嘗て至高だった父へ【OVERLOAD】   作:エーブリス

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よく考えたらオーバーロードと牙狼の組み合わせってそこそこ相性ええな…前回さらっと言及したけど、暗黒騎士とかの特殊騎士系にフジュツシ・フゲキシで完全にやり手の魔戒騎士ロールプレイやん。
後モンク職と合わせれば、ちょっとした法師キャラにもなるんか…。


第16話

 

王都を一人歩くジョナサンは、既に漂う違和感…その原因に気が付いた。

空気が淀んでいたのだ――――とは言え、別に大気汚染とかの物理的な意味では無い、この場合は所謂治安の悪さを揶揄するものだ。

 

「……(いくら大国のお膝元とは言え、少し裏に回ればこんなものか)」

 

どうせ元の世界基準では“暗黒”だとか壮絶な言葉で表されるらしい中世程度、或いはそれに近い文明や倫理観なのだ。それに彼が居た時代も早々変わったものでもないので、別段驚きもしなかった。

 

他の国もこんなものか?と一緒くたに考えたが、直ぐにまた別の情報が過る。

 

「あぁ…(そう言えば、オスカーさんが“そもそも王国はもうダメだ”とか言ってたな…そろそろ替え時って事か)」

 

チームリーダーの言葉を真実とするならば、この国の腐敗は周辺諸国以上に進んでいるのだろう。

そう言えば隣国バハルスでは一人の若く有能な皇帝が貴族の粛清を行い、一気に“家”を建て替えた事から鮮血帝とかと呼ばれているとか何とか。下準備の程がどの程度行われていたのかは不明だが、その様な大改革を行って尚も国を安定させられるのだから、当代が傑物である事実には違いない。

 

まさか現実に獅子帝がいる世界に飛ばされるとは思わなんだと、少々帝国への興味が湧いてきたジョナサンだった。

 

 

――――話が大分ズレたが、ともあれ今はこの空気感だ。

エ・ランテルにも貧民街があり、彼らはそこに住居を構えてはいるものの、ここ程の澱みは存在しなかった。

 

小耳に挟んだ巨大シンジゲートとやらの存在も大きいのかもしれない。

そして噂をすれば影が差すと伝わる通り、間近から僅かな“殺気”が流れて来た。

 

 

…そう、殺気。

まごう事無く誰かが誰かを殺そうとする意志である。

 

「ッ…(妙に薄いな、業者か?…それと俺宛じゃない)」

 

どこかの馬の骨が放つそれが自分とは無関係だと悟る頃には、裏路地から出ており人気はもう目と鼻の先だった。

 

 

そして遂にジョナサンと殺気を放つ誰かがご対面。

よく見れば、何時ぞやのトロール退治でウォー・トロールに始末させた暗殺者と似た様な格好をしていた。

 

ついでに言えば彼らだけではない…恐らく暗殺対象だったのだろう、縦ロールの髪型が良く目立つ、顔も髪色も体系も魅惑的な…どこぞの令嬢らしき人物が居た。

 

参った…と、本来ならば死に直結しかねない失態に苦笑いを浮かべながらも、起こってしまった事は仕方ないとして場の対処に努めることを決めたのだった。一先ず冒険者としての立場もある手前、下手にはどちらにも加担しないつもりだ。

彼には、何処ぞの大泥棒のように無条件で女の見方をする趣味は無い。

 

「…あぁ、お楽しみの最中だったんだ。悪い」

 

適当にジョークを飛ばしてみるものの、ウケは最悪だったようだ。

ともあれ彼の笑いにおけるセンスが酷いのは昔からの話なので、大した問題にはならない。

 

 

寧ろ問題なのは、暗殺者たちがジョナサンもターゲットに含めた事だ。

そして一番近くにいた者が、彼に話しかける。

 

「おい、クソ野郎。

10秒やるからさっさとどけ」

 

