悪役貴族は死にたくないので四天王になるのをやめました〜リピート・ヴァイス〜   作:黒川陽継

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85# エピローグ・アカデミア

 レイモンドとの戦いから数日。

 

 此度の騒動にて、国民や騎士団、魔法師団に多数の犠牲が出た。

 

 しかしそれでも、暴れた召喚獣の数や規模、破壊された街の被害から考えると、犠牲者の数は非常に少なかったといえる。

 

 それは一重に、《第二の魔王(レイモンド)》の目的が虐殺ではなく、破壊による王都の占領だったからに他ならない。

 

 とはいえ、街の被害は甚大。

 

 現在王都では、復興と行方不明者の捜索が大々的に行われていた。

 

 六神教会の聖女フラン主導の元、家を失った国民の寝床提供と炊き出し、そして負傷者の手当てが行われた。

 

 騎士団と魔法師団共同の元、街の復興と行方不明者の捜索が行われていた。

 

 此度の騒動、問題となったのはやはりレイモンドの処遇である。

 

 ガレオン公爵家特有の、魔物を喚び出し使役するという召喚魔法と、天上での戦いを目撃していた複数名の証言。

 

 魔人化していたとはいえ、見る者が見れば、それがレイモンドであるのは明白であった。

 

 レイモンドは実質的には《第二の魔王》、引いては《闇の神》に操られている状態であった。

 

 しかしながら、それが事実であると証明する手立ては無く、何より乗っ取られていたから仕方無いでは済まない程に、あまりにも被害が大き過ぎた。

 

 そして何より、レイモンド自身が絶望の淵に沈んでいた。

 

 レイモンドは、《第二の魔王》に乗っ取られている最中の記憶が、鮮明に残っていた。

 

 自身の召喚獣(友人達)が、王都を破壊し、理不尽に国民を殺す様を、レイモンドは止める事も、目を背ける事すら出来なかった。

 

 その光景は、レイモンドが最も嫌う理不尽な暴力そのものであった。

 

 レイモンドは絶望し、死罪すらも受け入れる気でいた。

 

 そして間も無く、国王からの招集命令がレイモンドに掛かる。

 

 その折、レイモンドを匿っていたローファスは行動を起こす。

 

 まず、ヴァルムと二人掛かりでレイモンドを拘束した。

 

 それは傷心したレイモンドに、余計な行動を起こさせない為に。

 

 しかし、素直に拘束されたままでいるレイモンドではない。

 

 なのでローファスは、アベル——そのもう一つの人格である転生者にも協力を仰ぎ、数多の魔法アイテムを借り受けた。

 

 魔力を抑え込む枷、鳴らせば睡眠効果のあるベル、そして麻痺効果のある針。

 

 他、多種多様の魔法アイテムを過剰な程に用いてレイモンドを封印した。

 

「…万が一、自害などされては敵わんからな」

 

 一仕事終えたとばかりに呟くローファス。

 

 レイモンドはあらゆる状態異常を付与された状態で眠っており、魔力的にも身体的にも封じ込められている。

 

「少し、やり過ぎじゃないか?」

 

 若干引き気味のアベルに、ローファスは溜息を吐く。

 

「レイモンドを相手に、やり過ぎなどという認識を持っている時点で、貴様は奴への理解が欠片も足りていない」

 

 《闇の神》の助力が無くとも、レイモンドは強い。

 

 レイモンドは、この世の理不尽をどうにか出来てしまうだけの力を持っている。

 

 絶望し精神的に不安定な今、その強大な力の矛先を間違った方向に向けさせる訳にはいかなかった。

 

 時間が解決するとまでは言えないが、心を癒すのに短くない時間を要するのは事実。

 

 しかしそれよりも今は、レイモンドが重罪人とされてしまっている件をどうにかする必要がある。

 

 そしてローファスは、ありとあらゆる手段を用いた。

 

 時間差で王都に訪れた、ライトレス家当主たるルーデンスに事情を説明し、王家への嘆願書を出した。

 

