え、遅れた理由?ええと…リアルで色々あって…それとエルデンリング。
シャッ…と、引いた刃が鮮血を放つ。
頸動脈を断ったその一撃は、感情を抑制された敵兵を即死へと至らしめた。
一般兵はこれでいいのに…と、ランドナは内心で愚痴る。
その一般兵の群れの中に混じる、異なる装備の――――便宜上“強化兵”と呼ぶそれらは、ただでさえちょこまかと動ける上に再生能力まで有している。
一応、頸椎(あるいは脊髄そのもの)を折るか斬るかをする事で、直ぐにとどめを刺せる…が、その脊椎や頸椎がえらく固い。ランドナの攻撃でなら余裕で破壊出来るが、シージ達では明らか威力不足である。
お陰様で彼ら総員で白兵戦を仕掛ける羽目になっているのだ。
例のハインドDの技術でも応用しているのか?予測する所で、今は意味がない。
…そしてその件のハインドDだが、相変わらず健在である。
落とせる手段があるなら、今すぐ教えて欲しい。
一応、ある程度の銃撃を集中させる事で、どうも突破口が見えた。
しかし結局の所、連続的断続的なダメージでは無く一度のダメージが必要らしく、撃墜に到らなかった。
…という訳で現在、敵陣のど真ん中に駆け込み、前述した白兵戦の展開に移った訳なのだ。
あんまりにも人間性が希薄な軍隊なので、ハインドDの無差別攻撃も警戒していたが…案外そこら辺の倫理観は残っているらしい。
寧ろ白兵戦の判断は、そこが一番の狙いでもあった。
相手の鬼札は、真っ向から挑むより…それを封じる方が明らかに賢明である。
「まさか敵の密集地帯が一番安全とはッ…」
「なあに、珍しい事でもないさ。
相手が見境のある内は…!」
シージの一人が強化兵のナイフを奪い首を断つのと同時に、ランドナが
「ッ…【
ウルフキックと並行して、彼は十数m先に召喚魔法を放つ。
この召喚魔法は爆発性の大型容器…分かりやすく言えば、PvEシューティングゲームでお馴染みの爆発するドラム缶のようなモノを召喚する魔法だ。
しょっちゅう赤や黄等の警告色で彩られるアレらだ…バイオハザード等でお世話になった者も多いだろう。
魔法自体の火力と、ランドナの異常な火力ステータスが合わさり非常に強力…ではあるが、ユグドラシル時代ですら爆発が味方をも巻き込む危険物だった為、ソロ或いは高度な連携のとれる味方が居る場合でしか使用しなかった。
そうでもなければ、自パーティの悲惨を見る事になる。
集団での使用事例は、アインズ・ウール・ゴウンでも上位のギルメンとの連携のみである。
…そう、彼の娘達ですら、これを使用した一瞬を見た事がないのだ。
その点、シージ達との連携は、かなり気が楽だった。
自分が生み出した事もあってか…かなり自分に似たニューロンを持っているのだ。
ランドナの意図を電光石火で汲み取ったシージは、咄嗟に何かの破片を爆破缶目掛けて投擲。
忽ち吹き荒れた爆炎は、効果範囲内に見える全てを消し炭にした。
「…あれ今まで忘れてたよ、存在」
心にもない事を、平気で本心のように語れる彼の事だ…本当に忘れていたかは不明である。
強烈な爆薬が一つ爆ぜた所で、そこはとっくの昔に地獄。
核でも持ち出されない限り、熱気の模様には何の影響も及ぼさない。
うんざりするほどに、戦いは続いているのだ。
「将軍、そろそろジリ貧では」
「冗談止してくれ。
初っ端からジリ貧だよ、コレ。それ前提で援軍待ちなのさっ…!」
そう語らう内、ランドナが強化兵の一人に飛びつく。
すかさず両膝両肘を神速の正拳4連撃で砕き、トドメに振り下ろした肘鉄が…大きく強化兵の脳天にめり込んだ!