ガラの悪い暗殺者はそうは言うものの、その本心は背中から刺し殺す気マンマンである。

さて、念の為ここから10秒をカウントしておこう。

 

1秒経過。

彼はたった今引き抜かれた短剣を見た…やはりあの時と同じ、蛇由来の毒物が塗られたものである。

 

3秒経過…暗殺者は勿論、令嬢も何故か「とっとと回れ右して殺されろ」とでも思っているのか、ピクリとも動かない…彼女にとってこの状況は、彼を囮にして逃げ去る絶好のチャンスだというのに。

 

 

そして5秒経過。

ここで遂にジョナサンが口を開いた。

 

「蛇は嫌いだ。

5秒は待てるから、それを片付けてくれ」

 

暗殺者は明らかに青筋を立てた。

チンピラと大差無い悪徳業者を雇ってしまった黒幕とやらに彼は同情を禁じ得なかったが、金をケチったか碌な情報網を持っていないソイツの運の尽きだと早々に切り捨てる…拾ってやる義理も無いのだが。

 

7秒経過。

よく観察すれば、ヒクついているのは正面の男だけで周囲は冷静そのものだ。此奴だけ見習いか何かだろうか?だとしても正面に立たせる意味が分からないが…まあ、この世界における裏稼業のセオリーがあるのだろう。

何処の世界でも、決して不死の研究から火薬を手に入れるとは限らない。

 

とすれば、目の前のチンピラ擬きは囮である。

 

 

9秒経過…既に導火線が焼き切れ、火花が火薬へと触れる寸前だ。

気の抜けるような音を幻聴しながら彼の目はより黒く黒く、光を吸い込んでいく。

 

10秒経過――――火薬庫は爆発した。

 

 

「ッ!」

 

正面のチンピラ擬きは毒刃を真っ直ぐ、ジョナサンの頸動脈目掛けて突き出される。

しかし、それは彼の両手に阻まれたかと思えば、瞬きする間にグリップが彼の白い手袋をした右手内へと移る。

 

そこから文字通り一瞬で、チンピラ擬きは自らの得物で喉を切り裂かれた。

 

続く後方の二人も、先ず一人を先に奪った1本を投げ、心臓を貫く。

そしてもう一人を自前のスローイングナイフで眉間を貫き、それぞれを殺害。

 

最後に…令嬢の後方に待ち伏せていた不意打ち要因をもう一本の毒刃で始末した。

 

 

ここまで約3秒と少し。

不意打ち要因がのたうち回った末に死んだのを確認した後スローイングナイフを回収すると、彼は直ぐに狙われていた令嬢へと目を向けた。

 

「(雑な仕事を…どこの二流業者だ。ったく)あぁ…お嬢様?

死体を片付けるので、今のうちに逃げて下さい」

 

「いいえ結構、私の使用人にやらせます。貴方が去りなさい」

 

ジョナサンの指示を蹴った令嬢は、先ほどまで命を狙われていたというのに至って冷静だった。

態度も金持ち特有の横暴さにも見えるが…態々雇われた暗殺者に狙われるような女性だ、きっと普通じゃない。

 

そもそも怪しい所はあと何か所かあるが、無理な詮索は厄災を招く。

折角厄介事に巻き込まれる寸前で引き返させてくれるというのだ、彼女は決して慈愛に満ちた人間では無いだろうが…ここは恩情として受け取る事にすると彼は決めたのだった。

 

 

「……分かりました。

では」

 

挨拶もそこそこに、彼は来た道へと戻った。

やはり裏道など滅多に歩くモノじゃないのだろう…例え、自らの身体が暗闇に吸い込まれるようになっていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

怜雄

「…人の目、自分の見た目、かぁ。

けれど外見なんて、簡単に作り変える事が出来る…そんな不確かなものに縋るのはマズイ気がするんだ。俺は」

 

三女

「でも私は…私は………」

 

怜雄

「(コンプレックスがここまで深刻なものだとはな…)そうだな。

なら世界を変えてみよう。また違った世界なら、少しは気が晴れるかもしれない」

 

