。そもそも無邪気など、自覚が無いだけの邪悪でしょう。そう考えると私も、無邪気と言えるのでは?」

 

 自分を指して無邪気と言うのは寒気がしますが、とローファスは締め括る。

 

 ルーデンスは暫しローファスを睨み、そして諦めた様に天を仰いだ。

 

「…もう良い。行け」

 

「そうですか。では」

 

 ローファスは遠慮無く退出しようと戸に手を掛け、そしてじろりとルーデンスを見る。

 

「その生温さ、ステリアとの交渉の際にはくれぐれも出さぬ様お願いします」

 

「…当たり前だ。誰にものを言っている」

 

 ルーデンスから発せられたのは、凍て付く程に冷たく、そして低い声。

 

 ローファスはそれに鼻を鳴らし、部屋を後にした。

 

 *

 

 領主邸、ローファスに宛てがわれた部屋。

 

 椅子に腰掛けるローファスを前に、シギルが土下座していた。

 

「今回は、本当に世話を掛けた。前の別れ際に無礼を働いた俺なんかの為に助力してくれた事、感謝しても仕切れねぇ」

 

 そんなシギルを、ローファスは心底詰まらなそうに見下ろす。

 

「何が貴様の為だ、勘違いも甚だしい。鬱陶しいから消えろ、目障りだ」

 

 ローファスからすれば、シギルの救出は、飽く迄もギランを潰すついで(・・・)であった。

 

 《緋の風》に招かれて助力を懇願され、ホークに乗せられる形で手伝う形となったが、それは所詮余興の範疇。

 

 それをまるで全て自分の為に動いてくれたかの様に言われるのは、ローファスとしても癪な話だ。

 

 しかしギランとローファスの因縁を知らないシギルからすれば、その様に見えたのも仕方の無い話だろう。

 

「め、目障り…?」

 

 冷たいローファスの言葉に、若干ショックを受けた様にヒクつくシギル。

 

 そんなシギルを尻目に、ホークが割って入る。

 

「それでローファスさん。俺は今後、どうしたら良い?」

 

 ホークは緊張の面持ちでローファスに尋ねる。

 

 ホークはシギルの救出を懇願した際に、その見返りに生涯掛けてローファスに服従する誓いを立てている。

 

 ホークは《緋の風》を離れ、ローファスの奴隷として仕える覚悟をしていた。

 

「どうしたらって、どう言う事だ?」

 

 しかし、そんな事情を知らないシギルはホークを見て首を傾げる。

 

 リルカも僅かに目を細め、ローファスの答えを待つ。

 

 対するローファスは、そう言えばそんな話だったか、と顎に手を当て思案する。

 

 暫しの沈黙の後、ローファスは口を開いた。

 

「…別に、どうでも良いな」

 

「どう、でも良い…とは?」

 

 眉を顰めるホークを、ローファスはじろりと見る。

 

「貴様は平民にしては有能な部類だ。とは言え、別に部下として欲しい程でも無い。正直微妙だ」

 

「び、微妙…っすか」

 

 あっけらかんと言うローファスに、露骨に顔を引き攣らせるホーク。

 

 ローファスは気にせず続ける。

 

「その代わりと言っては何だが、暫くの間、ライトレス領を活動拠点にしろ」

 

「活動拠点…暫くライトレス領に居ろって事か?」

 

 首を傾げるシギルに、ローファスは首を横に振る。

 

「別に、《緋の風》の活動の制限はしない。これまで通り他領の遺跡やダンジョンに潜って墓荒らしなり探索なりをすれば良い。ただ、その都度ライトレス領に戻り、いつでも俺と連絡が取れる状態にしておけ」

 

「そりゃ、何でまた…」

 

 今更警戒する様子は無く、単純な疑問からシギルは頭を捻る。

 

 ローファスは心底面倒そうに溜息を吐く。

 

「イズの病の治療に協力するよう、そこのリルカにせがまれたからな」

 

「リルカに…?」

 

 シギルが疑問の声を上げ、ホークがリルカを見る。

 

 今の今まで黙っていたリルカは「ふっふっふ」と笑いながらローファスの後ろに回る。

 

 そしてローファスの首に手を回し、二人に見せつける様に後ろから抱き付いて見せた。

 

 ローファスは露骨に眉を顰める。

 

