悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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4# 村の救済

「税の徴収に来た。さっさと財を出せ、愚民共」

 

 鎧を着た兵士が、傲慢に村人達に呼び掛ける。

 

 それに対し、村人達は口々に怒りの声を上げた。

 

「馬鹿言ってんじゃねえ! 税を払う余裕なんてある訳ないだろ!」

 

「状況を見ろってんだよ!」

 

「魚が捕れねえんだ! 税なんて払えるか!」

 

 それに対する兵士達は、にやついた笑みを浮かべる。

 

「納税しないなら、強制的に奪うまでだ。ああ、抵抗するなよ? 抵抗する者は殺せと命じられているからな」

 

 兵士達は武器を構えると、家に土足で入って金品を漁り始めた。

 

「ふざけんな!」

 

 当然、抵抗する村人。

 

 しかし、鍬やスコップを持っていても、剣や槍を持った兵士に敵う筈も無い。

 

 抵抗する村人は瞬く間に制圧され、次々と家屋が荒らされていく。

 

 

 俺はそんな光景を、頬杖をついて馬車から眺めていた。

 

「なあカルロス」

 

「なんでしょう、ローファス坊ちゃん」

 

 俺は略奪行為に勤しむ兵士達を顎で示す。

 

「あれは、ありなのか?」

 

「いえ、普通に王国法に抵触しておりますね。納税を払わない者に対する強制接収は、適切な手続き後に行なわれます。あれはどう見ても、手続きが行われている様には思えませんな」

 

「だよなあ。あれじゃ完全に盗賊か何かだ。あまりにも品がない。それにあの兵士、正規兵じゃないだろ」

 

 兵士達が装備している鎧は、王国で支給される正規の鎧とは別のものだ。

 

 当然、ライトレス家の鎧とも違う。

 

「そのようですね。恐らくはクリントンの私兵か、傭兵の類いでしょう」

 

「で、極めつけはあの紋章だ」

 

 兵士達が掲げる旗にあるとぐろを巻いた蛇の紋章。

 

 あれはライトレスの家紋じゃない。

 

「あれは確か…セルペンテ子爵の紋章ですね」

 

 ライトレスが統治する領内で、ライトレス家の支配下にある者がライトレスの家紋以外を権威の象徴として掲げるなど、あっては成らない。

 

 クリントン・フォウ・セルペンテは、あくまでも代理の管理を任された者であり、ローグベルトの領主ではない。

 

 要するにクリントンは、他所様の領地で己の家紋を掲げ、支配者ヅラしていると言う事だ。

 

「…子爵家風情が、随分と舐めた真似をしてくれる」

 

「これは即刻本都へ帰り、御当主様へ報告せねばなりませんな」

 

「…そのクリントンとやら、俺が手ずから処するのは問題か?」

 

「それは…避けた方が宜しいかと。御当主様に無断でされるのは…」

 

「面倒事になるか?」

 

「御当主様の心象は宜しくないでしょうな」

 

「ふむ」

 

 ここで下手に動いて波風立てるのも得策ではないか。

 

 しかし、ここでクリントンの事を報告すると、クリントンは代官役人から降ろされる事になるだろう。

 

 となると、そこで重税はなくなり、将来俺が殺される要因が一つ減ると言う事だ。

 

 ならば良しとするか。

 

 ローグベルトへ来た当初の目的は果たせる訳だ。

 

 俺はほっと撫で下ろし、窓から外を眺める。

 

 村では相変わらず、私兵による略奪行為が繰り広げられている。

 

 俺達が先程まで居た宿屋にも私兵の手は伸び、中から悲鳴が聞こえ、リリアが私兵に引き摺られながら出てきた。

 

「ヒュー! 隊長、若い女が隠れてやしたぜ!」

 

「やめろ! 大切な娘なんだ! 金なら払うからやめてくれ!」

 

 それに縋り付くようにハゲの店主も一緒に出てきた。

 

 あ、キレた私兵に殴り飛ばされた。

 

 ふむ、下民らしい実に無様な姿だ。

 

 しかし、私兵の口振りは盗賊そのものだな、育ちの悪さが窺える。

 

 己の家の紋章を掲げ、私兵による略奪行為、その上村娘の拉致誘拐か。

 

 いやあ、お父様への報告内容が増える事増える事。

 

 俺がホクホク顔でそんな光景を眺めていると、馬車に一人の私兵が近付いてきた。

 

「なんだ? 随分高価そうな馬車だあ。良い金になりそうだ」

 

 あ?

 

「おいジジイ、死にたくなけりゃ降りな。中のガキもだ」

 

 下級貴族の私兵風情が、随分と舐めた口を聞くものだな。

 

 こいつもあれか、ライトレスの家紋を知らない口か?