いくら弾丸を頭に受けても再生する強化兵でも、これだけ大脳を破壊されると“機能停止”に陥る。
「…この方が速い」
誰にも聞かれぬ独り言と共に、白兵戦の有効性を噛み締める。
彼はガンナー職でありながら、近接攻撃の適性も高く備えているのだ。
尤もそのしわ寄せで、遠距離職としては有効交戦距離が短いのだが。
――――瞬間、激しい燃焼音が空を切った!
音のする方角から、飛来物の正体を察したランドナは、ヘルメットの下で顔を顰めた。
「とうとう見境が無くなったぞ、奴さんら」
「案の定、と言う奴です…将軍。
――――ローターにこの紐を投げてやるのはどうでしょう?もしあの障壁が常に張られているモノではない、攻撃に反応するのであれば勝算があります」
「ハインドDならそれで…いいや、ロープに強度が無いな。
仮にロープがすり抜けたとして…いくら何でも麻縄じゃ、振り切られるのが関の山だし」
彼らはジェド豪士では無い。
そもそも漫画を倣い、上手く行く事などそう有る筈もないのだ。
「…ま、兎も角これくらいなら最悪でも、まだまだ2か3時間余裕で行けるだろう。
――――シージ諸君、ここからが本物の地獄だ…もう敵陣ど真ん中でチャンバラごっこして生き残れやしない。
射撃戦及び白兵戦の判断は各自で行え、建物も使うだけ使うんだ。
所謂、アレだ…交戦規定は――――」
「――――“生き残れ”。
そうでしょう…貴方の教えだ」
「それも教えたっけ…まあいいや」
この直後、殺気を感じ…ランドナは頭をスッと下げた。
彼の頭があった所の…すぐ隣の壁が、飛来する弾丸によって小さく、そして複数爆ぜる。
すかさずシージ達が、反撃に転じた。
敵兵の射撃技術も素晴らしかったが、この極少数精鋭はそれ以上だ…瞬く間に、創造主に歯向かった愚か者を処理していく。
そしてランドナも、それを黙って見てはいない。
素早く愛銃フランツカフカを引き抜いて、手ごろな一般兵の脳天を貫きつつ、強化兵には牽制射撃を行う。
「ッシ!」
その隙に猛スピードで距離を一気に詰め、振り下ろすようなキックで強化兵の一人を撃破…この時の勢いを利用し、背後に寄って来た(もう一人の)強化兵をコルヴォナイフで切り裂いた。
しかし、強化兵――――いいや、それ以外の一般兵ですら、自身の異常な損壊を気にも留めない。寧ろ、自分の腕がY字に開かれていて尚も平然とする様を、見ている此方がげんなりとして来る。
そして脅威は歩兵だけでは無い。
ランドナより後方15m地点…何かが爆ぜて、複数の歩兵が吹き飛んだ。
ハインドによる空対地ミサイルだ。
幸い、シージに犠牲者は出なかったが…幸運が二度続くとも思えない。
「チィ…(ハウンド級ウォーカーの群れよかマシとは言え、これはマズイ)。
各員、散開!ツーマンセル以上になるな!一網打尽にされるッ………!?」
間髪入れず、機銃掃射が眼前を掠める。
どうも幸運が二度続いた様だった。
そして更に幸運が舞い降りる。
『父さん…父さん!今大丈夫!?』
「ニモエル…!
