ハンターノート「異世界へ転移した際の対処方法」   作:ちくわ部

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クエスト:石視竜ギガントバジリスクの討伐

クエスト報酬 
報酬金:金貨55枚
アイテム精算:金貨78枚、銀貨75枚

石視竜の鱗
石視竜の甲殻
石視竜の逆鱗
石視竜の爪
石視竜の魔眼
石視竜の尻尾
石視竜の毒血



-2-『無色の狩人』下

 

 冒険者組合裏口。四方が建物に囲われた中庭のような空間で、カメレオンのような巨大な頭部と、8本の脚、尻尾、胴体に解体されたギガントバジリスクが荷車から降ろされていた。

 

「討伐対象の素材を買い取らせて頂くのは、冒険者組合として嬉しいことではあるのですが、これは・・・」

 

 組合の職員が呆れに近い声を出しながら言う。

 ギガントバジリスクを討伐し、その死体を運んでくる。それは長くこの組合で働く職員でさえも聞いたことがない、前代未聞の出来事である。そして、それを買い取れというのだ。

 

「んで、これを使って防具を作れってか?流石に厳しいでっせ猫の旦那」

 

 そして白髪の入り混じった髪に、複数の火傷跡を見せるように腕を組む鍛冶屋の男が眉間に皺を寄せて職員に続いて言う。

 

「にゃっ!モンスターの素材で防具を作るって言ってたじゃないですかにゃ!」

「俺の専門はあくまで皮装備だっての!ギガントバジリスクの皮をなめすのはまだしも、鱗を使って防具を作るのは無理だ!」

「かーっ!やってらんないですにゃ!折角装備を作れるニンゲンを見つけたと思ったのに!これではご主人の骨折り損ですにゃ!・・・・・とりあえず皮防具でお願いしますにゃ」

 

 人の子供ほどの背丈の猫が二足歩行で毛を逆立てながら言う。

 ギガントバジリスクの鱗は非常に硬くて加工は容易ではなく、そもそもモンスターの鱗を防具にする技術はこの国にはない。

 だが、知らず猫は国中の職人を訪ねて回っていた。

 

「にゃ、ご主人誰か来ますにゃ。・・・なんか一人嫌な感じがしますにゃ」

 

 猫の声に“ご主人”と呼ばれる人物が顔を上げる。

 顔、とはいっても目元を覆う金属のバイザー以外は刺々しい真紅の鱗を素材にした兜を被っており肌は一切見えない状態だ。

 

「貴様が『無色の狩人』か?」

 

 『無色の狩人』こと“ハンター”は発声源を見やると、仮面を被った一人の子供らしき人物がやってくる。イビルアイである。

 

「・・・見たことないプレートを付けてますにゃ。ご主人のお知り合いですかにゃ?」

「・・・・・」

 

 猫は訝しげな視線を突如現れた人物に向けると、続いて主人に目線を合わせる。

 ハンターは無言のまま首を横に振る。

 

「・・・もう一度聞く。貴様が『無色の狩人』か?」

 

 その問いに対し、ハンターはゆっくりと頷く。

 『無色の狩人』。それは突如現れた未知のモンスターを狩る者。数多の武器と防具を使い、様々な逸話を残す様はとても一言で言い表すことができず、『朱』『蒼』とは違う『無』の色を与えられた、まさに異色の存在である。

 しばらく無言の間が続く。

 するとハンターは突然ハッとしたかのように後ろに振り向き、荷車から降ろした紫に近い赤色の液体が入った瓶を開けようとする女、ティナの腕を掴む。

 

「・・・いやん」

「・・・・・」

「大丈夫。毒に対しての知識は豊富。これがギガントバジリスクの血だと言うことは承知してるし、これがどんなタイプの毒かも知ってる」

 

 その言葉を聞きいて何かに納得したかのように頷き、その手を離す。彼女の手は金属光沢のある布のような物に覆われていた。

 ギガントバジリスクの血が毒であることは、ギガントバジリスクは石化の視線を持っているということの、次によく知られていることだ。その血は神経毒を有しており、触れるだけでも皮膚から浸透して身体を蝕む恐ろしい物だ。

 

「おい、ギルドの応接室は空いているか?」

「は、はい恐らく!本日予約はなかった筈ですので」

「予約お願い。あとお茶と菓子も」

「了解しました!」

 

 そう言って組合職員は慌てて裏口に姿を消す。

 

「ギガントバジリスクの素材の査定をせずに行ってしまったにゃ・・・。それはそうとアンタら誰にゃ!」

「うーん。そう言われると結構名が通った冒険者の私としては残念。これがヒント」

 

 そうしてティナは胸元の藍色に光るプレートをチョイチョイと指差す。

 プレートは指差す爪と当たると金属の硬い音を鳴らす。

 

「うーん。やっぱり知らないプレートですにゃ」

「え、わからない・・・?」

「やめとけティナ、これ以上は惨めになるだけだ」

 

