嘗て至高だった父へ【OVERLOAD】   作:エーブリス

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実は最近、とある古い小説を知ったのですが…それがもう、まあネタ作りの参考になりますなと。



第21話

 

 

「随分と物々しい空気だな…。

一体どんな仕事が入って来たんです?」

 

「待っていたぞ、ジョン。

…今から説明する所だ。こっちに来い、二人共」

 

組合本部の一室へと踏み入ったジョナサンとナターシャ。

前回の応接室より一回りも二回りも広いその部屋には、ブラックサイスだけでは無い…恐らくは最低でもゴールド級、最高でミスリル級の冒険者チームが複数確認できた。

 

それよりも驚くべきなのは、組合長のアインザックまで居る事だ。

 

 

ナターシャを人混みから離れた所に待機させ、彼は中央テーブルの地図が良く見える所へと近づく。

 

「さて、これでウチも全員が揃った。

では此度の目標――――“怪物屋敷(モンスターハウス)”の概要について説明する」

 

部屋にオスカーの声が響き渡る。

 

「先ず場所については、トブの大森林のここ…あぁ、各チームリーダーはテーブル周りに。

山脈のラインで分断するとした時の右側。縦軸としては丁度中央当たり、横軸はかなり山脈寄りの位置だ。詳しくは森林内というよりは、開けた場所の様だがな」

 

「その地域は未踏のハズだ。

一体情報は何処から?」

 

同じくプラチナ級冒険者のチームリーダーによる質問は、オスカーに代わってアインザックが答えた。

 

「数日前、森で遭難したシルバー級冒険者が発見されたのを知っているな?

彼女はその後治療を受けたが、治療の甲斐も無く衰弱死した。だが死の直前に情報を残してくれたんだ…それがこの怪物屋敷(モンスターハウス)という事だ」

 

「成程…分かりました、組合長」

 

組合長が「うむ」と頷くと、一旦黙っていたオスカーが次の資料を広げつつブリーフィングを再開した。

 

 

「そしてこれが該当地域で確認された、モンスターの似顔絵だ。

そのシルバー級冒険者に多少の絵心が在ったので、保護した貴族がどうにか書いてもらったらしい…その貴族が今回の依頼主でもある」

 

彼が提示した一枚目の簡素な絵画、その1枚目は丸々とした巨人…と思しき姿を記していた。

 

「先ずこいつだ。

全長は約4m程、体色はグリーンで保護色になっていたらしく、正確なシルエットは分かり辛かったそうだが…どうも時折奇妙な鳴き声を発していたらしい」

 

「グリーン…植物系モンスターか?」

 

「緑色だからと言ってそれは早計でしょう。

鳴き声について、何かもう少し詳しい情報はないの?」

 

概要を説明した事により、他の(それもごく少数の)冒険者より憶測と質問が飛ぶ。

オスカーは質問に答える為に「あぁ」と簡素な返しをした後、手元の資料を捲った。

 

 

「ええと…彼女、つまり目撃者が言うには「絹を裂く音をおかしくしたような声」だそうだ。

直接的な戦闘は行っていないようで、具体的な戦闘力は不明との事らしい」

 

「絹を裂く………想像が付かないなぁ」

 

他の冒険者たちと同じように、ジョナサンもまた提示されたそれを暫く見つめる。

その間に2種類目のモンスターの情報についての説明が始まった。

 

 

「次のは複数体確認されたらしい。

この…蜥蜴人(リザードマン)の亜種みたいな奴だな」

 

「蜥蜴…と言うよりは魚の様にも見えますね」

 

「そうだな、実際湖らしき場所を泳ぐ姿も確認されたらしい。

…こちらとは直接的な戦闘が発生したようだが、彼女ら4人程のチームが、1人分の数的有利があったものの手も足も出ずに3人が殺されたらしい。

知能もそこそこに高いようで、連携を取る他に仲間を呼ぶ様子も見受けられたそうだ」

 

この発言で、周囲が多少ざわついた。

とは言えこれは「思ったよりも多少強い奴ら」という認識を共有し合うようなもので、別段慌てふためくようなものでもない。

 

