嘗て至高だった父へ【OVERLOAD】   作:エーブリス

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みんな、久ッ!
え?遅れた理由?
まあその…アーマードコア。

あ、第2章ラストです。
今回の話、ぱっと見突拍子もない様な設定が飛び出すので一度、前の話を見直す事をお勧めします。
まあ、だからってすべて理解できるかは…うん。


第25話


  ~ほぼ寝起き一発で考えたクソみたいな展開の記憶~

 

タブラ・スマラグディナ

「どうします?ここ。

何やってもアリアドネ発動しますよ」

 

モモンガ

「参ったなぁ…もうトラップネタ切れですよ?」

 

ランドナ

「問題ありません。

こんな事もあろうかと実は前々より朱雀さんと開発を進めていたトラップがあります」

 

タブラ・スマラグディナ

「来た!

男なら誰もが一度は言いたい言葉「そんな事もあろうかと」だッ!」

 

モモンガ

「正直嫌な予感しかしない…」

 

ランドナ

「名付けて「相手の視界いっぱいに“オリエント急行殺人事件のネタバレ”を張り付けるトラップ」です!」

 

モモンガ

「効果カス過ぎません?

それとまさかそれ正式名称じゃありませんよね!?」

 

ランドナ

「何を言いますか!あのアガサクリスティーの名作のオチをこんなクソみたいな一本道渡っただけでネタバレされるんですよ!?」

 

タブラ・スマラグディナ

「いや、別に世界中の皆がアガサクリスティー好きって訳じゃないでしょうに」

 

ランドナ

「…。

まあ俺もそこまでアガサクリスティー好きじゃないですからね」

 

モモンガ

「何なんだよこの人ォ!」

 

ランドナ

「こうなりゃヤケだ。

ワンピースと、後ロードオブザイバツの正体もオマケでポン付けスッゾコラー!」こちとら2130年代の人間ゾ

 

タブラ・スマラグディナ

「ろくでも無さがどんどんと…。

というかロードオブザイバツ今でもダメでしょ」

 

この後、古今東西あらゆる名作の重要ネタバレトラップが仕掛けられた。

ナザリックが誇る悪夢の一つ「洩公のネタバレロード」誕生秘話である(そんなものはない)。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――熱い、熱い。

息を潜める彼が聞くのは、同業…つまり冒険者の悲痛な叫び。

 

ちらりと其方を見れば…確かに火だるまになった男が居た。

纏わり付く火と共に転がる彼は、しかしいくら転がれども転がれども一向に鎮火の兆し等見えず…やがては小川へと飛び込んだ。

 

 

そこから彼…ダズは燃えている男を視界から外したが、きっと水中で今も苦しんでいる事だろう。

何せ、その火は普通の火では無い。あらゆる危険な化学物質の絶妙なブレンドで生まれた、高性能なナパーム…或いは、ソレに似た特殊な燃料による火だ。

 

ソレは水中でも轟々と人が焼け死ぬような熱を放つ事が出来、また高い粘着性でそう簡単には削ぎ落せない。

鎮火の為には、燃料の付着部分を衣服…いいや、身体の肉ごと切り取らなければならない。

 

…この事実を、この場の冒険者誰もが知る由など無いだろう。

喰らった者も、じきに冥府へと至る。

 

水泡に紛れた断末魔が消える前に、ダズは意識をその他周辺に移した。

ここは地獄だ、死人で溢れかえっている。

 

それもただ今まで冒険者として見知って来た自然が生み出した大いなる力、その荒波とはベクトルが違う…人為、より詳しく語るなら“悪意”と呼ばれる知的生命体が持つ中で一番タチの悪いものによる先鋭化した地獄だった。

 

元より森とは人を喰らう、しかしそれを“ただ喰らう事だけ”に研ぎ澄ませられるのは人為の力である。

 

 

このような死臭でむせ返る領域の中で、彼は仲間と散り散りになってしまった。

真っ先に餌食となる様を見たのは…以外にも一番の実力者であるリーダーのオスカーだ。今頃彼は巨大な釣り天井の下敷きになっている事だろう。正直今でも信じられないが…何はともあれ再起不能には変わりないのだ。

 

そこから転がる様に事態が悪化した。

副リーダーのイナミが血痕だけを残して一瞬で消えた後、チュ=パの近くで爆発罠が作動して陣形がしっちゃかめっちゃかに。ドニーの左腕もソレで滅茶苦茶になったかと思えば、ブリーフィングにあった水棲モンスターに襲われた。

 

「(アレは強かったが…幸い、なんとか抑え込めるレベルで良かった。とっととヴェルレーヌ探さねぇと)…つか、クーランとライハルト何処だ?あの馬鹿共

 

結局、水棲モンスターの群れはダズ、クーラン、ライハルトの三人が殿となり、どうにか後衛職のメンバーを逃がす事に成功した。今からやるべきは…チームと陣形の再編成だ。

 

そう…俺達の死せる神の黒鎌(ブラックサイス)を立て直す。

リーダーも副リーダーも生きている、きっと怪我をしているだけだ。

 

 

無数に仕掛けられた罠に注意しつつ足を進めたダズは直後、何か動く気配を感じた。

鬼が出るか蛇が出るか…槌の柄を握り直し、振り向き様に先制攻撃を仕掛ける覚悟を決めた。

 

「ッ!」

 

「待て!大丈夫だ、ダズ。

僕だよ」

 

振り返れば、目前に居るのは…今の今まではぐれていた筈のジョナサンだった。

危うく仲間を殺す所だったと、彼は慌てて槌を下ろす。

 

「ジョナサン…ッ!

よかった、生きていたのか。ヴェルレーヌは?…それと、ナターシャは?」

 

「ヴェルレーヌとは罠で分断されたが、ナターシャは今安全な所に隠れさせている。

他の皆は?」

 

彼の問いに、ダズは首を横に振った。

 

「ダメだ、完全に散り散りだ。

リーダーはもしかするとダメかもしれねぇ、釣り天井に潰されちまった」

 

ジョナサンがチームの状況を知らないのも無理はない、その時は斥候として先行していたのである。

メンバーの元に戻ったのはオスカーが潰された後だ。

 

「そんな、オスカーさんが…。

ともかく皆と合流させる事を優先させてくれ、ここから北に真っ直ぐ行った所に罠の無い所があった…そこを合流地点にしよう」

 

「おう。俺らだけでもぜってぇ生き残るぞ。

アンタはナターシャを連れて来てくれ、俺はヴェルレーヌを…それとクーランとライハルトも連れて来る」

 

「いや、君はヴェルレーヌに注力してくれて構わない…君の“家族”だろう?

二人と…それとチュ=パとドニーの安否確認も僕に任せてくれ」

 

「ッ…!

すまねぇ、ジョナサン」

 

仲間からの気遣いを深く噛み締め、一刻も早く捜索へと飛び出ようとするダズに、ジョナサンはちょっとした情報を与えた。

 

「恐らくヴェルレーヌが逃げたとすれば、向こうの方角だ。そっちを探すと良い」

 

「何から何までッ…!

それじゃ、頼んだぞ!行ってくる!」

 

最早衝動など抑えられず、ダズはとうとう走り出した。

しかし「それともう一つ!」と仮面の斥候に呼び止められ、彼は再び“良きパートナー”へと視線を動かした。

 

「?、何だ――――ッ」

 

 

 

 

 

――――しかし、そこにあったのは、彼のよく知る“冒険者ジョナサン”では無かった。

突然、ダズの胸に違和感が生じる。

 

「…え?」

 

ジョナサンである筈の男をよく見る前に、彼は己の胸元へと視線を落とした。

…何か、自分の身体から垂直に、ガラス製の筒のような物が立っている。

 

その筒の中では、よく分からない原理で動くピストンに押されて、毒々しい桃色の液体が外へと追いやられている。

排出された液体が向かう先は…他ならないダズ自身の体内だった。

 

――――途轍もない吐き気がこみ上げる。

彼は慌ててガラス筒を引き離し、直ぐ(そして漸く)ジョナサンを見上げた。

 

 

「…」

 

「…何、を」

 

「やはり…此方も少し人手不足でね。

ダズにも手伝って貰いたい事があるんだ」

 

ジョナサンはクロスボウのような物体を右手で構えていた。

安酒を呷るための木製ジョッキ程しかないソレは、役目を終え、とっとと持ち主に捨てられて地を転がる。

 

…体調が更に悪化する、吐き気も限界だ。

もうこの身体が自分のモノとは思えなくなってきた。

 

「あの伯爵だか子爵だかの所の使用人で試した通りだな…もう少し、反応はいいが」

 

「何、言って………ッ!?げェエッ!?」

 

撒き散らす吐しゃ物の中に、自分の意識や魂といったモノが入っていたのだろうか?

