悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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41# 黄金の竜騎士

 白一色の氷雪山脈にて、黒と金色の魔法がぶつかり合い、轟音が響く。

 

 膨大な暗黒の弾幕を、一筋の金色の雷が軌跡を描きながら突き進む。

 

 暗黒と雷と言う相性差もあるが、この物量を相手にたった一本の槍で突き進むヴァルムは、正しく一騎当千。

 

 ローファスはそれを見て物量で押し切るのは無理と断じ、即座に戦術を切り替える。

 

「——《光無き世界(ライトレス)》」

 

 ローファスが発動した上級魔法は、白一面の銀世界を暗黒の濃霧が黒に塗り潰す。

 

 詠唱破棄により発動した魔法は、その効力が本来のものより低下する。

 

 その規模も密度も、魔鯨を相手に完全詠唱で発動したものと比べて見劣りするレベル。

 

 ヴァルムは暗黒の濃霧から、フリューゲルの飛翔により抜け出した。

 

 それは即ち、容易に抜け出せる程度の範囲しか暗黒の濃霧は広がっていないと言う事。

 

 しかし、ローファスは発動した《光無き世界(ライトレス)》に、更に呪文を重ね掛けする。

 

 後述詠唱。

 

 一度発動した魔法に更なる詠唱を重ねて強化する魔法の高等技術。

 

 それにより、暗黒の濃霧は更なる広がりを見せ、山脈の地形を覆い尽くす程に規模を広げる。

 

「く、相変わらず出鱈目な規模だな…フリューゲル、上だ。あれ(・・)をやる」

 

 ヴァルムの言葉に反応したフリューゲルが高速で上空に飛び、天高く舞い上がり暗黒の濃霧から逃れる。

 

「はっ! 逃げてばかりでは勝てぬぞ臆病者め!」

 

「闇の中に身を潜めているお前が言うな!」

 

 暗黒の濃霧の中から挑発するローファスに、ヴァルムは半分キレながら返す。

 

「ふん、言っていろ」

 

 ローファスの魔力を注がれて通常よりも二回りほど巨大化した五匹の黒い海洋竜《シーサーペント》が、暗黒の濃霧の中を泳ぐ様にうねり、上空に向けて顔を出す。

 

 大きく開かれた五つの巨大な顎は、それぞれがヴァルムに向けて暗黒のブレスを放った。

 

 五つの暗黒閃が、ヴァルムを襲う。

 

「竜をも操るか…!」

 

 ヴァルムはフリューゲルを駆り、天高くに軌跡を描きながら暗黒閃を躱わす。

 

 暗黒の濃霧の中より、駄目押しの様に放たれた暗黒魔法の雨霰を、ヴァルムは避けるか雷を纏う槍で薙ぎ払い、その全てが捌かれた。

 

「中級魔法とは言え、魔力で底上げされて上級魔法程度の威力はあるのだがな。それを槍一本で相殺とは…ならばこれならどうだ——《命を刈り取る農夫の鎌》」

 

 呟く様なローファスの声。

 

 その直後、暗黒の濃霧の中より、ヴァルムは異質な気配を感じ取った。

 

 それはまるで、幼い頃に国境付近を彷徨く帝国の大型機獣に遭遇した時の様な、死に掛けた際フリューゲルに庇われた時の様なざらついた感覚。

 

 身の毛が逆立つ、ひんやりと冷たい死の予感。

 

 絶対に受けてはいけない、かするのも駄目だ。

 

 ヴァルムの直感がそう叫ぶ。

 

「ッ避けろフリューゲル!」

 

 気付けばヴァルムは、フリューゲルを駆って急旋回をし、直感に従いその何かを躱した。

 

 とても静かな、それでいて大気が裂ける様な風切り音がヴァルムの耳を掠める。

 

 続いて二撃、三撃と繰り出される風切り音を、ヴァルムは必死の形相で避けた。

 

 直後、避けた先の遥か向こうに見える入道雲に、三本線の鋭利な切れ込みが入った。

 