 その内容は、レイモンドは操られ心神喪失状態にあった為、減刑を求む——というもの。

 

 その嘆願書には、名だたる上級貴族が名を連ね、連盟という形で出された。

 

 記された家は、ライトレス侯爵家、レイモンドの実家たるガレオン公爵家、アンネゲルトの実家たるトリアンダフィリア伯爵家、オーガスの実家たるディアマンテ伯爵家——以上の四貴族家。

 

 これはレイモンドを救う為の嘆願書。

 

 それは謂わば、王家に意見するという事であり、上級貴族といえどそう気軽に出来るものではない。

 

 故に、嘆願書への署名を無償でする程、ディアマンテ伯爵家もトリアンダフィリア伯爵家も寛容では無い。

 

 貴族家同士の関係は、そこまで甘いものでは無い。

 

 ディアマンテ家はガレオン家に対して見返りとして金鉱山を要求。

 

 そしてトリアンダフィリア家は——ライトレス家に対し、嫡男ローファスと、息女アンネゲルトの婚約を要求した。

 

 金鉱山の件をガレオン家は承諾。

 

 ライトレス家は——これを保留。

 

 婚約に関しては、当人同士の意思に任せると回答した。

 

 この婚約に関してトリアンダフィリア家とライトレス家の間で、“当人達も交えて”度々話し合いが行われるのだが、それはまた別の話。

 

 紆余曲折ありつつも、嘆願書は無事王家に提出された。

 

 そして、まるでそれを後押しするかの様に、六神教会の象徴たる聖女フランが《神託》を得たと王家に対し声明を出した。

 

 此度の騒動は、古の時代に六神が封じた邪悪の権化——《闇の神》により引き起こされた事であると。

 

 レイモンドは、不幸にも《闇の神》により依代として操られた被害者であると。

 

 そして、六神の意思を受け、レイモンドを止めたのがローファス含む幾名であると。

 

 その言い様はまるで、選ばれた勇者かの様。

 

 かくして、此度の騒動鎮圧に多大なる貢献をしたローファス含む幾人かは国王直々に表彰される事となった。

 

 表彰に呼ばれたのはローファス、オーガス、アンネゲルト、アベル、《緋の風》の面々——そしてファラティアナであった。

 

 しかしその内、ローファス、《緋の風》の面々、アベルはこれへの参加を辞退した。

 

 ローファスは魔力の消耗が激しく体調が優れないとあからさまな仮病を使い参加を拒否。

 

《緋の風》の面々は、王家の使者に対し、特定の国と癒着する気は無いと言い放ち拒否するという、無法者極まる返答をした。

 

 アベルは表彰を受ける程の事は出来なかったと辞退するも、近衛騎士に囲まれて半ば強制的に参列させられる事となった。

 

 因みにローファスが表彰式への参加を仮病を使ってまで辞退した理由は、決して面倒という訳では無く、いつ拘束を破るか分からぬレイモンドから離れられない為であった。

 

 ローファスの表彰は、代わりに参加したルーデンスがとても微妙な顔で受け取っていた。

 

 上級貴族四家による嘆願書、そして聖女フランの声明により、国王はレイモンドを無罪と断ずる。

 

 ただし、ここまでの被害を王都に齎した力が召喚魔法によるものである事は紛う事無き事実であり、例えそれが操られていた事だとしても、本来であれば無罪はあり得ない。

 

 如何に国王の決定であっても、各貴族家、そして直接被害を被った国民からすれば到底容認できたものではない。

 

 故に此度の騒動に関して、大規模な情報操作が行われる事となった。

 

 レイモンドによる召喚魔法ではなく、古に封印された厄災——《魔王》が復活し、魔物の群れを率いて王都を襲撃した、とされた。

 

 その《魔王》は、ライトレス家嫡男ローファスが討ち取った——これが表向きの記録とされた。

 

 これによりローファスは、王都を守った英雄として、王家より《黒魔導》の称号を得た。

 

 因みに、表彰式を欠席してこの事実を後から知ったローファスは、とても嫌そうな顔で、羞恥から肩を震わせていたという。

 