三女

「…そんな、事が…出来るのですか?」

 

怜雄

「一時的だけれども、出来るさ。

文字通り…思い描いた自分に成れる世界に、行く事が」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アングマールだけの耳には、音楽が流れていた。

曲名はJimi Hendrixの【Voodoo Child】…そう、日本ではジミヘンの呼び名や、ギターの破壊行為等を普遍的に知られるアーティストの楽曲だ。

 

どういう訳か、仕事前にこれを聴くとどうにも良い成果が出る。

彼…というより彼ら9人の創造主もそうだった様だ、きっと遺伝子か模倣子が受け継がれたのだろう。

 

 

“ピッタリな曲”そう言われれば、確かにそうだった。

ブードゥーを単に「ゾンビ」と訳した時…ゾンビ系異業種のプレイヤーから生まれた彼らは正に“ブードゥーチャイルド(ゾンビの子)”なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

月夜に紛れて空気が揺れる、熱でも無くその逆…寒気で大気が歪むのだ。

今宵、不死者の王に導かれ…堕落の力を身に宿した、凶悪なアストラル――――その名も指輪の幽鬼(ナズグル)達が牙をむく。

 

 

因みに今は仕事中なので、あの奇怪なコミュニケーションは封印中である。

 

コーナーズからアングマールへ、目的地に到着…配置に付いた。

指示を待つ

 

こちらクロスブレイド、裏口の制圧。目標:乙の搬出準備中だ

 

了解した。

クロスブレイドは作業を続行、コーナーズ上からの指示があるまで待機――――いや、たった今司令部より突入命令が出た。コーナーズ…カートを押せ

 

解き放たれた分隊が、屋敷の内側をまるで侵食する毒の様に攻略していく。

…この四人一組(フォーマンセル)を一分隊とするやり方は、特殊作戦において人数的に多すぎず少なすぎず丁度良いという他にも、有事の際には更に二人一組(ツーマンセル)に分けられるという利点を持つ。

 

ある文献によれば、古くは第二次世界大戦後にイギリスの特殊空挺部隊――――所謂SASがマラヤのコミュニスト掃討における熱帯ジャングルでの戦闘で生み出し発展させた(或いはそのどちらかである)ようだ。

それが百と数十年経った時代でも用いられているのは、技術の完成か…或いは停滞か。この二つは紙一重なのかもしれない。

 

 

しかし今重要なのは、それが現状況において有効であるか。

応えはYES…月下の黒い影の如き彼らは、正に指輪物語で描かれたような倦怠なる陰気を纏いてゆらりゆらりと廊下を渡り、目に燃ゆる無慈悲の元にすべての生者――――善人や悪人、戦闘員やそうでない者、貴族に兵士に使用人、そういった有象無象の区別無く見敵必殺(サーチアンドデストロイ)して行った。

 

最も、殺す必要があれば…だが。

殲滅が仕事であれば彼らは遣わされない、故に上記の物々しい言い様とは裏腹に、実際手にかけたのは極一部だ。

 

ばしゅ、ばしゅ、ばしゅ…と、スコーピオンEVO3に似せた特殊消音魔導銃が光無き弾丸を静かに発し、銃声分の人頭を穿つと、隊員の一人がかすれた声で「クリア」と仲間へ意思疎通し即座に死体を消滅、再び行軍を開始した。

 

彼ら黒単九・死寺(ダークオンリーナイン・シージ)に課せられた本任務は、階層守護者デミウルゴス立案の一大作戦【ゲヘナ】の一部分でしかないが、対象となる屋敷の立地やその他諸々の要因からより繊細な攻略が求められ、それを可能とする彼ら部隊が派遣されたのだった。

本来は防衛を主任務とするが、事前の実力テストによりそれ以外の特殊作戦における高いポテンシャルを見せた為、あのキルボックスの外へと狩り出されているのだ。

 

 

