ロラン・セアックはミオリネ・レンブランのお付きである。

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「なんとかしなさいロラン!」 

「そんな無茶な!」

こんな話です。


ロランの後悔

 

 人工灯が降り注ぎ無機質な壁に覆われている連絡用通路をロラン・セアックは無重力を感じながら移動していた。

 右手は無重力下での移動を可能とするレーンを握りしめ、左手は携帯端末を持ち、両眼は端末に映る通話中という文言を見つめている。

 レーンに身を任せながら端末から出る音を注聴するその様子からはどことなく焦りが見えていた。

 

(お嬢様はどこへ行ったんだろう……)

 

 プルルルル。プルルルル。プルルルル。

 あいも変わらず流れ続ける単調な発信音を耳にしながら、彼は深いため息をついた。

 

 近頃様子がおかしいとは思っていた。

 以前から父親から離れたいと仰ったり、ホルダー諸々の縛りから解放されたいなどとお思いになっていた御方ではあった。

 だが突然なんの連絡もなしに行方をくらますとは、いくら数年間お目付け役を務めてきた自分でも予測不可能なこと。

 完全にお嬢様の行動力を見誤っていたとしか言えない。

 

(そりゃ僕はデリング総裁側の人間ですけど……書き置きぐらい残してくれてもいいじゃないですか……)

 

 胸に広がる苦い思いを噛み締めながら、コールボタンを再度押す。今日で何十回目になるかも分からない発信音が発せられた。ため息が広がる。

 

 移動用レーンが途切れ、目的地の輸送船収容ハンガーに到着。

 ここへと向かっていたのは、脱出の為なら輸送船を利用するだろう……という安直な予想によるものであった。もっとも、あのお嬢様ならそんな安着な手段はとるとは考えられないが。

 その上行方不明発覚時から既に数機は発艦している。

 そしてハンガー内を捜索しようにもハンガーはそれほど狭いわけではない。

 応援のSPを呼んではいるが、その全てを動員してもハンガーから探し出すのはそれなりの時間がかかるであろう。

 頼みの綱であるトレースシステムも、当然のごとく機能しない。おそらく端末ごと処分でもしたのであろう。

 つまるところ、彼女の身柄を確保するのはほぼほぼ不可能とも言える難題であった。

 

(お嬢様を見失い出奔を許すなんてこれはどうなるか分からないや……解雇で済めば良い方かな)

 

 途方に暮れた彼は、収容ハンガーの強化ガラスの外を見つめて再びため息を吐いた。

 

(これからどうすればいいんだろう……また月に戻って坑夫になるしかないか?)

 

 彼は元々月面パーメット鉱山の抗夫だった。

 ベネリット・グループが所有する鉱山の一つ。パーメットの採掘に従事する一抗夫。その程度の人間でしかなかった。

 そんな彼だったが、ある日ひょんなことからグループ事業部へと起用。あれよあれよという間に、総裁の一人娘ミオリネ・レンブランのお目付け役へと就任していた。

 そのような重大な役職というだけあって、その賃金はかなり高い。それこそ抗夫をしていたころの何倍も。

 だからこそ、その任を解かれるというのは彼であっても──少々、耐え難い。

 

 ネガティブな考えが脳を埋め尽くす。

 暗い表情のまま、何となくハンガーの()を見つめる。

 学園を包み込む大宇宙(おおぞら)

 放射線が飛び交い、大抵の生命体を拒む真空の死の空間。

 今でこそ人類が闊歩し巨大経済圏を構築している世界だが、それでもなお大部分は未開の地だ。この世界において人類はあまりに脆い。

 だがそんな青さと暗さに支配された死の世界は、己の現状をちっぽけに思わせた。

 

 そうだ、今はいい。今だけは。今だけは、この宇宙に身を委ねて……

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……あれは? 

 

 宇宙空間に人影。

 すぐさま端末で拡大。ノーマルスーツ。なぜあんなところに……? それにあのサイズのスーツは……。

 

「まさか!」

 

 合点がいった。

()()お嬢様が輸送船に紛れ脱出などというリスクの高い手段をとる筈がない。

 おそらくは宇宙空間に漂っているところを逃がし屋に回収される──そういう手筈なのだろう。

 

 分かったらこうしてはいられない。

 まずはフロント管理社に漂流者が出ていると連絡。そして回収の後各方面に然るべき対応を──。

 

「ん?」

 

 推定お嬢様が手を振っている。

 必死に、何かを否定するように。

 何に向かって? 

 

「えっ」

 

 お嬢様の前方から、一体のモビルスーツが現れた。

 女性的なフォルムに、トリコロールカラー。

 工業製品としての力強さと、芸術品のような美しさを同時に感じさせる機体だった。

 

 モビルスーツはお嬢様を掌で包み込むと、胸部コックピットを開き内部へ取り込んだ。

 モビルスーツのマニピュレーターで人間を握りつぶすことなく確保する。

 一見容易な作業に思えるが実際のところそう簡単にはいかない。

 熟練のパイロットでもそうそうやらない、かなりの技量を求められる動作なのだ。

 それをやってのけたあのパイロットは経験豊富な人命救助の一流なのだろう。

 ロランはそう確信した。

 

 

 

 ──プルルルル。

 

 思わず、反射的に応答モードに切り替えた。

 架電者は──ミオリネお嬢様。この一時間待ち望んでいた電話主だった。

 抑えようにも抑えきれない苛立ちをあらわにし、通話を開始する。

 

『もしもしロラン?』

 

「もしもしじゃないですよ! どれだけこっちが心配したと思ってるんですかコールにも応えないで!」

 

『あー悪かったわね、それでちょっと頼みがあるんだけど』

 

「もう少し反省してる素振りを見せてくださいよっ 

 ……それで、なんですか頼みって」

 

『今から()()の乗ってた船で戻るけど、その乗組員とか監査員への説明、カメラログの改ざんやっといて。あとこのノーマルスーツ所定の位置に戻しときなさい。あ、使用履歴もちゃんと消しとくのよ』

 

 

 ──お嬢様。

 それは犯罪です。立派な。

 

 ロランは思う。

 もしかしたら、お目付け役より月のパーメット掘りの方が良かったかもしれない。

 嗚呼、あのとき、()()を掘り出すことがなければ。

 少なくともこんなことにはならなかったのだから──

 

 

 

第一話 ロランの後悔

 

 

 アスティカシア学園深部のモビルスーツ格納庫。そこに一体、異質なモビルスーツが収納されていた。

 

 ジェターク社・ペイル社・グラスレー社。それらの保有するどのMSとも大きく異なる外観である。

 白を基調としたトリコロールのカラーリング。

 特徴的なコックピット。

 そして何よりも目につくのは、頭部に装着されている三日月型の()()であった。

 

 それは出番を待ち望んでいる。

 今か今かと、主人を待っている。

 

 そしてどうやら、その時は近いようだった。

 

 

 

 




Gジェネあたりで見たいコンビですね。マジでね。

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