嘗て至高だった父へ【OVERLOAD】   作:エーブリス

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原作がサ終ゲーから始まった転生という事で話題に挙げときますが、そういえば世間ではボダブレのサ終が騒がれていましたね。
私は友達の阿鼻叫喚を傍から眺めていた程度なのでノーダメージです。


今回で1章は終わり…かもしれません(本文執筆前)
 結果→終わりました。(執筆後)




第17話

 

「…まさか、貴女のような身分の御方に話しかけられるとは思いませんでしたよ。

正直な所、変な噂が立つ前に引き返した方が良いのでは?いくらブラックホールの引力が原因とは言え」

 

「そうですね。確かに、もう満たされているのに…今更“同じ人”を見つけたからと足を運ぶのは、少々はしゃぎ過ぎました」

 

「恐らく私の身分で、貴女のその眼を除いたのは他に居ないのでしょうな。

しかし“同じ人”と…殿下と私とでは、少し違うのではないのでしょうか?」

 

「あら、例えばどんな違いが?」

 

「細かなものですが…先ず、貴女のソレを“異形”とするならば、私は“無形”だ。

周囲との差異からくる蔑みすら私には無かった…「全てがあるがまま」それが私の世界でした」

 

「成程、貴方は私が「残酷」で、自分自身が「冷酷」だと言いたいのですね。

愛娘に向けた情熱も、きっと作り物なのでしょう」

 

「作り物…そう言われると、少し否定をしたくもなります。

私の、私だけの世界では感情や思想というものは、そういった形なのです。それらはドットサイトやフォアグリップのようなモジュールだ…いいや、内蔵をそれらのようにとっかえひっかえ出来る人間というべきか」

 

「私の“化粧”は、貴方の“義肢”」

 

「僭越ながらそういう事になります。

もうこれ以上語らい合う必要もないでしょう…私の“感覚”に宿った怪物が居るその“思考”で、ほとんど理解したはずだ」

 

「そうですね、もうじき出撃です」

 

 

 

 

――――貴方のは祈り?呪い?

白昼夢のような記憶が時折過るのを他所に、自身の身体で放った矢が数体の悪魔を貫いたのを知覚する。

 

「ぶっ潰せ!轢き潰せ!

神は我らの戦いをォ!菜種油でギットギトの指でハナクソほじくりながら見ておられるぞォォオオオオオオアアアアア!!

FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!

 

「つまり神なんざ人間の足搔きに微塵も興味を示さねぇって事!ヒャーーーーーッホーーーウ!

 

「ハーハッハハハハ!

アヒャ!アヒャ!アヒャーヒャハハハハハハハ!!ヒャーーーー!」

 

コンバットハイで狂いに狂ったイナミとクーランが、疲れ知らずの猛攻で悪魔の大群へと抗い続けている…というより、イナミに至ってはバグ・ナクとジャマダハルで飛びついた悪魔を必要以上にめった刺しにしている為、寧ろ暴虐の化身たる悪魔に同情したくなる程だった。

 

もうどっちが悪魔何だか…クーランに至っては司祭(プリースト)の二つ名を(形だけとは言え)捨てた方が良い気もする。

 

「うるせぇぞ二人共!静かにやれ!

それとナチュラルに宗教に喧嘩売るな!面倒起こす気か!」

 

そう怒号を飛ばした、いつもより激しく燃えているオスカーも「犬は嫌いだ…」とか言いながら地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)やその上位種の群れを大斧、或いは噴き出す炎で的確に薙ぎ払い防衛ラインを維持していた。

 

悪魔系モンスターは属性ダメージに耐性…特に炎ダメージは効果の薄い属性代表格の筈だが、どうにも(ジョナサン、ナターシャの目には)奴らはもだえ苦しんでいる様に見える。

 

…何か、炎攻撃のように見えるまた別の属性なのだろうか?