それ程にダズの自我は朦朧とし始める。

 

その薄れゆく思考の中で漸く事実に達した――――目の前のパートナー、いや、そうだと思っていた男が裏切り者なのだと。

 

 

しかし飲み込めやしなかった。

 

「ど”う”、し”て”…だ”よ”…ォ”」

 

渾身の想いで絞り出した、最後の一言…しかしジョナサン――――否、ランドナは問いに一言も答える事は無かった。

そしてダズの意識は“何か”に乗っ取られ、変異した身体は得物だった槌を取り落とした。

 

片手槌(ライトハンマー)と呼ばれていたプラチナ級冒険者はとっくに死んでいた。

 

 

ダズ…だった怪物の耳元で、ランドナの囁きが空気を静かに揺らす。

 

「…ヴェルレーヌは、あっちだ」

 

自らが指差した方向に突き進む怪物を…嗤うでもなく、哀しむでもなく、只々黒く塗られたような冷淡な目でずっと見つめていた。

 

プラチナ級冒険者:“片手槌”ダズ

死亡確認――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~かつての記憶~

 

たっち・みー

「そういえばエンブレム、仕上がったみたいですよ。ランドナさんの」

 

ランドナ

「ん?…あー、前に原案出したヤツですね。

あの汚い絵で大丈夫だったのかなぁ」

 

たっち・みー

「彼の腕前ならどんな原案でもいい仕上がりになりますよ。

ほら―――あの旗です」

 

ランドナ

「おー…これは、凄い」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルレーヌは森妖精(エルフ)としての感覚と、冒険者としての経験を使い、次々と罠を避けていた。

しかし彼女ですら拭えない…自らが罠によって誘導されている感覚。

 

いいや、罠とは相手を致命的に傷つける以外にも、その存在によって敵の行動を封じる役目を持つ。

彼女は多大な焦りを感じて居た…動いても、止まっても、結局はこの罠を仕掛けた“誰か”の思うつぼになってしまう事実に。

 

そんな心細さが増して行く時――――漸く希望が見えた。

 

「…!

ダズ…?、ダズ!私よ!」

 

恋人、いいや…もう夫と言っていいだろう男、ダズの姿が見えたのだ。

あらゆる場所に仕掛けられた罠に注意しつつも、ヴェルレーヌは彼の元へと急いだ。

 

 

今やその距離、7m弱…その時点で気が付いた、ダズの異変に。

可笑しい、違う…所作も違うし、雰囲気も違う。

 

「…ダズ?

ねえ、ダズ?聞こえてるの?」

 

いくら呼び掛けても、黙って俯くだけの夫に…流石に彼女は恐怖を覚えた。

この悪魔の森で一体何が起きてしまったというのか?

 

「ちょっと、こんな時にヘンな冗談やめてよ。

そういう遊びは後で――――」

 

――――やっと気が付いた、アレはダズではない。

怖気づいたヴェルレーヌは咄嗟に踵を返し、あの怪物から距離を取ろうと必死に走る。

 

しかし…此処で重大なミスを犯してしまった。

罠を作動させるためのピアノ線に躓き、顔面から盛大に転げてしまう。

 

幸い作動したのはブランコ型の罠であり、彼女の頭上を棘の生えた丸太が掠める。

 

 

だが…怪物は容赦しなかった。

罠のキルゾーンから脱しようとして、這いずるヴェルレーヌへとのしかかり、馬乗りになってその動きを封じた。

 

「ッ!

や、やだッ!!来ないで!!」

 

彼女は必死にもがくが、その細い体格では力など到底足りなかった。

正にこれこそ「無駄な足搔き」というヤツである。

 

「助けっ――――ッ!

助けてェ!ダズぅぅぅぅぅぁあぁぁぁぁァァァ”――――」

 

怪物は花開く蕾の様に、その大顎をばっくりと開き、ヴェルレーヌの顔を飲み込んだ。

そしてゆっくりと…そして確実に、その顔を噛み潰して行く。

 

彼女は自らを殺したものが、嘗ての伴侶だったと知る事もなく…トブの大森林に無残な死体を晒した。

最後の瞬間、何とも情熱的なキスだった事だろうか。

 

…おっと、ダズはもう死んでいた。

 

プラチナ級冒険者:ヴェルレーヌ

死亡確認――――

 

 

 

 

「うぐッ…!

すまない、チュ=パ。助かった」

 

失った左手の止血処置が済んだドニーと、処置を終えて汗をぬぐうチュ=パもまた罠をやり過ごし、身を潜めていた。

…丁度二人の近くを、巡回中の水棲モンスターが通る。

 

そしてどうにも素通りしてくれるような雰囲気ではない。

たった1体の人型は、どうやらその場所を怪しんでいるようだ。

 

「クソ、面妖なっ…――――!?、チュ=パ…止めてくれるなよ、たかが左腕だ」

 

ドニーは今にも刀を抜き、モンスターへと飛び掛からんとしたために止められた。

しかし相手に存在が知られるのは時間の問題…より隠れられるような場所など無く、下手に動けば早期に発見される。

 

最早待ち伏せて先制攻撃を仕掛ける以外、道は無かった。

…しかしここで、奇妙な事が起こる。

 

「…?(足音が、遠のく…?)引き返したか」

 

先ほどまで徐々に徐々に近づいていた気配が、ピタリと止まったかと思えば、次の瞬間には逆に二人の元を離れていったのだった。

 

九死に一生を得た…とは言い難かった。

彼らもプロの冒険者だ、それくらいの経験は存在するし…仮にそうでなくとも訝しむくらい、今の引き返しは不自然だった。

 

「…。

何から逃げた?何を見た?」

 

両者の猜疑心が神経を研ぎ澄ませ、あらゆる方向からの脅威へのレーダーとなる。

…だが同時にそれは、自らの感覚さえも疑い得る諸刃の剣であった。

 

種族上、感情の起こりが少ないドニーはさして問題でも無かったが…そうではないチュ=パは、この時間で確実に許容範囲(SAN値)をすり減らしていく。

 

やがて限界に近づく頃、唐突に音が響いた。

キュィイイイイイン…と。

 

 

その聞いた事もないハズの音に、彼らは覚えがあった。

 

「“絹を裂く音をおかしくしたような声”か、成程…」

 

ドニーが冷静に、チュ=パが神経質気味に振り向きながら、ブリーフィングの内容を一つ一つ思い出した。

…ともすれば、やって来るのは間違いなく“緑の怪物”だ。

 

よくよく音を聴けば、それは二人の周囲を大きく旋回している事が分かる。

様子を見ているのか?威嚇か?それとも我々で遊んでいるのか。

 

 

何処からでも来いッ…!

固い決意はそのまま、剣を握る力となり、今にも必殺の一撃を放てそうではあった。

 

 

――――最も、実際に放たれる事は無かったのだが。

 

「…なんや、珍しい種族おるな~思ったら…片方魔法変異者(ウィッチャー)の出来損ないやんけ」

 

気の抜けるような声がしたかと思えば、ドニーの身体を“異物”が貫く。

一体何が…?理解する間もなく、ボォオッ…という爆音が右方より鳴り響いた…!

 

…一瞬、緑の影が通り過ぎたかと思えば、チュ=パの上半身が跡形もなく吹き飛んでいた。

次いでピーピーピーという音痴な小鳥の囀りにも似た音が、けたたましく鳴り響いてドニーの朦朧とする意識に刻み込まれる。

 

「あァ”!?何言ってんねんドアホ。

旦那はん()うとったやろ「今回は全員殺せ」やって!というかソレ言うたらお前もバリ殺しとるやろがい!」

 

何かを言い争っているようだが…何であれ、今がチャンスかもしれない。

そう考え、行動に移そうとするドニー。だが…肝心な所で身体が動かなかった。

 

先の攻撃が命に達する程のものだったのか?