 ヴァルムは顔を真っ青にして絶句する。

 

「ローファス、何と言う魔法を…」

 

 本気で殺す気か、と戦慄するヴァルム。

 

 対するローファスは、冷静に分析していた。

 

「見えない斬撃すら躱す、か…如何に強力でも、当たらねば無意味だな」

 

 広範囲の魔法弾幕はたった一本の槍により相殺され、しかし威力を絞っても躱わされる。

 

 そうこうしている今も絶えず放ち続けている暗黒槍《ダークランス》の弾幕も、躱わされたり相殺されたりと容易く対処されている。

 

 ローファスは思案し、尤もシンプルな答えを導き出す。

 

「…ならば、更に圧倒的物量で押し潰すまでだ——《闇より暗い腹の中(タルタロス)》」

 

 山脈を覆い尽くす程の暗黒の濃霧より、山をも丸呑みにする程に巨大な暗黒が現れる。

 

 それは凄まじい速度で急上昇し、ヴァルムを騎乗するフリューゲルごと飲み込んだ。

 

 それは正に一瞬の出来事。

 

 飲み込む範囲があまりにも広過ぎて、ヴァルムは逃げる事すら敵わなかった。

 

 突如として山脈に現れた超巨大な暗黒のドーム。

 

 その中で、ヴァルムとフリューゲルは全方位から放たれる千を超える暗黒魔法に晒される。

 

 殺すとまではいかずとも、無傷で出られる筈も無い。

 

 しかし、飲み込まれて間も無く、タルタロスの暗黒の体表に亀裂が入った。

 

 直後、タルタロスの閉じられた口を突き破り、黄金に輝く竜騎士が姿を現す。

 

 可視化される程に高密度の魔力がヴァルムの全身を覆い、黄金の鎧を象る。

 

 それは高密度の雷の魔力を鎧の様に纏う《雷纏装》の、その更に先。

 

 全身を覆う黄金の甲冑に、竜を模した黄金の兜。

 

 その姿は正しく黄金の竜騎士。

 

 現時点では名の無いその技は、未来では《黄金竜殻》と呼ばれていた。

 

 監獄塔にて、疲弊した状態で無理に《雷纏装》を行使していた時とは違い、今のヴァルムは万全。

 

 その力の幅も天と地ほどの差がある。

 

 しかしヴァルムは、この時点では《黄金竜殻》を習得していなかった。

 

 現時点では、本来であれば発動出来る筈の無い技。

 

 それはヴァルムがタルタロスに飲み込まれ、危機的状況に陥った事で潜在能力が開花した結果なのか、或いはまた別の要因か。

 

 何れにせよ、《黄金竜殻》はヴァルムにとっても初の行使。

 

 そしてローファスも、その黄金の竜騎士の姿を初めて目にした。

 

「…なんだそれは」

 

 暗黒の濃霧の中で目を見開き、驚愕するローファス。

 

 タルタロスを容易く食い破られた事、それにも当然驚いてはいる。

 

 しかしそれ以上に、初めて見るその黄金の竜騎士の形態に驚きを隠せない。

 

 《雷纏装》が最強形態では無かったのか、と。

 

「物語ではあんな姿…いや」

 

 ローファスは物語を含めても、この《黄金竜殻》を見るのは間違い無く初めての事。

 

 その筈なのに、どう言う訳か《黄金竜殻》と言う技の存在をローファスは知っていた(・・・・・)

 

 正確には、黄金の竜騎士の姿を見た瞬間に思い出したと言うべきか。

 

 まるで記憶の中に無理矢理情報をねじ込まれた様な、そんな強烈な違和感をローファスは感じた。

 

 そして、《黄金竜殻》の他にもう一つ思い出した情報があった。

 

 それは上空のヴァルムと地上のローファス、この配置においては、最悪の情報。

 

 ぞわりとした悪寒がローファスを襲う。

 

「ならばこの位置は、拙いな…!」

 

 ローファスはばっと上空を見上げた。

 