…分岐にたどり着いた彼らコーナーズは、チームリーダーからのハンドサインで上記の利点通りツーマンセルの二組に分かれた。事前に手に入れた図面通りであれば、この先の通路は「口」の字のような通路になっており、両組はいずれ合流する事になる。

 

さて、この際チームリーダーが所属する方をA,そうでない方をBとする。

 

Bが通った道はなんて事の無い、ただ通路が伸びているだけの一本道だった…途中、荷台を押すメイドと鉢合わせたが即座に射殺。彼女は何か「婚約者が…」どうとかと上機嫌で独り言ちていたが、幽鬼達にそれらを酌量するだけの慈悲は無い。端役は監督の意のまま、脚本通りに死なすだけである。

 

そしてAの道中には、二つの扉があった。

一つはなんて事はない…他の場所でも見かけたような普遍的な扉。

 

もう一つが他のそれとは一線を画す程豪華に装飾された両開きの扉だった…そこにこの屋敷の主――――つまり“目標:甲”が居るのは間違いない。証拠に部屋の奥からギシギシと物音がする。

 

分かり易くて助かるよ

 

全くだ。

…コーナーズ全員に通達、こちらコーナーズ1。目標:甲の居場所と思しき場所に到着した、至急合流されたし

 

コーナーズ3了解」「コーナーズ4了解

 

連絡から数秒後、Bが合流し目標への突入準備が整った。

これより、作戦は山場を迎える…恐らくここが一番の難関だ。

 

パカリと、静かにそして素早く開けられた扉からAが飛び入り、全裸の目標:甲を即座に制圧する。

 

「な、何――――むぐッ!?」

 

「!?!?」

 

女は殺せ」「ラジャラジャ

 

同じく全裸で彼と性交に勤しんでいた、年若い女性…というより少女は喚く暇すらなく眉間に穴を空けられ絶命した。

…そして後続のBが部屋の隅々まで確認し終えると、目標:甲の両手を結束バンドで拘束した。

 

 

良し…。

こちらコーナーズ、カートにブツを入れた。決算よろしく

 

アングマール了解…クロスブレイド、そちらの状況を報告せよ

 

クロスブレイド、たった今荷造りが終わった。

トラックのエンジンを温めておく

 

了解…!――――アングマールからコーナーズへ通達、どうやら王国軍の突入が早まったらしい

 

不味いな、此処から裏口まで一瞬って訳じゃないぞ

 

いいや、寧ろ好都合かもしれん…奴らのカチコミに乗じて脱出する。

――――問題ないな?アングマール

 

了解した、国軍の突入は約2分後だ。

検討を祈る

 

通信の終了と時を同じくして、コーナーズのリーダーがハンドサインで撤退開始を指示する。

彼らのそれを王国軍の突入と合わせるには、今から行動するしかないのだ。

 

「ッ…ッ!!!――――!!」

 

口にダクトテープを貼られ、言葉を封じられた目標:甲は引っ張られた痛みと衝撃でもごもごと呻く。

…にしても、いくらナズグルと言えども全裸で小太りの中年男性をそのまま連れまわすというのは流石にいい気分ではない。しかし仕事は仕事である。

 

 

……大分騒がしくなってきたな

 

こいつの私兵と、国軍が衝突したのだろう。

…ッ!待て――――アレは、国軍だな

 

困りはしないが、早すぎるな…レエブン候の子飼いとやらか?

 

どうだかな。

――――良し、今だ…!

 

王国軍兵士をやり過ごしたコーナーズは移動を再開し、この約3分後に無事、裏口にて荷馬車と共に待機していた別動隊…クロスブレイドと合流を果たした。

 

会計に間に合ったようだな

 

あぁ、問題ない

…布の一枚ぐらい無かったのか?