そんなまさか、人に比べて頑強である彼が、たかだか縦長数センチの薄い物体で貫かれた程度で――――そう考えつつも、僅かにその“傷口”から染み出る、不快な物質の存在を感じて居た。

 

 

…毒、或いは致命的に危険な物質が塗られていたのか。

或いは何かしらの魔術・呪術か、その正体がどうあれ、確実にドニーの生命力を奪っていく。

 

もう限界だ…視界がぼやけ、聞こえる音も遠くなる。

であれば、せめての想いで、剣を持ち上げ切っ先を緑の怪物へと向け、そして突き立てた!!

 

深々とした手ごたえ…それに反して、緑の怪物は余りにも無反応だった。

 

「ぬおっ!?

え、お前、装甲薄すぎん?――――え、アーマードトルーパーだから当然?はぁ」

 

どうやら、さして効果がなかったようだ。

寧ろ無傷同然とも見える。

 

 

無念――――その一言だけを残し、彼はとうとう力尽きた。

 

「…ま、結局板金7万円コースやね」

 

 

 

プラチナ級冒険者:“雪男”ドニー

プラチナ級冒険者:チュ=パ

死亡確認――――

 

 

 

 

 

 

走る意味さえ、失いかけていた。

周囲にあの半魚野郎共は見当たらない…それでも逃げようとするその足が止まりそうにない。

 

「ッ!

ナターシャ、危ねぇぞ!」

 

「え――――!?」

 

罠を踏んでしまったナターシャを庇う様に、彼女を押しのけてライハルトが、迫りくる巨大な振り子の前に立つ。

 

自分でも、この行動の意味が分かっていなかった。

何でこんな…ただ身体がちょっとエロいだけの女の為に…そう思っている内に、彼へと振り子が激突し、無数の棘が突き刺さる。

 

「ッ…!

()ぇな!クソが!」

 

棘を振り子ごと引き抜き、刺された痛みを吼えて誤魔化す。

 

「ら、ライ()ルトさん!」

 

「こんな時にボケんなッ…なんてこと無ぇ、すぐ治る」

 

心配するナターシャを強引に押し退け、どうにか撤退の道筋を探し始める彼は、確かにその傷口が塞がりつつあった。

 

「…ちゃんと付いて来いよ。

また地面に何か、あるかもしんねぇから」

 

「…はい」

 

庇われた罪悪感故か、俯き気味になるナターシャ。

それが気がかりなのか…それとも単に付いて来ているか見張る為か、或いは今も尚彼女の身体に釘付けであるのか、ライハルトはひっきりなしに背後を確認する。

 

一先ず、年頃の女性が近くにいる事への異常な反応は、どうも克服傾向にあるようだ。

 

 

「…、クソ、行き止まりか」

 

奇怪な形の剣で周囲を探る途中、自身が罠の袋小路へと迷い込んだ事に気が付く。

一旦戻るにしても、現状体力を使い過ぎた…疲れ知らずである筈のライハルトも、精神的に疲労感を感じている。

 

ならばナターシャはどうだ?少なくとも自分自身より体力があるとは思えない…ライハルトはその上で判断を下した。

 

「一回、此処で休むぞ。

下手に動くなよ…そこら中訳の分からねぇ罠だらけだ」

 

彼の指示に、彼女はこくりと頷いて従った。

丁度、真後ろに巨大な木の洞があったので、そこで二人は身を隠すことにした。

 

…しかしこれで、互いの物理的な距離がえらく縮まってしまった。

今の今まで抑えてきたが、ここに来てライハルトの動悸が激しくなってきた…落ち着かない。

 

 

「…ごめんなさい」

 

「あッ…あ、謝んじゃねぇ。

今更」

 

謝られた、後ろに居る…あの女に謝られた。

何時もなら揶揄われて、逆セクハラまがいの事をされるというのに…。

 

 

「私…本当は気が付いていたんです」

 

「あ?」

 

「罠の事…。

お父様から教わったんです、仕掛け方とか…だから、その…」

 

気が付いていました…と、突然のカミングアウトをナターシャは行った。

ライハルトはどうも思考が止まり、付いて行けてない様子だった。

 

一体何があったのだろうか?

彼が聞き出す間も無く、ずっと「ごめんなさい…」と繰り返す彼女は、自らその訳を話した。

 

 

「正直な所、確固たる意志があった訳では…ありません…。

…優しく、されたくなかったんです。いっその事、ぞんざいに扱われたら…」

 

「何、言って――――」

 

「やっぱり、私じゃ無理だったんだ…。

お父様には、先に皆の元へ帰っていろって…でも私は、手伝いたくって……だって、そしたら私は、お父様の特別な何か(およめさん)に、漸くなれるかもって…。

私には…ころせない……!」

 

誰にせがまれるでも無く、ナターシャ――――いや、リリュームは謝罪を続けた。

…騙していてごめんなさい。

…私だけ泣き言言ってごめんなさい。

…利用しようとしてごめんなさい。

…私だけ辛い様に言ってごめんなさい。

…試そうとしてごめんなさい。

 

どちらか選べればよかった、そしたら彼女(じぶん)はきっと、選んだ何かの為に、捨てた何かへと刃を向けれたのだろう。でも今…ここに来て、どちらかを選ぶ事など出来なかった。

 

父や姉妹達か…或いは冒険の仲間か。

もし今叶うのならば、どちらも幸せだったあの夜まで戻って…そして、その時を繰り返したい。

 

 

――――ライハルトは、尚も戸惑った。

 

「…お前、さ。

疲れてんだよ…まだ冒険者数か月よ、それ程にもやってねーだろ」

 

そうだ、きっと彼女は錯乱しているのだ。

こんな…目に見える全てを疑わなければいけない地獄にいて、冒険者として日の浅い者が、狂わないなんて無理のある話だったのだ。

 

彼は己に、そう言い聞かせた、彼女と同じく…震えた声で。

そうでもしなければ、自分の脳裏に“一番最悪なシナリオ”が過ってしまう。

 

 

…そんな希望を打ち破る様に、リリュームの脚から汚泥が染み始めた。

嘘だろ?きっと錯覚だ、俺も疲れているんだな…とにかく必死に、必死に現実を否定し続ける。

 

 

「――――ーい、おーーーい!!

ライハルトぉー!、ナターシャー!、俺だーッ!おれは此処にいるぞッ――――」

 

その時、クーランの声が響いた!

逸れてからかなり久しぶりに聞いた様な声に、ライハルトは突発的に外を見る!

 

しかし妙だ、変な所で叫びが途絶えた。

危うく罠でも踏みかけたか?何であれ、その声はかなり近かった…彼は木の洞を飛び出した!

 

 

――――確かに、近くにクーランは居た。

だが“暗い何か”が彼の口を覆い、そして…その心臓にナイフを突き立てていた。

 

よくよく見れば、彼の喉元に両腕の腱、そして内腿の大動脈までもが切り裂かれている。

プロの殺し屋の手口だ…それも並大抵の技じゃない、彼が声を最後に聞いてから今に至るまで、本当に僅かな時間しか無かったはずなのだ。

 

その間に、ここまで完璧に人一人を完璧に無力化させられるだけの技量など、過去にライハルトを追いかけた暗殺者にだって持ち合わせてなかった。

 

 

…仲間の死を悼むより、先にそんな事を考えてしまったのは…彼はきっと、現実を受け入れたくなかったのだろう。

本当の本当に、必死の現実逃避だった。

 

しかし、クーランの死体が解き放たれてから…それが突然、幕を下ろされた。

 

 

「ッ…!」

 

間一髪、危険を感じて…己の得物を構え、飛来した何かを弾いた。

パキーン…と、金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。

 

何故か“殺気が無い”だけに、色々と腑に落ちない部分が強かったが…それでも今の一撃を喰らっていたら死んでいたのは分かった。

 

…お陰で剣は破損した。

その破片が月明かりを跳ね返し、半ば雪景色の様になったのは、この血塗れた領域への皮肉だろうか。

 

 

ライハルトは漸く、目の前の敵を見据えた。

お陰で二種の相反する感情が同居している、「こうならなきゃよかった」と「こうなってよかった」が。

 

こうならなきゃ、この地獄の渦中にナターシャ(リリューム)が居る事が確定しなかった。

けれども…こうなったから、誰を殺せばいいか、はっきりわかる。

 

 

「――――そうか、そうだったんだ。

理解したかなかったけど…お前が全部悪ぃんだなッ…!ジョナサン!

