部屋に入って来た男達、恰好を見る限り街の憲兵達だろう。
貴族の端くれとしてお客さんは歓迎をするのが最低限の礼儀だが、何故かこっちを警戒しているように部屋の入り口で固まってる。
なんだなんだ、俺何かしたっけか?とりあえず話聞くのが先か。
「あー、恰好を見るに街の憲兵の連中だろ?こんな大勢でなんの用だ?」
そう、俺から話しかけると少しひそひそ話をした後に若い青髪の男性が一歩前に出て来る。
「【ばぶみとおぎゃりの賢者】である貴公に聞きたいことがあります!」
「これ以上俺をその名前で呼ぶなら、その名前の本当の怖さを教えてやってもいいんだぞ?」
軽く冗談のつもりで脅すが、一層相手の警戒心が上がり、今にも剣を抜きそうだ。
なんだなんだ。何にこんなに警戒してるんだ、こいつらは。
少し殺気立つ男達を見てルビスが少し身構えるが、手を振って抑えるよう伝える。
「冗談だ、冗談。それで、もう1回聞くが何の用だ、こんな大勢で」
「…………聞きたいことがあります。最近その魔法を、『ばぶりーる・おぎゃりーな』を使用したことがありますか?人魔大戦の終結後で、です」
「使う訳ねーだろ、こんな魔法」
正直に心の底よりウンザリしている、ということを隠さずに伝える。
「……それが嘘でない証拠は?」
「無いな」
というかやってないことの証明なんて無理だろ。
未だに疑いの色を濃く浮かべた目で見て来るが、少なくとも正直に答えている。
というか正直に答える以外の選択肢が無いわけだが。
俺の回答を聞き何やら話し込む男達。
いや、というよりまじで何の用で来たのか教えて欲しいんだけど。
再度聞こうとした時――。
「な、だから言ったじゃん。ドライはやってないってさ」
そう言って一人の青年が男達の後ろから出て来た。
金髪碧眼で人好きのする笑みを浮かべている。
憲兵の人達も、俺とルビスもその青年の姿を見て少し気を緩める。
「よ、ナルシスト魔法使いのドライ!元気か!」
「……久しぶりだな、脳筋勇者、ブレイブ」
勇者ブレイブ。人魔大戦終結の際に魔王と対峙した人族の勇者。俺の……旅の、仲間だ。
「後は俺からドライに伝えるから皆帰っていーよー」
「…………。すみません、勇者殿後はお任せします。【ばぶみとおぎゃりの賢者】!変な事はしないように!」
そう言って憲兵達は扉から出て行った。結局何の用かも聞いてないし。地味に床汚れてるし、最悪だ。
てかあいつらブレイブと俺で態度違いすぎない?俺も一応英雄の一人やぞ!
「んじゃあ、ちょい話すから入るぜ!あ、ルビスちゃん、お茶とお菓子頂戴!」
――変わらんな、こいつは。
「ルビス、粗茶で良いぞ。どうせこいつに味なんてわからん」
「おいおい、おいおい!このブレイブ様の味覚を舐めすぎだろ!?」
「では、試してみましょうか、ブレイブ様?今から出すのが粗茶なのか、それともお客様用のお茶か当ててくださいね」
「いや、ルビスちゃん、普通にお茶出してくれた方が俺嬉しいんだけど!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ!?最近夜な夜な住居エリアでばぶばぶおぎゃおぎゃ言ってる変な奴らが増えてる!?」
「おう、目撃情報も事情聴取でも確認できたらしい」
ブレイブの話はこうだ。
住居エリアでやけにばぶばぶおぎゃおぎゃ言い合っている男女の恋人達が居たらしい。
不審に思った巡回の憲兵が話しかけたが、逃げ出し、姿を見失ったようだ。
その場では恋人達のプレイの一環だと思って注意だけしたが数時間後、今度は女性同士でばぶばぶおぎゃおぎゃ言い合っている人達に遭遇した。
厄日だと思いながらその日の巡回を終え、報告だけした憲兵達。
しかし、その日を境にばぶばぶおぎゃおぎゃ言い合う人達が夜な夜な出没し始めた。
次の日も、また次の日も。住居エリアのあちこちで出現し始めた。そしてついに一昨日から貴族達の住んでいるエリアにまで現れてしまったそうだ。
偶然貴族がばぶばぶおぎゃおぎゃしている不審者達に遭遇し、気味悪がった貴族が憲兵達に解決するよう命令した。
結果これまでの不審者情報の数々がその貴族に伝わり、迅速な解決をするよう領主へ依頼した。
依頼された領主は憲兵達に優先解決事項として命令したが、なんの手がかりも無い憲兵達。
そこでばぶみとおぎゃりの第一人者である俺に話を聞きに来たらしい。
「……いや、突っ込みどころしかないぞ!その不審者達捕まえて事情聴取とかしなかったんか!?」
「ただ不審者がばぶばぶおぎゃおぎゃしてるだけだから捕まえられなかったんだってさ」
「夜に不審者が変なことしてるならそれだけで捕まえる理由になると思いますが……。しかも貴族エリアにまで出没するなら尚更かと」
確かに。その気味悪がった貴族が処罰しようと思ったら即首跳ねられてた事態だぞ。
その不審者達恐怖心ゴミ箱にでも捨ててたんか?