 対して黄金の竜騎士と化したヴァルムは、上空からローファスが潜む暗黒の濃霧を見下ろしていた。

 

「屋敷で見せた巨大な暗黒か。空恐ろしい魔法だな。ならばローファスよ、俺も本気でやるとしよう」

 

 飛翔するヴァルムを起点に、上空に巨大な魔法陣が刻まれる。

 

 それは一つの魔法を発動する為の金色の魔法陣。

 

 ローファスは舌を打つ。

 

「もう準備を終えていたか…しかし、あんな魔法陣をいつ…」

 

 ローファスが普段から行う魔法陣の大量展開は、ローファスの並外れた魔法技術と膨大な魔力により発動出来ているものだ。

 

 ヴァルム程の魔力量では、どれだけ魔法技術があろうと事前準備無しにこれ程の魔法陣を展開するのは不可能。

 

 ふとローファスは、五匹の海洋竜《シーサーペント》のブレスや暗黒魔法の弾幕を、フリューゲルを駆るヴァルムが空を駆け抜けながら躱していたのを思い起こす。

 

「あの時か…!」

 

 魔法陣は、フリューゲルの飛行の軌跡と共に描いたもの。

 

「味な真似をするじゃないか」

 

 ローファスは好戦的に笑うと、指を噛み切って大量の血を己の影に落とし、詠唱する。

 

 それは間も無く来るであろう魔法に対する迎撃の為の準備。

 

「ローファス。俺が勝ったらフリューゲルを生かす、この約束は守ってもらう——だから、死んでくれるなよ」

 

「はっ、生意気な! 来るが良い! その自信、その魔法ごと正面から叩き潰してくれる!」

 

 上空より見下ろし、呟く様に言うヴァルムに対して、ローファスは口角を上げて声を張り上げる。

 

 一息置き、両者はそれぞれ魔法名を口にする。

 

「——《一結びの万雷(ムジョルニア)》!」

 

「——《生者を拒む禊の門》!」

 

 上空に展開された巨大な金色の魔法陣が輝きを増し、その力が中心に注がれる。

 

 それに応じる様に、天に聳える程に巨大な漆黒の門が暗黒の濃霧を突き抜けて現れた。

 

 そして間も無く、魔法陣の中央に収束した金色の稲妻が地上に向けて解き放たれる。

 

 それは万の落雷を一点に収束した金色の雷。

 

 金色の雷光の奔流と、聳える絶対不変の門が激突する。

 

 落雷にも似た轟音と、凄まじい衝撃波が山脈中に響き渡る。

 

 金色の雷と暗黒の門、ぶつかり合い、互いが互いを削り合う。

 

 しかし相性差。

 

 《生者を拒む禊の門》は最高硬度を誇る暗黒魔法における最強防御魔法。

 

 だが暗黒魔法は、光や火といった発光する属性に極端に弱い。

 

 雷属性も例に漏れず、拮抗したのは衝突の一瞬。

 

 漆黒の門は徐々に削られる。

 

「“門”だけでは力不足か。であれば——すり潰す」

 

 ローファスは迫る《人結びの万雷(ムジョルニア)》を見据え、手で握り潰す動作をする。

 

 《光無き世界(ライトレス)》により生み出された山脈を満たす程の暗黒の濃霧が渦を巻く様に集まり、《人結びの万雷(ムジョルニア)》に纏わりついてその威力を削っていく。

 

「——」

 

 更にローファスは、《生者を拒む禊の門》に対して後述呪文を重ね掛けして“門”自体の強度と耐久性を底上げする。

 

 そして、駄目押しの様に五匹の海洋竜《シーサーペント》がそれぞれブレスを放ち、《人結びの万雷(ムジョルニア)》の威力を減衰させていく。

 

 金色の雷と暗黒の激しい攻防は、程無くして終わりを迎える。

 

 威力を出し切った金色の雷は、遂には“門”を貫く事が出来ずに霧散して消滅した。

 

 しかしその直後、攻撃を受け切った“門”は、限界を迎えた様にひび割れ、こちらも霧散する。

 