「今まで黙ってたけど、実は私とローファス君は恋仲なんだー」

 

「な…!?」

 

「うそだろ…」

 

 リルカによるとんでもないカミングアウトに、露骨に顔を引き攣らせて固まるシギルとホーク。

 

 ローファスの冷たい目がリルカを射抜く。

 

「…おい」

 

 当然そんな事実は無く、ローファスから非難の声が上がる。

 

 リルカは後ろから抱き付いたまま、ローファスの耳元で小声で話す。

 

「その方が都合良いでしょ? 何も無いのに私の言う事を素直に聞いてくれるの不自然じゃん」

 

 ローファスは目を細め、小声で返す。

 

「だとしても恋仲などと…他に方法はあっただろうが」

 

「えー、イイじゃん。私はローファス君の事、結構良いと思ってるよ? ローファス君も私の事、そんなに嫌って無いでしょ?」

 

「貴様、何を根拠に…」

 

 至近距離でこそこそと小声で話し込む二人を見たシギルとホークは、眉を顰める。

 

「ホーク、マジかあれ?」

 

「いや、俄には信じ難いが」

 

「でもローファスさん、リルカの事受け入れてるよな?」

 

「突っぱねないって事は、そう言う事だな」

 

「マジかよ。俺が捕まってる間に何があったんだよ…」

 

「いや、それらしい事は何も…だが、確かにリルカは元々好意らしきものを示してたしな…」

 

 悩ましげに話す二人を、ローファスは苛立った様に睨む。

 

「いい加減にしろ貴様等。貴様もだリルカ、いつまで引っ付いている」

 

「えー? 前みたいにリリィって呼んでくれないの、ロー君?」

 

「誰がロー君だ、呼ぶ訳ないだろうが!」

 

「えー、また呼んでよー」

 

「いいから離れろ!」

 

 いつまでも離れないリルカに、怒鳴るローファス。

 

 そしてそれを神妙な面持ちで見るシギルとホーク。

 

 その部屋では、暫し賑やかな声が響いていた。

 

 そして屋敷前にて、シギル等が飛空挺に戻る際、去り際にリルカがローファスに抱き付いた。

 

 「離れろ」と抵抗するローファスだが、リルカは「恋仲なんだから別れ際にハグ位するでしょー」と笑いながらローファスの胸に顔を埋める。

 

 そしてリルカは小声で話す。

 

「最後にこれだけ聞いて。風神の導《しるべ》に従ってローファス君に会う為に、私はシギル兄を密かに誘導して《緋の風》をライトレスの遺跡に導いた」

 

 ローファスは眉を顰め、リルカの言葉に耳を傾ける。

 

 リルカは話を続ける。

 

「でもね、そうなるきっかけ——遺跡やダンジョンのアイテムが取り尽くされてた件、これは前回には無かった事。つまり、未来の記憶を持つ誰かが、遺跡やダンジョンを荒らして回ってたって事」

 

「…!」

 

「多分、私達以外の六神の使徒だと思うけど、正直意図が分からないんだよね。私の方でも調べて見るけど、ローファス君も気に留めておいて」

 

「…分かった」

 

 リルカはそっとローファスから離れ、シギル等の元へ戻る。

 

 リルカは振り返り、照れくさそうに笑った。

 

「ロー君…まだこの呼び方慣れないな。次会う時までに自然に呼べる様にしとくね。ロー君も、ちゃんとリリィって呼ぶ練習しといてね」

 

「誰がするか!」

 

「じゃ、また近いうちに」

 

 怒鳴るローファスに、リルカがウィンクして返す。

 

 そしてシギル、ホーク、リルカの三人は飛空艇イフリートに《転送》により帰還した。

 

 ローファスは溜息混じりに屋敷に入ろうと振り返ると、そこにはアルバが立っていた。

 

 いつからか、気配も無くそこに居たアルバにローファスは驚き肩をビクッと震わせる。

 

「空賊の娘と、随分と仲が宜しいのですね」

 

「…今見たのは貴様の妄想だ。父上には言うな、良いな?」

 

 ローファスに不機嫌そうに睨まれ、アルバは敬礼する。

 

「私と若様だけの秘密、ですか…であれば、致し方ありませんね。仰せのままに」

 

 普段感情表現の乏しいアルバだが、その声は何故か、少しだけ弾んでいる様に聞こえた。

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