多分自分は疲れているのだと思います。
楽しんでくれれば幸いです。
プロローグ:史上最悪の和平会談
人族、魔族、亜人族が入り乱れる大陸、トピア大陸。
そこで行われていた長年にもわたる人族と魔人族の戦争。
その終結を告げるかの如く、今。
魔人族の王、魔王と人族の勇者の戦いが繰り広げられていた。
「これで終わりだ!人間どもが!!上位闇属性魔法【ダークディメンジョン】」
魔王の放つ上位闇属性魔法。
戦場である魔王城、玉座の間。
その空間全てを塗りつぶす黒い魔力の奔流。
黒い魔力が全てを覆い潰すかの如く、この力の奔流の後には生命が存在するなんてことは有り得ないと確信してしまう。
それほどの魔法が放たれた。
――しかし、それに抗ってこその勇者。
「――ほう、耐えたのか。流石は闇属性に唯一対抗できる魔力、光属性を駆使する勇者だな」
薄く広げられた扇状の光の魔力。
全てを塗りつぶさんとする闇の魔力の奔流をせき止める勇者。
彼が光の魔力を防壁として顕在した結果、見事彼とその仲間達は闇の洪水から生き延びた。
――しかし、その代償は高かった。
「……ぐ、ぅ……――が」
持っている剣を支えにするがそれでも堪えきれなかったのだろう。
勇者はついに魔王の前に膝をついてしまった。
敵の闇魔法を防ぐために振り絞った結果、光の魔力も尽きている勇者。
このざまでは次に同等の闇の魔法を使われたら防げない。
それは双方共通の認識。
「フハハハハハ!よくここまで持ちこたえたものよ!
我相手にここまで戦ったのは貴様が初めてだ!
どうだ、勇者よ!我の部下となるが良い!貴様と我が揃ったなら、このトピアを支配しなおすことなど簡単だ!」
そう言い、自らの部下へと勇者を勧誘する魔王。
それは余裕から発生する戯れなのかもしれない。
もしくは本当に望んでいるのかもしれない。
その真意はわからない。
わからない、が。
魔王の言葉を聞いて勇者に浮かんだのは。
――純粋な、安心したかのような笑顔だった。
「……なんだ、その顔は。何故笑っている。
次に我がこの魔法を放てば貴様らは終わるのだぞ」
魔王はそう言って右手に先程の闇の魔力を、いや、先程より大きく凝縮された闇の魔力を顕在させた。
次に勇者達に放たれるだろう、先程以上の威力を持つ闇の魔力。
それを見て、勇者は――。
「あぁ、そうだな、魔王。お前が次に魔法を放つことが出来たら、お前の勝ちだ」
「……それが分かっていて――」
それが分かっていて何故笑うのか?
そう問おうとする魔王の視界の端で。浮かび上がる、謎の魔法陣。
魔人を統べる王としての自信と実力を備えている魔王ですらも知らない。今浮かび上がっている魔法陣は、現代の魔法の常識を超えていると確信できるほど。
……そう、現代の魔法の常識ではない、魔法。
「なるほど、味方の魔法使いの切り札といったところか!」
「は!もう遅いぜ!魔王さんよ!
さぁ、頼んだぜ……。ナルシスト魔法使いさんよ!」
「……あぁ、お前のお陰で魔法は完成した!後は任せろ!脳筋勇者!」
その言葉とともに賢者の周りで膨れ上がる魔法陣。
魔法陣の膨張が止まると同時に伸縮し。
再び極限まで膨れ、そして圧縮した爆発する寸前の魔法陣。
もはや術者を殺しても収まることのない魔力の急流。
それを見て確信する。
あの勇者の全力の光魔法での防御はこの魔法を完成させる為の時間稼ぎ。
放とうとしている魔法は全ての魔法を知っていると自負する魔王ですら知らないもの。
だが、今の自分に防げない魔法などない、と。
そう確信、いや、慢心していたせいで。気付くのに遅れてしまう。
今の魔王が知らない、現代の魔法とは異質、戦いの切り札になり得る魔法……。
それに該当しうる魔法……。
「――ま、まさか……。
まさか、まさか!まさか!貴様ら……!まさかぁあ!!