ああ、今ハインドDとその他多数にもみくちゃにされているから大丈夫だ!」
『大丈夫そうね。
――――単刀直入に言うけど、そろそろ出られそうなの』
「出られッ…邪魔だお前。
ニモ、あの“霧の壁”は結局こけおどしだったのか?」
近づいていた強化兵を肘鉄一発でノックアウトしつつ、ランドナは通信機の先のニモエルへと問い質した。
対して彼女は「ううん」と、NOの応答を返す。
「やっぱり、しっかりと壁だった。
――――けれども直ぐに突破手段が見つかったの、奴らの銃よ…正確には多分、その弾」
何という事だろうか…あの可笑しな光を放つ弾丸は、どうやら“霧の壁”同様未知の力を秘めていたらしい。
「俺達の攻撃では…ッ、起き上がんなよお前。
ダメだったのか?」
肘鉄で不十分だったのか…地面に這いつくばりながらも、ランドナにしがみ付く強化兵。
その背骨を思い切り踏みつける事で、ようやく機能が停止した。
『ええ、この変な弾だけ。
開く時間は大体30秒前後…1発で開く範囲は弾丸の口径分だけ、恐らくこの…ヒルマさんともう一人を通すだけで精一杯かも』
「その様子だと、そうだろうな。
…何あれ、非戦闘員の負傷者一人抱える状況が無くなるだけマシだ――――ユリ…じゃない、リリューム!そっちどうだ!?」
『はい、只今モモンガさんが救助隊を向かわせました…!
――――あ、今現場付近への到着報告が入ったそうです!町の南東側で合ってますか!?』
『ええそうよ、南東側…細かい場所はッ――――ダメ!気が付かれた!』
どうやら、ついにニモエル達救出班も敵に捕捉されてしまったらしい。
同時にランドナの元にも、再び機銃の魔の手が迫る!
彼はソレから逃げる為、全力疾走を開始した…ハインドDの、悪魔の様な掃射との鬼ごっこだ。
「ッ…(そう上手くも行かんか)。
…ニモエル、先ずは脱出口をバリケードで囲え。その次にヒルマとシージ一人を出せ、シージは誰でもいい、そいつに警護をさせろ。
アルベドには悪いが…彼女の防御力は正直残っててほしい」
『分かったわ』
この返事を後に、無線でのやり取りを一度終了した。
そして猟犬の様にランドナを追い立てる機銃は、やがて彼を壁際まで追い詰めた。
だが彼は一切スピードを緩めない…そのままの速力で壁へと向かう!
そして、あわや激突と思われたその瞬間――――彼は一時的に、その壁を垂直に上り始めた。
「ッ…!(全く、ここに来てからスタントプレイばっかりだ!危なっかしいッ…!)」
そして壁を全高の半ばまで登った所で、それを思い切り蹴って…地面と水平方向へと跳躍する。
この瞬間に機銃掃射とすれ違い、たったの一発だが…それがランドナの左手甲を掠めた。
今の一瞬は、まるで巨龍に立ち向かったと言う灰狐の様…いや、アインズ・ウール・ゴウンには“サイボーグの忍者”と(ランドナ以上に)言い表せる男が一人居る。
…あの作品では、ハインドDに立ち向かえたのに。
もはや古の英雄たる蛇を思いながら、彼はまた現実を見据えた。
戦闘ヘリに原理不明のバリアが張ってあるのが現実かよ…その愚痴を聞く者は、誰も居なかった。
~いつかの記憶~
秘書の男
「…失礼します」
重役の男
「どうかね?」
秘書の男
「死にました。
…CSS最終選抜精鋭部隊、通称【五番目の元素】全員」
重役の男
「…二十人だぞ。
奴が元々その一人で、CSS史上最も優れた兵士だったとしても」
秘書の男
「その二十人が束になって、彼一人にも及ばなかった…というのが事実でしょう」
重役の男
「貴様、奴の伝説を知らん訳では無いな。
どうする?もう残るは【村のアホ】共しか…ッ!ダメだ!あれでは奴をどうあがこうが殺せはせん!」
秘書の男
「…他の役員からも、これ以上の損失を出してまで“町田怜雄”一人を消す事に疑問の声が上がっております。
ここいらが潮時かと」
重役の男
「…。
あれこそ“触れ得ざる者”…鎌鼬、いや…鎌「獅子」か…」
「バリケードの構築完了。
穴も今すぐ空け始められます」
「ありがとう、シージの皆。
――――アルベドさんも。私達の指示に従ってくれて…」
「とんでもございません。
至高なる御方…そのご息女であるニモエル様の命令ともあれば、我ら守護者が従うのは当然の事」
深々と頭を下げるアルベドを見て、ニモエル自身は多少の狼狽えを見せた。
確かに…所謂“お姫様”的な事柄に憧れた事が無かった、と言えば嘘にもなる。けれども今更、しかもこんな時に。
まだまだ時間が欲しいくらいにはソレで
いつだってそう。
残酷な現実は、何時も空気を読まない。
敵兵の死体から、刺したままだったブロードソードを引き抜いた彼女は、アルベド…そしてシージ一人と共にバリケードを跨ぎ、その先へと前進した。
彼女らが殿を務めるのだ…!
