悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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76# 親愛

 飛空艇の甲板。

 

 リルカがその扉を開けると、手摺に寄りかかり夜風に当たるローファスと、その隣にはイズの姿があった。

 

 病の完治後、イズはここ数年で衰えた肉体を鍛え直すべくリハビリに励んでいた。

 

 青白かった肌も今では少し日に焼け、健康的な小麦色になっている。

 

 痩せ細っていた身体も、以前と比べ肉付きが良くなっていた。

 

 イズはリルカが来た事に気付くと、少し驚いた様に笑った。

 

「あら、本当に来た。流石ローファス様。リルカの事、何でも分かるんだねぇ」

 

 ニヤりと笑うイズに、ローファスはだるそうに答える。

 

「御託は良いからさっさと行け」

 

「はいはい。邪魔者は退散しますよっと。じゃあリルカ、ごゆっくりー」

 

 語尾に音符でも付きそうな程に声を弾ませるイズは、リルカと入れ替わる様に船内に戻って行った。

 

 リルカはそれを眉を顰めながら見送り、ローファスに向き直る。

 

「…イズ姉と、何話してたの?」

 

「別に大した事では無い。先の治療の礼だったり、俺と別れてからリルカの元気が無いから復縁してくれとせがまれたり——まあ、他愛の無い世間話だ」

 

「ななな…イズ姉、本当に何話してんの…」

 

 余計な事言わないでよ、とリルカはわなわなと肩を震わせ、ローファスは感心する様に息を吐く。

 

「しかし貴様は、相変わらず演技が細かいな」

 

「…え?」

 

「世界が巻き戻されたという話をしたなら、俺との関係は演技だったと言えば良かろうに。ああ、それとも話をしたのは別れてから少し後か?」

 

「あー…まあ」

 

 イズが話したという、別れて元気が無かった件も演技と思われてる…? と、リルカは複雑そうに顔を背ける。

 

 そして、アベルと居た時とは打って変わり、ローファスは普通にリルカと話していた。

 

 怒っているものと思っていたため開口一番の文句くらい覚悟していたが、不機嫌な様子も無い。

 

「…もっと怒ってるかと思った」

 

「俺がか? 何に対してだ」

 

「いや、今回無理矢理連れて来ちゃったし、さっきも凄い不機嫌そうだったし…一人で出て行っちゃうし」

 

 目を伏せながら言うリルカに、ローファスは肩を竦める。

 

「先も言ったが、情報共有ならば貴様と奴だけで事足りる。それにあの場に俺が居ても、話し合いの弊害にしかなっていなかったろう」

 

「だから出て行ったの? てっきり怒ったのかと…」

 

「無論、怒りが無いと言えば嘘になるがな。あの男を相手に、仲良くお喋りをするなど不可能だ」

 

「私とは普通に話してるじゃん」

 

「貴様と奴では、何もかもが違うだろうが」

 

「…そっか」

 

 リルカが胸に抱いたのは、安堵と安らぎ。

 

 強張りが解け、表情が少し緩んだリルカを、ローファスは見据える。

 

「それで?」

 

「…ん?」

 

「態々俺の元まで来た理由は? 奴との会話を切り上げてまで来たのだ。何か伝えたい事があったのだろう」

 

「あー…えっと…」

 

 リルカは何を言ったものかと視線を泳がせる。

 

 元より、リルカはアベルに後押しされる形でここに来た。

 

 ローファスの事が好きか否か、そんな事はリルカ自身もよく分からない。

 

 ただ、ローファスと話していて楽しいし、自分以外の異性とくっついているのを見ると思いの外苛ついた。

 

 思い返し、改めて思う。

 

 いつから自分は、ローファスの事を異性として意識する様になっていたのか。

 

 それは今まで、もしかすると無意識の内に目を逸らしていた事。

 

 気付いてしまわぬ様、蓋をしていた気持ち。

 

 きっと自分は、自分で思っている以上にローファスの事を——

 

「…まあ良い。何れにせよ、あの場を離れたのは正解だ」

 

 いつまでも黙ったままのリルカに、ローファスは溜息混じりに言った。

 

