ソードアート・オンライン イフ・メモリーズ 作:虚無の魔術師
『───GUOOOOOOOOOッ!!!』
「全員!避けろ!!」
【
「ひ、ひぃ───ッ」
死に怯えるプレイヤーたちに迫る刃を止めたのは、両目を伏せた青年であった。腰の鞘から抜き放ったショートソードにより受け止めた剣を滑らせ、そのままプレイヤーたちを避けるように逸らす。
「───ふむ、大雑把。容易い太刀筋だ」
「「スイッチ」」
その隙を狙ったのは、二人の男女───兄妹であった。イーラとその妹、二人は息の揃った動きで大剣と小刀を、ガルムへと叩き込む。仰け反ったガルムから目を離したイーラは腰を抜かしたプレイヤーたちを見下ろし、吐き捨てるように一言。
「雑魚が、引っ込んでろ」
「………お兄様の言う通りです。死ぬ前に、お下がりを」
物腰の柔らかく、優しい声で少女はそう諭した。慌てて腰を上げて後ろに下がったプレイヤーたちを尻目に、イーラはすぐに前線を縮めてきたキリトやルフトを睥睨し、淡々と言う。
「───遅い。もっと速く出れたはずだ」
「…………無茶言うなよ、他の人達を助ける最中だったんだ」
「ふん、なら他の奴等を前に出すな。俺と妹、あの盲目だけでやる───多少は削るから、様子を見て割り込め」
そう命じるや否や、飛び出すイーラ。妹らしい少女はペコリと礼儀正しく一礼してから、兄の後を追った。その様子を見届けたキリトやルフトに、続いて来たアスナやミトが合流する。
「何アレ、嫌な感じ」
「…………いや、言い方は悪いけど。良い人だよ、現に俺達に猶予を与えてくれる」
「猶予?どういうこと?」
「───ガルムの戦闘パターンを、全て引き出すつもりだ」
ベータテスターであるルフトやキリトには、イーラの狙いが分かっていた。敢えて少数で戦うことで、新規ボスであるガルムの戦闘パターンを把握させるという目的なのだ。ある程度、相手の攻撃や行動のパターンを予測できれば、どんなプレイヤーでも死ぬ可能性を減らせる。
───ガルムの戦闘パターンは、ある意味単純であった。野獣のように四本脚で動き回り、時折大剣を粗雑に振り回す。厄介な動きは、相手が集まった瞬間に発動する跳躍叩きつけ攻撃だろう。あの巨体と機敏さから放たれる殴打の衝撃は広く、直撃すれば軽装備の剣士は即死となりうる。
何よりも、面倒なのは───。
「っ!」
「イース!大丈夫か!?」
「はい、お兄様………気を付けて下さい。さっきの攻撃、『掴み』です」
空いた手を使った、掴み攻撃。アレに掴まれば、問答無用の大ダメージは必至だ。しかも、掴み攻撃を避ければ、無造作に振り回した大剣を回避しきれない。あの少女が全力で飛び退いても、掠り傷は防げなかった。明らかに技のコンボが厄介すぎる。
その情報を見届けたキリト達の動きは迅速であった。即座にディアベル達、待機していたプレイヤーへと共有する。指揮塔として皆に信頼されていたディアベルの指示により、頃合いを見てガルムを狙うことになった。
「っ!これ以上は限界か!おい、代われ!」
「───っ、分かった!今行く!」
イーラの呼び声に、ルフトが応える。真っ先に飛び出した青年は、盲目の剣士と思われる青年がパリィをした直後、『スイッチ』で入れ替わる。そのまま、ガルムが振り回した腕を避けながら、長剣で切り払った。
『───GYAAAAAAAAAA!!!』
「ッ!やっぱりボス、一人でやるのは………キツイな!」
ボスの猛攻に、ルフトは攻めきれない。他の三人は体力を半分切った為、下がっている。ここは一人で対処するしかないのだが、それでも少し意識を抜けば、一撃で体力を大幅に持っていかれる。