「…想像以上に静かね。
相当数を蹴散らしたから、直ぐにでも増援が来るって思ったけれども」
「思いのほか、ニモエル様の“眼力”が効いた様ですね」
「…ふふっ」
「――――我々のジョークで笑ったのは、貴女だけです」
「そうね…お父さんそっくりのジョーク。
あとカーキィにも…」
「ッ…ニモエル様、増援が来ました。
――――シージ、準備なさい」
アルベドに呼ばれたシージの一人が、得物のチャンバーチェックの後、素早く彼女の元に駆け付ける。
「了解。
ニモエル様、余り前に出ないようお願いいたします。貴女も護衛対象の一人だ」
「ありがとう。
一先ず、こちらも補助役としての仕事はするわ…」
「頼もしい限りです」
~いつかの記憶~
幼き日の怜雄
「――――どう、分かった…?」
怜雄の想い人
「うーん…なんだろう。
後もう少し、何か…あたしの中で、噛み合いそうな…そんな感じ」
幼き日の怜雄
「そっ…か…」
怜雄の想い人
「じゃあさ…あたし達、違う方法で分かり合ってみない?」
幼き日の怜雄
「…?。
どういう事」
怜雄の想い人
「こういう事っ…!」
幼き日の怜雄
「!?!?!?!?、ゆ、ユウ!?
僕ら、まだ12――――――――えっ…!?」
怜雄の想い人
「いいじゃん…あたし、8か9の頃からオッサン相手にしてンだよ?
あ、それとも――――――――コレの事?やっぱり気付いてなかったんだ」
幼き日の怜雄
「どうして…。
顔も…、身体も…」
怜雄の想い人
「こういう事だよ…異形の他人ってさ。
でも…あたし達は“こういう関係”になれてンだ。不思議だよね」
幼き日の怜雄
「昔から…あるじゃん。
“人と化け物”のそういうのって」
怜雄の想い人
「だよね…それもそっか。
簡単な事なのかもね」
幼き日の怜雄
「…ねえ、僕、やった事ない」
怜雄の想い人
「大丈夫だよ、あたしがリードするから」
彼は…
だから碌な死に方などしない筈だ…
随分な先送りだったろう?