 

 

そんな事を言ったら皆そうだ。

ブラックサイスのメンバーは、誰も彼も“いつもより強い”のである。

 

「ホンット!うち等くらいよね、こんな事態にハッピーになっちゃってんの」

 

「左様。

地獄の業火に焼かれるとて、我を忘れ発狂の限りを尽くすのは愚の骨頂…」

 

「お前のニュアンス的にそれ“敵を恐れるな”見たいな奴なんだろうがよ、ドニー。あいつ等メッチャ愉しんでるぞ?」

 

「理解出来ん」

 

「うん、わかるそれ」

 

とは言え彼らの半数は人間より優れた亜人種の集まりだ…恐らく普段は一目を気にして目立たない様、実力をセーブしているのかもしれない。そう言う意味ではジョナサンとナターシャとかなり似通った境遇と言える。

 

まあ、何であれチームが10人程いるので、その上で高いレベルでの連携を行えば、数の足りていないアダマンタイト級をも超え得るだろう。

 

 

そんなチームを見て、他の同級~下級の冒険者や、衛士たちの気持ちを代弁する一言は…。

 

あれでプラチナかよ…

 

…コレに尽きた。

ちょっとした弾みで尻もちをつきながら呟いた彼の所へ、運悪くラインを抜けたグレーター・ヘル・ハウンドが飛び掛かる――――が、その前にナターシャが放った第4位階魔法の嵐でそれら全てが押し返され、地に叩き落された所で塵と化す。

 

最早衛士の口はうんともすんとも言わなくなっていた…そんな彼らを、ふぅ…と一息ついた彼女は見下ろす。

 

「この事…秘密、ですよ…?」

 

立てた人差し指を艶のある唇にそっと当てた彼女の眼は、色気に満ちていた。

思いつき程度の士気高揚と、彼女自身の破滅的な願望の籠った目に…思惑通り男たちは踊らされ、一層悪魔への攻撃性を増した。

 

 

 

さて、予想よりも順調に進む防衛の途中、オスカーが「そろそろか…」とどうにか落ち着いたイナミとアイコンタクトを取り、そしてジョナサンへと顔を向けた。

 

「さてとジョンウィック、突然だが緊急任務だ。

イナミと一緒に少し、中の“街回り”をしてきて欲しい」

 

つまり、特殊作戦の命令だ。

彼が苦手としている訳ではないし、寧ろ最もやり慣れたような仕事だが…それが自らに下って来る理由を、ジョナサンは掴みかねている。

 

「?…。

それ、王族や貴族の子飼いの仕事では?」

 

「いやぁ組合からちょっとしたサブタスクを言い渡されてな。

詳しい話はイナミから聞いてくれ」

 

「?…了解です、やってみましょう。

聞こえたな?ナターシャ…ヤバくなったら、いいな?」

 

「はい、お父様」

 

娘への言いつけを終えた彼は、イナミに連れられるがままに炎の壁の先…魔鬼達が我が物顔で徘徊する悪徳の都――――その中枢へと突入した。

 

 

 

幾つかの悪魔の群れを薙ぎ払う道中は、二人共阿吽の呼吸で動くために一言も発さなかった。

 

「……以外に少ないな。

王女の作戦が効いてる証拠だわさ」

 

「全くです…少々無理矢理な気もしますがね、とは言え代案も無い。

――――所で、サブタスクってなんです?」

 

先まで無言で暫く都内を進んでいたその途中、会話の流れの中でジョナサンは問いかけた。

 

「いい加減話しておくか。

ぶっちゃけ、あまり中身のある依頼文は期待しないで欲しい」

 

「えぇ…(この手の流れで多いのは…情報の回収だな。少し気を使う必要がある)。

何かの回収ですか?」

 

「ご察しの通りだジョン・ウイング。

モノの説明をすると、赤い背表紙の…あぁ、丁度俺の親指長ぐらいの幅の本だ。そして表紙・裏表紙は共に紺」

 

イナミは自らの左親指を立てて見せた。

…どうにも義肢らしい特徴があるが、この世界でもそう言った技術はあるのだろう。

 