何せ、シルバー級程度が手も足も出ずにやられる程のモンスターは、ゴールド級以上の彼らが余裕で倒せる…或いは多少苦労はするものの倒せない事はないモンスターとして数多く存在するからだ。

 

しかし油断は出来ない…実態は彼らでさえ歯が立たぬ大怪物の可能性もある。

 

 

「そして最後は此奴だ。

このモンスターは実際に屋敷へと出入りする所を見た様だ」

 

そして3枚目に至っては、この世の生物とは思えない…グロテスクな様相をした怪物が描かれていた。

やや抽象的であるそれはしかし――――いいや、だからこそか?広く知られている生物に当てはめる事は先ず出来なかった。

 

 

今度こそ、動揺を由来とするざわめきがザワザワと広がる。

 

なんだこれ。こんなものが。

そんな嫌悪感と恐怖の混ざり物が、部屋の空気を満たし皆を支配している。

 

その細やかな喧騒に混じり、イナミが口を開いた。

 

「後のモンスターは良く知られている、いつものバカ面って話なんよ…トロールとか、スケルトンとか」

 

「…」

 

――――パンパン、と乾いた音が響く。

どうやらオスカーが話を続行させるべく、皆を静める為に手を叩いたようだ。

 

「――――静かに。

ともかく、今回の仕事は主に調査で狩猟は二の次だ、いくら中規模の屋敷とは言え油断は出来ない。

それでも十分に報酬は出る…たんまりと。何せ今回は依頼主がかなり太っ腹だ、そこら辺は安心して大丈夫だ」

 

「それは良いんだが…その屋敷についての情報は何かないのか?」

 

「おっと、忘れていた。

屋敷の全体像も描いていたようでな…本来ならば大雑把な場所の後に説明する内容だったが、資料の都合上後に回ってしまった」

 

最後に「すまない」と謝罪を付け加え、オスカーは4枚目の羊皮紙を広げた。

先の3枚よりも精度は低いが、確かにそれなりの屋敷を描いたものである事は分かった。

 

「あぁ…これを書いてる時に容体が悪くなってきたって話だ。

見ての通り、階数は三階。広さは凡そこの組合本部2個分程度らしい」

 

「以外に詳しい情報が上がってますね」

 

「全くだ、ジョン…こいつは殆ど奇跡に近い」

 

これにて提示するべき情報を出し終えた事で、彼は「もう一度確認を行う」と、依頼の内容を口にした。

 

「――――今回の調査はこれらの屋敷・怪物に加え、周辺地域の調査も行う!調査日数は最低でも4日!そしてこの屋敷の建造記録及びにその手掛かりを入手・提示したモノには追加の報酬を与えるとの事だ。

…私からは以上です、組合長」

 

「ありがとう、オスカー君。

さて、諸君…彼が話してくれたように今回の依頼には未知の危険が伴う。故に、事前に我々で作戦を組み上げて来た…安全のため、皆にはそれに従って行動してもらう。

先ず――――」

 

何処かへと去ったオスカーに代わり、アインザックがブリーフィングを引き継いだ。

彼が語る作戦によれば、死せる神の黒鎌(ブラックサイス)は最前線も最前線…先導するミスリル級チームに混じり、既知・未知問わないモンスターへの対処を行うらしい。

 

探索役(シーカー)のジョナサンは、更に最前線を征く事になるだろう。

 

 

…作戦の詳細を頭に叩き込み、その上で自身の行動を計算する内、アインザックの話は終わっていた。

その直後に「それにしても…」と、一息ついた彼がオスカーに代わり、近くにいたイナミへと話しかける。

 

「まさか君達がここを去ってしまうとは。

かの英雄モモンと同じくらい、いいや…君達には昔からお世話になったな」

 

「そっすねぇ。

俺達も探していた“ご神体”の在り処に目途が付いたんで…」

 

 

正直、寝耳に水だった。

あの酒の席でも全く話してはなかった事だ…以前からその“ご神体”の為に各地を回っている事は聞いていたが、今回のエ・ランテルからの巣立ちは余りにも急すぎた。

 

アインザックとの話が終わったタイミングを見計らい、イナミへ事の真意を聞きに行く。

 