 

眼前の敵を、己が知る名で…そして、何よりの怒りを込めて呼んだ。

ランドナという名を知らぬまま。

 

「…リリューム、もう大丈夫だ。

お前はよくやった…先に“家”に戻れ」

 

「………はい、お父様」

 

いつの間にか、洞から出ていたリリュームは…完全に不完全蕩泥(ハーフスライム)の力を解放し、自らを地の底へと沈めた。

 

それをライハルトは見届ける事が出来ない。

目の前の“怪物”から、目を離した瞬間が己の死期なのだ

 

…そう悟ってしまったから。

 

 

彼は、折れた剣の…その柄を強く握り、逆手に構えた。

幸いまだ、ショートソードほどの全長はある。

 

「――――俺のクソオヤジが、母さんを殺す前に言った」

 

低く構え、一歩一歩に神経を研ぎ澄まし、そして殺気を滾らせる。

そんなライハルトを前に、ランドナは休暇の最中かと見間違うほど、極度にリラックスしている。

 

「“確実に殺すにゃ、自分でやれ”…ってさ」

 

同感だ

 

彼の低い呟きの後、ライハルトが飛び込んだ!

 

 

(珍しさとは別に)やや低級種とは言え、人外の全力とは、一度の跳躍で大地を大きく抉った。

そのスピードは疾風の如く!人間の感覚など、これを前にすれば鈍亀も同然だ。当然、動体視力もソレに追従したレベルに強化されている。

 

――――なのに、何で…胸に刺さる手斧、そう、この深々と刺さった投擲用のコレが。

いつの間に投げられた?いや、最早人一人も入らない程の間合いだ…投げたのでは無いだろう。

 

何であれ、どうして見えなかった?

この攻撃が…まるで手品の様に、そう言えば彼の右手からも、あの剣が消え去っている。

 

よく見れば、ランドナの…フリーだった筈の左手にそれが握られていた。

 

「…惜しかったな」

 

ランドナはそう口走るものの、その差は歴然だった。

例え彼とライハルトがユグドラシルのステータス的に同レベルだったとしても、技量の差で負かされていた。

 

確かに強い男だとは思っていた、あのリーダーと副リーダーに匹敵――――いいや、あれより強いかもしれないと。

でも、これは何だ?

明らかに常識の外だ…訳が分からない。

 

 

トマホークの刺し傷から、ライハルトの肉体が凍てついてゆく。

そう言った魔法武器なのだろうか?何であれ、肉体が凍っては…いくらデイウォーカーと言えども…いや、デイウォーカー如きでは、恐らくはひとたまりも無い。

 

死期を悟り、彼は…あらん限りの憎悪を目に込めて、勝利して尚虚無を放つ、その敵を睨み刺した。

 

「お前が…。

お前だけが、呪われればいい。アイツが…あの子が呪われる、その分まで…ずっと――――」

 

苦しめ。

その一言を言い終わる前に、ライハルトは…まるで【シャイニング】でのジャック・ニコルソンのような凍死体と化した。

 

ランドナはその氷像に向け、腰だめで霊柩車の車列(ペインティット・ブラック)の弾丸を放つ。

今度は…赤い雪が降り注いだ。

 

 

…車列を下ろしたランドナは、首の無い死体を暫く見下ろし、そして振り返った。

まだやるべき事がある、あと一人…生き残っている。

 

プラチナ級冒険者:ライハルト

プラチナ級冒険者:“司祭”クーラン

死亡確認――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やっぱ、すげえよお前。

流石は“かまじし”と言った所、ってか?」

 

――――あらゆる神経が、物凄い勢いで逆撫でされた。

何故か?それは…もう“絶対に”呼ばれる事の無いハズの異名を、他人の――――しかも聞き慣れた声から聞いてしまったから。

 

素早く車列を構え直し、振り返って照準を合わせた。

その、見た事ない“素顔”に…!

 

 

――――彼の両手に持つ、2丁のリボルバー拳銃を彼は知っている。

一つは【コルト・アナコンダ】で、もう一つが【トーラス・レイジングブル】だ。

 

正しく「蛇か、牛か」と言った所だ。

この二つを好む男について、ランドナは遠い記憶の果てに覚えがあった。

 

 

目の前の男…名を“イナミ”として知る彼は、少し拳銃を下ろして、口を開いた。

 

「久しいな、リトルレオン」

 

この呼び名で、眼前に立つ男が何だったのかを…ランドナはほぼ直感的に理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~いつかの記憶~

 

『続いてのニュースです。

きょう未明――――地域にて崩落事故が…』

 

「…。

なあ、鈴川さん。何で踏み込んだ?』

 

『警察の調べによると――――であり…』

 

「言ったよな?そこからは禁足地だって。

そうまでして為すべき正義だったか?そこまでして斃すべき巨悪だったか?」

 

『現在警察は、発見された遺体の身元を…』

 

「であれば…いや、そうだとしても…頭が挿げ替えられるだけだよ」

 

『――――続いてはお天気のコーナーです』

 

「泥水じゃないフィーカと、豊かな飯にありつきたかったのか?

……そっか、俺は…日陰が、染み着いているのか…」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…裏社会、何処も彼処も“符牒”でありふれている訳だ。

でも…流石に“エンジニア”は無いだろうよ。【メカニック】かよ、ってさ。まあ死体の口に豚足ぶち込むよかマシだろうけどな。

――――お前はチャールズ・ブロンソンの方が好みだったか?俺はジェイソンステイサムの方が好きだが」

 

まるで友人か親族、そのように親し気な様子で話しかけるイナミ。

対してランドナは無表情だ、心身共に。

 

「そのエンジニアの中でも、お前は…そう、伝説だった、リトルレオン。

鎌鼬ならぬ鎌“獅子”、そして“死に至るそよ風”か…CSS20人って、精鋭中の精鋭を…たった一人で壊滅させた、お前には誇張でも何でもない――――」

 

「昔話をしに来た訳じゃ無いだろう。

どういう訳だか知らないが、顔まで隠して…あんたの無駄には付き合わない」

 

 

彼の“自慢話”は途中でばっさりと切られた。

そして何をしに来たのか?という問いに対して…何か思いつめた様に、イナミの貌が暗くなる。

 

「…運命ってのは、敷かれたレールみたいに決まっている。

そんな言葉がある様だが――――事実は少し違う」

 

彼は、自らの左腕を見つめる。

どうもその薬指には、灼けて拉げた指輪がある様だった。

 

「その“一番マシな”レールを敷き、そしてそれを保守する為に、どっかの誰かが命や人生を掛け、手を尽くした…列車が、ただその線路の上を通り過ぎなければいけないから。

そう言った方が正しいか」

 

「何が言いたい」

 

「この日の事は知っていた。

今も俺は、この空から見ている…だが、俺は思わないだろう。その“運命”の仕掛け人が………ははっ」

 

表情が一層暗くなった。

笑う声はこれ以上無い程乾き切り…その顔はまるで、罪悪感という巨大な釣り天井が、イナミを押しつぶさんとしている様だ。

 

「………すまない。

お前も、あの子達も…ずっと、きっと、籠の中のカナリアで居た方が幸せだったかも…な…」

 

「…」

 

「結局、お前達5人を選ぶ事は出来なかった。

じゃ無ければ…あれ意外に、あいつを、そしてスミカを…まともに生きさせる術が無かった。

俺達が、勝利する結末さえも…」

 

とうとうイナミは、二丁拳銃を持つその腕をだらりと下げた。

この時既にランドナは、彼のバイタルへ照準を定めていたが…引き金は引かなかった。珍しく情けをかけたか、或いは“殺せると思わなかった”か。

 

 

そして次に彼は、己が右手の――かなり古びているらしい――レイジングブルを見つめ、また“独り言”を続ける。

 

「お前の、その心も…俺のせいなのか?

4人のサルベージの為に、何もかも投げ出す気ですらいた…悪影響だったらしいな、それが」

 

そしてイナミは、再び顔を上げた。

 

 

「お前もそうだが、あの4人にしたって…もう面影が僅かに残るだけだ。

――――カタをつけよう。お前には、人の戦い方を教えたな?」

 

彼はレイジングブルの銃口を、ランドナへと向ける。

その眼は“昏い殺気”に満ち満ちており、見るからに臨戦態勢だった。

 

 

「…今度は、化け物の戦い方だ」

 

ランドナは車列の引き金を引く…が、その瞬間にはイナミは深くしゃがみ込んだ。

それとは反対に、彼の近くの樹木が、ふわりと不自然に浮かんだ。

 

一部始終を、ランドナの動体視力は捉えていた…しゃがみと同時に回し蹴りを放ったのだ。

その神速故に…剃刀のような鋭さを孕んだ足払いを。

コレによって、木は根本から断たれ、そして浮かんだのだ。

 

確かにこんな真似は化け物しか出来ないが、それが一体…ここまで彼が考えた時、イナミは樹木の真新しい断面目掛けて、先とは逆回転の回し蹴りを放った!