 

 場所は学生寮、ローファスの私室。

 

 全てが終わり、正式に無罪となった事を、レイモンドは拘束の一部を解かれ、ローファスに聞かされていた。

 

「——という事で、貴様は無罪だ。国王の判決を受け入れろ」

 

「巫山戯るな!」

 

 激情し叫ぶレイモンド。

 

 その身から光の奔流が溢れ出し、それをローファスが手を翳し、深淵の暗黒が抑え込む。

 

 当然、レイモンドはそれを認めなかった。

 

 納得出来る筈など無かった。

 

 多くの国民が理不尽に死んだ。

 

 己の弱さ故に肉体を乗っ取られ、召喚獣(友人達)に罪を犯させてしまった。

 

 そして、召喚獣(友人達)も、その殆どが殺されてしまった。

 

 全て、自分の責任——己の弱さが招いた事。

 

「…一体、どれだけの罪無き民が死んだと思っている! 私の召喚獣(友人達)がやった…そして、死んでいった…私が弱かった所為だ。私が乗っ取られた所為だ。こんなもの——死んで詫びねば、殺された者達に示しがつかないではないか…私一人が生き残るなど、不条理だ…」

 

 深く絶望したレイモンドには、ローファスの説得の声も届かなかった。

 

「…そうか」

 

 ローファスは、一時説得を諦める。

 

 元より、少ない対話でレイモンドが納得するとは思っていない。

 

 時間が掛かるのは想定内。

 

 それだけの絶望をレイモンドは受けた。

 

 ローファスは再びレイモンドを眠らせるべく魔法具のベルを鳴らそうと手を伸ばす。

 

 そんな矢先だった——学園長アインベルが現れたのは。

 

「邪魔するぞい、ローファス君や。レイモンド君はおるかな?」

 

 扉を開け、普通に入って来た学園長に、ローファスは目を細める。

 

 現在レイモンドは、公的には行方不明とされている。

 

 無論、王家や各貴族家にはローファスが匿っていると伝えてはいるが、拘束場所は秘匿していた。

 

 そして、当然だが拘束場所としている学生寮のローファスの私室は、いくつもの結界と封印魔法が重ね掛けされており、ローファス以外の出入りは不可能。

 

 にも関わらず、学園長は普通に扉を開けて入って来た。

 

 ローファスは警戒の面持ちで学園長を睨む。

 

 学園長が六神の使徒である事は、リルカを通して聞き及んでいる。

 

 しかしそれが、イコール味方であるとは言えない。

 

「ノックはどうした、学園長」

 

「おっと、これはうっかりしておったのう」

 

 お茶目に舌を出し、コンコンと行動を改める様に今更ながらに扉を叩く学園長。

 

 そのおちゃらけた雰囲気に、ローファスは舌打ち混じりに《影渡り(シャドウムーヴ)》を発動する。

 

 ローファスと一部拘束されたレイモンドが影の中に沈み出すと、学園長は慌てた様に手を振り乱す。

 

「ちょ、待った待った! 儂がここへ来たのは、レイモンド君を助ける為じゃ!」

 

「…あ?」

 

 ローファスは、一時影による転移を中断する。

 

 学園長はホッとした様に息を吐き、近付こうとした所でローファスが静止の声を上げる。

 

「止まれ。それ以上動くな。魔法の発動も、その予備動作も許さん。もし少しでも妙な行動を取れば、即座に転移する」

 

「信用無いのう。一応儂、学園長なんじゃが…まあ、これまで接点も無かったし、無理もないかの」

 

 一呼吸置き、学園長は続ける。

 

「レイモンド君を助けたいと言うのは本当じゃ。尤も、それをするのは儂では無いが…のう」

 

 意味ありげに笑う学園長。

 

 直後、学園長の頭上に白く輝く宝玉が出現した。

 

 それは、ローファスの目から見て、最高位の精霊の様な…否、或いはもっと上位の——

 

 その瞬きにも満たぬ思考に挟み込む様に、ローファスとレイモンドの視界は光に包まれた。

 