「すみません、此処を去る…とは?」

 

「あ、あぁ…これについては後でオスカーが話すんだったんがな。

まあいい、俺からでもいっか」

 

彼は顔だけでなく、身体もジョナサンへと向き直した。

 

「組長との話はどこまで?」

 

「…ご神体の事で去る、とは」

 

「そうか、まあその通りだ。

それで…お前とナターシャ以外には既に聞いたが、全員俺達について行くそうだ。元より寄る辺も無かった奴らだしな――――だが、お前達は少々違う」

 

仮面と仮面が向き合う、奇妙な間。

違いがるとすれば…ジョナサンが全く微動だにしない“静”であるのに対し、表情の代わりと言わんばかりにイナミは“動”つまり言葉の一つ一つにジェスチャーを入れるのだ。

 

「お前はこの地域でそれなりの繋がりを作った。

何なら住居まで構えている、別にそれが妬ましいとか何とかって意味じゃ無いが、まあその…ついて行くのに、無理がありそうか?なんて」

 

「…いえ、問題ありませんよ。

実は今ちょうど引っ越しを考えてまして…」

 

「オォ!そうか、そうか…そいつは良かった。

折角優秀な斥候とマジックキャスターが入ってくれたんんだ、居なくなっちまうのは寂しい以外にも色々損失がデカかった所だよ」

 

感情に任せ、イナミはジョナサンの肩をがっしり掴んだ。

 

「…ともあれ、先ずはこの後の任務です。

正直嫌な予感が消えない――――ともかく生き残りましょう」

 

「あぁ、全くだ…違いない」

 

二人は軽く手を組み合うと、片や相棒の元へ…もう片方は娘の方へと戻って行った。

 

 

父からのアイコンタクトを受け取ったナターシャは軽く頷き、共に部屋を出る。

 

「…お父様」

 

「あぁ、大仕事だ。

今から準備だな…」

 

彼は愛娘の背中をさすった。

只々“世界の終わりじゃない”と励ますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

怜雄

「よし、いいぞ。

もうかなり完璧に近くなった…この短期間で。流石だよ」

 

長女

「お父さんのお陰よ。

私にはそんな力は無いわ」

 

 

怜雄

「――――なあ、教えてくれ。

そうまでして俺の技術を継ごうとするのは、どうしてだ?こんなの、使おうとすると不幸になる」

 

長女

「そうよね…。

でも私は、文化的遺伝子(ミーム)を引き継ぎたい…あの子(三女)がお父さんの遺伝子(ジーン)を宿したいと願うように。

私にもあるみたいなの、お父さんの遺伝子が無い事へのコンプレックスが」

 

怜雄

「…引き継がれてはいけないものもある。

他の技術も教えよう、そっちの方をどうか引き継いでくれ」

 

長女

「ええ…分かった」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃん達は皆明るい…でも何処かに、必ず亀裂と影がある。

 パパは逆にとても真っ暗…それでも懸命に、光を放とうとしている。

 

 

そうした感覚が、ここ数日のカーキィには纏わりついていた。

以前より家族の光と闇については頭で理解出来ている。

 

しかし、ここ最近はそういったものが“まるで自分のモノのように”感じれるのだ。

故に分かってしまう…長女のそっけない表面で巧妙に隠された裏の表情、次女の時折出て来る悲し気な雰囲気の正体、最早三女は裏表がないのと同じという事実。

 

 

……そして、父の罪も。

 

「…(だから何だっての、正直只の答え合わせって感じよね)」

 

前回の反省から、飛行では無く全身がすっぽりと隠れる様なローブを纏い、両の足で森を歩く彼女の思案は思いのほか平常であった。

 

感じた闇を、拒絶するでも無くただありのまま自然に受け入れる。

完ぺきでは無いのだろうが、一先ずそれによって彼女の心が乱され続ける事は無い様だ。

 

 

――――だが不安が存在しない訳ではない。

先の感覚と同系統の能力によるものか、或いは種族的特徴か…または全く別の要因か。

 

それはヴィジョン(光景)だ。

まるで暗い暗い真夜中に幽閉された者の絶望を思わせるそれが、何かの痛みのように張り付く。

 

それは

 