「随分奇天烈な色合いですね…隠されでもしない限り、すぐ分かりそうだ」

 

「間抜けな事に置いてきちまった奴の話によりゃ、ポンとテーブルに置いてあるらしい。

ボロいし臭い本だ、火事場泥棒も目を付けやしないよ」

 

「悪魔やヤルダバオトが興味持たなきゃいいんですがね」

 

「そいつはあり得るな。

ちょいと他に知られたくない情報があるんだ」

 

「…となると、我々も覗き見禁止ですね」

 

「理解が早くてマジ助かる。

流石に子供の親を消したくはない」

 

「ご配慮、感謝します。

それで…場所は」

 

言いかけたジョナサンを制止して、イナミが「ここいらだ」と前方の建物数軒を差した。

 

「この6軒の家…の、どれかだ。

面倒臭い事に、これ以上の特定までは出来なくてな」

 

「僕が左3軒を行きます…右方を」

 

「任せた。

――――あぁ、ちょっと待ってくれジョン」

 

二手に分かれようとしたところで、再びイナミが去ろうとする相方を呼び止める。

 

「どうしました?」

 

「いや…ちょっとした願掛けが欲しくてな。

お前の幸運に肖りたい――――蛇と牛、どっちが良いと思う?」

 

かなり要領を得ない質問に、思わず「はあ?」と声を上げる。

 

「まあ…そうなるよな」

 

「え、えぇ。

取り敢えず、蛇で」

 

「そうかい、ありがとう。

くっだんねー事聞いちまったな…合流は中央の二棟のどっちかにしよう。それじゃ」

 

今度こそ実際に二手に分かれる途中、やはりあの質問の意味が気になってしまったジョナサンは少し頭を捻った。

 

 

…実を言うと、干支以外に蛇も牛も名称・通称として存在するカテゴリがある。

しかしそれがこの世界に存在し得る可能性は非常に低く、思い立った彼自身も「まさかな…」とあり得ないものとして流してしまった。

 

何はともあれ、ここからは人目も無い…その上敵地のど真ん中だ。

ヤルダバオトと接触するリスクも考えると、下手な手加減は出来なかった。

 

 

そこで彼は一度滑車弓をインベントリに片付け、代わりに1丁の突撃銃を持ち出す。

 

「……。(市街地で何かあるだろうと思って…持って来たの、大分正解だったな)」

 

取り出したのは何時もの霊柩車の車列(ペインティット・ブラック)やフランツカフカでは無く、ロシア製特殊自動小銃のAS Valにも似たそれは、よく見れば機関部は類似品のVz58のそれだった。

 

態々そんなおかしなキメラに形作った理由はたった一つ…彼自身、古い古いソ連製銃の機関部を「動作率は評価できるが、同年代の銃と比較したって当たる様に出来ていない」と形だけでも信用していないからである。

…一応言っておくが、これはランドナ自身の意見であるので悪しからず。それとただ単にチェコ銃に愛着があるだけというのもある。

 

名を【拾砂成島(ヴゥードーチャイル)】とするそれは、車列よりも更に射程や弾速を切り詰めた分、閉所での取り回しを強化した所謂CQB仕様だ。このように、ガンナー職はとにかくインベントリが嵩張るのだ…武器一つ一つの作成コストは他の武器種よりやや軽いが、最低でも3種の性能が異なる魔導銃を揃えなければ、PVEにもPVPにも耐えうるだけの力が出ない。

 

最も、ジョナサンは運用ビルドの万能性故に、そこら辺をかなり切り詰められる。

寧ろ体力を(最低でも)5分の1までに削っているのだ…これくらい許されるべきではないだろうか?

