嘗て至高だった父へ【OVERLOAD】   作:エーブリス

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この流れだと、次くらいに第2節終わるだろ?
で、次は25話で5の倍数話だから、ボケボケタイムだろ?

…次回の温度差は覚悟した方が良い。



第24話

 


 ~かつての記憶~

 

怜雄

「やぁ、こんにちわ。

おr……あぁ、僕は――――今日から君達の父親だ、よろしくね」

 

長女

「えぇ。

よろしくおねがいします」

 

次女

「よろしくおねがいしまーす!」

 

三女

「はい…」

 

末っ子

「…」

 

 

怜雄

「…。

それじゃ、皆の部屋を割り振るよ…(やっぱり、そう簡単に信頼は得られんか。元が元だしな…)」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、何よりも暖かくて心地良くて…何よりも愛おしい。

鬱陶しいとしか思ってなかった筈なのに、今やこの関係が少しでも崩れると…切なくて、普通じゃ居られなくなる。

 

彼は確かに、闇の世界にて住まう者だった。

けれども…一所懸命に、皆の心強い光になろうとしていた。

 

 

そうだ、人は皆…自分自身の力で光を放つ事が出来る。

例え時代や誰かの“影”だったとしても…そしてそれが嘘の光でも…!

 

 

 

「はァアッ!」

 

――――振り上げたサマーソルトキックが、震わせた空気を刃として妖巨人(トロール)の右腕を叩き斬った!

ォオオオ…と、痛みのあまり唸りをあげるトロールへ、彼女はスラスターによる空中制御を駆使し、間髪入れずにその大きな股下へと滑り込み、すれ違う瞬間に両脚の腱を焼き切った!

 

トロールはドスンと地が揺れるような音を響かせ、力なく膝をついた。

あの不気味な威勢は何処へやら…しかしカーキィは一切の容赦をしなかった。

 

直前にてこの巨体の足を斬ったビームサーベルを今度は両手に――細かくは右方を順手、左方を逆手に――持ち、トロールの背中に沿って跳び上がり、回転斬りを放って背骨を贅肉ごとズタズタに切り刻む。

 

「ッ!

これで最後ッ!」

 

最後の一振りで妖巨人の首が飛び、その落ちた生首…及びに残された胴体へと【白リン焼夷弾(ウィリーピート)】を投げ、蘇生を阻害して葬る。

 

 

…直後、またもう1体のトロールが燃え盛り、活動を停止した。

 

「おまた、っすー!

いやー!案外イエローゲージで済んでるっぽいっすねー!」

 

下手人はあの邪悪女――――村の人々が“ルプスレギナ”と呼ぶ女性だ。

Lupus Regina(狼の女王)】等と、ご大層な名前の割には群れ(パック)の一員では無い様な雰囲気も感じられるが…どうせここに居るのはルプスレギナにとっては“(エサ)”なのだろう。

恐らく彼女の群れは他に居る。

 

 

…最も、レベルが50程度の彼女よりも、成長限界(カンスト)かその一歩手前まで鍛え上げたカーキィの方が強いし互いにそれを認知しているのだが。

 

「(クソッ、あの女か…まあいいや)エンリさん、大丈夫!?」

 

「修行僧さん!?

それに――――」

 

 

先日か半日ほど前、晴れてカルネ村の村長へと昇格した少女エンリと、その幼馴染の薬剤師ンフィーレアの二人は倒れた己が身体を起こしながら、周囲の状況を確認した。

突如この村に攻め込んで来たトロールの群れは、村のゴブリン及びに自警団(それとオーガ数匹)による“必殺の陣形”によって撃退が完了していた。

 

“東の巨人とその配下”だった軍勢は今や、己が巨大な骸共を無造作に転がし晒すだけである。

 

 

それでも漂う…悪意と殺意と言う、見えぬ矢の雨が。

ソレはトロールのものとは比べ物にならない、自分ならば戦えるがカルネ村の人達では歯が立たぬだろう。

 

まだだ――――そう喉元まで登った言葉を、寸での所で飲み込む…自分の怪しさを思い返したからだ。

 

既にサイコフォースという未知の力まで使ってしまった…そんな状態で、侵略者の到来など予告すればどうなるか?