…偏に、運が良かったからだ。
やってくる
幸運だった…それが“鎌獅子”という壮大なサーガの、余りにお粗末な実情だった。
それは何時か尽きて然るべきモノ。
逃げて…んでもって死ぬ、それ以上のモノを怜雄は考えようともしなかった。
諦観だ、何の混じりも無い。
彼は何事に対しても無機質的であるとは前に説明したが、自分の命にだってそうだ。
いつかつまらん死体を、汚い貧民エリアの街角に晒すのだろうと。
物凄く分かり辛い、彼好みに語れば“コラテラルな”男…とでも言うべきか。
無論トムクルーズの方だ。
そうだと言うのに、だ――――ランドナはついさっきまで、(文字通りに)その自分が作り上げた怪物に身を変えてまで、悠々と生き残ってしまっていた。
ほぼ生きる気もそこまで無い男が…「生」に対して真摯に向き合った、他の同業者よりも生き永らえる。
ブッダよ寝ているのですか?なんて言葉があるが…まあ今まで本当に、その手の救世主や神は寝過ごしたのだろう…彼に下す評決の日に限って。
けど、今回ばかりは…ちゃんと運命が定時出勤を果たしたようだ。
この男のサーガに、漸くエピローグが綴られた。
中に浮く身体、身を焦がす様な熱気。
そして全身を走る痛みの信号…言うまでも無く「一撃喰らった」訳だ。
バフを得るための過剰なHP削りに被ダメージ増加…ランドナは喰らったら終わりなのは、言わずもがな。
思えば最初は、唐突に巻き上がった“砂嵐”だった。
厳密には吹き荒れたのは砂では無く研磨剤で、それに晒された者の方が正しく砂の城のように崩れ去って行った。
建物も、何もかも。
所謂サンドブラストと同じ物だ。
ここでの幸運は…思いのほかシージ達は皆軽傷で済んでいた事か。
だが、それが全ての【
砂嵐によって出来た、真っ新な闘技場的空間。
そして面制圧。
ランドナのビルドの、決定的な弱点が二つ抑えられた訳だ。
正直、それだけなら過去にユグドラシルでもリアルでも、経験が腐る程ある。
…ならば何故、彼は被弾を許した?
答えは単純――――普通にミスった。
高性能機械の様に正確な伝説的エンジニアにも“筆の誤り”があったようだ。
どさっ…と、彼の身体は、固い固い瓦礫の山へと叩きつけられた。
痛みを感じる、というか…感じるハズの痛みを知った彼は、更に意識が遠のくのを…こればっかりはしっかりと感じた。
あっ、死ぬんだ、俺…最早その一言すら出ない。
本当に詰まらない死に方だわコレ…それに至っては、言葉以前の感覚だった。
――――その時に思い出したのだ、
まあ無理もない、怜雄の人生は“彼女”によって始動したのだから。
彼女によって貧民エリア未満たる下水道の生き方を知ったし、言葉を知り、そして「他人と言う異形」という考えも植え付けられた。
…植え付けられたといえば“最初の経験”の時のアレと、それと二回目のボンテージ風ラバースーツ的コスプレとかいう性癖だ。
もう語るまでも無く、それは走馬灯だった。
あんまりにも下らない事まで思い出した事で、ランドナは走馬灯という現象の不可思議さを体感した。
そして、走馬灯はもう一つ…何かにとって決定的な記憶までもを呼び起こす。
「………お……ぼ……え…て…ま…すか…。
よぎり…まう……そらの…した…」
彼女が、ユウが「好きだから」と言って、事ある毎に口ずさんでいた歌だ。
「復讐という明日への一歩」という説明の意味は、後年知った訳だが。
「…おお……き…な…ゆ…めを…。
きかせ…て…く…れた…こと…」
続けて口ずさむランドナの、その声は本当に絶え絶えと言った様相だった。
音程だけは無駄に完璧なのは…彼の才能だろうか。
――――――そして、この歌の力と言うべきか?
もうじき消えていく宿命だった彼は、なんと
何の想いが舞い上がったと言うのか…彼は再び得物、つまり【銃】と【剣】を手に取る。
何はともあれ、結局は…「奴らを
…否、そもそも彼には“約束”があった。
久しぶりにに喰らうダメージで一瞬寝ぼけて吹っ飛んだが…思い出したことが意識の覚醒へと繋がった。
これも走馬灯が思い出させたのだろう。
しかし、喰らったら終わりのランドナが…どうして生き残ったのか?
今更ネタバレをすれば、敵軍の武器には、ある特殊なエネルギーの作用によってユグドラシルのスキルは殆ど機能させて貰えない。
ファンタジーの鎧を叩き潰す、冷徹なリアル…とも言うべきか。
最初の憶測含む警戒は、十分正しかった訳だ。
そんな力を持つ数十発の空対地ミサイルの直撃は、明らかにオーバーキルである。
本当に、どうして生き残った?