「これでも駄目なのか…」

 

 それを上空から見下ろすヴァルムは、兜の下の表情を苦々しく歪める。

 

 ヴァルムにとって、《人結びの万雷(ムジョルニア)》の発動には多大な魔力を消費した。

 

 それこそこれで決めるつもりだった為、魔力の殆どを注ぎ込んでいた。

 

 土壇場で発現した《黄金竜殻》も魔力消費が著しく高い。

 

 そう長くは継戦出来ない。

 

 もし負ければ、フリューゲルは…。

 

 ヴァルムの槍を握る手に、血が滲む程の力が入る。

 

 そんなヴァルムに、フリューゲルは唸る様に鳴き声を上げ、青い瞳を向ける。

 

「フリューゲル…?」

 

 その鳴き声は、叱責している様に、そして責めている様にヴァルムには聞こえた。

 

 まるで、一人で戦うなと怒っている様に。

 

「…すまん、悪かった」

 

 ヴァルムは笑い、肩の力を抜いた。

 

 そう、一人で戦っているのではない。

 

 竜騎士とは、騎竜と騎士が一体となって戦うもの。

 

 ヴァルムの目に、更なる力が宿る。

 

 その直後、今正に霧散している“門”の中から、一本の巨大な触腕が現れた。

 

 その黒い触腕は、正しく大型クラーケンのストラーフのもの。

 

 しかし、その触腕では上空を飛翔するフリューゲルには届かない。

 

「あれは…何をするつもりだ」

 

 見入るヴァルム。

 

 伸びた触腕は後方に反り返り、そのまま飛翔するフリューゲルに向けて何かを投げた。

 

 高速で飛来する何か。

 

 即座に躱そうと手綱を握るヴァルムは、飛来するそれを見て目を見開く。

 

「な…ローファス!?」

 

「とんだ隠し玉を持っていたものだな——ヴァルムゥ!」

 

 ローファスは鎌を片手に、ヴァルムに襲い掛かった。

 

 ヴァルムは驚きつつも、フリューゲルを駆ってローファスを避ける。

 

 が、ローファスは即座に発動した大型の暗黒腕《ダークハンド》の手の平を足場にしてフリューゲルに飛び移る。

 

「近接戦か、面白い! だが、前回の様にはいかんぞ!」

 

 鎌を片手に飛び掛かるローファスに、応戦する様に槍を構えるヴァルム。

 

 近接戦闘となれば、技量の差からヴァルムに軍配が上がるのは、前回の戦闘で分かり切った事。

 

 しかしローファスは、その上で挑んだ。

 

 それはヴァルムを相手に、完全なる勝利を得る為。

 

 ローファスが振り下ろす鎌を、ヴァルムは金色の雷を宿す槍で受け止める。

 

「無駄だ。今の俺は前回とは違う」

 

 前回は暗黒鎌《ダークサイス》と雷を宿した槍で拮抗していた。

 

 しかし今回、ヴァルムは《黄金竜殻》を纏い、更に槍には金色の雷を宿している。

 

 魔力密度も威力も、前回とは桁違いだ。

 

 だが、ローファスは笑った。

 

「そうだな。だが、俺の“鎌”も前回とは違う」

 

 鎌を受けた金色の雷を宿す槍は、僅かな拮抗の後に刃が柄に食い込み、そのまま真っ二つに切り裂かれる。

 

「…!」

 

 その射線上に放たれた音の無い斬撃を、ヴァルムは寸前で回避した。

 

 しかし躱し切れず、黄金の甲冑ごと脇腹が切り裂かれ、血を流す。

 

「く、その鎌は…!」

 

「《命を刈り取る農夫の鎌》が放てる回数は、四回だ」

 

 先に放った斬撃は三度。

 

 ローファスはこの瞬間の為、一撃分残していた。

 

 全てを打ち尽くした漆黒の鎌は霧散して消え、ローファスは即座に暗黒鎌《ダークサイス》を生み出す。

 