 しかしそれは、妙に引っ掛かりのある物言い。

 

「正解…? どう言う意味?」

 

「アベルの様子が明らかにおかしかっただろう。まるで人格が変わったかの様だった。元より疑惑はあったが、確信した。奴には別の何かが乗り移っている。元の人格も残している様だから、完全な乗っ取りや憑依とは違う様だがな」

 

「え…え?」

 

 まるでリルカとアベルのやり取りを見ていたかの様に語るローファス。

 

 リルカは顔を引き攣らせる。

 

「き、聞いてたの? ど、どうやって…」

 

 あの場に於いて、ローファスは間違い無く退室しており、リルカが甲板に来るまではイズと話していた筈。

 

 が、ここでリルカは初歩的な事に気付き、ばっと自らの影を見た。

 

 リルカの影には、ローファスの使い魔が潜んでいる。

 

「嘘。まさか、使い魔を通して聞いてたの…ずっと…?」

 

 では、ローファスの事が好きだったらどうのと喚いていた事も全て聞かれていた事になる。

 

 みるみる内に顔を朱に染めていくリルカ。

 

 ローファスはそれに気付かず、話を続ける。

 

「貴様の演技に、奴もまんまと騙されている様だったな。まさか奴の方から席を外せと提案してくるとは。奴の変化は、謂わば不測の事態と言って良い。あの場を一度離れられたのは僥倖だった」

 

 さて今後の方針だが、奴から情報を引き出すには——と、ローファスはアベルから如何に多くの情報を引き出すか、どの様な質問をするべきかを語り始める。

 

 リルカは呆然と、それも含めて演技と思われていたのか、と安堵しそうになった。

 

 しかし、安堵以上に、リルカはどうしようも無い虚無感に襲われる。

 

 それと同時に、自身の心根を演技と断じたローファスに対し、無性に腹が立った。

 

「…っ」

 

 気付けばリルカは、ローファスの裾を掴んでいた。

 

 そして口を開く。

 

 言っては駄目だと理性が叫ぶが、溢れ出す感情は止まらない。

 

「…演技じゃ、ないよ」

 

「は…?」

 

「演技じゃ、ないから」

 

 ローファスの顔も見れず、顔を伏せたままリルカは言った。

 

 リルカの言葉を受け、ローファスは僅かに沈黙した。

 

 リルカからして永遠にも感じた極僅かな沈黙の末、ローファスは口を開く。

 

「演技ではない、となると…リルカ、貴様は俺の事が好きという事になってしまうが…」

 

「…うん、好き」

 

 僅かに唇を震わせながら、リルカは短く答えた。

 

 ローファスの顔が見れず、終始目を伏せたまま。

 

 言いたくなかった、言うべきではなかった。

 

 それでも、口から出る言葉を止める事が出来なかった。

 

「…いつからだ」

 

「分かんない…自覚したの、たった今だし」

 

「は? そ、そう、か」

 

 お互いに、目も合わせずに交わされる短いやり取り。

 

 暫しの沈黙の末、ローファスは口を開く。

 

「…すまん」

 

 ローファスの口から出たのは、謝罪の言葉。

 

 リルカは自然と、瞳に涙が溜まる。

 

 拭っても拭っても、自分の意思に反する様に溢れ出す。

 

 分かっていた。

 

 ローファスにはファラティアナとの約束がある。

 

 リルカの気持ちに、応えられる筈も無い。

 

 元よりリルカ自身、二人の間の邪魔をしたくはなかった。

 

 ファラティアナを応援すると、そう言っていた筈なのに。

 

 静かに涙を流すリルカに目もくれず、ローファスは悩まし気に頭を抱えながら言葉を続けた。

 

「…本当に悪かったな、演技などと。レイモンドめ…何が君は女心に精通している、だ。やはり奴の目は節穴だ」

 

「…うん?」

 

 頭を抱えるローファスに、リルカはキョトンと目を向ける。

 

「…すまんって、そういうすまん?」

 

「ああ、流石に配慮が無さ過ぎた。いや、思い返せばそう取れる態度は見せていたかも知れんが、貴様は割と最初から思わせ振りな感じだったからな…いや、これは言い訳か」

 