 

 これまで私兵の略奪行為すら涼しい顔で眺めていたカルロスの額に青筋が立ち、私兵を睨む。

 

「退け下郎。貴様程度、近づく事すら烏滸がましいお方だ」

 

「んだとお? こちとらセルペンテ子爵の兵だぞ。そのバックにはなんと、あの暗黒貴族のライトレス家まで付いてんだ。テメェらがどこの誰かなんざ関係ねえんだよ!」

 

 私兵はそう言うと、剣を抜いて俺とカルロスに向けた。

 

「分かったら降りろ。その馬車、血で汚れたら価値が下がんだろうが」

 

 私兵が一歩踏み出した直後、私兵の首が地面に転がった。

 

 その首の顔はにやついており、死んだ事にすら気付いていない。

 

 相変わらず見事な剣技だ。

 

 カルロスはレイピアに着いた血を振るって飛ばす。

 

「ローファス坊ちゃん、お目汚しを致しました」

 

「構わん。貴様がやらねば俺がやっていた」

 

 この私兵、あろう事かライトレスの名まで出しやがった。

 

 ライトレスの家紋が刻まれた馬車に乗る我々に対してだ。

 

 低能もここまで来ると滑稽だな。

 

 しかし参った、“口実”が出来てしまったではないか。

 

 クリントンを潰す、引いてはローグベルトを救う“口実”が。

 

「貴様! 自分が何をしたか分かっているのか!?」

 

 怒りの形相でこちらに向かって来る私兵の長と思しき男。

 

 先程、隊長と呼ばれていた奴だな。

 

「セルペンテ子爵を、あの暗黒貴族のライトレス侯爵を敵に回すと言う事だな!? 貴様ら、生きて帰れると——」

 

 俺は無言で手に巨大な暗黒球《ダークボール》を形成し、私兵の頭を消し飛ばした。

 

 と言うかさっきから暗黒貴族ってなんだ。

 

 我が家に趣味の悪い二つ名を付けるな。

 

「生きて帰れないのは貴様らの方だ。カルロス、全て殺せ。俺が許す」

 

「御意」

 

 カルロスはレイピアを携え、私兵の集団に斬りかかる。

 

 一対多の不利なぞものともせず、私兵共を次々と切り裂き、一騎当千の働きを見せるカルロス。

 

 私兵共は隊長が俺の手に掛かった事に呆気に取られ、碌に連携出来ていない。

 

 そんな棒立ち同然な奴らなぞ、カルロスからすればカカシと変わらない。

 

「…まあ、ものはついでだ」

 

 俺は呆然と立ち尽くす私兵、リリアを抑えている奴に暗黒球《ダークボール》を放つ。

 

 私兵は反応すら出来ず吹き飛んだ。

 

 自由になったリリアはぼんやりと俺を見ると、凄い勢いで頭を何度も下げだした。

 

 ハゲの店主も一緒になって下げている。

 

 見苦しいものを見せるんじゃない。

 

 いいからさっさと家にでも入っていろ。

 

 そんな事をしている間に、私兵共はカルロスの手に掛かり、瞬く間に駆逐された。

 

 漆黒の燕尾服に返り血一つ浴びず、カルロスは戻ってきた。

 

 そして頭を深く下げる。

 

「申し訳ありません。2名逃しました」

 

 ふと、村の入り口を見ると、無数の馬が繋がれている。

 

 私兵共の馬だろう。

 

 成る程、馬で逃げたか。

 

 流石のカルロスも、馬には追いつけないらしい。

 

「逃げ足の速い鼠が居たか。良い、許す」

 

 いや、寧ろ良い。

 

 逃げ帰った兵士から事情を聞いたクリントンが、この後どんな行動に出るのか。

 

 或いは、これから向かうクリントンの屋敷で、この俺にどんな言い訳を並べるのか。

 

 クリントンがどう踊って見せてくれるのか、考えるだけで愉快だ。

 

 父上は狐狩りをよくやっているが、こんな気持ちだったのだろうか。

 

 詰まらなそうだったのでいつも誘いを断っていたが、今度俺もやってみるかな。

 

 俺はカルロスを伴って馬車に乗り込み、指示を下す。

 

 行き先はクリントンの屋敷。

 

 場所はここより馬車で半日程の距離にある港町だ。

 

 今晩はそこに泊まるとしよう。

 

 何せ港町だ、ここよりは多少マシな宿屋があるだろう。

 

「待ってくれ坊主!」

 

 馬車が走り出そうとした所で、声が掛かった。

 

 額に十字傷のある厳つい男、グレイグだ。

 

 私兵共とやり合っていたのか、所々に傷が出来ている。

 

「追い出すような真似したのに、助けてくれるなんてよぅ。俺ぁ、この恩をどう返したら良いか…」

 

 何やら長々と語り始めた。

 

 俺は杖で天井を叩く。

 

 無論、出発しろの合図だ。

 

「宜しいので? どうやら感謝の言葉を述べているようですが…」

 

「良いから出せ。これ以上下民の耳障りな声なぞ聞きたくもない」

 

「御意」

 

 グレイグの声を無視して、馬車は走り出す。

 

 グレイグはそれでも、いや、より声を張り上げる。

 

「貴族を勘違いしてた! 悪かったよ、またローグベルトに寄ってくれ! 次は歓迎するからよ!」

 

 うるさい奴だな! 二度と来るかこんな場所!

 

 俺は耳を塞ぎ、離れて声が聞こえなくなるのを待った。

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