いいや、既に状況が状況なのだ。良くて“疫病神”は避けられないだろう。

 

 

――――思考が悪い方向に寄るのも、自らの手で自身を窮地に追い込んだ焦りがある。

先のスラスター制御で、正体を包み隠していたボロ布が燃え始めているのだ。

 

素質や力があるが、それを制御する術を知らな過ぎる…ずっと父に指摘されていた自分の弱点を、こうも噛み締める事になるとは。

 

 

…ああそうだ、同時に懐かしくもある。

壊れた人形みたいだったあの人(パパ)が、試行錯誤の見え隠れする拙い“義足”で歩み寄ろうとしていた日々。

 

壊れていたのだ…或いは壊れている、と見えてしまう形で生まれ落ちたのか。

そんな無味無臭な、俗っぽい言葉など全て心にもない思い付きと言う体たらくだったからこそ、カーキィは怜雄という人間を(男でありながら)一先ずは近くに居る事を許したのだ。

 

 

――――ノスタルジーに浸っている暇はない。

残っていた櫓から村周辺を見渡していたゴブリンの一人が、大声を響かせる。

 

「ヤバい!あれはヤバいぞ!

また敵襲だ!しかも何だ…?あんな奴ら見た事無ぇ…!」

 

「何だと!?

どんなヤツだ!?」

 

「辛うじてアンデット辺りって事ぁ分かるがよ…とにかく姐さん達は下がらせるんだ!ここは俺達だけで――――」

 

櫓のゴブリンの指示を遮る様に、カーキィがただ一言「待って!」と更に大きな声を張り上げた。

当然、村人たちの視線は彼女一人に集中する。

 

この際サイコフォースは一切使っていない…イカサマは無し、正真正銘彼女自身の心をぶつけに行った。

 

「修行僧さん…?一体」

 

「――――というかアンタ!服燃えてるぞ!」

 

「こ、これは良いの!どうせボロ布。

…とにかく、もう、アンタ――――いや、あなた達は、もう、何もしなくてもいい。ただ…また来る明日を寝て待ってても、大丈夫」

 

あまりに突発的な発言に、ゴブリンの一人が「どういう事だ」と問い詰める。

それに呼び起こされるように、カーキィの攻撃的な一面が目を覚まし、そのゴブリンをカメラアイでぎろりと睨み返した。

 

「うっさいわね!何時だと思ってんのアンタ!

残りの奴ら、全部アタシがやるって言ってんのよ!」

 

剣幕にあおられて、纏うボロ布の炎が一層強くなる。

最早正体がバレるのも…そして追加の軍勢が来るのも時間の問題だった。

 

もっとどうにかならなかったのか、そうは思うが…もうなる様にしかならない。

意を決した彼女は、エンリの方へと振り向いた。

 

 

…ボロ布はかなり燃え尽きて、既に機械の部分が見え隠れする。

 

「…エンリさん。

その、まずはごめんなさい。私、嘘ついてた…」

 

右半身が完全に露出する。

最早言うまでもなく正体が見抜かれているだろうが…それでもその先を続けた。

 

「修行僧だなんて…全くのウソ。ほんとはただ、もう人間じゃないだけ」

 

「ッ…!」

 

誰もが驚いた…それは見た事もない、甲冑のようだが同時に人形のようでもある…しかしそれが“戦”のための形であるのは、皆の感覚と直感から理解できた。

 

 

…スラスターがより強い火を噴き、カーキィの身体は宙に浮く。

その頃にはボロ布など無かったかのように彼女の容姿(アバター)が月明かりに照らされ晒される。

 

「それと…ありがと。

アタシの事、ちょっとでも…信じてくれて。それと色々

 

複雑にして華麗、そして瞬く間にその身を巡行形態に換え、弧を描く軌道で軍勢へと突撃した。

 

