辺境伯領と蒼水の祝福   作:畑渚

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執筆の息抜きに書いていたものです。連載予定ですが、あちらの作品を優先するためこちらは不定期になると思います。


第1話

 そろそろ限界か……

 

「おい!そっちにモンスターが行ったぞ!」

 

「わかってる!電撃(ライトニング)!」

 

 私は剣を構えているだけで良かった。あとはパーティの皆がやってくれるのだから。

 

「前衛突破してきたぞ!」

 

「お任せください!鎌鼬(ワールウィンド)!」

 

 後衛を守るのが私の役割()()()が、新入りの子によってその仕事が回ってくることはない。

 

 もう、このパーティが私を必要とする意味がないような気がした。

 

 

❍✕△❑

 

 

「というわけで、私はパーティを脱退しようと思うよ」

 

 酒場で冒険後の打ち上げをしている最中、私はパーティの皆にそう打ち明けた

 

「そんな!ヘルマさんがいたから俺たちはここまで成長できたんすよ!?」

 

 パーティリーダーを務める彼は、田舎から一攫千金を目指し飛び出してきたわんぱく坊やだった。しかし今では、王都でも指折りのパーティを率いるリーダーとして名を馳せている。

 

「そうです!ヘルマさんがいなかったら私たちは……」

 

 彼女はリーダーの幼なじみとして、時に厳しく、時に優しくパーティを支えてきた、いわばパーティの母親のような存在だった。

 

 他にも盾役としてチームの大黒柱になっていた者、聖職者でありながらも残酷な冒険者の世界に身を投じた修練者。そして……

 

「もしかして、私が入ったからですか……?私がヘルマさんのポジションとかぶるから」

 

 一番最近入ってきた新人の女の子。甘え上手でパーティの皆から妹や娘のように扱われている彼女は、その特徴的な獣耳をペタンと伏せながらそう尋ねてくる。

 

「もちろんそんなことはないよ。君のせいだなんてことはない」

 

「っ!それじゃあどうして!?」

 

 言うかどうか迷い、一つ深い息を吐く。脳内ではわかっていても、改めて言葉にするとなるとさすがの私も躊躇した。

 

「限界なんだ、もう私は。もう君たちの冒険についていくことができない」

 

 パーティメンバーは誰でも、他の冒険者からも涎垂の強いスキルを持っている。しかし私はそんなスキルはなく、ひたすら剣と経験のみで彼らを追いかけていた。

 最初は生存すら危うかった彼らは、無事に私から知識を吸収し、そして王都でも名のある冒険者へと成長していった。私の役目は、もうこれまでだ。

 

「そんなことはないっすよ!まだヘルマさんにたくさん教えてもらいたいことが――」

 

「それ以上は言うんじゃない」

 

 盾役の彼がリーダーの言葉を止める。

 

「ヘルマさんだって軽い気持ちで決断したわけじゃあるまい。それを止めるのは漢じゃないぞ、リーダー」

 

「……すまないっす」

 

 皆、優しいパーティだ。本当にこのパーティと活動できて良かった。

 

「そういうわけで私はお暇するよ。なに、死別するわけでもないのだからまた会えるさ」

 

 最後にエールをぐっと飲み干し、私は席を立ち上がる。

 

「ヘルマさん、俺……」

 

「期待しているよ、リーダー。君はもっと高みに行ける。私がそう保証するさ」

 

「……っ!いままで、ありがとうございました!」

 

 他のパーティメンバーも立ち上がって、私に感謝の言葉を述べた。それを背中に受けながら、私は酒場を後にした。

 

「さて、どうしようか」

 

 決心してパーティを抜けてきたものの、実のところ行く宛はない。ああ行った手前王都にいると気まずいし、どこか遠くに旅してみるのも一興か。

 しかし縁のゆかりもない土地に行くのも気が引けるし、せっかくならば何かきっかけが欲しい。

 

「ああ、どこかに辺境伯の娘でも落ちてないかなぁ」

 

 そんなことがあるわけがない。ましてや事件を抱えた辺境伯の娘だなんて、会える確率は人に害のないゴブリンに出くわすくらい稀だろう。

 

 口寂しさに干し肉を噛みながら夜空を眺め歩く。王都の夜はまだまだ明るい。

 

 

❍✕△❑

 

 

「そこのお方……助けてください。私は伯爵令嬢、報酬はお約束しますわ」

 

 落ちてた。伯爵令嬢が落ちてた。しかし見るところによると、長旅のあとに盗賊にでも襲われたのか、衣服は悲惨なものだ。

 

「おいおい、そこの兄ちゃん。怪我したくなかったらおとなしくそのお嬢ちゃんを渡しな」

 

「王子様気取りなんてするもんじゃないぜ。せっかくきれいな顔してんだから、その顔ボコされたくなかったら回れ右して帰るんだな」

 

 典型的な盗賊の二人組と、彼らから逃げる令嬢。そんな場面に出くわすとは私も想定外である。

 

「おう?なんだやるのか?」

 