 自己嫌悪する様に、暗い目でぶつぶつと呟く様に言うローファス。

 

 ローファスの普段見せないそんな姿に、リルカは僅かに目を丸くし、そして徐々に笑いが込み上げてきた。

 

 遂には吹き出してしまい、ローファスから驚いた様に視線を向けられる。

 

「貴様、何を笑って…何を泣いてる!?」

 

 涙を流すリルカに、更に驚きの声を上げるローファス。

 

 そんなローファスがおかしくて、リルカは腹を抱えて笑った。

 

 ケラケラと笑うリルカに、ローファスの目は徐々に冷ややかさを帯びていく。

 

「…楽しそうで何よりだ。まさか、俺をからかったのか?」

 

 いつまでも笑っているリルカに、額に青筋を立てるローファス。

 

 リルカは一頻り笑って落ち着くと、ローファスに寄り添い、肩にそっと頭を預ける。

 

「ごめんごめん、私がロー君の事が好きなのは本当。いや、だっていつも眉間に皺寄せてるロー君があんなに狼狽えてるんだもん。そりゃ笑うよ」

 

「…失礼な奴だな」

 

「ロー君って変に大人びてるからさ。そういう年相応の男の子みたいな反応も出来たんだね。少し意外」

 

「…」

 

 ローファスは遂には黙り、拗ねた様にそっぽを向く。

 

 リルカはまた笑い、宥める様にローファスの背をぽんぽんと叩いた。

 

「…ごめんね、急に変な事言って」

 

「別に、変では無いだろう」

 

「先に言っとくけど、返事は聞かないから。て言うか、聞きたくない。そういうつもりで聞いたんじゃないし」

 

 リルカの言葉に、ローファスははあ? と眉を顰め、頭痛に悩まされる様に眉間を押さえる。

 

「…つくづく、勝手な奴だ」

 

「そーだよ。知ってるでしょ、私が自分勝手って事は」

 

 ローファスの肩に頭を預けたまま、リルカは憑き物が落ちた様に満足げに微笑む。

 

「…だから、これまで通りにお願い。楽しく喋って、楽しく笑って、たまにこうしてベタベタして——それで私は満足だから…それ以上になりたいとは、言わないから」

 

 リルカのその言葉に、ローファスは口を噤み、何も答えなかった。

 

 

 甲板にローファスを残し、リルカはアベルの元へ戻った。

 

 その日、結局アベルは本来の人格に戻る事は無く、リルカとの話は別人格の転生者が行った。

 

 そして、当初の予定通りお互いの持ち得る情報を共有する。

 

 リルカからは自身の事と、ローファスより聞いた情報を。

 

 無論、ローファスの許可を得た上で。

 

 それはローグベルトでの魔鯨の件であったり、ステリア領での一件であったり、天空都市の事であったり。

 

 そしてアベルからも、豹王アンブレ討伐の件であったり、ダンジョンを巡って魔法アイテムを収集していた事、そして学園長が使徒である事も共有された。

 

「ダンジョン荒らしてたのお前か!」

 

 まるで犯人でも見つけたかの様に、指差して大声を上げるリルカ。

 

 そんな騒ぎがありつつも、情報共有自体はスムーズに進んだ。

 

 そして最後に、リルカはアベル(転生者)に対し、控えめに頭を下げた。

 

「お礼は言わないって意地張ってたけど、言わなきゃ気持ち悪いから——さっきは、ありがとね」

 

 リルカのぎこちないお礼の言葉。

 

 それにアベル(転生者)は、優しげに微笑む。

 

「こっちも、うちのアベルが色々とごめんね。後でちゃんと言って聞かせるから。悪気は無いから、嫌わないであげて」

 

 困った様に頭を下げるその姿は、まるで出来の悪い弟の代わりに謝る兄の様。

 

 否、兄というよりは——

 

「何それ、もうお母さんじゃん」

 

 アベルではないアベルの、そんな態度にリルカは思わず笑った。

 

 当初こそ警戒したし、今でも心の底から信用出来る訳ではないが、このアベルのもう一つの人格は、少なくとも悪い奴では無い。

 

 リルカはそう感じた。

 