 

 

――――本当にバカだ、私って。

なる様にしかならなかったとしても、もう少しマシには出来なかったのか。

 

ガラにもないような事をしているのもそうだが、正体なんか晒してどうする…と、こんな時にもむずがゆさが掻き消えない。こんなのは次女(デルモん)の役目だ。

…最も、長女(ニモエル)クソ三女(リリューム)の様な思わせぶり、秘密主義風を吹かしているのも気分が悪かったが。

 

だって…パパ(怜雄)のように上手く嘘など付けない。

それに、どうせ捨てられるような正解なら…消えずに残ってしまう不正解の方が良い気もしてくる。

 

「ッッッ…!(はい!もう戦闘!切り替えるッ!私!)」

 

人型に戻ったカーキィは、いつものビームサーベル…では無く円形弾倉機関銃(ザクマシンガン)を手にした。さっさと撃ちたくてしょうがないのか、言いつけを全く無視して既にトリガーへと指を掛けている。

 

そんな彼女のヤケクソな心象を反映したかのように、かなりの数の自爆ドローンが召喚される。

正直スキル等で補正しても大して強く無いので、格闘ゲームのようなコンボを考える必要があるシンギュラノイドの戦闘においてこの手法は、定石中の定石だ。

 

ドローンを射出するのと同時に、凄まじい発射速度を誇るマシンガンである程度の露払いを行った。

 

 

 

――――そうだ、そうなのだ…これだけは拭えない事実。

カーキィは自分のパパが大好きだった…出来る限り仕事から早く帰ってくれて、遅くなった時もいつの間にか帰って来て、あり得ないくらい下手だけどご飯も作ってくれて、どうにかお小遣いまで工面してくれて、己を潰すくらい自分たちに時間を割いてくれて、でもそっとして欲しい時にはそっとしてくれて、疲れを知らないような…そんなパパが。

 

最初の、熱が存在しない様に何処までも冷ややかで…とても怖いあの時の男がどうしても過る。

そんな状態で…何よりも暖かに見える笑顔を見せた彼が。

 

 

でもカーキィは、それが当たり前だと思った。

当然だと思った。

 

あの闇すら生ぬるい…懸命に発した光さえ、かき消してしまう程暗い眼を覗く度に。

 

 

 

 

――――爆発に次ぐ爆発、連鎖し続ける青白い閃光。

その間を縫って、残った軍勢を切り裂いて去り行く一縷の光こそ、カーキィの軌跡だ。

 

遠方の空からそれを眺めていたルプスレギナ・ベータは、がっかりしたようにため息を漏らした?

 

「もう全滅!?

いやー、塚本の分身だとかって話っすけど、やっぱ出来立てほやほやだと使えないっすねー」

 

興味を無くした彼女は、そのまま完全不可視化魔法で消え去り、まだ不安が漂う村の中へと溶け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――突然、カーキィの元へと伝言(メッセージ)が届く。

上位プレイヤーからすれば大した個体の群れでは無かったため、殲滅など直ぐに終わったが…それでも一息くらつきたいと考えていた所でのメッセージだったので、少々彼女はもどかしく感じた。

 

「パパ?一体何――――え?戻れ?今すぐに?」

 

 

 

 

 

暗くて当たり前、当然のこと。

だってパパは、エンジニアだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

敵プレイヤー

「クソッ罠か――――」

「あの糞SG使いがッ――――」

「焼夷弾とか使ってんじゃ――――」

 

LEO_TTTO0325

「…(このゲームもそろそろ潮時か…いやはや、もう十数年も稼働しててよくぞここまで人口維持できたもんだ)」

 

敵プレイヤー

「このッこのッ!死ねッこの糞芋がァ!」

「はよしろ!人海戦術だ!クソが」

「なんでもいいから進めカス!爆破されるぞ!」

 

LEO_TTTO0325

「味方、もう死んでら…(全く、殺してからありがたみを知るとはな…重三、お前程のヤツはもう居ない。お陰で周辺敵だらけだ)」

 