「報酬に眼がくらんだのか?やめときな」

 

「報酬じゃないさ。せっかく最近は治安が良くなってきた王都なんだ。君たちを放っておくわけにはいくまい」

 

「けっ英雄気取りかよ」

 

「泣きわめいても知らねぇからなァ!」

 

 襲いかかってくる二人組。見た目こそ盗賊だが、典型的な『冒険者になるにはいろいろと足りなかった』男たちだ。

 

「ぐわぁ!」

 

「くそ、冒険者かよ!」

 

「喧嘩を売る相手を考えたほうがいい。この先も生き残りたいのならな」

 

「くっ、逃げるぞ!」

 

 颯爽と夜闇に消えていく二人を確認して、私は振り返る。

 

「お嬢さん、怪我はないですか」

 

「えっは、はい」

 

「それは何より。挨拶が遅れました。冒険者のヘルマです」

 

「はい。この度はお手間を取らせて申し訳ありません。私はソフィー・アンダーソンと申します」

 

「アンダーソン伯爵家のご令嬢でしたか」

 

「あら、貴族社会にも知見のある方ですのね」

 

 アンダーソン家といえば、辺境である西の土地を納める伯爵家だ。伯爵自身は武勇に長けており、その武力を用いて西側勢力を統治していると聞く。

 

「いえ、小耳に挟んだ程度です。それに一冒険者としては、アンダーソン伯爵の武勇に興味があったもので」

 

「なるほど。たしかに冒険者の方からすれば、お父様の実力は耳に入るでしょうね」

 

 まあそのほとんどが、一人でダンジョンを制覇しただの、敵対している村に単身で乗り込み制圧しただの、眉唾ものではあったが。

 

「それで、どうして伯爵令嬢がお一人でこちらに?」

 

「それが……」

 

 曰く、年に一度王都に向かうのだが、その最中にこのおてんば娘は抜け出してきたとのこと。そして一人で迷宮のような王都を巡っていたところで、盗賊たちに襲われたとのことだった。

 

「……自業自得では?」

 

「でも仕方ないじゃありませんの!せっかくの王都だというのに、お父様ったら『観光しに来たのではない』の一点張りですの!」

 

 まあそれもそうだろう。辺境までは早馬でも7日かかると聞く。何か用があっての訪問に違いない。

 

「とりあえず、伯爵の元までお送りしますよ」

 

「うう……はい、お願いします」

 

 何度かは駄々をこねたものの、『ここにおいていきますよ』と脅したらようやく言うことを聞いてくれた。このおてんば娘に、きっと伯爵も頭を悩ませているだろう。

 

 

❍✕△❑

 

 

「なるほど、君が私の娘を助けたという者か」

 

「ヘルマと申します。偶然通りかかったものですから。神のお導きであったかもしれませんが」

 

 私の目の前に立つ大男、彼こそがアンダーソン伯爵だ。筋骨隆々でありながら、顔つきは渋い男のイメージどおりで、既婚して娘がいるとは思えない人気の出方も、理解できる。

 

「神か。なるほど、たしかにこれは神の導きかもしれぬな」

 

 顔をあげずともわかる。彼は何かを企み、そして笑っている。

 

「よし、ヘルマ殿。褒美だ、受け取れ」

 

「えっ」

 

 そう声を上げたのは、伯爵の隣に控えていたソフィーだった。

 不意にぐっと引き寄せられた勢いで、ソフィーは前のめりに倒れそうになる。私は急いで前に踏み出し、彼女が倒れる前になんとか()()()()()

 

「よし、受け取ったな。では後の話は領地に帰ってからしよう」

 

「え、えっと伯爵?」

 

 未だ腕の中のソフィーも状況が把握できていないのかキョトンとしている。

 

「何だ、口で言わねばわからぬか」

 

「いえ、その……お願いします」

 

「ふむ、賢い男だと思ったのだがな」

 

 いや、実際はわかってはいた。わかってはいるが、もし違ったのならば私が恥をかくだけだし、この腕の中の彼女を早く立ち直らせなければいけない。

 

「褒美としてうちの娘をくれてやる。ヘルマといったか。今後は俺の婿養子として領地に来ると良い」

 

「えっ……えぇ」

 

「そんなお父様!?」

 

「なんだソフィー、嫌なのか」

 

「それはその……」

 

「なに、お前が夢見ていた王子様ではないか。危機から救い腕に抱えてくれる、そんな男が良いと言っていたではないか」

 

「でもあまりに急すぎます!」

 

「反論は許さん。もし異議があるのなら、結果を出してから言うのだ。それが漢というものだ!」

 

「えぇ……お父様、私は女です」

 

「気にするな!」

 

 アンダーソン伯爵は、それはそれは愉快なお方だった。

 それに見る目も良い。値踏みするような視線を感じていたが、もしかすると『鑑定』系のスキルをお持ちなのかもしれない。

 

 

 

 

 しかし、敢えてしかし一つ彼には決定的に間違っていることがあるとすれば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私も女である……

 




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