 

それで弾き飛ばされた真っ直ぐな針葉樹は、正しく天然のAPFSDS弾頭である。

 

「ッ!?(無茶苦茶なッ)」

 

間一髪、飛来した巨木を避けたランドナは、それでも絶えず捉え続けてたイナミへとフルオート射撃を浴びせる。

 

「っ…!

流石に無礼(ナメ)過ぎたか!」

 

対してクイックステップで大きく跳んだ後、着地と同時に左方向への高速移動によって照準から逃げ切ったイナミ。

 

続けざまにレイジングブルのファニングショットで牽制射撃を、彼は行う。

この大口径リボルバーは本来の仕様と違い、ダブルアクションの機構を排除してある様だ…その証拠に、射撃前に逐一撃鉄を起こしているが、その動作はあまりにも速くてセミオートと遜色が無い。

 

2発ほど、50口径の凶弾がランドナの胴体目掛けて飛翔したが…何とそれを彼は、クイックドローで引き抜いたフランツカフカで撃ち落とす!

 

こんな離れ業、賭けにも等しいのであまりやりたくなかった。

しかし緊急だった上に結局成功したので、とにかく次を考える。

 

 

彼は森へと飛び込んだ。

無論、罠は依然存在しているが…自分が仕掛けたソレに引っかかる程、彼はマヌケでもアマチュアでもない。

 

撤去しない方が有利か?既にイナミも森へ駈け込んでいる。

それを車列の弾倉を変えながら、ランドナは考えていた…けれども、あれらの罠が、誰に教わったのかを思えば…。

 

一本の刃が如き彼にしては、珍しく標的を前に動揺していた。

 

 

――――ふと、友人の事が頭に過る。

自分と同じく…エンジニアとして高く評価され、そして最後には刃を向けあった男だ。

 

ランドナ(町田怜雄)からしてみれば、彼こそ化け物だった。

そんな彼を殺せた、殺せてしまった…一種のトラウマでこそあるようだが、同時に「やってのけた」という自信でもある。

 

「…(悪いな重三、あんたは凄かった…俺じゃあんな狙撃は出来そうにない)」

 

それに、確かに戦い方殺し方、そして裏社会の歩き方はあの男から教わった。

けれども…闇の中の歩き方とか、そういう“静かな行動”は違う。それは母親役(おんな)から教わった。

 

現に、先んじてイナミの姿を捉えている。

何となく幼少から思っていたがあの男、隠密に関しては普通にズブだ。

 

正面衝突じゃスピードの違いでどうにも勝てそうにない。恐らく此方が一発を速度重視で叩き込んだとして、向こうはその間に20か30の爪撃を繰り出してくる。

 

故に、もっとクレバーに戦わなければ。

 

 

卑怯とか言うなよ――――そう心で呟き、ランドナはナイフを投げた。

その着弾点は、ある罠のスイッチである。

 

…イナミの周囲を、メイソンジャー型の跳躍地雷の数々が取り囲んだ!

 

「んなッ!?」

 

流石の彼も、これには面食らい…素早くそのキルゾーンから抜け出す。

しかしその逃げた先が悪く、地雷の爆炎で火が付くように仕掛けられた“爆導索”の火炎に包まれる!

 

「ンあっちィ…!?

やってくれたなぁ、怜雄ォ!」

 

しかしこの一瞬で、ランドナの居る方角…ひいては、彼が移動した方向、更には現在地まで突き止めたイナミは、罠の張られていない地点を雷光が如きスピードで突き進み、一瞬で距離を詰めた。

 

先の、木を“切断”したその脚力を用いて、今度は木から木へと跳ね返る事で、我が身を稲妻が如くにしているようだ。

 

「どうした!

怒りに燃えているか!?そこまで来ているんだろぉ!」

 

「ッ!クソ(何だその言い分は、怜雄(レオ)だけに…とか言うなよ)」

 

何となく、右手の指の獅子闘士の滾瞳(サマードラゴンズ・スピリット)が疼いた様な気がした。

 

 

ソレは兎も角、すでに両社の距離は10m足らず!

互いに森林という…行動が限られたフィールドで、それぞれ銃口を向け合う。

 

強烈な呪いが籠り無属性と化した魔導弾が、そしてある種の誓約により未知の力が宿った44レミントンと500S&Wが、トブの大森林の奥深くにて…縦横無尽に飛び回る!

 

 

その余波で数々のトラップが作動。

針山の振り子は荒波の船が如く揺れ周り、即席爆発装置(IED)がボンボンと爆炎と金属片を撒き散らし、無数の槍が地面から飛び出す。

 

ちょっとしたサーカスの様な地獄は、その辺りに放置されていた死体までも突き動かし、文字通りに血肉が飛び交う地獄を再演する。

 

そんなグロテスクな飛翔体を、そしてランドナの射線を掻い潜り、イナミは近接戦闘を仕掛けた。

獲物は銃のままだが問題ない。

 

 

放たれた魔導弾を至近距離で躱し、その隙にコルトアナコンダの銃口をねじ込む…が、ランドナはすぐさまをの銃口を掌で逸らしてしまった。明後日の方向を向いたそれが、吐き出した弾丸…それもやはり見当違いの方角へと飛び去ってしまった。

 

まるでガン=カタだ、あの【リベリオン】の最終決戦における新世代の組手を、再現して見せたのだ。

 

 

だが、ランドナまでもが第一級クラリックごっこに付き合うつもりは無かった。

この手のアクションに置いて、彼の好みは“ガンフー”であるのもそうだが…彼は戦闘中に遊ぶ趣味は元より無い。

 

CARシステム特有の、胸元近くで銃を構えるその方法で、イナミが彼の魔導銃に干渉する可能性を抑え、致命弾とするべく引き金を引いた。

 

 

されどイナミも、タダで喰らってやる趣味は既に無いのだ。

身を翻して弾を躱し…引いては敵の視界からも外れて、再び銃を構えた。

 

教え子に習ってか、彼は2丁のマグナムを腰だめで構え、同じくランドナからの干渉を防ぐ。

 

「っ…!(にしたって、リボルバーの癖にリロード早いな)」

 

左腕から伸ばした触手を用い、急旋回によって大きく距離を取って、大口径の弾幕から逃げる…その直前の事だ。

彼は見ていたのだ、イナミが一旦宙に放り投げたリボルバーの、空薬莢の排出から弾薬の再装填――――それを浮世離れした手つきで行ったあの一瞬を。

 

条件が揃えば、自分でも出来なくは無い技ではある。

何なら解体・組立までもを行えはするが…流石に戦闘中にそんな曲芸を行う胆力が無い。

 

 

そう言う所だ、この男が怖いのは。

“普通怖がるトコ”を…お構いに踏み込んでくる、だから予想が付きにくい。

 

ランドナはここに来て「化け物の戦い」の一端を掴んだ気がした…今すぐ戦いに行かし得るのに、十分な程に。

 

 

「…ッは!そうだ、この感覚だ!

昔ァ、事ある毎に「戦いは飽きた」だの「いい加減平穏が欲しい」だのとのたまいたが…やっぱ相手を傷つけんとするこの感覚はッ!忘れられんなァ!」

 

再び、イナミが距離を詰めて来る。

既にリボルバー二種の弾を切らしたのか、その右手にはククリナイフが握られていた。

 

あの男が近接において恐ろしい戦闘能力を発揮するのは、彼に師事したランドナが良く知っている。

本格的に決着を着けに来たのだろう…それを察し、(一応は)ガンナー職として適正な距離感を保つ為、フランツカフカで彼を迎え撃つ。

 

 

…しかし、その弾倉内の弾薬も少ない事を、ランドナは把握していた。

取り敢えず薬室の一発に弾倉の二発…計三発を撃ち切った所で、彼もまたナイフファイトに転じる。

 

ククリの重厚で危険な刃が、闇夜の空より襲い掛かる!