敵プレイヤー

「来やがれマザーファッカ――――」

「撃て!撃ちまくれ!近づけんな!」

「防衛戦破られた!」

 

LEO_TTTO0325

「こうして考えるとなぁ…(どうも奇妙だったよな、俺達…何だったんだろうな、こんなクソゲーかユグドラシルで適当に遊んでいたのは…)」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶悪小隊(イヴィル・プラトーン)というミスリル級冒険者チームが居る。

モンク系職のウィラードという男が率いるそのチームは、此度の怪物屋敷攻略の仕事にて戦力の要として赴いていた。

 

「ジェイ、様子は?」

 

「至って平穏だ」

 

「平穏?

ここもう森の最深部だぞ?話によりゃ、トロールだか何だかの群れが支配しているってのによ…」

 

「それ以前にブリーフィングの化け物共の気配がない。

余りにも静かすぎる…」

 

ジェイと呼ばれる斥候(スカウト)の女や、その隣にいる仲間たちが言う様に、既に大森林における危険地域だと言うのに、想定していたモンスターたちの痕跡や気配がまるで無いのだ。

 

 

とは言え彼らは皆ミスリル級冒険者だ。

ミスリルと言えばエ・ランテルの冒険者の中では“英雄”モモンら漆黒に次ぐ実力者*1であり、対モンスターの傭兵として十分エキスパートに数えられる。

 

だからこそ、斥候でない他のメンバーでさえモンスターの痕跡やその接近には敏感だ。

そしてあらゆるモンスターに対抗する知識さえ備えている。

 

もし何か…モンスターに関する異変があれば誰も見逃す事は無いだろう。

 

 

…途中、リーダーのウィラードがある物を見つけた。

 

「…?、何だアレは。

――――剣?」

 

それは樹木に立て掛けてあるロングソードだった。

モノとしては高くも無いが別段安いものでもない…精々アイアン級から成り立てのゴールド級が買いそうな代物だった。

 

「…例のシルバー級冒険者の、遺品か?」

 

「おそらくそうだろうな、ランス」

 

誰もが見て思いつきそうな予測を口にした、ランスという戦士職の男は、その剣に近づいて手を伸ばす。

 

「おい、何をする」

 

「なぁに…ろくでもねえシルバー級とは言え家族くらいいるだろうに。

遺品の一つくらい持ち帰ってやってもバチは当たらんだろう」

 

ウィラードの軽い制止を振り切って、その柄を握った彼は思い切り振り上げた。

…よく見れば鞘や柄等をそこらの安物で仕上げている、刃そのものはかなりの高級品だった。

 

富豪や貴族出身の冒険者が、その出自でなじられるのを嫌って施した偽装…そう考えるには十分過ぎるだろう。

 

 

――――所で、ランスが剣を引き上げる際…妙な音がしたようだが。

 

「おい、今音がしなかったか?」

 

「音?

一体何が――――」

 

爆破。

余りにも突然に、そして誰よりも強力に吹き荒れた破壊の熱と風…更にはソレに運ばれてきた鉄片がイヴィル・プラトーンの冒険者達を襲った!

 

爆心地に居たランスは眩い光と立ち込める煙の中に消え、ウィラードら他のメンバーは猛風に弾き飛ばされ数mほどノックバックした。

 

「ぅおおおおおおッ!?」

 

「な、何だ!?

何が起こった!?」

 

「ランスは!ランスは何処だ!?」

 

ジェイが叫ぶ中、背後でボトリと何か湿っぽいような…或いはやや柔らかいようなものが落ちた音がする。

振り返ればそれは…今しがた探していたランス――――いいや、彼だった肉体だ。

 

両腕は二の腕の中間あたりから吹き飛ばされ、顔や胸、腹等といった身体の全面は真っ黒に焼け焦げて…更には抉れていた。

 

「ッ…!?」

 

「つ、剣が爆発したってのか!?