集中のあまり、脳が焼き切れるかと思いながら、ルフトは剣を振るい、動き続ける。少しずつ体力も減っていき、振るわれる剛腕の回避が遅れた───その瞬間。
「───てぇいっ!!」
割り込んできたミトが、剛腕を弾き返す。そのまま暴れ回るガルムの猛攻をミトと共にいなしていた所で、キリトとアスナも入ってくる。
「………危ないっ!何とかなった!」
「ちょっと!ルフト!前に出すぎ!」
「全くだ………少しは自分のこと考えて動いたらいいんじゃないか?」
「あはは…………ごめんね、皆。ありがと」
安堵するミトに、アスナが軽く叱るように窘め、キリトが呆れながら笑う。ルフトが笑顔を浮かべ三人に礼を述べると、ガルムの猛攻に再び挑みかかる。その光景を静観するしかなかったプレイヤー達の空気を、破るものもいた。
「俺も行くか、アイツらにだけ無理をさせるわけにはいかないからな」
「───腰抜けどもは引っ込んでろ!それ以外の馬鹿が居るんなら!行くぞぉ!あのプロの連中に遅れを取るな!死ぬ気で死なないようにやるぞ!!」
勇み足で突っ込んだエギルや、周囲に呼び掛けて仲間と共に共に前進したフレイヴの怒号に、多くのプレイヤーも付き従い始めた。キバオウも「誰が腰抜けやぁ!」と吠え、前線に続く。互いに庇い合いながら、ガルムを少しずつ追い込んでいく。
ようやく、ガルムに表示されたHPゲージが半分を切る。残り一本のあと少しとなった状況に、油断すること無く相手をしていくキリトとルフト。体力の減った者たちは既に後退している。後はルフト達が削りきれば、勝ちであった───その時だった。
「───俺も前に出るぞ!!」
「あっ!?テメェ!?」
「……………」
そう叫んだのは、指揮に徹していたはずのディアベルであった。突然の行為にフレイヴが目を見開き、イーラが何かを察したかのように目を細める。そのままショートソードを手にして突っ込んできたディアベルはキリトやルフトの横を突き抜け、あと少し残っていたガルムへと鋭い一撃を叩き込んだ。
『Gu、Aaaaaaaaaa───ッ!!!』
断末魔を上げたガルム。ディアベルの放った一撃は、ガルムのゲージを完全に削り取り、命を奪い去った。狂気に呑まれた英雄だったモノは音を立てて倒れ込み、ピクリとも動かなかった。
そんな状況に、理解が追いついたかのように───誰かが声を発した。
「倒した…………倒したぞぉ!!!」
続けて響き渡る歓声。一回層のボスとはいえ、ようやく倒せた相手だ。喜びに満ちたプレイヤー達は、勝利を噛み締めるかのように盛り上がるのだった。───ごく僅かなプレイヤー達を、除いて。
「…………」
「…………ディアベル、アンタは」
ボスを倒したはずなのに、喜びを感じさせないディアベル。彼の様子にキリトとルフトは何と言うべきか分からずにいた。何故ディアベルがボスにトドメを刺そうとしたのか、その理由に心当たりがあったからだ。
二人の視線から目を離したディアベルは、即座にポーチを開く。ルフト達の視線が何を聞こうとしているか、気付いていたのだろう。申し訳なさそうだったディアベルだが、すぐに彼が「…………え?」と戸惑う声を漏らした。
「………ない」
「え?」
「ラストアタックの、レアドロップがない?」
その発言を聞いた瞬間、ルフトやキリトは気付いた。ディアベルの後ろに転がるボスの亡骸───息絶えた、元の英雄の残骸。それは消えることなく、残っている。
───SAOのモンスターやプレイヤー、ボスも含めて、死んだ場合は破片となって消え去るはずなのだ。
「ディアベル!逃げろ!」
「………え?」
「───まだ、ボスは生きてるぞ!!」
─────呆けたディアベルの体を、無造作に振り回された腕が払い除けた。そのまま吹き飛ばされたディアベルを、イーラが雑に掴む。勝利を喜んでいたはずのプレイヤーたちは、突然動き出した亡骸を凝視して、硬直していた。