 

 

既に終わってしまったゲームの話はともかくとして、現実を見据えなければならない。

先ず一番左端の家の扉前に立ち、そっと聞き耳を立てる…予想通り、下級悪魔が呻く声がビリビリと室内の空気を揺らし、その波動を外へと伝えていた。

 

大方の位置は予測できた、障害さえ無ければこのままフルオート射撃で一掃出来ただろう。

だがその障害が問題だ、生憎ヴゥードーチャイルには扉越しに射撃を行い、そして有効な火力を保てるだけの貫通力がない…口径をAS Valと同じ9×39㎜弾であると想定した設計の弊害である。

 

最悪、ドアブリーチングすら行わない方法で殲滅する手もある。

ドアをゆっくり空けて、そこから反射神経に任せて数体を狙い撃つ…という方法もアリではある。実際そういう時のための消音亜音速仕様だ。

 

 

しかし出来るだけ波風立てないようにするのがこの場合得策だろう。

一先ずドアからの侵入を諦め、彼は己が左腕と両足を用いて家屋の壁を上り始めた。

 

身体が人間だった頃から、こういったフィジカルはあったが…死体変異動体(ネクロミュータント)となってからは更に余裕が出来た。2か3本の指で摘まむにも危うそうな…僅か数ミリ程度の凹凸が、まるで安全ロープの様な安定感を齎している。

 

その甲斐あって、あっという間に開けっ放しの窓へとたどり着く。

 

 

拭き通るだけのそよ風の様に、さらりと窓を潜り、屋内へと侵入したジョナサン。

彼は間髪入れずに、部屋のクリアリングを開始した。右方、左方、椅子等の家具の隙間から戸棚の中まで…例え罠がある確率が低かろうが、絶対は無いとして部屋の全てをひっくり返すように調べた。

 

それでも…と、既に気が付き注意を払っていたが、それでも気になる懸念事項に再び目を向ける。

 

床、軋むな…(アンデッドと違って悪魔は意外に感覚が強いからな…隠密スキル併用しておくか)」

 

幸いまだ気が付かれた様子は無い、だとしても慎重なジョナサンは、石橋を叩いて渡る事にした。

 

スキルを使い始めた頃には、既にこの家の2階には目的の品が無い事を悟っていた。

 

 

次は1階だが…こちらは2階の様に単純には行かない。

何せ下級ながら悪魔が徘徊しているので、そちらを静寂の内に仕留めなければならない。

 

一先ず下の様子を探るため、左手の触手の先端に感覚器官を生成して下り階段の先へと伸ばす。

…この使い方は最近覚えたものだ。

 

自分の事ながら“変異”の種族名に違い無い、この不可思議アンデッドの機能に、彼自身やや気味が悪いとは感じていた。

 

「(この視点から撃つことになるとして、10時の方向に1体…2時の方向に2体、そして正面に1体か。全て人型の下級悪魔)十分か

 

並行して階段のクリアリングを済ませたジョナサンは、触手を引っ込めてそのままスキルが継続する内に下へと向かう。

想定したポジションに付くと彼は、最初に狙うべき悪魔の頭部へ…アイアンサイトの照準を合わせた。

 

 

彼から見て、一番遠い悪魔に風穴が空き、その個体は瞬く間に崩れた。

その物音に反応した残りの悪魔がそちらを振り向く隙に、並んでいた2体の頭がはじけ飛ぶ。

 

最後に残った個体の右目が右脳ごと炸裂すると、1階に真の静寂が訪れた。

 

「さて、と…………あ」

 

一応の警戒をしつつも、部屋の捜索を再開して間もない頃に、食卓の上に鎮座する“それらしい物”が彼の目に入る。

 

確かに赤い背表紙に紺の表紙・裏表紙…そして幅も聞いた通り。

最低でも後一軒は探る事になるだろうと踏んでいたジョナサンは、あまりの呆気なさに肩透かしを食らってしまった。

 

 

…まあ、何であれ任務完了だ。

絵に描いた様な拍子抜けの展開への戸惑いを抱えつつ、外の様子を探る為…ガラスの割れた窓から外を覗いた。

 

――――やらなきゃよかった、と言うのが数十秒後の彼の感想だった。

 

 

 

 

其の先には純白のドレスと仮面を纏った、人型だが明らかに異形種の上位種族らしき存在が此方を観ていた。

 