少なくとも魔法じゃ無い…そうだったら、コイツが反応している!」

 

ジェイの右斜め後ろで叫ぶ、マジックキャスターの男――仲間からは“クリーン”と呼ばれているようだ――が、マジックアイテムらしき小さなオブジェクトを手にしていた。どうやら魔力探知系のアイテムのようだ。

 

いくら対モンスターのエキスパートとは言え、今までに見た事もない事態に対して動揺を隠せなかった彼は後ずさり…そのまま大きな“窪み”へと、足を滑らせてしまった。

 

 

「ッ!?

ぎぃいいやぁああああああああッ!?足がぁああああッ!」

 

クリーンが滑らせた足を抑え、己が喉を引き裂いてしまうような断末魔を挙げた。

ゾッとした仲間たち…特に近場に居たウィラードが、その“窪み”を覗き込む。

 

…先ず第一に、それは血塗れだった。

彼の右足は何か板の様なものに挟まれ。そこから無数の針のようなものが伸びているのが僅かに見える。

 

そして微かに鼻腔を掻き乱す、糞便の臭い。

 

「…罠だ」

 

誰がどう見ても明らかだった。

最早五体満足で残った者達も、戦慄するしかなかった…確かに、この世には人間の力が及ばぬ様な、強大すぎる力を持った怪物も存在する。だが、今相対しているのは、そういった存在とは風味の全く違う恐怖。

 

天空より舞い降りて推し潰すような威圧感とは違う…それは空気という河川に壺いっぱいの猛毒を流し込んだかのような、陰湿な恐怖だ。

 

 

「皆動くな!

その場で待機!一歩も動くなよ」

 

「クリーンは!クリーンはどうするの!

いくら回復魔法を使っても、刺さっているモノの処置をしないと…!」

 

「何処に罠があるか分からんのだ!静かにしていろジョージ」

 

ウィラードが狼狽える仲間に喝を入れる中、あちこちで爆音らしき音が響いた。

…先ほど、ランスを吹き飛ばしたものと同じ――――或いは同質の罠だろうか、それらが各地にある事を示していたのだ。

 

 

これで誰もが静かになった…約一名を覗いては。

痛みに悶えるクリーンは今も「痛ぇよぉ」とか「助けてくれぇ」とか、聞くに堪えない程悲痛な泣き言を絶え間なく発している。

 

もうこれ以上はやめてくれ…皆、そう思いながらも、そう発する言葉でさえ何かの罠を発動させてしまいそうで、口を閉ざしたままなのだ。

 

 

あちこちの爆音、仲間の苦痛、罠への恐怖…これらはいくら屈強な冒険者と言えども、その神経を磨り減らすには十分、むしろ過剰であった。

 

「ッ!」

 

「お、おい!馬鹿野郎!」

 

クリーンが見せていた苦悶の表情に耐えられなくなり、まだ年若い回復役(ヒーラー)のメンバーが思い切り飛び出した!

――――そして同じくして“窪み”を踏み抜いた。

 

 

今度は窪みの中に隠されたシーソーがてこの原理を起点とした、様々な運動作用によって動かされる。

彼の目の前から飛び出した、折れ曲がったピッチフォークのようなそれは通常罠にかかった者の心臓あたりを狙う様に出来ていたが、ジョージと呼ばれた若い冒険者は平均より身長が低かった為に頭部を貫かれてしまった。

 

脳を射抜かれ、生き残れる人間など居ない。

一瞬で絶命したジョージはそのまま力なく、殺人シーソーに寄りかかる形で倒れ…それがまた別の悲劇を読んでしまった。

 

 

倒れた衝撃で、また別の…それもウィラードのすぐそばにあった罠を作動させてしまう。

偽装の為に盛られた枯葉をブワリと巻き上げ、跳ね跳んだ複数のそれは…まるでメイソンジャーのような形をしていた。

 

「馬鹿なッ…」

 

それだけを言い残し彼とクリーンは、瞬く間の閃光と…そして無数のエッジ付ベアリングに包み込まれた。

直前にジェイは危険を察知して、一瞬の判断でその爆心地から離れる様に飛び込んだ。

 

 

――――何か、異常に細い物を押しのけ、断ち切った感覚がした。

無理な体勢で飛び込んだ為に痛めた身体へと鞭を打ち、周囲を確認する。

 

…空から何か振って来る!