突如動いた腕は、撃破された時に千切れたものであった。それはトカゲの尻尾のようにピクピクと跳ね、禍々しい色の触手を伸ばす。倒れ込んだガルムの腕に無理矢理接続したソレは、ガルムの鎧から漏れ出していた。
命を失ったはずの、鎧が黒い触手を指のように伸ばし、胸に突き刺さった大剣を掴み、引き抜く。それを無造作に放り投げると、ゆっくりと首を上げた。生命の気配を感じない鎧の頭部が怪しく蠢いたかと思うと─────口の中から、禍々しいモノが覗き込んだ。
『─────!』
二つの瞳を輝かせた、影のような魔物であった。ソレはガルムだったモノの鎧を動かし、黒い触手をうねらせている。無理矢理口を押し上げたように這い出たソレはガルムのクチから顔を見せながら、理解できない声を発する。その瞬間、ボスのHPゲージが一本だけ全快する。そして、名前自体も変化した。
【
「こ、コイツ!第二形態とか聞いてねぇぞ!?」
「厳密には別物だ!あのボスに、元英雄に寄生してやがった化け物が出たんだろーよ!!」
第二形態、厳密には別ボスへと変化したガルム─────【災厄の種子】が触手を振り回す。黒い触手から飛び散ったドロのような液体が蠢き、小さな魔物へと変化していく。
【カース・ポーン】と呼ばれるその魔物は他のプレイヤーたちへと襲いかかり始める。【災厄の種子】の相手をできるプレイヤーも少ない、今ここでアレの相手をできるのは─────ルフト達以外にいなかった。
『─────!!』
触手を振り回した【災厄の種子】。ジュルルル、と唸る触手をムチのように振り回した怪物に、ルフト達は飛び退いて回避する。事前に打ち合わせしていた彼等の動きは、迅速である。
────三人とも、聞いてくれ。あのボスの弱点はあの傷、もしくは頭部から覗いた頭だ。俺が奴を止めるから、全力を叩き込んでくれ。
そう事前に言っていたルフトは、触手を避けながら【災厄の種子】へと猛撃を打ち込む。長剣による斬撃は鎧の内側にある本体には届かないが、ボスの注意を引くには充分だった。
だが、油断できる相手ではないのも事実だ。
「─────ッ!このデバフ、なんだ?」
触手を掠ったルフトは自身に負ったデバフの存在を知る。『瘴気』と呼ばれたソレは、ランダムなデバフ効果を発揮するものらしい。今回の場合、防御力ダウンということだろうか。相手の足止めをする状況で、それは厳しい話であった。
(ここまま押し切る─────ッ!?)
そのまま触手を避けた瞬間、キリトやアスナの猛攻を受けていたはずの【災厄の種子】の顔が見えた。生物のようなものとは違うソレは、此方を見据えて笑った気がした。
─────次の瞬間、ルフトの首が締め上げられた。床から生えた黒い触手によって。
「なっ!?」
必死の連撃で体力を削ろうとしていたキリトやアスナも、その瞬間になって気付いた。【災厄の触手】の足元の地面が盛り上がっている。脚から伝わせた触手を伸ばし、ルフトを襲ったのだ。そよ目的は、ただ一つ。
「─────相、討ちのっ、つもりか………ッ!」
ズルルル、と喉に巻き付いた触手が力を増した。このまま首を圧迫して、ルフトの体力をゼロにするつもりだ。慌てて体力を削り切ろうとしたキリト達であったが、僅かな動揺によって大きな隙を作ってしまった。傍聴した触手が喉を圧迫し、そのまま息を止めようとする。抵抗して引き剥がそうとするルフトの意識が消えかけた─────その時。
「は、ああああっ!!」
ミトが振るった一撃が、触手を両断した。ようやく緩んだ触手を振り払い、ルフトはひたすら酸素を吸い込む。意識が消えかけた彼は、肩を支えるミトに頭を下げる。