 

 使徒会談を終えた深夜。

 

 解散後、アベルは学生寮に帰っていた。

 

 ローファスとは結局、あれから顔を合わせる事は無かった。

 

 アベルが話した情報は、リルカからローファスに伝わるだろう。

 

 それはアベル(転生者)も織り込み済みの事。

 

 故に、アベル(転生者)にとって切り札となり得る魔法アイテムの詳細は敢えて伏せた。

 

 リルカからは特に言及も無かった事を考えると、現実ではアイテムの重要度は低いのか、とアベル(転生者)は頭を捻る。

 

「ゲームでは強力なアイテムも多かったし、かなり重宝してたんだけど」

 

 自室でシャワーを浴びながら、一人ごちる。

 

 これもゲームとリアルの違いか、と眉を顰めつつ、アベル(転生者)はじろりと火の玉(アベル)を見る。

 

「それで、お前はいつまでいじけてる訳? アベル君よ」

 

 リルカがローファスに会いに行ってから、ずっと無言だった火の玉(アベル)に、アベル(転生者)はついに痺れを切らして話し掛けた。

 

 ふわふわと浮かぶ火の玉(アベル)から、恨めしそうな声が響く。

 

『…何故、あの時リルカを行かせたんだ。お前は、ハーレムを目指していた筈だろう。なら、リルカがローファスの元へ行くのは都合が悪いんじゃないのか』

 

「何。やっぱアベル、リルカの事好きだったの?」

 

『当然、仲間として大切に思っている。だからこそ心配なんだ…相手は、あのローファスだぞ』

 

「そうだねー。まだ何の罪も犯していないのに、理不尽に殺される夢を見せられた、あの可哀想なローファス君ね」

 

『それを言ったのは奴だろう! 嘘でないと、何故言い切れる!?』

 

 ヒートアップする火の玉(アベル)に、アベル(転生者)は目を細め、シャワーをぶっかけた。

 

 無論、実体のある炎では無い為、消える事は無いが、心無しか火の勢いは弱まった気がする。

 

「熱くなんなよ相棒。人は息をする様に嘘を吐く…そんなのは、今時ガキでも知ってる事だ」

 

『なら何故…!』

 

「でも、人が歩んだ軌跡——行動は嘘を吐けない。ローファスは事実として、リルカを助けた。四魔獣のデスピアも撃破した。《闇の神》の眷属っぽい鯨の魔物も倒したらしい」

 

『それは、そうだが…』

 

「原作知識を得た悪役が改心して未来を改変する——この手の話は、俺の世界じゃ、そんなに珍しい事でもないんだよ」

 

『どんな世界だ…なら、もうハーレムは良いのか?』

 

 アベル(転生者)は、分かってないなー、と溜息を吐く。

 

「勘違いすんなよ。俺の目的はハッピーエンド、全キャラ笑顔の大団円。ハーレムは飽く迄も手段の一つだ。ハーレムじゃなくても、幸せならそれで良い」

 

『…そうか、そうなのか。お前の事を少し、勘違いしていた』

 

 少しだけ感心した様に言う火の玉(アベル)に、アベル(転生者)はふふんと胸を張る。

 

 そして、悩ましげに片目を瞑る。

 

「ローファスは悪人じゃない。でも、本当に六神の使徒なのかね…?」

 

『どう言う事だ』

 

「現在使徒と判明してるアベル、リルカ、そして学園長、みんな強くてニューゲーム…原作での記憶を保持した、所謂二周目状態。でも、ローファスは違う」

 

『…確か、僕の視点での記憶を夢に見た、とリルカは言っていたが』

 

「そう、夢。記憶を引き継ぐプロセスが一人だけ違うんだよ」

 

『では、ローファスは…奴は《闇の神》の…?』

 

「ローファスに記憶、てか知識を授けたのは、六神ではなく《闇の神》…その可能性は十分にある。でも、少なくとも《闇の神》に味方してる訳じゃ無さそうだよな。鯨の魔物やら、デスピアを倒してるし」

 

『ふむ…』

 

 話しながらアベル(転生者)は、バスタオルを羽織って浴室を出る。

 