これまた答えは単純――――普ッ通にミリ残りした。
先程の「ブッダよ寝ているのですか」の続きになるが…まあ、救世主や神はこの度、珍しく定時出勤をしたと思えば…ささっと適当な仕事だけして、とっとと帰って寝てしまったようだ。
なんつうご身分である…確かにご身分な訳だが。
起き上がり、光が如き速度で状況判断を果たしたランドナ。
あのサンドブラスト擬きのせいか…まともな遮蔽物は周囲の何処にも無い。
彼は――マスク越しで分かったものでは無いが――何か、意を決した表情を見せた後…
そしてダダダダダダ…と、吐き出される銃弾。
連射速度からしてフルオート?いいや、セレクターの位置はセミオートを示していた。
セミオートで弾丸をバラまいているのか?
いいや、そんな無駄をする程度の判断力をランドナは持ち合わせていない…仮にばら撒くのであれば、普通にフルオートを用いる。
そして、その連射とテンポをほぼ同じくしてバタバタと斃れ逝く敵兵。
その全てが眉間を、寸分の狂いも無く撃ち抜かれている。
――――つまり、そう言う事だ。
故に彼は伝説なのだ…シューティングゲームに蔓延るフルパワーチーター共の挙動でさえ、彼の前ではクソエイムのアホヌーブ以下だ。(いや、チーターとは大概ヌーブなワケだが…)
この行為は今この瞬間が(彼にとって)初めてだった。
先ずゲームで行えば問答無用のチーター判定からのBAN直行である。
疑いを晴らすにも、彼の後ろ暗い経歴からして難しい部分が多い。
リアルでやるにしたって…そんな色々身も蓋も無いしリスキーな力技を行うくらいなら、ちゃんと判断力を用いた立ち回りで堅実に有利を得た方が良い訳だ。
精々クイックドローめいた射撃で2人以上10人以下の少人数を蹴散らす程度だ。
…車列の弾倉が空になると、素早く近場の物陰へ飛び込み、リロードを行った。
その間にも、今度はフランツカフカで目に見える敵の超速連続ヘッドショットを欠かさない。
唯一…このハイテンポが崩れるとすれば、それは相変わらず強化兵の存在だ。
元の防御力やら再生能力やらで無駄にタフな奴らは、けれども結局は車列の数発で沈む。
所詮は雑兵…いくら何でも100レべプレイヤーの火力には、まともに耐えれはすまい。
まあ、現状その数発がストレスフルであるのだ。
そんな時はファルカタの一斬りで斬首してやればいい…何だかんだ人体は、それで死んでくれる。
首の無くなった強化兵を、そのまま蹴飛ばし、奥の強化兵へ思い切りぶつける。
直撃音からして全身粉砕骨折は確定だ…果たして再生にいくらかかる?