 

 白一色の空間。

 

 ローファスとレイモンドの前、先程まで学園長が立っていた場所に、一人の白髪の少年が佇んでいた。

 

 少年は二人を見て、人懐っこそうな笑みを浮かべた。

 

「会えて嬉しいぞ。我が末裔、そして暗黒神(エイス)の末裔よ」

 

 少年の口から、尊大な言葉が響いた。

 

 

 白い空間、精神世界。

 

 この感覚に、ローファスは覚えがあった。

 

 それは以前、天空都市にて。

 

「白、光…——貴様、光神か」

 

「光神? 六神のか…? ローファス、この空間はなんだ…これは、一体…」

 

 困惑するレイモンド。

 

 ローファスは厳しい目を光神に向ける。

 

「…如何にも、儂こそ光神——アーサー・ロワじゃ。そうか、お主は風神(リリララ)と接点があるんじゃったか。では、こうして領域に喚ばれるのは二度目か?」

 

「貴様等六神は、無駄話が好きらしいな。下らぬ問答は不要。レイモンドを助けたいとは、どういう事だ」

 

 要件を言えと吐き捨てるローファスに、光神は笑う。

 

風神(リリララ)が気にする訳じゃ、あやつ(・・・)によう似とる。ああ、無駄話は無しじゃったな。では——そうしよう」

 

 光神は言いながらレイモンドを指差す。

 

 直後、レイモンドは極光に包まれた。

 

 光に包まれ、驚きに目を剥くレイモンド。

 

 ローファスは警戒の面持ちで光神を睨む。

 

「貴様、何を…!」

 

「そう憤るな。儂の加護を与えただけじゃ」

 

「加護、だと…?」

 

 ローファスはレイモンドに目を向ける。

 

 光はレイモンドの体に収束し、右手の甲に五芒星の紋様が刻まれる。

 

 それはローファスが夢——物語でも見た、光神の加護。

 

 レイモンドは、驚いた様に目を剥く。

 

「召喚魔法が…」

 

 レイモンドが感じたのは、ガレオン家に伝わる魔法属性たる召喚魔法の消失。

 

 レイモンドは召喚魔法が、使えなくなっていた。

 

「…召喚——魔物と対話し、喚び出して仲間とするその特異な力は、《闇の神》に連なるものじゃ。許せ、レイモンドよ」

 

 どういう事だ、と敵意にも似たローファスの視線を受け、光神は説明する。

 

 レイモンドの血筋は、少々特殊なものであった。

 

 基本の自然属性とは異なる、異質な力。

 

 ガレオン家の人間が持つ召喚魔法と、魔物と対話する事が出来る特殊な体質は、元を辿れば《闇の神》の系譜に繋がる力であった。

 

 それ故に、レイモンドは血筋的に、《闇の神》からの精神干渉を否応無く受けてしまう。

 

 そこにレイモンドの精神的な強さは関係無く、そもそも血筋的に《闇の神》との間に完全な上下関係が出来てしまっている。

 

 だからこそ、今回肉体を乗っ取られてしまった事は完全なる不可抗力であり、レイモンド自身に責は無いと光神は語った。

 

 無論、それでレイモンドが納得する事は無かったが、少なくとも光神の加護を受けた事で、今後乗っ取られる心配は無いとの事だった。

 

 六神が《闇の神》を封印して約千年。

 

 《闇の神》が沈黙した千年の間に、王国はあらゆる人種が入り混じりながら栄えていった。

 

 そして、その中には《闇の神》の因子を持つ血筋もあった。

 

 ガレオン家は、そんな血筋の一つ。

 

 しかし、その力で公爵家まで成り上がったガレオン家は、必然的に王家の血筋も混じる事となる。

 

 故に、レイモンドには《闇の神》の因子と、王家の血筋が流れていた。

 

 王家——即ち、光神の血筋。

 

 レイモンドは《闇の神》の系譜であり、そして同時に光神の末裔でもあった。

 