もしくは――。
「捕まらない自信があった、とかか?」
「多分そうだろうな。不審人物達を度々見つけるのに
「この街の憲兵が毎度見失ってしまうほど無能、というのも考えにくいですしね」
「だな、この街の……領主、がそんな無能ばかり集めるわけがないしな。……と、なると……」
「なんらかのカラクリがあるのでしょうね。例えば……魔法を悪用している、とか」
「そう、そう!それを憲兵の人達も疑ってるってわけだな」
「魔法と言ってもどんな魔法使っているのか私達のような無学者では判断つきませんからね」
「……なるほどな、俺が失伝魔法を他人に使用しているなら俺を捕縛。俺が犯人でないとしても魔法の。有名な魔法使いの。高名で有名でイケメン魔法使いのこの俺様の助力が欲しい、というわけか」
「自分で自分を褒める天才だよ、お前は。でもまぁ、そういうこったな。ちゃんと領主さんからの報酬も出るらしいぞ、どうする?」
そうか、そうか!史上最高と名高い俺の魔法の知識を活用してこの事件(?)を解決してほしい、と。
うむ、うむ!そこまで言うなら俺様の偉大なる力を貸してやっても良いが!
「それに万が一この騒動の犯人がドライと同じように『ばぶみーる・おぎゃりーな』を使える場合、憲兵達もそんなやつと敵対したくない、あわよくば使える犯人とドライで同士撃ちしてほしいってのもあるだろうしな!」
「それ今俺に言う必要ある?」
いや、確かに人魔大戦以降疎まれてる自覚はあるけどさ!
「それで、どうするのですか?ドライ様、この依頼受けるのですか?」
「……気は進まんが受けるさ、それは。自分の住んでる街でそんな不審者いるとか考えたくないし。報酬も出るなら尚更だ」
「お、じゃあ依頼は受理ってことで『後は俺達に任せとけ』って憲兵達に伝えてくるぜ!夜また来るからちゃんと準備しとけよ!」
「あぁ、わかった。頼む」
「おうよ!」
そう言って部屋から出ようとするブレイブ。そう言えばまだ言ってなかったことがあった。
「ブレイブ。…………信じてくれて、その、あれだ。……さんきゅーな」
今回の出来事の内容が内容なだけに俺を疑うことに理解を示すことができる。
だと言うのに、こいつは俺が犯人でないと言っていた。
そのことが、その……嬉しい。
「気にすんな、俺が勝手に信じてただけさ!」
そう言い扉を出ようとするブレイブ。
本当に変わらないやつだ。
だからこそずっと気になってたことを聞く。
「そうか。ところでお前の装備がスピード重視の装備なのは何でだ?」
そう、ブレイブの装いは何度か見たことある、スピード重視の軽鎧装備そのままだ。
聖剣は教会に返却しているようだが、それ以外は当時のままだ。
こいつがこの姿の時はかなりスピード重視の時。
そう、例えば。
俺の質問にブレイブの動きはぴたっと止まり。
少し経った後こちらを振り返り。
「イヤ、オレハシンジテタ。メッチャシンジテタヨ、オマエノコトヲ」
「御託は良い、理由は?」
その顔はなんの悪びれることもない笑顔で。
「お前が犯人だったら魔法使われる前に切り捨てるのが最適解だから本気の装備で来た!」
「よーし、聖剣抜きでそれが出来るのか試させてやる、表出ろ!」
こいつにはいつか土の味をプレゼントしてやる!