木々の隙間から差し込む、僅かな光でそれを視認できた彼女は直ぐに身を転がし、回避に成功した。

 

「釣り天井…!(しかも何だこれは…鋼鉄を溶かして接合しているのか?こんな融点の高い金属をッ。

こんな事が出来る亜人など…)」

 

偽装用の植物を少し退かせば、それの“芯”が鉄筋を溶接して作られた事が明らかになった。

明らかに文明力で人間に劣る、この辺りの亜人の技術ではない…未知の敵に対する恐怖が、孤独になれた彼女さえも震わせた。

 

 

各地の爆発はまだ鳴りやまない…もうじき日が暮れて、視界も役に立たなくなる。

だからジェイはその場で伏せ隠れて、目を閉じ、聴覚を研ぎ澄ました。

 

 

…匂う。

“死”だ、死が一瞬匂ったのだ。

 

最早それが嘘か気のせいの様に、空気の中に掻き消えてしまったが確かにそれは漂っていたのだ。

彼女は最小の動きで見れる範囲を見渡す…少なくとも見えるところに脅威は無いし、近くにそれを感じもしない。

 

――――所で今更気が付いたが、脇腹の違和感…その正体は何と吹っ飛んだランスの右腕だったようだ。

気味の悪い事実に更に神経を削り、乱暴にそれを遠くへ投げ捨てる…丁度、ぶつかった場所に起爆系の罠があったようで右腕は一層細かく引き千切られて散った。

 

 

…正直な所、ベテランであるにも関わらず彼女は今非常に取り乱している。

仲間が短時間で次々と死んでいったのもそうだが、何よりも今この状況が普段の“モンスター退治”と同じ空気とは思えなかった。

 

どちらかと言えば、戦争の空気だった。

深く言えば、敗走した自軍らが森で追い討ちに遭った時のそれだ。

 

嫌な記憶だ…まだ化け物を相手にしていた方が気が楽だったと言うのに。

 

 

…地獄だ、地獄の恐怖だ

 

思わず泣き言を口にしてしまった瞬間…ふと後頭部より違和感を覚える。

先ほどの死が匂ってくるのと同じような感覚、或いは能力によるものだ。

 

しかしそれは今までに感じた事が無い…何かがぼやけているような、不思議なものだった。

 

とうとう疲れが回って来たか…そう考えた瞬間に、違和感に対する恐怖が心の底から沸き上がろうとしていた。

もしかして、これは非常に不味いのではないか?もしかして、今私はとんでもない状況に陥っているのではないか?

 

そうしたこみあげて来る“吐き気”が、実際に“吐しゃ物”として体外に出る、その直前の話だった。

ぱしゅ…という乾いた音がさりげなく響く。

 

 

その奇妙な音と共に放たれた小さな金属屑は、音の壁を超える事なく静かに空中を飛び続け…やがてはジェイの後頭部へと直撃した。

 

金属そのものの重さと飛翔速度からくる貫通力が、彼女の皮膚…頭蓋…そして脳を突き破り、破裂させながら…やがてはまた頭蓋、皮膚の順番に風穴を開ける。

 

この一瞬の出来事を…彼女は未来永劫知る事は無いだろう。

何せ未来そのものが、この一連の間に閉じているのだから。

 

 

壮絶に死んだ仲間たちの割に、彼女はつまらなく…そして静かに息を引き取った。

日が沈み、やがて全てが闇で黒く塗られる。

 

 

 

 

 

 

The horror! The horror!

*1
最も、その差はかなり大きいのだが





今回も今設定纏めるようなネタが見つからなかったので設定集はおやすみです。
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