対して、咄嗟に引き抜いたグラディウスでそれを防いだ。

 

 

――――最も、グラディウスと言えど、ランドナの持つソレは多少訳が違う。

正確には【グラディウス・ヒスパニクス】…より広く知られた呼び名は【ファルカタ】といい、イベリア半島で生まれた強力なショートソードの一種である*1

 

嘗てはカルタゴの雷光ハンニバルが軍隊に取り入れたとも言われるそれは、人間社会における収斂進化の一例とも言うのか…どうもククリナイフと形状が酷似しているのだ。

 

つまり両者は今、傍から見れば…細かな差異があるだけの、同種の武器を構えている様である訳だ。

 

 

「ッ…この…」

 

「鈍ったか、アンタの刃はッ…、この程度じゃ、ない…ッ!」

 

錆止めの黒に塗られたモダンチックな刃と、翡翠を削った様な民族感あふれる緑色の刃が、暫く鍔迫り合った後…ランドナがそれを押し切って振り払い…そのまま飛翔して放った二連の蹴りが、イナミの胴体へ炸裂!

 

その反動で、互いに距離を取った形となった。

しかしここでランドナは銃を抜かなかった。

 

この程度の距離では、自分のクイックドローよりも素早く、イナミのククリが致命傷を負わすだろう。

 

 

ふと…何か見覚えのあるロープが彼の周囲を飛び交った。

――――いや、見覚えあるなんてものじゃない!ランドナが仕掛けた“爆導索”だ!イナミが逆に利用して投げ付けたのだ!

 

しかもこれは特別製…特殊なナパームも混ぜた、より危険度の高い一品である。

 

「これぞ正しく騙しの手品――――」

 

「――――悪いがあんたは“エシディシ”の方だ。

俺が“ジョセフ”…!」

 

「へ?」

 

まさかの返しに、イナミが間の抜けた返事をした後――――どういう訳か、爆導索たちが不自然に、彼の方へと引き返したのだ!このままでは、焼却されるのはイナミの方だ。

 

「ノォオオッ!?」

 

咄嗟に、火のついた爆導索から逃げ切る彼は…しかし襲い掛かる罠はそれだけでは無い、トゲ振り子に竹槍、SマインにIED――――ありとあらゆる罠が、ポルターガイストめいて、能動的にイナミへと襲い掛かったのだ!

 

…彼の“目”には、そのマジックのタネが見えていた。

全ての罠が…細い細い無数の“何か”に繋がれて…それが収束する先は、ランドナ本人である。

 

 

「…あの触手ッ…!」

 

「俺には…あんたの様な豪快な戦い方は出来ない。

けれど、こうして…あんたの度肝を抜いてやる事は出来る」

 

まるで繋がれた撚糸の様…左手から無数に伸びる細い細い触手が、脈打つたび…森もまた蠢く。

 

「【最終変異形態(ファイナル・エボリューション)】ってスキルを入れててさ、これ以外と便利だよ。

これが俺の“化け物”って訳ッ…だ!」

 

本来、HP削りバフを目的として入れたそのスキルが、ここに来て彼に危険な可能性を与えたのだ。

木の一本二本と言う話ではない…森そのものが、彼の武器となった。

 

「っ…ざけんな、やっぱズリぃだろ、ゲームシステムって!

そういう並列処理は俺の十八番だしッ…俺だって閻魔刀で次元斬・絶ぶちかましたかったよ!」

 

愚痴を吐くイナミの表情は…どうにも笑っていた。

教え子の成長が意外にも嬉しかったのだろうか。

 

 

幾本かの棘振子が、目標をロックオンしたミサイルの様に襲い掛かった!

これをからがら避け切っても、爆導索が蛇の様に追い立てる。

 

「どんだけあるんだ爆導索!

デンドロビウムじゃねーんだよ!アレだってこんなに持ってねぇだろうが!」

 

イナミはククリともう一つ…左手にカランビットナイフを持つ。

この二つの刃を激しく擦り合わせ、前方に火花を散らす事で、爆導索に着火…自身に被害が及ぶその前にソレを排除する事に成功した。

 

 

――――爆炎の中から、ランドナが飛び込んでくる!

 

「ッ…」

 

真っ直ぐと、そして素早く空気を突き抜けて来た、ファルカタの切っ先を…先のカランビットでいなし、逆にククリでカウンターを振り下ろす…が、逆にランドナの左手に持った“特徴的なナイフ”に阻まれた。

 

「!、コルヴォナイフ*2か。

俺のガキだよ、お前も…妙なン使いやがって」

 

「意外と手に馴染んで、さ!」

 

ククリの刃を振り払った彼は、そのコルヴォナイフで2度、3度と斬撃を放つ。

対して、イナミはそれらを紙一重で躱しきり…三撃目が振り切ったタイミングでククリの刺突を放つ。

 

一瞬の隙を突いた一撃を、ランドナはしっかりと対処し切った。

上体を大きく逸らす事でこの一撃を透かし、逆に反撃へと転じる――――のは、流石にイナミも予想は付いた事だろう。

 

 

だが、その手段までもが予想通りだったとは言えない。

…突如、彼の首周りに、ランドナの脚が絡みつく!

 

「ッ!?!?(ふ、フランケンシュタイナー!?)」

 

教えた覚えのないプロレス技を仕掛けられ、今まで以上に面食らうイナミ。

そのまま遠心力に振り回され、彼は付近の大木へと思いっきり投げ飛ばされた。

 

「ッが!?」

 

背中を強く強打し、肺の酸素が全て抜かれる感覚を覚える。

其処に間髪入れず…大量のIEDが飛来した!

 

息を突く間もない連撃に、しかしこのコンボを喰らってはひとたまりも無いと…回復し切らない身体に鞭を打ち、そのスピードを生かしてイナミはランドナへと飛びついた!

 

「ッらったぁ!」

 

「!、ッ…!」

 

同じく、身体を起こしきれていなかった彼に、速度の乗ったイナミはシャイニングウィザードを仕掛ける!

立てた片膝を踏まれた上での跳び蹴りを、しかし両腕のガードが間に合った事でそのダメージは鈍く、効果の薄いものへと抑える事が出来た。

 

 

一度後転したランドナは、今度こそ体勢を立て直し、ファルカタとコルヴォナイフを握り直す。

そろそろ大詰めだ…互いに、これ以上の長期戦は持ちそうにない。

 

「ハァ…ハァ…、やべえなオールレンジって、散々やって来たけど。

まあいい加減…在庫も切らしてきた頃だろう、よッ!」

 

「ッ!

問題、ないッ…!」

 

最早駆け引きなど関係ない…ここまで拮抗し合えば、最後にあるのは限界までの削り合いだ。

ククリとファルカタ…二つの切っ先が交差する。

 

どちらも肌を掠める事すらせず、空を切ったのみ…だからこそ終わらない。

 

 

間髪入れずランドナがフック気味のエルボーを繰り出し、それをスウェイで回避したイナミが、これまたフックの様にカランビットを振るう。

 

至近距離で迫る刃を、身体ごとくるりと回す事で受け流したランドナは、その回転の勢いでファルカタを振るい、首を狙う!

 

しかし直前、その攻撃を肩の根本から押さえつけた後、頸動脈を掻き切らんとククリをぶん回す…が!その直前、腹に強烈な衝撃が走った。

 

「ぐうッ!」

 

ランドナの(強化スキルも併用した)ボディブローが炸裂し、痛みに抱え込むイナミ…ここへ正しく「泣きっ面に蜂」と言わんばかりに、下がった頭へ膝蹴りをぶちかます。

 

今度は跳ね上がったイナミの頭目掛け、トドメの刃が迫る。

――――しかし、これこそ彼が狙っていた瞬間だった。

 

「ッ!そこだ!」

 

「なッ――――へぶッ!?」

 

反らされた身体を、自ら更に反らした上でのサマーソルトキック。

蹴り上げられて宙に浮くランドナへ、更にククリを投擲して追撃――――その刃は、限界を突き詰めて強化した特殊アーマー型の防具を貫通し、彼の身体に深々と突き刺さる!