…運よく、ランドナの不意を突けた一般兵が居た。
銃弾には件のエネルギーがある…当たればランドナは死ぬ。
対して彼は、その角度では銃は間に合わず、剣も距離的に間に合わない。
ならば――――と、彼が無作為風に振るったその手から、何かが飛翔した。
…投げナイフだ。
普通はユグドラシルプレイヤーでも気休め程度の火力にしかならないそれは、ランドナが扱えば一線級の火力さえ容易に叩き出す。
引き金を引く前に、鳥の羽めいたナイフに襲われた一般兵どもは…短い呻きを上げて、そのまま死んだ。
最早彼を止める者は――――いや、残念ながら、そして驚くべき事に居るのだ。
もはやお馴染み、無敵ハインドDである。
「…火葬されりゃいいのに」
心にもない悪態を付きながら、相変わらず見境の無い機銃掃射を…今度はその動きを読みながらしっかりと回避する。
…というか、よく見るとハインドD、いつの間にか2機3機と増殖しているでは無いか。
どうりで弾幕がやたら濃いわけだ。
普通にクソみたいな状況だが、先の走馬灯で“内なる何か”が完全覚醒してしまったランドナに、それをどうこう思うだけの感情は無い。
無情、ただ無情…総ては吹き抜けるそよ風、そして転がる石ころが如く。
敵対する戦士を討ち、血反吐を吐かせるのみ。
そうこうとゴリ押す内に、漸くマトモな遮蔽物へとたどり着く。
ランドナはそこへ飛び込む際、敵兵へのプレゼントとして熱核手榴弾を仕掛けた。
時限で動作する撃鉄が暴力的な熱エネルギーを溢れさせ、怖れを知らぬ――――それが故に向こう見ずな兵士数十名を一気に蒸発させた。
そして追い討ちに、彼は車列の弾倉に残った全弾を、全て一撃ヘッドショットに使った。
すかさずリロードに入るランドナ…それと入れ替えに、何処からともなくシージの3名が援護射撃に入る。
「…残りの2人は?」
「反対側で押し返しています。
それと将軍が倒れていた際の事ですが――――」
その時、再び例のサンドブラストが吹き荒れた!
もう2度も喰らっては堪らぬと、ランドナとシージ5名全員が散り散りに回避する。
とは言え、考えなしに散開した訳ではない。
ランドナが生来より持ちうるスーパーコンピュータめいた判断力と、それらを引き継いだシージ達が、それぞれをカバーし合える陣形に広がったのだ。
そして目指すは、まだ砂塵にやられていない…数少ない民家。
この道中にランドナは見た――――この砂嵐の出所を。
3mの巨体は、しかしそれ以上に…モダンな軍隊に囲まれた、ボロ布を纏う西洋甲冑の騎士という絵面の方が目立っていた。
その大柄な騎士は、まるでつむじ風の様にして砂塵を身に纏っている。
さっきから散々リアルっぽいモノで殴っていた割には…こんな所で世界の雰囲気に合わせて来た様だ。
…まあ、あの騎士もなんか違う気がするが。
ともあれランドナら囮役班は、目的地であった民家へとたどり着いた。
撤退に次ぐ撤退…先もネタにしたパイナップルARMYであれば、ここで必殺の一網打尽戦術が炸裂するだろう。
しかし、彼らにそれは無い…あの厄介な攻撃ヘリから逃げ続け、しかしそれを救出班の方に向かわせない様、必死に釘付けにしていただけに過ぎない。
「ッ…それで、話は?」
シージから先ほど聞きそびれた情報を、今ランドナが尋ねる。
「ニモエル様から報告です。
一先ず救助対象は“霧”の外に出したと、それと…」
「待て」
救出の完了に安堵するのも束の間――――忍び寄る気配を感じ、咄嗟にフランツカフカを抜き、構える。
しかし、引き金を引く事は無かった。
敵ではないと…直ぐに判断出来たから。
あまりにも見覚えがあった、直近の記憶だと…王都の裏路地で。
そして遥か昔には――――もはや言うまでもない。
妖艶さが溢れる魅力的なシルエットが、深々とお辞儀をすると…ランドナは拳銃を下ろして「そうか…そう言う事か」と呟いた。
「すまない。
あの時に気が付くべきだったか」
「とんでもございません。
あれは私めの失態にございます…至高の御方に気が付けない愚鈍さが恥ずかしい限りですわ」
「そこまで言わんでも。
――――所で、それは?」