「ごほッ………ありがとう、ミト」
「本当に!あと少しで気絶してたんだからね!?」
「うん、ごめん。助かったよ────さて、と」
─────これで、終わりだ。
そう宣言した誰かの声に、【災厄の種子】は慌てた様子を見せた。次の瞬間、四人の武器がボスを穿ち抜く。一切の容赦のない四人の連携は、ようやく体力をゼロにまで減らしきった。
『───、─────』
甲高い絶叫だった。
悲鳴を上げて悶え苦しんだボスは鎧の中から這い出る。ドロリ、と黒い粘着性のある液体で構成されたソレはスライムではない、不気味なナニカとしか形容できない。地面を這い、近くにいたキリト達へと手を伸ばしたナニカは、力尽きたように崩れ落ちて─────黒い粒子へとなった。
黒い粒子は空に舞い上がり、何処かへと消え去る。その瞬間、薄暗い不気味なエリアは光に満ちていったようだ。輝かしい光を浴び、彼等は今度こそ確信する。─────ボス討伐に成功したのだ、と。
今度こそ響き渡った歓声は、誰にも邪魔されることはない。しかしほぼ半数はもう喜ぶ気力もなく、力なくヘタレ込むのだった。
◇◆◇
それから、すぐのこと。
勝利の余韻に浸っていたプレイヤー達だが、極小数だけは違った。ふと、広間の中心に歩み寄ったイーラは無造作に掴んでいたディアベルを放り捨てた。
一部のプレイヤーが怒るような暴挙に、彼は視線で黙らせる。そして、何一つ口を開こうとしないディアベルを見下ろして、問うた。
「───何を黙っている」
無論、ディアベルは答えない。いや、答えられないと言うべきか。罪悪感と後悔に満ちた感情に秘めた彼は、ただ申し訳無さそうに頭を下げることしか出来なかった。
「あの行動はなんだ。言い訳してみろ」
「…………」
「何故あの時、貴様が突っ込んだ。攻略隊の指揮をしていたお前が、トドメに拘った?…………言えないのなら、理由を言ってやろうか。LAを狙ったんだろ、貴様は」
そんなイーラの追求に、殆どのプレイヤーが思わず目を見開いた。LAもといラストアタック。SAOで実装されている要素の一つであり、ボスにトドメを指したプレイヤーにレアドロップがもたらされる効果である。
それが何を意味するのか、理解できないキバオウが周囲の視線を尻目に、声を響かせていた。
「ちょ、ちょい待てや。ディアベルはんを吊るし上げるような真似して、何のつもりや!?」
「…………分からねぇのか?栗頭、ラストアタックって要素があるんだよ。中途半端な情報屋から聞いた半信半疑のネタだったが、ボスにトドメを指したプレイヤーにはラストアタックボーナスでレア装備が手に入るって話だぜ。それがマジなら、コイツはそれを狙ってたのさ」
そう淡白に言い切るフレイヴは核心を突くような一言をぶつけた。
「なぁ、ディアベル。アンタ、ベータテスターなんだろ?」
「…………ああ、君の言う通りだ」
「焦ったな、勝ちに拘った………いや、揺らいだってことか」
肩を竦めたフレイヴ。事実を認めたように項垂れるディアベルに、キバオウは「………なんでや」と信じたくないような声を漏らした。だが、事態は少し面倒な方へと動き始めていた。
「そ、そうだ!もしかしてベータテスターの奴等知ってたんじゃないか!?ボスの変更の事も!ディアベルの野郎も、ドロップ狙いで結託して俺達を騙してたんだ!」
「……あのアルゴって情報屋もだ!きっと最初から出任せの情報で俺達をはめようとしてやがったんだ!」
「やっぱりテスターどもは卑怯者だ!俺達を騙した責任を取らせてやる!!」
そう騒ぎ立てる声に、ルフト達は顔を曇らせた。違うと言いたかったが、熱を持ち始めたプレイヤー達の怒りを前に何も出来ない。そのまま周囲のベータテスターへの非難が増した、次の瞬間。