あの古代魔法を!ロストスペルを使えるというのかぁああ!!!」
「これで最後だ!魔王!」
満を持して放たれる魔法。
太古に存在し、今は伝えられない失伝魔法を魔法使いが放つ。
「やめろ、我は!――おれは!」
古代文明の遺産である、ロストマジック。
古代ですら禁忌と言われたその魔法の名は――。
「
◇◆◇◆◇◆◇◆
魔王と勇者の死闘から三日。
長年の人族と魔人属の戦争の終結を告げる、両種族に喜ばれるべき和平会談は。
――トピア歴史史上最悪の地獄と化していた。
「うわぁあああん、パーパは魔族の領土がほちぃの!
ぜんぶがほちぃの!!
ほちぃったらほちぃの!!!」
「おやおや、パーパちゃんったら。
そんなこと言われたらルーレや魔族さん困っちゃう。
せめて三割あげるから、それで許してくれくれないかなー」
「やぁーなの!やぁーなの!ぜんぶほちぃの!!」
「うーん、困ったなー。俺としても全部あげたいんだけどなぁー。――。」
五十歳を超えた白髪、白ひげの人族の王パーパ。
賢王と呼ばれ民から絶大なる人気を持つ王の中の王。
筋肉隆々、魔族の特徴である浅紫の肌を持ち全ての魔法を知り尽くした、戦争開始前のわずか一年で魔族をまとめ上げた魔王ルーレ。
その二人による和平会談が行われていた。
――人族の王パーパが、魔人属の王ルーレの膝に乗り、駄々をこねながら。
「……おい、誰か止めろよ、あれ」
「……誰が止められるんだよ、あんな、あん、……な!?
……魔王軍、お前達であれ止められないか?」
「――止められる訳ないだろう!
我々魔王軍は敗者!
……人族の、流儀に、従うしかないのだ」
「待て待て待て!これが人族の流儀と思ってくれるな!」
「そう思わざるを得ないだろう!なんだ、この和平会談は!
あんな……。あんな――。あんな魔王様、俺達は初めて見た!」
「そんなの、こっちだって!!
こんな……こんな――、いや、こん、な、違う!」
和平会談だというのに人族、魔人族の両軍困惑の渦に巻き込まれ窒息寸前だ。
それもしょうがない。
和平会談で勝者である人族の王が。
敗者である魔人属の王に、まるで幼子が母親に甘えるかの如く。
魔人王の膝にのり、外聞も恥も道端に捨てているかの如く泣きわめいている。
そしてそれを当然の如く受け入れ幼子をあやすかのように慈愛の笑みを浮かべる魔王。
話の内容は互いの領土についての話、という極めて重要な話だというのに。
それを感じさせないほどふざけきって見える光景。
――なによりも。
その互いの態度を当然のものとして受け入れている両者。
異常としか言いようがない。
「そう、言えば。
我らが魔王様は、貴様達人族の賢者に、
「……人族の賢者、と言えばあいつか」
その言葉と共に両陣営の王以外の視線が。
魔王と直接戦った勇者たち一行の賢者に集約する。
「……噂によると復活させた
「……
「貴軍のみではない、我らが王もそれの餌食になったのだろう」
「……なん、という、ことだ。では、我らが王は――失礼。
我らが王と貴軍達の王は――」
「……あの男の魔法のせいで。
……こう、なってしまったの、だろう」
「
「この悲惨な現状が、本当にその魔法でもたらされたというなら。
人の……いや、生き物の意志を捻じ曲げる……。史上最悪の魔法だ」
その言葉と同時に賢者に向けられる侮蔑と畏怖と異端を見る視線。
「――あぁ、彼はこの戦争の終戦の功労者だ」
「――あぁ、こんな魔法を使えてしまう彼は」
「――あぁ、人をこんな状態にしてしまえる、彼は、彼こそは」
「――あぁ、
駄々を捏ねる五十歳男性。
それに対して「よちよち」と言いながら宥める魔王。
戦時中こそ地獄と思っていた両陣営の思惑を超える地獄を顕在させた魔法。
その使い手。
そう、彼こそが。
「【ばぶみとおぎゃみ】の賢者、ドライ・ホイール」
その効能は別々の対象にばぶみ(母性化)とおぎゃり(幼児化)を与える。
それを復活させた魔法学者、ドライ・ホイール。
これは彼の物語である。