それがジョナサンの存在に初めから気が付いていたかは兎も角、ほぼ事故に近い形で(その白ドレスと)目が合ってしまった彼は、咄嗟に家屋の壁に身を隠す。

 

しかし足音は確実に近づいて来る…コツ、コツ、という女物の履物特有の軽く高い音が。

 

 

明らかに絶体絶命だが、ここで飛び出して応戦するのはまだいい判断とは言えない…あの女が、こちらの存在を完璧に認知したとは限らないのだ。

 

「…全く、まだ鼠が潜んでいたのね。

先の人間は見逃すしかなかったけれど、貴方は別…しっかり血を吸って殺してあげるわ」

 

残念ながら、しっかり気付かれていたようだ。

ジョナサンは軽いため息をする様に「気付いてんのかよ」と心の内で毒づく。

 

「っ…(どうする?奴は吸血鬼、中でも恐らく真祖(トゥルー・ヴァンパイア)あたりか)」

 

彼は「面倒だ…」と無表情に考えつつも、既に脱出の一手を講じた。

自身のルーツにこそ、答えがあったのだ。

 

 

ま、まま、待ってくれ!!

お…おぉ、俺を殺すのか?たた、為になんねーぞ…!」

 

かなりの無表情で情けない声を出し、時間稼ぎを測った。

そして彼の思惑通り、彼女は足を止める。そういう奴だとは思っていた…自身の力にかまけて、調子に乗るタイプの異業種だと。

 

「あら…貴方のような、蟻ほどの価値すら無いゴミを生かして私に何のメリットがあると言うの?」

 

「お、ぉ俺は…奇術師なんだぁ、滅茶苦茶…う、腕が立つ。ここここ、ここで殺したらぁよ、王国――――いいや大陸一のリング・トリックが見れなくなっちまうぞ?」

 

その“リングトリック”という単語を口にするのと同紙に、彼は脱出の切っ掛けとなる切り札を用意した。

 

「へえ?それは面白そう。

いいわ、精々死ぬ前に見せてみなさい…下らなかったら、より惨く殺すけれど」

 

「が、ガッカリはさせねぇよ…やるぞ、やるからな…?」

 

「さっさとやりなさい」

 

「じゃあ――――」

 

ピンッ――――と、ジョナサンは(リング)を抜いた手榴弾を窓越しに、真祖へと真っ直ぐに投げ付けた。

それを卓上の果物でも取るが如き容易さで掴んだ真祖は、正にパイナップル状のモノを見つめた。

 

 

「…ねえ、これのどこがリングなのッ…――――!?」

 

瞬間ッ、彼女の細く美しい手の内で、眩い煌めきが生まれる…!

途轍もない轟音を響かせる、その小さな太陽は…確実に真祖を巻き込み、少なくないダメージを負わせた。

 

一杯食わされた事実に直ぐ気が付いた彼女は、沸々と煮え始めた湯のように怒りが沸き立つ。

 

 

「あのッ…虫けら如きがァ…!!」

 

奇術師だか何だか知らないが、此処までコケにされては生かしておけない。

いいや只では殺してはやりたくない…生まれた事を後悔するより恐ろしい眼に合わせてから殺さなければ気が済まないと、なりふり構わず得物を取り出し、そのまま窓へと突貫する。

 

 

――――また、栓の抜ける音がした。

窓を通り過ぎた瞬間の違和感が、張り巡らされたピアノ線によるモノだと認識し…そしてそれらが夥しい数の手榴弾と繋がっている事に気が付いた時には、真祖はその臨界点を迎えつつあった“リングトリック”の渦中であった。

 

「そんなッ――――」

 

馬鹿な、と言い切る事は無かった。

今度は彼女の掌に収まらず、部屋全体を煌かせた。

 

 

 

「ご愁傷様(あんなチャッチぃブービートラップに引っかかるとは…やっぱり種族・能力値(たいかく)任せのアホだったか)」

 