「お主は儂の子孫。だからこそ、儂からもある程度は干渉出来た。召喚魔法は確かに有用じゃろうが、その力は《闇の神》に通ずるもの。勝手ながら、封じさせて貰った」

 

「…そう、か」

 

 レイモンドは、申し訳無さそうにローファスを見る。

 

「すまない…君の領に、転移による石炭の供給はもう…」

 

「今そんな事どうでも良いわ」

 

 今それ言う? と露骨に眉を顰めるローファス。

 

 そもそも時空の精霊マニフィスはヴァルムにやられた為、これまでの様に自由な長距離転移は使えないだろうとローファスは思う。

 

 意外と余裕があるのか、それとも色々とショック過ぎて思考が麻痺しているのか。

 

「…しかし、血筋の話が事実なら、今後レイモンドの家族が乗っ取られる可能性があると言う事か?」

 

 ローファスの鋭い指摘に、光神は悩ましげに頷く。

 

「可能か不可能かで言えば可能じゃろうが、その可能性は低いじゃろうな」

 

「何故だ。根拠は?」

 

「神は、人間への干渉に多大なる力を消費する。そう何度も気軽に出来る事では無い。レイモンドで失敗した以上、同じ事を繰り返す意味は無い。ガレオン家に、レイモンドより強い者はおらんしの」

 

 他のガレオン家の人間を操った所で、レイモンド以下の結果しか出せない。

 

 ならば、多大なる力を消費してまで乗っ取る事は無い。

 

 その理屈には、ローファスも納得する。

 

「では、ライトレス家は?」

 

「…うん?」

 

「ライトレス家が持つ固有魔法《影喰らい》は、ある種魔物を操る力とも言える…俺も、《闇の神》の血筋なのか?」

 

 ローファスの問いに、光神は首を横に振り否定する。

 

「心配するな。その力——《影喰らい》は、暗黒神(エイス)が影属性を用いて編み出した術式を、後世に繋ぐべく血に刻み込んだもの。《闇の神》の力とは無関係じゃ」

 

「は? 術式を、血に…!?」

 

 理解の外にある事を平然と口走る光神に、ローファスは顔を引き攣らせる。

 

 意味が分からない。

 

 術式を、血に…無理だろそんなの、と常軌を逸した手法に、ローファスは頭を捻る。

 

 光神はじっとローファスを見据え、口を開く。

 

「…先に言っておくが、お主が暗黒神(エイス)の選んだ使徒か否かは、悪いが儂にも分からん。あやつめ、この儂にも誰が使徒か教えんのじゃ。薄情な奴よ」

 

「ならば、俺は《闇の神》の使徒、という可能性もあるのか」

 

 ローファスの言葉に、レイモンドは目を見開く。

 

 光神は、特に動じた様子も無く返す。

 

「…可能性、ではないのう。儂の見立てではほぼ確定しておるよ。ローファス、お主は間違い無く、我々六神に対抗して《闇の神》が選んだ者じゃろう」

 

 目を細めるローファスに、光神は微笑んで見せる。

 

「じゃが、お主は既に《闇の神》の手を離れておる。そう恐い顔をせんでも、お主をどうこうする気は無いわ」

 

「俺は《闇の神》も、暗黒神からも接触が無いのだが?」

 

「ふむ…考えられる可能性としては、暗黒神(エイス)と《闇の神》双方に選ばれたのではないか? 神同士の力は反発し合う。両者共、お主と話したくとも互いに反発して繋がらん状態…とかのう」

 

 所謂ダブルブッキングじゃなー、と肩を竦める光神。

 

「巫山戯るな、真面目に答えろ」

 

「別にふざけてはおらんよ。何れにせよ、儂に事実を確かめる術は無い。お主もあまり意地を張らず、素直に暗黒神(エイス)の墓に行く事じゃ。あ、ちゃんと最深部まで行くのじゃぞ?」

 

「む…」

 

 これまで、敢えて避けていた《初代の墳墓》。

 

 暗黒神が先祖、それもライトレスの初代であるという事が何とも受け入れ難いものであった事もあり、又、他にも色々とやる事もあった為後回しにしていた。

 