 

全裸の目標:甲を見たクロスブレイドのチームリーダーも、やはり顔を顰めた。

 

こいつの着替えを待つ時間も惜しい…それにこの後は恐怖公の特別授業だ

 

違いない。

――――こちらクロスブレイド、コーナーズと合流した。これより作戦領域を離脱する

 

コーナーズ及びにクロスブレイド、よくやった。

直ちに帰還せよ

――――お前達、店じまいだ

 

アングマールは実働部隊の撤退を命ずると同時に、雑用の下級アストラル達へと仮説本部の片付けを行わせる。

それらの指示を飛ばし終えた後、上役に一先ずの作戦成功を伝えようと、伝言(メッセージ)のスクロールを手に取った…が、先にその上役(デミウルゴス)からメッセージが飛んできた。

 

『首尾はどうだい?アングマール』

 

たった今、お使いを終えた所です。

じきに帰還するでしょう

 

『それは良かった…後でゲートを使える守護者を寄越すから、所定の位置で待機してくれたまえ』

 

仰せの通りに…では、そちらもご武運を

 

この一言の後、向かってくる馬車が見えた。

アングマールが右肘を付き出すと、それに呼応して御者を務めていたクロスブレイドのリーダーが左肘を付きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

ランドナ

「新しいインテリア手に入れましたよー!」

 

やまいこ

「うわぁー、きれーい」

 

ウルベルト

「エレガントな…真珠のネックレスみたいですね」

 

 

ガーネット

え、あ、あの…それ……

 

 

モモンガ

「何処に飾ります?

いつもの円卓?」

 

たっち・みー

「あぁいいですねー、天井にぶら下げましょうか」

 

死獣天朱雀

「ライトと併用したら映えそうですねぇ」

 

 

ガーネット

いや、だから皆、待っ…

 

 

るし★ふぁー

「ガーネットさん、アレ何か知ってんの?」

 

ガーネット

「知ってるも何も…アレ、確か映画【ザ・ロック】の神経ガスで…吸ったり触ったりしたら、皮膚は溶けるわ痙攣で背骨は折れるわで、しっちゃかめっちゃかになって死ぬ奴――――」

 

 

るし★ふぁー

堕天使キィーーーーック!

ガーネット

やぁめろぉおおおおおおおおお!!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが、地獄を封じた釜の…その蓋を取り払った。

吹き出て漏れた獄炎は、綺麗にぐるりと円を描き、王都の一部を囲った。

 

解き放った悪魔の名は、ヤルダバオト。

あらゆる生命を蔑み嗤うような仮面をした悪魔のために、ジョナサン達はもう一仕事する羽目になったのだった。

 

 

 

――――彼はまさか、ここで恩人の訃報を聞く羽目になるとは思わなかっただろう。

ヤルダバオトはとても強い、アダマンタイト級冒険者のティア、そしてガガーランが一撃で殺されてしまった…この一言の衝撃で、ジョナサンは1~2回ほどの呼吸を忘れてしまう程だった。

 

お礼はその場で返したとは言え、それもまだ十分でなかった内に死んでしまうなんて…そういった小さな後悔もそうだが、それ以上に“強敵”の出現及びそれとの高い接触可能性が生まれた事だ。

 

こんな事を言っては薄情だが、まだガガーランやティアという冒険者を一撃で屠った程度ならたかが知れている。片方は何とも言えないが、少なくともガガーランは先ずあのクレマンティーヌ(初戦時)よりも一回り下の実力程度…と言うのがジョナサンの見積もりだ。能力を大分制限した今の彼でも出来なくはない芸当である。

 

しかし…と、次に彼が見たのはイビルアイなるマジックキャスターだ。今はオスカーと何か話している彼女は、ここの冒険者とは一線を画す程の実力がある…これもまたジョナサンの見立てであるので、正確な所は分からないが…そんな彼女すら下し得たのが件のヤルダバオトである。

 

そんな存在と今【冒険者ジョナサン】としての状態で鉢合わせては、最悪の場合は死を覚悟する必要があった。

 

 