爆音を耳にして、真祖を軽くこき下ろすジョナサンは既にかなりの距離を逃げていた。

 

イナミとの合流は、先の爆発で相当数の悪魔が集められた上に、(何故か手負いだったが)厄介な上位悪魔までやってきてしまった為に、一度先送りとなった。

 

 

一応その上位悪魔は拾砂成島でハチの巣にしたので、アレに殺されてしまうという事も無いだろうが…それでも雑魚が多すぎる。

 

とは言え彼も只者ではないので、あの惨状からも楽々…とまでは行かないだろうが逃げ出せている筈だ。

先の群れに対する暴れっぷりから早々には死なないだろう。

 

 

――――突然、物陰より1体の貧相な悪魔が飛び出して来た。

 

「ッ…!?」

 

ジョナサンに掴みかからんとしていたそれを、彼は寸での所でストックの殴打により叩き落す。

既に後十数発しかない拾砂成島の弾倉を空っぽにするつもりで斃れ伏した悪魔の全身に、ありったけの弾丸を叩き込んだ。

 

太い亜音速弾は悪魔の各部を砕き、血液髄液ナントカ液…何あれ、お世辞にも綺麗とは言えない、「液」と付くすべてを辺り一面にぶちまけさせた。

 

「クソ…ッ」

 

心にもない“必死さ”を見せたジョナサンは、新たな弾倉で空弾倉をマガジンリリースレバーごと引っかけて排出…次いでその満タンの弾倉をチャンバーに叩き込んでコッキングした後、そのまま真正面を向き直す。

 

 

そろそろ、イナミとの合流…及びに危険地帯脱出の手立て考え直さなくてはならない。

不測の事態はある程度予感していたとは言え、まさか真祖なんて超大物が飛び出すとは思いもしていなかった。

 

「全く、手をかけさせるっ…何処の我儘令嬢なんだか(ウチの子達、本当にいい子らだったんだな…それはそうと熱核手榴弾、あるだけ使ったがどれだけ効いた?表示火力の割にやたら防御に阻まれるからあまり信用ならんな)」

 

ご大層な名前の割に、比較的安価な素材で作られるその消費アイテムは…やはり安い材料相当の火力しかないので、どうせならと核爆発(ニュークリアブラスト)を3重に発動するマジックアイテムをぶちまけたくもなったが…アレはアレで数に限りがある最終兵器なので、こんな所では使わない。

 

…ふと只ならぬ気配を感じて、彼は裏路地へと逃げ込む。

物陰からそっと表通りを覗けば、あの真祖が怒り心頭といったご様子で飛び回り、あちこちを荒らしまわっていた。

 

やはり熱核手榴弾の効果はかなり薄かったらしい。

 

 

「何処だァ!?このクソ虫がぁ!」

 

衣装こそ煤けてはいるものの、動きは元気そのもの…大多数の異業種特有の疲れ知らずで、建物という建物をひっくり返しながら、だが結局は探していたジョナサンの居る位置からは遠ざかって行った。

 

「…(随分杜撰に探す事で)」

 

そう思っていると…背後で何か人の気配を感じた。

ジョナサンがとっさに振り返ると、入り組んだ裏路地を悠々と歩き去るイナミの後ろ姿があったのだ。

 

とっさに呼び止めようともしたが状況が状況なだけにソレは叶わず、彼の消えた曲がり角の先へと(先にライフルから弓に持ち替えて)急いだのだった。

 

――――しかし、その角を曲がってみればどうだ?長い長い一本道であるのに、その後ろ姿はおろか誰かが通った気配すらないのだ。

 

「一体…(見間違い、だったのか?)」

 

 

 

「ぉぃ、おい…!ジョン、ジョン!?」

 

「ッ!