 ハンターが猫に近づき耳打ちをする

 ハンター達が知らないプレート、つまりこの冒険者組合の冒険者よりも高位なプレートを所持している彼女達は、自分たちよりも遥かに上のランクであることを意味していることを気が付いたからだ。

 現在のエ・ランテルの冒険者で最上位のランクはミスリル級。上から3番目のランクだ。であればこの二人組は最上位のアダマンタイトか2番目のオリハルコン級の人物ということになる。

 ハンターはそう考え、その旨を猫に伝える。

 

「成る程、流石ご主人・・・!つまりこの方々はボク達より偉いということですかにゃ?!」

「あくまでランクは強さを示している。だからランクが高いから偉い、というのは少し違う。でもこの人はいつも偉そう」

「おい、誰が偉そうな人だ。・・・・・・はあ、貴様らが他の国から来ていることは調べが付いている。知らなくても仕方がないだろう。私はアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のイビルアイだ」

「同じくティナ」

「単刀直入に言う。・・・力を貸して欲しい」

 

 

 -◇-◇-◇-

 

 

 応接室に移動した一同は入れたばかりの湯気が立つお茶を囲いながら、それぞれ向かうようにして座る。

 

「自己紹介しますにゃ。ボクはアイルーの”ポルカ“!ご主人のオトモですにゃ。そして、こちらはご主人のハンターさんですにゃ」

 

 ”ポルカ“の言葉に続き、ハンターは会釈をする。

 

「アイルーというのは種族名?」

「そうですにゃ」

 

 ポルカはにこやかに目を細めながら肯定する。

 アイルーとは身長が1メートルほどの二足歩行が可能な猫のような種族である。

 猫以上の高い知能を持っており、様々な道具を作り使用することから人間とも交流を行う種族だ。文明は人間からして決して高いとは言えないが、人間には再現できない技術が多数ある、謎多き種族でもある。

 

「聞いたことない種族。イビルアイは?」

「私もだな。・・・・聞いたことのない種族といえば、だ・・・。ハンター、このモンスターについて知っていることはないか?」

 

 そう言うとイビルアイは擦り切れた古いマントの下から複数の紙切れを出す。

 紙には多彩なモンスターのスケッチが描かれており、殆どがハンターの見たことのあるモンスターだった。

 鳥のような鶏冠と嘴を持ったトカゲ。

 頭にコブのある首長竜。

 首元がブーメランのような形状をした羽虫。

 ハンターは紙を受け取り、一枚一枚丁寧に捲り目を通す。

 

「特徴を捉えた良い絵にゃ。これはランポス、リモセトス、ブナハブラ・・・。全部小型モンスターのスケッチですにゃ」

 

 ポルカがハンターの横から覗きながらスケッチを見つめると言った。モンスターの名前を挙げて言ったようであったが、全てイビルアイとティナには聞き覚えのない名前だった。

 テンポよく紙を捲っていたハンターの手が止まる。

 

「にゃ、このモンスターは・・・」

「その反応、どうやら知っているようだな」

 

 ハンターとポルカの驚愕、困惑の混じったなんとも言えない反応に対し、イビルアイは当たりだと言わんばかりの笑みを仮面の下で浮かべる。そのスケッチのモンスターこそがイビルアイの本命であったからだ。

 ハンターがこのような反応を示すのも無理はない。なぜなら、そのスケッチはーー・・・

 

 

 

 

 

 スケッチとは思えないような、ただの子供の落書きのような何かだったからだ。

 ティナは恐ろしい速さでハンターの手から一枚のスケッチを抜き出し、粉々に破り捨てる。

 

「なっ、ティナ!一体何を・・・・!」

「失礼、ゴミが混ざっていた」

「何がゴミだっ!貴重なモンスターの手がかりだぞ!」

「申し訳ないですが、ボクには何のモンスターか分からなかったですにゃ」

 

 ハンターは床に散らばった紙切れを摘み、手のひらに置きながら同意して頷く。

 パッと見たところそのスケッチは、『棘の生えた十字の何か』であったが、これではあまりにも抽象的過ぎてよく分からない。

 

「・・・・・話を戻す。私達は突如発生した未知のモンスター群を調査していた。場所はアゼルリシア山脈の山麓。ここの周辺は数こそ少ないが、報告されていない未知のモンスターと遭遇しやすい場所とされている。だから、私達のリーダーのラキュース、私、イビルアイの組と、ガガーラン、ティアの組に別れて効率よく調査しようとした。・・・その時だった」

 

 ティナは重々しい口調で話す。

 別れて少し経った後、2人の行った方面から大きな咆哮が聞こえたと言う。

 離れた場所からも聞こえる足がすくむような恐ろしい鳴き声。咄嗟に動くことが出来なかったティナとラキュースとは対照的に、イビルアイはすぐさまその場に駆けつけたが、そこには瀕死の状態で倒れた二人がいたそうだ。

 

「私がその場に着いた時にはモンスターは空へ飛び去っていった。太陽の光のせいで影しかわからなかったが、ある程度特徴を掴むことができて、そのスケッチを描いていたんだが・・・」