…とは言え、そうなる可能性は現状薄そうだ。

ヤルダバオトと交戦する事になっているのは、イビルアイの奥に居る“漆黒の英雄”モモンと、相方である“美姫”ナーベであるようだ。こんな所で同じ活動地域のそれもビックネームと出くわすなんて思いもしなかった様だが、他の冒険者同様彼の存在は頼もしいし有難かった。

 

まあ、そもそもプラチナ級冒険者にそんな国家の存亡が軽く関わる事態の中枢を任せたりなどしないだろう。

 

「……(けどなぁ、オスカーさんがやたらとアダマンタイト級冒険者の輪に混じって話してるの。一体何なんだ?)」

 

あのオスカーという男は、其れにしたって怪しい。

以前…あのトロール退治の直後には、何故か組合長のアインザックと密談している様子だったのだ。会話の内容はよく聞けなかったが、最後に握手までしていた点は最早スレスレの仕事を受けた事に関するお咎め…なんて生易しいモノではない。

 

何なら今、作戦立案者である王女ラナーとも臆さず話しているのだ…ブラックサイスのメンバーはそれぞれ秘密を抱えており、それはジョナサンらも例外ではない。しかし彼は余りにも異質すぎるのだ…。

 

 

そうなると自動的に、イナミも怪しくなってくる。

ただ思わせぶりなだけかと思っていたが…やはり何かあるのだろう。

 

 

何か、こう…自分の認知し得ない所で、更に大きな思惑が動いている気がしてならない。

そんなぞっとしない思いを抱えたまま立ち尽くしていると――――件の英雄モモンが此方にやってきた。

 

彼は今、他の冒険者との打ち合わせ及びに挨拶の途中で、その番がジョナサン及びナターシャにも回って来たようだ。

 

「貴方は確か…“滑車弓”のジョナサン・ウイング…でしたか?」

 

「えぇ、そうです。

まさかエ・ランテルの英雄に名前を覚えて貰えていたとは…」

 

「いえいえ、其方の活躍も常々耳にしていますよ」

 

ジョナサンとモモン、二人は互いに差し出された手を、己が差し出したその手で握った。

――――その英雄の声は、確かに彼の記憶にあるモモンガの声とどこか似ていた。

 

しかし声の酷似ぐらいでは関連性を見いだせない…それぐらいなら、近所のベイルもルシーも、それぞれ名前の似た知人と声が似通っていたからだ。あくまで名前が似てるだけ、あくまで他人の空似。

 

強いて言うなら、所謂“並行同位体”等と呼ばれる“別世界のその人”のような形なのだろう。

 

 

「……フン。

モモンさんのおこぼれで成り上がっただけの、サツママダラカマドウマ如きが」

 

突然、モモンの脇にいたナーベからの罵倒に、流石のジョナサンも驚いた。

確かに彼女はかなりキツい性格だとは聞いていたが…此処までとなると最早清々しくもある。

 

 

それだけ主人への忠義または愛が深いということなのだろう。

 

「あはは…。

随分マイナーな直翅目をご存じのようだ…いいですよね、飛蝗って」

 

「す、すみません…あまり気にしないで頂けるとありがたいのですが…」

 

「なんてことありません。

誰でも無いのが取り柄みたいな人間なので」

 

一先ず角を立てない対応で流していたら、ふと何か重大な見落としがある感覚を覚えた。

いや…見落としたような、ではない。見落としていたのだ、もう一人…何にでも突っかかるような人物が、よりにもよって身内に居る事に。

 

思い至った時には既に遅く、彼女…ナターシャはぐいっと前に踏み出し、ナーベを睨みつけた。

 

 

「へぇ?おこぼれなんて、随分な言いがかりを口にされるのですねぇ。

私達と貴女は今の今まで関わり合いになられた事はありましたっけ?」

 

「ッ…。

さあ、知りません…でもどうせ、私達の後でも付けていたのでしょう?まるでアスワンツェツェバエのように」

 

「それで甘い血をちゅうちゅう吸っていたと?私達が?