「そして槍が折れたならば、こちらの鎌で充分…などと、貴様を相手に油断はせん」

 

 ローファスの背より、六本の暗黒腕《ダークハンド》が伸び、その手のそれぞれに、暗黒鎌《ダークサイス》が生み出される。

 

 右手に一本、そして背中の暗黒腕《ダークハンド》がそれぞれ持つ六本の、計七本の暗黒鎌《ダークサイス》。

 

 その全ての刃が、ヴァルムに向けられる。

 

「おいおい、隻腕がハンデになっていないじゃないか…」

 

 折れた槍を左右の手にそれぞれ構え、やや乾いた笑みを漏らすヴァルム。

 

「まさか、今更降参などせんだろうな」

 

「する訳が無い」

 

「そうだな。ここまでやり合ったのだ。そうであって貰わねば困る」

 

 ローファスは笑い、七本の暗黒鎌《ダークサイス》を一斉に振り下ろした。

 

 ヴァルムを襲う七つの巨大な暗黒の斬撃。

 

 ヴァルムはそれに折れた槍で応戦するが、七つの斬撃の圧倒的物量に飲み込まれた。

 

 その斬撃により、フリューゲルの片翼が消し飛び、バランスを崩した様に傾き、落下し始める。

 

「く…」

 

 ローファスは舌打ち混じりに暗黒腕《ダークハンド》でフリューゲルの背にしがみ付く。

 

 しかし失われた片翼は、暗黒により即座に再生され、フリューゲルの頑張りの甲斐ありどうにか持ち直すが、それでもやはり足場は不安定。

 

 ローファスは振り落とされぬ様、しゃがみ込む形で重心を下げて耐える。

 

 そして斬撃による暗黒の奔流が晴れる。

 

 …そこには、ヴァルムが仁王立ちしていた。

 

 黄金の鎧にはヒビが入り、所々失われている部位もあるが、それでもヴァルムは、目を開けてしっかりとローファスを見据えていた。

 

 ローファスは驚く。

 

「耐えただと!? 馬鹿な、どれだけの耐久を…」

 

 不安定な足場。

 

 全て放った為、手元にもう鎌は無い。

 

 しかしヴァルムは、折れた槍に金色の雷を纏わせ、不安定な足場をものともせずローファスに近付く。

 

 上空での足場の不安定さは、ヴァルムにとっては日常。

 

 それはヴァルムの足枷にはならない。

 

「おのれ…!」

 

 ローファスは苦し紛れに無数の暗黒球《ダークボール》を展開して放つが、ヴァルムはそれを避けも迎撃もせず、黄金の鎧だけで受け止める。

 

 そして、ローファスの眼前まで辿り着いたヴァルムは、金色の槍の矛先を振り上げた。

 

「…舐めるなァ!」

 

 ローファスは右手を掲げ、手に暗黒鎌《ダークサイス》を生み出そうとする。

 

 しかし、暗黒鎌《ダークサイス》が生み出される直前、ローファスの掲げられた右手に、フリューゲルがパクりと噛み付いた。

 

「な——…は?」

 

 それは、甘噛み。

 

 痛みは無く、噛みつかれたと言うよりは口に咥えられたと言い換えて良い程優しいもの。

 

 ローファスは目を丸くしてフリューゲルを見る。

 

 フリューゲルは青い瞳を細め、「ぐるる」と唸った。

 

 ごめんね、そう言っている様にローファスには聞こえた。

 

 気を取られたその一瞬の隙を突かれ、ローファスは頭をコツンと小突かれる。

 

 それは槍の柄の先による、殺意の無い軽い殴打。

 

「俺の勝ちで良いな、ローファス」

 

 龍を模した黄金の兜が砕け散り、ヴァルムの勝気な笑みが露わとなる。

 

 ローファスは力が抜けた様にへたり込み、大きな溜息を吐いた。

 

「…勘違いするな。貴様では無い。貴様()だ…」

 

 天を仰ぎ、ぼんやりと呟くローファス。

 

 勝敗は、ここに決した。

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