彼が持ち込まれた、横長の物体――よく見るとアタッシュケースだった――について尋ねると彼女は「はい」と、丁重に答えた。
「アインズ様より預かった、ランドナ様へのお届け物にございます。
――――私が語るより、ご覧になった方が早いかと」
ガチャリと封を解かれ、開かれたアタッシュケース…その中身もまた、あまりにも見覚えが…いいや、こればっかりは忘れるはずも無い。
言うなれば、ランドナの聖剣…しかし呼ぶ名は多数あり、人によって伝わるかどうかもまちまちである。
…しかし、少なくともこの名が広く通っている。
「【
双頭を持つ、殺戮の代名詞は彼の手によって握られると、自然と装填口を開いた。
まるで主人の帰還を…その身ごと迎え入れるように。
ランドナは、クアッドロードによって瞬く間に弾倉を満たした。
感傷は悪く無いが、そういつまでも浸っていられない。
「…ありがとう、とんでもない援軍だ。
ついでに、少しこの場を手伝って貰えるか?人手はいくらでも欲しくてね」
「はっ…。
プレアデスが一人、ソリュシャン・イプシロン…何処までもお供いたします」
彼女――――ソリュシャンが再び深いお辞儀を行った瞬間、カースドフォースの装填口がジャキリと閉まる。
それは得物を前に、牙と殺意をむき出しにする獣が如く。
数センチに収められた、特級の地獄門が…現代的軍隊の群れへと向けられた。
そして吹き荒れるは、死に至るそよ風――――いいや最早これは、滅殺の大嵐…とでも呼ばなければ、まるで釣り合いそうに無い。
撃ち出される、凝縮された【破滅】…しかし、その【破滅】そのものが【破滅】を呼び、そして呼び出された【破滅】もまた【破滅】を口寄せする。
限界を知らないような、果ての無い火力の乗算に…誰もが耐えられなかった。
ハインドDのパイロットは、その様子に驚愕しながら…実際軽視していた。
地獄だ、地獄の恐怖だろう、アレは…けれどもそれで、自らが乗るコレが墜ちるなんて考えもしない。
だからこそ冷静に、冷徹に、そして素早く機銃をランドナへと向けた。
――――同時にその銃口と地獄門、パイロットとランドナの視線がぶつかる。
しかしそれも、取るに足らない一瞬の場面。
既にパイロットの視界で、景色が全て“色の着いた風”に変わっていた。
~久しぶりだからと張り切ったら、映画のパンドラム並みに属性過多になった記憶~
写真館タブラ堂にて…
ランドナ
「ハァ…ハァ…モモンガさん、もう逃げられませんよ…ハァ…。
早く装備脱いでください…」
モモンガ
「ちょ、待って!何!?え、これそういうプレイ!?何で!?本当に何故!?」
タブラ・スマラグディナ
「グヘヘヘ…いいから全裸になって下さい。
そしてそこの鉄条網でターミネーター2のサラ・コナーの悪夢をやるんです」
モモンガ
「だから日本語を話して――――いやーっ!来ないでーっ!」
ランドナ
「このっ…暴れんなよ暴れっ――――あ、手が滑っ…」
デンデンデーン!デンデンデーン!
タブラ・スマラグディナ
「あっ!珍しく尻もち付いたランドナさんが、そのまま【火曜サスペンスの冒頭の殺人現場みたいなアレ】に飛び込んだ!
これはもう完全に本日の被害者だ!」
ペロロンチーノ
「何だその説明口調」
ランドナ
「因みに【罪を告白して飛び込み自殺する崖】もあったりするんですよ」
死獣天朱雀
「正しく“死体が喋っている”ですね」
ぶくぶく茶釜
「しかし…モモンガさん、やってしまいましたなぁこれは」
ランドナ
「フッヘッヘッヘ…黙って欲しけりゃあ、出すモン出すんだな…グヘヘヘ。
――――あ、死体が喋っているで思い出したんですけど【宇宙空間を遊泳するサメ】もありますよ」
モモンガ
「あの、情報量」
写真(モモンガによる「サラ・コナーの悪夢(ターミネーター2より)」)
「で、俺が生まれたってワケ」
ランドナ
「そういえばタブラさん、イベント・ホライズンのヤツ作りました?」
タブラ・スマラグディナ
「あーすみません、それ来週まで待って欲しいです」
登場してから随分間があいたね、例のショットガン。
あ、そうそう。どうでもいいけど、25話をちょっくら加筆修正しました。