それは爆発

 

それは硝煙

 

罪科は不死であり、その手に纏う血鎧も不滅であるという暗示…或いはその結果。

 

ソレらを背景に、散弾銃を手に佇む(パパ)の背中。

足元には気味の悪い人型の屍が、無数に転がり落ちている“地獄”の最も分かりやすい具現化。

 

きっと世界中の全てが恐れ慄くのだろう…しかし、それでさえ終幕への歯車に過ぎない。

 

 

只の悪い夢…そう振り払おうにも、何かが引っかかってしまう。

アレがいつか起こり得る未来なのか――――或いは単なる心象風景の一種なのか、いくら全てを悟るような力を手にしたとしても判別が付かない。

 

しかし彼女は思っていた…(カメラアイ)に時折焼き付くこの光景が予言だとして、もしあの罪の炎に焼かれる父への救済に(例え偽りだとしても)自分自身が成れるのだとしたら。

そのために彼の苦しみをこの身体に流し込みたい。

 

照らせるのだろうか、父の黒く染まった…昏い(泣いた)目を。

 

 

そんな思いが、彼女の頭の中(ニューロン)では簡素で誰にでも謳えるような言葉で溢れていた。

 

 

 

「…――――…ッ!?」

 

殺意(Malicious)…それが不意を付くように、気配が動いた。

その睨み合う影が烈風(かぜ)となり、彼女の感覚へと染みこむ。

 

「ッ…!(この感じ方、片方は恐らく悪霊犬(バーゲスト)…!それとは別にやたら邪悪な気配もするけど、倒すなら間違いなくバーゲストね)」

 

二本一組の【ビームサーベル】の内1本を取り出し、煌く銀色をした荷電粒子の刃を展開し、彼女は駆け出した。

ローブを纏っている都合上、最大速度である巡行形態及びにスラスターの使用は封じられているも同然だが、それでも十分に速い。

 

 

…あっという間に悪霊犬(バーゲスト)が視認できた。

総数は3匹、うち1匹はどうやら武装した小鬼(ゴブリン)が退治したようだが、残りの2匹は互いのカバー範囲を意識するように連携し、ゴブリン達の攻撃を阻んでいる。

 

しかし現在カーキィに対しては完全に意識の外!

この機を見計らって、彼女は宙に跳び、身を捻った。

 

 

バーゲストの1匹が、彼女の方角へと振り向く――――だが、その瞬間には身体が前と後ろで分かたれており、その綺麗に焼き潰された断面を見せながら絶命した。

そして残った方が奇襲に気が付き、そちらへと牙をむく。

 

…彼女はその最後の1匹に向けて手をかざし、シンギュラノイドという種族特有のスキル【感受性精神力場(サイコフォース)】を発動した。

力場の名が示す通り、発せられたエメラルドグリーンのエネルギー体はバーゲストを物凄い勢いでノックバックさせ、十数m先の木の幹へと――それが陥没する程のパワーで――叩きつけた。

 

 

体内の骨や臓器を全て潰されてたバーゲストは呻く間も無く息絶え、余りに悲惨な骸を土の上に晒した。

 

「なッ…!?」

 

「一体ッ…何(モン)だテメェ!」

 

突然現れたカーキィに動揺、そして誰何(すいか)するゴブリン達。

彼女は彼らや…その後ろにいた人間種と思われる男女、そしてまだ幼いゴブリンと隠れている何者かに気付き、ビームサーベルを納刀する。

 

それと同時に両手を上げ、敵意が無い事を示しながらサイコフォースの応用技で、微弱なそれを彼らへと飛ばす。

 

「…落ち着いて。

私は敵じゃない」

 

…忽ち武装したゴブリン達や、後ろの人間二人は目の前の謎ローブに敵意が無い事を悟り、警戒を解く。

多少インチキじみた技だが、彼女の性格上こうでもしなければまた別の火種を生みかねなかっただろう。

 

 

 

 

「あんたは、一体…」

 

「ただの修行僧。

一応、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本日の設定集↓
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まあ第2節はこうしてブラックサイスの大仕事やりながら、カーキィ経由でボチボチ心情描写していく感じでやっていきます。
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