 

「がはッ…!」

 

「終わりだ!」

 

今度こそとどめを刺さんと、イナミはカランビットでは無く、その素手の右手を突き出して跳躍した。

文字通りに心臓を抉り出す気だ。

 

 

 

 

 

――――その時、何かとすれ違った。

彼もまた動体視力に長けている…故に、自らの付近を落下した物体の正体にはすぐ気が付いた。

 

「…ッ!?(ククリ!?俺の)」

 

そうだ、目の前のランドナに投げて…突き刺したハズの、黒刃のククリナイフ。

みるみるうちに、彼の貌が真っ青になる――――イナミは、月を見た。

 

 

それは赤く染まり…中央には何か、否、歪な翼を広げた“誰か”が居る。

忘れるものか――――例え異形に成ろうとも、彼女が分からないなんて許されていいハズが無い。

 

「も、モニk――――」

 

「墜ちなさい」

 

ただただ冷徹に、この一言を言い放ったニモエルが…無量大数の細い光線を放ち、イナミを射抜く。

尤も、この攻撃自体は義手であった左腕に阻まれて効果は薄かった。

だが――――これでいい、十分な隙だ。

 

 

着地の瞬間!背後から迫る殺気に、漸く彼は気付く。

 

「ッ!

くそ」

 

「…ッ!!!」

 

イナミは迎撃として、神速の手刀横薙ぎを払った。

あまりのスピードによってそれは音速の壁を容易に突破し、余波で数m先の物体を切り裂き得る、危険な一撃だった。

 

――――だが、意を決したランドナは今この時、完璧な脱力状態にあった。

それによって放たれる瞬発的な、しゃがみと正拳突きの同時発動は…強化筋肉で構成された、イナミの鳩尾をグロテスクなまでに陥没させた。

 

彼が、ランドナが勝利したのだ…イナミに、敵わぬと思っていたスピードで。

 

 

この最高の一撃による余波が収まらぬ内に、股関節の関節可動域を全力に使った蹴り上げを顎目掛けて放つ!

 

 

高く上がった足を、今度は素早く振り下ろし――実は義足だった――イナミの足を踏みつけ、押さえつける。

 

最早、勝負は決まったも同然だ…ランドナの右手には、ファルカタが握られている。

 

 

 

イナミの心臓にファルカタが、深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 ~いつかの記憶~

 

ニモエル

「ねえ、少し…いいかしら、皆」

 

カーキィ

「?、どうしたの?

これから初ダンジョンアタック、って時に」

 

ニモエル

「その…大した事ではないのだけれど。

――――ユグドラシルにいる間は、それぞれのプレイヤーネームで呼んでみない?なーんて…」

 

カーキィ

「は?何で」

デルモん

「いいねいいね~!それ!

やってみようよ~!ええと――――モニモニ?」

 

リリューム

「ニモエルです」

 

カーキィ

「何でやる流れに…?

というかアンタ、リリュームって名前何よカッコつけちゃって。いくら本名がユリだからって」

 

リリューム

「ッ///!

そ、そんなこといったらっ…そっちのカーキィって名前、本名の読み方変えただけ――――」

 

カーキィ

「ま、それはともかく「ともかく!?」デルモゲニー、って何よ」

 

ニモエル

「確か…絶滅した細魚の小型種、だったかしら。

昔は観賞魚としてそこそこ出回っていたようね」

 

カーキィ

「あぁ、だからそんなビルゲニアみたいな名前…」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息も絶え絶えで、今にも黄泉の国へと導かれそうなイナミ。

胸を押さえ、付近の樹木に寄りかかる彼の前には…ランドナが居た。

 

未だ血のしたたるファルカタを手に、育ての親だった彼を見下ろしていた。

 

「…トドメは?」

 

「いや、いい。

せっかくの死に際だ…色々、思い出し、たい…」

 

介錯の申し出を断ったイナミは、その視界の先に居る2人の影を見た。

一人はニモエルだ…どうやら先の不可解な現象は、彼女が使ったスキルによる幻視らしい。

 

話半分に調べていた認識阻害・認識災害のスキルや魔法が、これほど厄介とは…自らの油断を笑って誤魔化す――――いや、違うな。

 

弟子が、子が、自分の思う以上に…強く育っていた。

イナミは「ははっ」と、血液で塗れた身体に反比例した、乾いた笑いを漏らした。

 

 

そしてもう一人は…自身が組織したパーティの一員だったダズ、いや、ダズ“だった何か”か。

こんな世界の、それも何だかんだか弱い人間種だった冒険者だ…どうせロクな死に方をしないとは思っていたが、まさか身体を化け物に乗っ取られる最後とは…しかもその後に恋人を喰らうなんて。

 

あまりにも彼のトラウマを刺激し過ぎる、壮絶な最後だが…それを引き起こしたのが、他でもないリトルレオンだと思えば…どう処理すればいいのだろう?。

 

もう何が何だか、と、思考を止める事しかできなかった。

 

 

「全く…いや、俺もアイツら守るために、無茶苦茶やり尽くしたっけ。

――――ああそうだ、一つ思い出した。前話した“ご神体”の事だリトルレオン」

 

「…何か?」

 

「冥途の土産だよ、一つ…教える。

間違いなく、【海神】の使者はお前じゃない…もっとマッシブな男だが、それはいいや。

けど…その、アーキタイプを創るのぁ、他でもない…お前だったんだ」

 

「…父さん、何のことか分かる?」

 

「いや…。

まあいい、続けろ」

 

そうきっぱりと言い放ったランドナは、念の為にと周囲やイナミ自身を注意深く見る。

 

「ッハハ、もう何企む気も起きねぇって…信じらんねぇか。

ま、肩透かしでも喰らってくれや。続けるぞ」

 

「…」

 

「相変わらず不愛想なこって、ジョナサンとしての愛嬌何処行った?

ともあれ、だ――――設計図はもう、持っているだろ?」

 

「ッ!?」

 

“設計図”

その言葉には覚えがあった、

 

それは――――嘗てウォー・トロールのダ・ドンから奪った、一冊の書物。

アレの内容こそ、多種多様な“オーバーテクノロジー”が記された設計図そのものだったのだ。

 

 

更にランドナは知っていた…この技術全てを組み上げる事で、何が出来上がるのかを。

 

「…もう、弾丸は放たれた。

放たれた弾丸は…どんな口径であれ、ソフトポイントであれフルメタルジャケットであれ、何かにぶつかるまでは、止まらねぇ…絶対に」

 

「何が…言いたい」

 

「どう意思を持つのであれ、お前は…絶対に――――【海神】をッ…カハッ!」

 

相当の無理をして、言葉を紡いだのか…イナミは大量の血を吐いた。

もう先は長くないようだ…それに、ここから無理をして助かろうとする男でもない、ランドナはそれを知っている。

 

 

「…殺さないの?」

 

「いいさ。

もう死んだのも同じだ…行こう」

 

ランドナとニモエルは振り返り、その場を後にした。

…それを見送らんと、イナミは残る力を振り絞り「怜雄ぉ!」と2人を呼び止める。

 

「…お前には、見えているか?

敵が――――」

 

…この時、ランドナの目には真っ暗な夜景色が映っていた。

正直【闇視(ダークビジョン)】なんて使えなければ…そんな後悔があったかもしれない。

 

ソレによって、はっきりと見通せる闇夜…あれら全てに、敵が潜んでいるのだから。

 

 

そうだ、俺達以外に味方なんて居ない。

元から全てが敵だったのだ…分かり切っていた、今回の依頼を聞いた後リリュームと話した時から。

 

もう今回の計画は…あの子爵だか公爵だかの主導で、もう引き返せない所まで来ていた。

仮にオスカーに自分たちの素性を明かした所で、もうどうにかなる段階じゃなかったのは確かだ。

 

 

皆、殺す他無かった。

冒険者の名簿表を全部、黒く、黒く、黒く塗り潰して。

 

 

「――――見えてるさ」

 

聞こえてるか分からない、けど…ランドナは問いに返した。

 

 

 

「…ごめんよ、みんな」

 

言いそびれてしまった、最後の最後に、謝罪を。

カッコつけて良い事は殆ど無い…死に際になって実感するイナミの――――いや、一匹の鴉の目に、誰かが写った。

 

「…クソ、お迎え…お前らかよ。

帰れ帰れお呼びじゃねぇ…クソ、世界跨いできやがって。アホじゃねーの」

 

まるで煩い蝿でも払うかのように、彼は力なく右手を振るう。

だが、実際にはそこには誰も居ない――――所謂、走馬灯か。

 

「――――マジで、クソ親父まで来た。

母さんと、セナ姉のとこ戻ってりゃいいのに…え、二人もいる?本当だ…来なくていいって…こんな死に方してさ」

 

どうやら親族まで来たようだ。

しかし状態が状態なので、その姿を見られたくなく…やはり追い払おうとした。

 

「…おいおいおいおい、お前らまで来るんじゃないよ。

揃いも揃って孫の顔も見せなんだクセに…いや、勝手に第173隊(イナミ)の名前使って、しかも昔みたいな奇行三昧したのは謝るよ、うん」

 

どうも“イナミ”という偽名の由来となった仲間たちまで見えたらしい。

そして次に見えた集団に、彼は「えっ」と今まで以上に驚いた。

 

「やめろやめろ…お前ら、そんな面識あったっけ?