 六神に信用が置けなかったというのもある。

 

 しかし、やはり行かねばならないか、とローファスが心底嫌そうに眉間を押さえていると、光神は優しげに笑う。

 

「…長々と話したが、流石にこれ以上の対話はこの儂でも厳しい。もし何か聞きたい事があれば、王宮に来い。そこならば少しであれば対話も出来る」

 

 光神は、その身が薄れ行く中で、レイモンドの元まで歩み寄り、小さな身体でそっと抱き締める。

 

 レイモンドは困惑するが、光神は構わず続ける。

 

「愛しき我が末裔よ。死は、皆例外無く平等に訪れる。違うのは、それが早いか遅いかじゃ。一時、絶望に堕ちるのも良い。しかし、死に逃げるな、生きて抗え。死ぬのはその後でも遅くはない」

 

「…!」

 

「お主の望む理不尽無き世界——甘いとは思うが、嫌いでは無い。かつて儂もそれを目指し、この王国を造った。その志を強く持ち、腐らず歩め。お主がその道を行く限り、儂も共にあろう」

 

 孫を愛でる様に優しげに言う光神。

 

 光神は次にローファスの元へ歩み寄り、同様に抱き締めようと手を広げ——ローファスにより顔面を掴まれ、止められた。

 

「むぅ!?」

 

「近寄るな、馴れ馴れしい」

 

「なんじゃ、照れておるのか? 愛しき暗黒神(エイス)の末裔よ。ツンデレか? そんな所も奴に似ておるのう」

 

「…成る程。きっとその暗黒神は、貴様に対しさぞ苛立っていた事だろうな」

 

「あ、マジでもう限界じゃ…」

 

 ローファスからして茶番といえるやり取りの末、光神は白い空間と共に姿を消した。

 

 

 そんなやり取りの翌日。

 

 レイモンドはローファスによる拘束を自力で解き、姿を消した。

 

 ローファスが暫し目を離した、ほんの僅かな数分にも満たぬ間の出来事だった。

 

 レイモンドの影に仕込んでおいた使い魔も、反応を感じる事が出来ない。

 

 ローファスはアベル、ヴァルム、アンネゲルト、オーガスに即時通達し、影の使い魔を総出で捜索するも、ついぞ発見には至らなかった。

 

 そのまた翌日の事、ローファスの私室宛に手紙が届いた。

 

 宛名には「R」の一文字のみ。

 

 封蝋には竜鱗の紋章——ガレオン家の家紋。

 

 ローファスは急ぎ、中を確認した。

 

 手紙には——レイモンドからのメッセージが記されていた。

 

“私の死期は、今では無いらしい。世の理不尽を正す前に、打倒すべき存在がいる事を理解した。心配せずとも、もう自棄は起こさない。私は私の、成すべき事を成そう。色々とすまなかった、そしてありがとう。また、道が交わるその時まで——君の友より”

 

「あのキザ男…貴様を無罪にするのに、一体どれだけの労を裂いたと…」

 

 手紙を手に、力無く息を吐くローファス。

 

 要約すると旅に出る、といったところだろうか。

 

 読み終えた所で、下の空白部に追加で文字が浮かび上がる。

 

 “追伸——監視されている様でなんか嫌だったので、君の使い魔は返却させてもらうよ。…使い魔による監視はする分には良いが、されるのはあまり気分が良くないね”

 

 ぽん、と手紙から煙が出ると、同時にレイモンドに付けていた使い魔——黒い剣魚が床に落ち、ぴちぴちと跳ねた。

 

 ローファスは若干の苛立ちを覚えつつ、次に会ったら一発殴ろうと心に誓うのだった。

 

 

「——あ?」

 

 ふと、レイモンドの手紙に紛れていたのか、別の手紙が床に落ちた。

 

 それは赤の便箋。

 

 宛名は無く、封蝋にはライトレスの紋章。

 

 その手紙には、たったの一文。

 

 “時計塔の鐘台で待つ”

 

 そう、書かれていた。

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