「訂正。スケッチではなくゴミ」

「おい、流石の私もキレるぞ」

 

 イビルアイはため息をついて、不貞腐れそっぽを向く。

 だが、スケッチは何が描かれているか分からなかったものの、空に飛び去ったという有力な情報が得られることができた。

 

「空を飛ぶモンスター・・・・・・刺々・・・・・・うーん。心当たりがないわけではないですにゃ」

「本当か!?」

 

 ハンターもポルカの言葉に同意する。

 しかしそれと同時に否定の意味を込め、困ったように首を傾げる。

 

 ーーそう、心当たりがありすぎるのだ。

 

「ボク達の知ってる飛行モンスターの殆どは鱗を持ってるんですにゃ・・・・・。そうなってくると、鱗を持つモンスターの大半が体の特徴に棘を持っているわけでしてーー・・・」

「なっ・・・!分からないのと同じじゃないか!」

「・・・そうですにゃ。結局、襲われた本人達に聞くしかないですにゃ」

「そうしたいのは山々だけど、二人はリーダーの元で治療中。まだ意識が戻っていないから、今のところ証言はこの残念なスケッチだけ」

「・・・・・・・・・もう何も言わん」

 

 そこでハンターはある提案をする。

 それは現地に向かい、その痕跡でモンスターの判別をしようというものだ。

 

「うむ、それが本題だ。我々もあの場所に行こうとしたのだが、私よりも弱いとはいえあの2人がやられたのだ。リーダーを2人の治療に専念させると考えると、私とこいつだけで行くわけになるが、危険は非常に大きい。・・・そこでだ」

 

 ようやく話が見えてくる。

 この2人はハンター達を勧誘、協力要請に類する行為をしようとしているのだろう。

 そうであるならば、出来ることはしようとハンターは言う。

 

「話が早い。ただ、先程の会話では貴様の実力が測れない。噂では様々なモンスターを薙ぎ倒したと聞いたが、階級はまだ白金(プラチナ)級らしいからな。だからこれを受けようと思う」

 

 そう言って一枚の普通の大きさの羊皮紙を机に置く。

 そこにはクエストの依頼内容が書かれていた。

 

「かっつぇへいや・・・カッツェ平野ですにゃ?」

「最近強力なアンデッドの増加が確認されていてな。それの調査とモンスターの討伐だ。それなりの強さにそれなりの敵の数。強さを確認するのに適している」

 

 場所はアンデッド発生地帯のカッツェ平野。

 本来であれば墓場など、負のオーラの溜まる場所でしか発生しないアンデッドであるが、そこは原因不明の霧とともに何故か発生する場所である。ハンターは噂で、そこの平野一帯に大量の兵士の亡骸が埋められていると聞いたが、真実は不明だ。

 アンデッドは数が多ければ多いほど強力なアンデッドが出現するため、この依頼の内容からして相当な数となっているだろう。

 ハンターは問題ないと了承する。

 

「この依頼は私が受け付けに行く。明日、東関所入り口で待ち合わせだ。・・・・・・遅れるんじゃないぞ?」

 

 

 -◇-◇-◇-

 

 

 応接室がしんと静まる。

 既にハンターとポルカは既に退室しており、そこにはイビルアイとティナの2人がその場にいた。

 テーブルには職員に渡された開示可能な無色の狩人についての資料と、修復されたスケッチ(ゴミ)が置いてあった。

 

「どうだった?」

「・・・・・・まだ分からん。明日の依頼である程度はわかるだろう」

「強さの話じゃない。内面的な話」

「うむ、あれは荒くれ者の冒険者に似合わない、研究者気質の男だったな」

「流石イビルアイこの短時間でわかるなんて・・・・・・。伊達に歳を取ってない」

 

 イビルアイの拳がティナに向かって飛び出す、がティナは冷静にその拳をいなして絡め取る。

 

「・・・・・・つくづくお前と来たのは間違いだったと思ったよ」

「イビルアイも大概。こっちが頼んでいる立場だというのに、始終上から目線で印象が悪かった」

「“も”ということはお前も自覚はあるんだな・・・・・・。お前から見てあいつはどうだった?」

「ん、私はハンターはやり手だと思う」

「ほう、その心は?」

「本気を出していないとはいえ、気配を消して背後に移動したのを察知した」

 

 イビルアイはギガントバジリスクの血の入った瓶を開けようとしたティナを、ハンターが止めたのを思い出した。あの時はイビルアイですら、隣から姿を消したのを認識できていなかった。

 

「それにすごい血抜き技術。猛毒の血を肉から殆ど無くすなんてこと不可能。一体どうやってやったのか・・・・・・」

 

 ティナは手袋を付けた手で、職員から貰ったギガントバジリスクの肉を突きながら言う。

 革手袋をつけてもギガントバジリスクの血の毒の皮膚を浸透する脅威は、衰えることがないため、特殊な金属の手袋を装着している。

 

「確かにそうだな。まあいいだろう、本人に聞けば明日にでも分かる事だ・・・・・・」

 

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