「───黙っていろ、殺すぞ。クズども」
彼等の前に、大剣が突き刺さっていた。自身の武器を放り投げたイーラが、黙り込んだプレイヤー達へ冷徹を通り越した侮蔑の眼差しを向ける。苛立たしそうに舌打ちを吐き、彼は低い声で告げた。
「腰を抜かしていたクズ、役に立たないクズが、偉そうなことを抜かすな。御大層な意見を言いたいのなら、少しは役に立つんだな」
「なっ!?な、なんだよそれ!?ちょっと活躍しただけで、そんな偉そうなこと言うのかよ!?」
「───なら、今度は貴様らが前線に出るか?初見のボス相手に、どれだけやれるか見物だな。文句のある奴等は、次の階層で働いてもらおう…………誰かいるか?」
徹底的に見下すイーラに反発したプレイヤー達だが、彼の言葉に押し黙るしか無かった。実際、あのボスを倒せたのはイーラ達やルフト達がヘイトを稼いでいたからであり、今回の攻略の功労者は彼等とも言える。
普通のゲームならまだしも、これはデスゲームであるのだ。一度でも死ねば命はない、だからこそイーラから代わってみろと言われて頷けるものはいなかった。死ぬ可能性がある戦場で、自分の命をかけられる者など戦い慣れている者や覚悟のある者以外には居ない。
そんな彼等を心の底から見下し、イーラは鼻で笑った。
「───前に出る覚悟も出来んのなら、大人しく引っ込んでいろ雑魚。一丁前に大事を吐くなら、実力と気概を鍛えろ。権利とは、貢献した者にこそ優先される」
「…………ソイツと同感だ。一層のボスを倒せたのはアイツらの努力のおかげだろ。それを一方的に責め立てて、テメェ等情けなくねぇのか?恥ずかしいと思う奴は、いねぇのか!?俺は恥ずかしいね!ベータテスター相手に卑怯って、正面から勝ちに行く奴はいねぇのか!?───だとしたら、とんだ期待外れだ!!」
憤りを隠せない様子でフレイヴがそう周りに叫んだ。キバオウも含めた殆ど、大多数のプレイヤーが黙り込むしかない。二人のプレイヤーが強気かつ臆さず物を言うタイプだからこそ、こういう状況にも物怖じすらしないのだろう。
───そして、それは彼も同じだった。
「───皆に不満があることは分かります」
プレイヤー達へ無慈悲な言葉を突き立てた二人の前に出たのは、ルフト。彼が多くのプレイヤーの意見を救った『銀の英雄』であると、誰もが気付いた。いつもフィールドでしか装備しない、銀色のコートを背に羽織っていたのだから。
プレイヤー達の前に歩み出たルフトは、彼等に呼びかけるように語っていく。
「けど、誰かを責めるのは駄目なことです。そんなことをして、傷付け合うことは良くないことだと思ってます。ベータテスターへの不満はあっても、それだけで悪い奴と決めつけないで欲しいんです」
「…………そ、そんなこと言ったって!誰が信用できるか!」
「───お願いします」
それでも反発しようとしたプレイヤーの声を耳にし、彼はその頭を深く下げて頼み込んだ。その光景に、声を荒げたプレイヤーを含め、全員が言葉を出せずにいた。
「皆が生き残るためにも、皆で帰る為にも、互いに恨みや怒りをぶつけ合うのは良くないことです。俺達も出来ることを、最善の行いをしていきます。だから、信じてください。ベータテスター皆が、悪い人じゃないってことを─────重ねて、お願いします」
心の底から、込めた言葉。
それを受けたプレイヤー達は、既に責め立てる余力もなくなったらしい。ようやく落ち着いてきた空気の中で、ふと前に出たキバオウがルフトに向かい、告げた。
「………ジブンの話、全部納得できんわ」
「…………」
「わいはやっぱベータテスターの連中自体気に入らん。けど、アンタの誠意は飲んだる。そこまでされてうだうだ言っとったら男やあらへんしな…………それに」