はーっ、貴女冒険者を舐めてません?アダマンタイト級冒険者ともあろうお方が、そんな体たらくでよろしいのでしょうか?」

 

「別に冒険者は舐めていません、貴方達人間を――――がッ!?」

「何処のさる高貴な方かは存じませんが所詮――――あだだだだッ!?」

 

いがみ合いがヒートアップしていた二人を、それぞれの“親”が制裁した。

ナーベの頭にはモモンの文字通りの鉄拳が下され、ナターシャの頭はジョナサンに獅子闘士の滾瞳(サマードラゴンズ・スピリット)込みのアイアンクローで思い切り掴まれた。

 

 

「「うちの仲間(娘)が、失礼しました…」」

 

二人はツレの頭を無理やり、それも自らの頭ごと下げて謝罪した。

モモンの方は(噂になる程には)何時もの事なので、どうも手慣れた様子があったのだが、ジョナサンは想定外に直面したという仕草があからさまであった。

 

ナターシャ…次やったら家に送り返す。その上で半年謹慎

 

……はい

 

流石に此度の騒動は目に余るものだったのか、彼は今までにない怒気を孕んでいた。

…正直、家族でもかなり大人しい方であるナターシャ(リリューム)が、感情的になりやすくなったのもここ最近の話である。

 

 

しかし原因も粗方想像が付く。

 

元よりあった地雷が、ここに来て急に踏み抜かれる機会が多くなったのだ。

それまで滅多に踏み荒らされなかった心の領域に、次から次へと入り込む誰かの土足に彼女自身処理が追い付いていないのだろう。外観的にも内面的にもナターシャは暴走状態なのだ。

 

…何であれ、怒りっぱなしにするのも良くないだろう。

人目のない所に我が子を連れて行ったジョナサンは、もう一度彼女へと向き合った。

 

「いいかリリュ、お前の気持ちはよく分かる。

そりゃ…まあ、自分で言うのもむずがゆいが、大切な誰かとかをバカにされたら腹も立つ…よな」

 

「……」

 

ナターシャは無言のまま、首を縦に振る。

 

「けど…そこで突っかかるな、噛みつくと自分だけじゃなくて、その誰かも貶す事になる。お前自身も、馬鹿にしてきたソイツと同じような立ち位置になっちまう。

堪えるんだ、グッと…抑え続けろ、最初の内は身体に出ちゃってもいいさ。いいな?」

 

「はい…。

ごめんなさい、お父様」

 

「………大丈夫だ。

今のうちに教えられてよかった――――ともかく、皆の元へ戻るぞ」

 

ともあれ気を持ち直したナターシャは「はい…!」と、父親へと普段通りの返事を返す。

 

 

…その様子を遠巻きに見ていたイナミは、同じく二人を見ていたライハルトへと話しかけた。

 

「あーあ。

せっかくカッコいい所見せられる場面だったのになぁ」

 

「あのさ、俺があの女にホレてるみたいな言い方やめてくれる?」

 

「ホレてんだろ…馬車でパンチラガン見して、尚且つ森ん中でセンズリまでこいて」

 

「それはそれ、これはこれだから」

 

「マスかいたのは認めるんだな?」

 

「うるっせーよ…」

 

ライハルトの誤魔化すようなため息を聞いたイナミは、合流したジョナサンへとウインクを送る。

 

 

「…?

イナミさん、何かありました?」

 

「あいや…なんでもない」

 

彼、本当は「ライハルトがあんたの娘をオカズにしてました」と言いたかったが…流石に許容範囲を超えそうだったので自重した。

 

 

家族問題の一悶着で忘れられそうになったが、これから始まるのは地獄との戦いだ。

それに備えてイナミは自らの得物――――以前の大鎌では無く、拳を主軸とした二種の武器をとりだした。

 

片方は刀身がツイスト状に捻じれたジャマダハル。

もう片方は同じく長い刃を持ったバグ・ナク状の暗器だ。

 