イナミ、さん…?今ここ、通りましたよね?」

 

声を掛けられたかと思えば、その声の主はジョナサンが言った通り、今しがたこの通りに消えたハズのイナミだった。

しかしイナミ自身もそれにピンと来ていないようで、妙に首を傾げている。

 

「?……!――――あぁそうか、そういう事か。

まあ俺のタレントの一部だ。あまり気にしないで…って、それよりもブツは?」

 

「はい、こちらに」

 

またまた上手くまるめ込まれた様な気もするが、ともあれ仕事は仕事だとジョナサンは回収した書物を手渡す。彼の手から渡ったそれをイナミは何のためらいも無く開き、読むと「うんうん、これこれ」と納得した様子を見せた。

 

 

「閲覧禁止では?」

 

「俺の著書やぞ、ちゅーか報告書」

 

「(そう言う事か、今回は俺の早とちりだな)成程。

…ここからどうします?正面突破は、出来なそうではありませんがノーリスクじゃありませんし」

 

「ぶっちゃこ俺は一人ぐらいならキャリーしつつ突破できっけど…さっきの爆発といい、多分マズイのに喧嘩売ったろ?」

 

(ぶっちゃこ…?)すみません、やむを得ず」

 

「いいさいいさ、いい手品だったよケネディ君。

――――んと、方角的にはコッチだな…丁度真っ直ぐの一本道だ。今のうちに行くぞ」

 

「了解です…「みぃつぅけぇたぁ…!」ッ!クソ、戻ってきやがった…!」

 

逃走の手立てが整った矢先、先ほど通り過ぎた筈の真祖――――シャルティア・ブラッドフォールンが二人の背後より迫って来た!

仮面越しでも分かる程に表情が歪んだ彼女は、この好機を逃すまいと【自己時間加速(タイム・アクセラレーター)】を発動し、一気に加速する!!

 

 

しかし結果はどうだろうか?

まず初めて目にした鴉貌の男(イナミ)はまるで初めから居なかったかのように消え、そして先ほど自身に一杯食わせたジョナサンは全身から淡い青色の光を薄く発し、何と彼女と同程度の加速を得ている。

 

元々の速力に差があるのか、距離は徐々に徐々に離されていく。

 

「あの男ッ、一体…――――!」

 

そして追走劇の途中で届く、撤退の合図。

どうやら本命の面子による“寸劇”が終了したらしく、それを機に彼女へとまた別の任務が言い渡される事となったのだ。

 

 

あの男を殺せぬ事には憤りを覚えるが、嘗て大失態を犯した身である以上泥の上塗りは避けたい。

こうしてシャルティアは指示通りに撤退を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

モモンガ

「そういえばドナさん、昨日ヘルメット間違えてましたよ」

 

ランドナ

「えぇ、把握してます。

毒カット薄いなーって思ったら、もうね」

 

ウルベルト

「あー分かる分かる。

装備付け間違えて大惨事って…良くありますよねぇ」

 

 

ランドナ

「だから常用してるエンジニア(圭)ヘルメット、デザイン変えたんですよ」

 

タブラ・スマラグディナ

「どんな感じ?」

 

ランドナ

「これっす」(串)

 

モモンガ、ウルベルト、タブラ

「「「うっわ、すっごい“串”」」」

 

ペロロンチーノ

「なんかこう、串焼き屋のご当地ヒーロー的なデザインにしか見えない」

 

ぶくぶく茶釜

「おい愚弟ふざけんな私もそれにしか見えなくなったじゃねーか!」

 

ランドナ

「ご好評らしいので、この“焼”の字のデカール付けておきますね」

 

ウルベルト

「おまwwwww」

 

ランドナ

「“揚”の字もありますよ」

 

るし★ふぁー

「くっそwwwこんなのでwwww」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…事情はよく分かった」

 

「…」

 

一度屋敷に戻ったランドナは、リザードマンの集落での出来事の後に謹慎を喰らっていたデルモんに改めて説教を行った。しかし事情が事情だけに、頭ごなしに怒る事も出来なかった彼は、どうにか言葉を選び始める。

 

 

「…先ずは言いつけを守れなかったのはダメだな。

言ったろ?ヤバい時は逃げろって」

 