 そして沸かしていたコーヒーをマグカップに注ぎ淹れ、大量のミルクと蜂蜜をぶち込んでくるくると掻き混ぜた。

 

「俺が知る原作での《影狼》のローファスは、傲岸不遜でかなり我が強い性格だ。言う事を聞けと言われて、素直に聞く様なタマじゃ無かった様に思う。実は《闇の神》が用意した刺客だけど、反発して《闇の神》の意に反する行動を取ってるとかなんじゃないかなー、と俺は睨んでる」

 

『では、結局奴は敵なのか? それとも、味方なのか?』

 

「どっちでもねーよ。俺の推測が正しけりゃだが。でも、敵の敵は味方とも言うからな。もしローファスが《闇の神》と折り合いが悪いなら、仲間に引き入れる事は出来るかも」

 

 “《闇の神》とやらの好きにはさせる気は無い。もしも《闇の神》が俺にとって不都合な事をするならば、その時はこの俺が手ずから葬ってやる”

 

 ローファスは、そう口にしていた。

 

 《闇の神》に対してあまり良い感情を抱いていない、そんな印象を受ける言葉。

 

 それは実にローファスらしい発言、だからこそ、アベル(転生者)にはそれが嘘とは思えなかった。

 

 「だから…」と、アベル(転生者)火の玉(アベル)を掴み取ると、ずいっと顔を近づける。

 

「もうちっと愛想良くしろよ、ローファスに対して。あんだけ敵意剥き出しじゃ、碌に話も出来ねーだろーが」

 

『それは…本当に、悪かった…』

 

 口では謝りつつも、何処か納得していない雰囲気の火の玉(アベル)

 

 アベル(転生者)は、溜息を吐きつつ、理解を示す様に微笑む。

 

「ま、分かるぜ。ローファスは、アベルにとって許し難い事をしたんだもんな」

 

 四天王(影狼)のローファスは、黒い魔物を王国中に放って多くの兵士を殺害し、その上、アベル達に敗北した四天王——仲間だった筈のオーガスやアンネゲルトを貶す発言をした。

 

 ローファスを守ろうと命を賭して立ち塞がった老執事、カルロスの事も意に介していなかった。

 

 そして、アステリアを罵った。

 

 それらは、アベルからすれば、どれ一つをとっても、決して許す事の出来るものではなかった。

 

 原作ゲームでは深く語られなかった、夢に見たアベルの記憶。

 

 夢を見たからこそ理解出来た、アベルの想い。

 

 でも、とアベル(転生者)は続ける。

 

「そんなローファスだけど、リルカは出会った時に命を救われたらしい」

 

『…』

 

「それに俺達じゃ、リルカの家族の命は救えなかった。それも事実だろ」

 

『それは…そう、だな…』

 

 諭す様に言われた火の玉(アベル)は、消え入りそうな声で肯定する。

 

 そんな火の玉(アベル)を、アベル(転生者)はぽんぽんと優しく叩く。

 

「リルカは大切な仲間、お前が言ってた事だ。んでローファスは、そんな仲間を救った恩人。なら、お前にとっても恩人なんじゃないか?」

 

『…そうかも、知れない。僕は少し、周りが見えなくなっていたのかも…』

 

 火の玉(アベル)は思い直す様に呟き、後悔する様に息を吐いた。

 

『僕はあの時、碌に事情も聞かずにローファスに切り掛かった。アステリアを泣かせたものと勘違いをして…でも、実際はそうじゃなかった。落ち度は、僕にあった』

 

 予選トーナメントの後での事を、火の玉(アベル)は振り返る。

 

 アベル(転生者)はにっと笑い、火の玉(アベル)を荒っぽくわしゃわしゃと撫でる。

 

「よし、よく言った! 良い子だアベル、これなら次会った時に仲直りが出来るな!」

 

『どういう視点で言ってる!?』

 

 まるで我が子が近所の子供と喧嘩して、自力で仲直りが出来そうな事に喜ぶ親の如き反応に、火の玉(アベル)は困惑混じりにアベル(転生者)の手から逃れた。

 

 その光景は少しだけ、我が子を思う親と、それに反抗する子の様にも見えた。

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