そう言ったキバオウは、ずっと俯いたままであったディアベルに呼び掛ける。
「まだ、話せとらんしな。ディアベルはん」
「…………キバオウさん」
「………腹割って、話させてくれや。そうでもせんと、分からんやろ」
静かに漏らすキバオウの弱音に、ディアベルは確かに頷いた。その一連の様子を見届けた後に、一つの声が響き渡った。
「──────終わったようですね」
「オズワルドさん」
沈黙する鎧の残骸を見つめた一層の町のトップたる男性 オズワルドがそこにいた。彼は既に息絶えた英雄へ思いを秘め、ルフト達に向かって頭を下げる。
「皆様、感謝致します。偉大なる守護者を眠らせて戴き、彼の英雄─────エインセルも貴方達に感謝していることでしょう。
お詫びと言って何ですが、一度街に来ていただければ色々とサービスさせていただきます」
そう言うオズワルドにプレイヤーの大半はおぉ!と喜びの声を顕にする。何かと思えば、一層の町の施設の利用費がある程度削減されたり、複数のクエストフラグが発生したらしい。先程の空気も一転し、盛り上がりを見せるのは─────上階層へ進もうとする者以外であった。
「先を進む皆様、どうか気を付けて下さい。ここから先の階層では、過去の大戦で猛威を振るった災厄が蠢いていると聞きます。………上層には、旧き民もいます。場合によっては、彼等の力を借りるのも必要かと」
「…………旧き民?」
「申し訳ありませんが、私も父から聞かされていた話ですので…………お力添え出来ません」
上層に進もうと階段へ向かうルフトやキリト達に呼び掛けたオズワルドの言葉は、明らかに無意味なものとは思えない。これは必要な行為なのだろう。そう思った彼等は頷いて応えた。
上層に進むプレイヤー達とは正反対の方に向かうイーラ。彼はふと、一人のプレイヤーの肩を掴み、冷たく吐き捨てる。
「───次はもっと上手くやるんだな」
「な、何を………」
「顔は覚えた。隙を見せないよう、覚悟するんだな」
戸惑うプレイヤーにそれだけ言うと、彼は背を向けてキリト達の後に続いた。彼に付き添う妹もそのプレイヤーの男を冷たく睨み、後を追いかける。その場にいる誰も気付かなかったことだが─────そのプレイヤーは先程から対立を煽ろうと余計な事を言っていた。彼は薄ら笑いを浮かべると、誰にも気付かれないように人混みの中へと消えていく。
そうして、第一階層攻略は終わりを迎え、プレイヤー達は上層へと進んでいく。彼等はまだ知らない。突き進む先にあるのが、今まで以上の苦労と困難、犠牲の数々であることは。
『守護者ガルム』
アインクラッドの過去に起きた神話大戦を生き延びた英雄の一人。屈強な鎧のゴーレムであり、生前は理知的な人物であったとされている。現在は一層裏ルートのボスエリアとされる聖域に閉じ籠もって、行方も知られていない。
─────SAO裏ルート第一層のボス。過去の傷により受けた瘴気により精神を蝕まれ、最終的に自我を失い暴れ回る怪物と化している。撃破することで死ぬことになるが、直後に新たに名を変え、再びボス戦に突入する。
『災厄の種子』
守護者ガルムを蝕んでいた瘴気から生まれた魔物。神話大戦でアインクラッドを襲った災厄の一部であり、守護者の亡骸を操りプレイヤーに襲い掛かる。俗に言う降格されるボスであり、中盤では別個体が中ボスとして現れる。
コートオブミッドナイト
1層ボス攻略の際のラストアタックボーナス。守護者ガルム撃破時ではなく、災厄の種子撃破時に適用される。原作通りの性能に変わりはない。
守護者ガルムが永らく保持していた、友の形見。アインクラッドで名を馳せた伝説の大英雄のものである、と噂されている。