…どちらも大鎌よりは軽戦士(フェンサー)らしい。

 

「やはり大鎌は主兵装では無かったんですね」

 

「こっちも違うけどな…どうもここに来て、こういうのがしっくりくる」

 

ジャマダハルをぐるりと回し、彼は煌々と輝く外を眺めた。

地獄だ…その地獄が闇夜の街を照らし続けているのだ。

 

「悪魔…そちらはどうですかね、戦えそうですか?」

 

「俺らは問題ないさ…割と慣れてる」

 

「全くだ。

俺達はある意味、デビルハントが生業のような部分がある」

 

いつの間にか戻って来たオスカーが、会話の輪に混ざった。

よく見ると両腕から()()()()と、残り火の様に火の粉が飛んでいる。

 

「それは…」

 

「あぁ、俺のタレントだ。

自分を起点として炎を噴射できる能力…フッ、お陰で俺が疑われたよ」

 

「あんな火力も持続力も無ぇのにな」

 

疑われた、と言うのはちょっとした冗談だろう。

確かヤルダバオトは既に犯行声明まで出していた筈だ。

 

 

「はあ、成程…(タレント…生まれながらの異能、か)」

 

この世界にはどうやら生まれつきに特殊能力を持つ者がいる。

タレントと呼ばれるそれは、人によって千差万別…やたらと難解なものもあれば、目の前のオスカーのように単純明快である場合もある。

 

つまりは何処ぞの少年漫画の悪霊と似たものであるようだ。

 

 

それを始めて見たジョナサンは、思わず魅入ってしまった…どうせなら、ユグドラシルにも実装していれば良かったものを。まあこの手の能力はどうもバランスブレイカーになりがちなので、運営もやろうにもそのバランスの難しさに頭を悩ませ、遂には放棄してしまったのかもしれない。

 

「…しかし、人にホイホイと見せて良いのですか?」

 

「何だ?たかが焚火人間になる程度のタレントを隠す必要があるか?」

 

オスカーの言う事は最もだった。

いくら有用だったとして、火が出る程度の力でどうしろと言うのだ。

 

「ま、俺のはちと隠さなイケナイ能力なんでな。

ウチぁ仲間内の詮索は禁止行為だが、引き続きよろしく」

 

そう言って、イナミは何処かへと去って行った。

…いや、既に全体が出撃を始めているようだ。

 

 

 

どうにも何もかもがきな臭い戦いが、上る太陽のようにジワジワと幕を上げた。

 

 

 




本当ならセバスの話まで引っ張ってイコライザりたかったんですけど、そうすると1章の終わりがとうとう見えてこなくなるのでお流れとなりました。


…というかこの小説、属性過多過ぎないか?今回だけでもダークファンタジーの原作にハード系プロフェッショナルアクション映画だったり、ハイファンタジー要素とモダン~SFミリタリーをバカ配合した劇物エッセンスを注入している。
書いてて思ったよ、何でナズグルがタクティカルアクションしてんだ?って。

まあ私エーブリスの十八番みたいなものなんですけどね、属性過多なんて…かつては王道ファンタジーに退廃系ダークファンタジーとハード系ハイスピードメカアクション遠未来SFをバケツ単位で投入したり、逆になろう系ハイスピードメカアクション近未来SFにその退廃系ダークファンタジーを目分量で入れたついでに隠し味気分にニチアサ暗黒部門とか虚無系ダイナミックロボのエッセンスをちょいちょい混ぜたりした、大の付く馬鹿野郎です。

そんな大味作品しか生めない男の小説でよければ、今後ともよろしくお願いいたします。






あ、今のアンケートは明日当たりに閉じておきますね。
そして結果次第では1章終了後からちょくちょく設定の纏めを出していきます。

設定集、12話後書きみたいな形でどうかな?

  • アリだと思われ
  • 普通に後書きに書いて
  • 貼る必要も書く必要もない、他で勝手に
  • どむどむばーがー(無効票)
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