「ごめんなさい………」

 

「でも…お前にはそうするだけの理由があったってワケだ。

現地で出来た友達を、見捨てたくなかったんだ――――そういう奴だもんな、デルモは」

 

この言葉でデルモんの俯き加減は更に強くなる。

 

「そこはお前の弱点だ…けれども、それはお前自身の“優しさ”っていう一番いい所だ。

下手に矯正して失っていいものじゃないよ、例えどんな捻くれた言葉に心を突き刺されようとも、さ…。

今回の失敗だって…ソレを糧に、今のお前のままで成長すればいい」

 

「本当…?」

 

彼は「あぁ」と頷いて、言葉を続けた。

 

「確かにさ…俺の世界じゃ早熟が求められたよ、未熟な奴に“いつか”は絶対に訪れなかった。

けど、お前達の世界は違う…未熟は恥じゃないんだ。もっと“良いやり方”は、これから時間をかけてでも学べばいい、んじゃないか?」

 

最後にランドナは、彼女の頭をそっと撫でて締めの一言を告げた。

お前のその心は、何も間違っちゃいない――――と。

 

 

 

これを機に謹慎を解いた彼は、再び自分が受け持つ問題へと向き合った。

…やはりどうにも“何処か”に戦うべき敵が居るような気がしてならない。

 

決して交わりを避ける事など出来ず、前に進み続ければ…いずれぶつかり合う“何か”の存在。

 

窓から見ゆる広大な大陸の自然…そこにどれだけの脅威が潜むのか。

いままで感じさえしなかった、それらの気配が今ではひしひしと匂い立つ。

 

 

自分の被害妄想で終わればいいが…と呟くランドナの不安を、更に煽るように木々がざわざわと揺れた。

実際の所、自分の手は何処まで届く?何処まで抱えきれる?

 

もしも自分をより大きく見せる必要に迫られた時…どこまでそれを遂行できるのか?

 

 

「――――山田、リザードマン集落襲撃の下手人は特定出来たか?」

 

「いやぁ、全くですわ。

奴ら結構魔法について熟知しとるし…下手に探ったらこっちが特定されかねんわ」

 

「分かった、そうか。

で、王国の裏組織については?」

 

「そっちは途中までは順調だったですがぁ…いきなり!いきなりっすよ、足跡途絶えたの。

まぁるで急に店畳んだみてぇに。発展途上国の少年犯罪集団かてってフットワークや」

 

「大分デカいシンジゲートだったろ?いくら何でも足の引っ張り合いもあるし、国にガサ入れられたってそうなるか?」

 

「ぶっちゃけ、もっとデカい所に喰われたんじゃないんですかねぇ?

それこそこっちのアンデッド集団とか」

 

だとすると、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

誰かの思惑や陰謀が、疑問を抱く彼らを見下し掌で踊らす…運命の螺旋は終わることなく、されどその偽の生命たちもまた終わりを知らず。

 

 

そうして全てを見透かされて尚戦うしかないのだ、前に進むため。

過去に戻る事など無い、例え言伝など届かずとも命尽きる時まで(えいえんに)抗うのだろう。

 

 

 

 

見ろ。

暗い空に、陰気な夜明けが来た。

 

 

 




今回の話?全部シャルティアを犠牲にリングトリックの下りをやるためだけの話だよ。
そんな展開の都合で恥の上塗りまでさせられた、彼女の怒りの叫びが此方↓。
  
  シャルティア
  「マナカケンゴォ!」

…セブン55周年作品、楽しみだね。








と言う訳で第1章と言う名の第二節分、終了です。
ここまで原作に沿って爆速で進め過ぎた気がしたから、当分は日常回とかで話数稼ぎつつ今の内に組み立てられる設定を書き貯めていく予定です。

設定集、12話後書きみたいな形でどうかな?

  • アリだと思われ
  • 普通に後書きに書いて
  • 貼る必要も書く必要もない、他で勝手に
  • どむどむばーがー(無効票)
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