木端用務員の葬式なんか来んなよ…夢の一つや二つ叶えてろって」

 

次から次へと見舞いに来る幻影に、一つ残らず悪態を吐く彼だったが……漸く待ち望んだ存在が見えた時、それも止んだ。

 

 

「――――元気、してたか?

やっぱ、お前は…俺と母さんの血だよ」

 

いい女になった…と、その“顔”を撫でると…差し伸べられた“手”を握った。

 

「また、せ、た…ね…。

いまから…かえ、る――――……ル、カ…」

 

鴉は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久方ぶりに“家”へと帰ったランドナ。

しかしそこに帰省の落ち着きなど無い…只々黒く暗く沈む感情だけがあった。

 

…娘達もまた、既に集まっている。

 

「…お父、様」

 

今まで冒険者として、彼と…そして現地の仲間たちと長く付き合ったリリュームは、未だに踏ん切りが付けられていない。

 

…父として、何も言わなかった。

ただその震える方を、そっと撫でただけで。

 

その空気を察して…他の姉妹も、そして山田も、口を噤んでいる。

 

 

「…皆、良く聞いてくれ。

これから暫く、外出は禁止だ…すまない。敵が、多すぎる…守りを固めよう」

 

家長としての指示を出し、そのまま返事を聞く事すらせず…彼は自室へと消えた。

 

 

 

かなり殺風景な自室の、一つだけある椅子に腰かけて…ランドナはある物を手に取った。

――――自身が冒険者として行動する際、常に身に付けていた、白い仮面だ。

 

もうこれを観たくない、この白を黒く塗ってやりたい。

只々静かに…これを持つ手に力が入り、けれども割る事は出来ず、力なく…その場に落とした。

 

 

…思えば、昔から自分を偽ってしか、他者と関われていない。

 

エンジニアという“符牒”は、本当に都合が良かった。

仕事では出来る限り使用せず…何処から見ても自然な状態にしていたのだが。

 

――――そうだ、ランドナは、町田怜雄は、単なる修理工等ではない。

今更の事実確認となるが、陳腐に言ってしまえば、そう…彼は“ヒットマン”だったのだ。

細かく言えば、一応の専門は「事故死」である。

 

確かに、全てが嘘では無かった。

フリーランスであるのは勿論、表向きのインフラ設備やナノ工事の仕事も請け負った事はあるが…結局、自身が混ざり気ナシの闇の住人である事を否定できない。

 

だからだ。

持ちうる僅かな手札を使い、真っ当に生きていると…そう“笑って誤魔化す”しか無かった。

 

 

…それが空しくなってしまったのは、いつからだろう?

昔は「そんなものだ」で、容易くカタが付いていた自分の心の内側が、徐々に痛みを訴えて来た。

 

彼にとって、感情とはモジュールだ。

便利に取って付けられる以上の、何物でもない。

 

14の時に死んだ想い人以外、この事を話した事は無かった。

赤裸々に語ったその時だって、共感を得られた様には見えなかった。

 

自分が異形、自身の精神が異形…そう感じて居た日々が、やがて彼に「全ての生き物にとって、結局自分以外は皆異形である」という思想さえも植え付けた。本当は“同種”や“同志”なんていない。そもそも「同」という言葉がある事にさえ懐疑を持つ。

 

…考えを突き詰めてしまうと、やはり感情なんてモジュール化して十分なくらい、とても軽い物のように思わざるを得なかった。

少なくとも彼は。

 

 

そうだ、単なるモジュール…けれども今、その一つか二つ、取り外してしまう事で…今の自分が崩れ去ってしまうのではないか?

42人目である事も、父親である事も…全て辞めてしまう、そんな恐怖の光景。

 

…見たくなかったモノを振り払おうと、ランドナは他の事を試みた。

 

 

彼は隣の机を見る。

 

そこには一つの音源記録装置…所謂レコーダーが存在する。

クラッシックな蓄音機めいたそれを操作すると、一曲の古いロックが流れた。

 

ずっとずっと、何かあったら…これを聴いている。

これを聴いている間は何でもない、ただ黒一色の存在で居られるから。

 

それでこそ…まだまだ強い自分を保てるから。

 

 

プラチナ級冒険者:“残滓子”オスカー

プラチナ級冒険者:“啄木鳥頭”イナミ

プラチナ級冒険者:“滑車弓”ジョナサン・ウイング

プラチナ級冒険者:ナターシャ・ウイング

現在、行方不明――――

 

 

 

 

 

 

情報求ム――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Paint It, Black

The Rolling Stones

 

 

I see a red door and I want it painted black

No colors anymore I want them to turn black

I see the girls walk by dressed in their summer clothes

I have to turn my head until my darkness goes

I see a line of cars and they're all painted black

With flowers and my love, both never to come back

I see people turn their heads and quickly look away

Like a newborn baby it just happens everyday

I look inside myself and see my heart is black

I see my red door and it has been painted black

Maybe then I'll fade away and not have to face the facts

It's not easy facing up when your whole world is black

No more will my green sea go turn a deeper blue

I could not forsee this thing happening to you

If I look hard enough into the setting sun

My love will laugh with me before the morning comes

I see a red door and I want it painted black

No colours anymore I want them to turn black

I see the girls walk by dressed in their summer clothes

I have to turn my head until my darkness goes

I wanna see it painted, painted black

Black as night, black as coal

I wanna see the sun, blotted out from the sky

I wanna see it painted, painted, painted, painted black

Yeah


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫、瓦礫、瓦礫。

見渡す限りの瓦礫で、所々陥没したこの場所を…つい先ほどまで、立派な屋敷が立っていた等と、誰が信じるだろうか?

 

尤も、数刻前の爆音を聞けば「それで崩れたのか」と納得しそうではあるが。

 

 

そんな地に、オレンジのスーツを纏った悪魔――――デミウルゴスは訪れていた。

 

「…全く、酷い有様だ。

まさかコレを…あの冒険者ジョナサン・ウイングの仕業だと言うのかね?」

 

彼が独り言ちる最中、瓦礫に一つ…燃え盛る何かを見つけた。

それが現在も炎上中の焼死体だと分かるや否や、それが手に持つ“燃えていない”冊子を奪い取った。

 

「炎を操るタレントだと聞いていたが…まさか自らも焼き殺すとは」

 

冊子の煤をパッパと払うと、デミウルゴスは死体を見下した。

一目置いていたのだが…結局は、この地の有象無象が一人でしか無かったか…と。

 

やがて火は急速に回り、あっという間に灰燼と化してしまった。

 

 

これでは研究材料としての価値すら無い。

興味を失った彼は、踵を返し…火が瓦礫に燃え移り、大火となる様など見ようともしない。

 

「お別れだ、オスカー」

 

 

 

 

唯一つ、炉心を歩く孤陰すらも。

 

 

 

 

 

 

 

*1
この二つの呼び名はそれぞれ別物を指すという説も有り。要情報

*2
チリ伝統の湾曲した刃物




私が手を拱いている間に映画界隈も色々ありましたね。
ジョンウィックではドニー・イェン他が大暴れし、そして年始にはスタローンを始めとする古強者俳優達のドンパチことエクスペンダブルズの新作が出て…ま、俺どっちも見て無いんだけどさ!まだね!(執筆時現在)



因みに「これってもしかして~~~、ってコト!?」みたいな質問はメッセージでお願いします。

今回の設定集?
あー、後で多分作る。

ぶっちゃけ、主人公(ランドナ)の正体の設定、気が付いてた?

  • 分からんわボケェ!
  • まあ、あれだけ匂わせたら…ね?
  • わ、分かってたし…(見栄張りたい人用)
  • え?何の話(高速流し読み勢)
  • がん × そーど (無効票)
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