ばぶみとおぎゃりの賢者の物語   作:みたけ

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三話 不審者との接触

 

 夜になり貴族エリアへ向かう俺とルビスとブレイブ。

 灯りは俺達を先導する見知らぬ青い髪をしている憲兵の青年が持っているもののみ。

 夜の街にくたびれた白衣の俺とメイド服のルビス、軽装のブレイブと青年という見るからに怪しい集団が浮かび上がる。

 

「……いや、君誰!?」

「は!自分の名前はマサヨシと言います!先程ブレイブ様と一緒にドライ様邸へ伺いました!」

「あー、そう言えば先頭に居たっけが。んで、なんで付いて来てるの?」

 

 この事件は俺達が解決するってブレイブが言いに行ったんじゃなかったっけか?

 

「この街の憲兵として皆様方に仕事を依頼するだけして、後は放っておくなんて自分には出来ません!」

「……と、まぁ、こんな感じで絶対に付いて行くって張り切っちゃってさ。上司の人も止めとけって言ってたのに『では個人として参加します!』って言ってさ」

「憲兵としての業務外なので装備は自前のものとなりますが、日々訓練しているので自信はあります!是非同行の許可をお願いします!」

 

 みすぼらしい装備に反して目に炎が灯っているかのように暑苦しい視線。

 なんだろう、自分の信じる正義の為に殉職しそうなタイプの人間に見える。俺とは正反対だ。

 

「それに自分は未だにドライ様を疑ってます。良識ある人間が外でばぶばぶおぎゃおぎゃなんてするはずがありません、しかも複数も。何か理由があるはずです!その場合最も疑わしいのは貴方のその失伝魔法です!」

「……いや、それはごもっとも。俺だってこの街の住人が急に夜外でばぶばぶおぎゃおぎゃ乳繰り合う変人たちになったなんて信じたくないしな。

 ……んで、どっか変質者が出て来る目安とかあるの?なんか迷いなく歩いてるけど」

 

 当初変質者がどこに現れるのか不明な為、各自バラバラに捜索、発見次第合図を出して集合とする予定だったのだが。

 

「はい、あります!この地図を見てください!」

 

 地図を広げるマサヨシ君。それを覗き込む俺達。

 

「これは……この街、ホイール街の地図、でしょうか?何やら数字と渦巻き状の線が書かれてますが」

「はい、そうです!この数字は不審者が出た日付、渦巻き状の線は不審者が出没した場所を線で結んだ結果です。これを見ると渦巻きが規則的に徐々に小さくなっていってるのがわかると思います!つまりこの渦巻きの先にて不審者と遭遇する可能性が高い、と自分は愚行します!」

「おぉ!なるほど!やるねー、君!」

「いやいや、それほどでもないですよ!」

 

 ブレイブの誉め言葉にでへへっと笑いながらそう返すマサヨシ君はとても嬉しそうだ。

 なるほどね、確かにここまで規則的な出現方法だと単純な不審者ではなく意図のある行動、もしくは裏に犯人がいるだろう、とか推測できるな。

 そう、あまりにも規則的過ぎる。なのに準備が雑すぎる。

 ルビスの方を見る。あいつも気付いたんだろう、少し俺との距離を縮める。

 

「いやいや、そこまで考えが及ぶなんて優秀だな、マサヨシ君は」

「え!?いや、うへへ、それほどでも――」

「この事件が犯人の罠の可能性も考慮していると言うのにそんな軽装で事件現場に来てるんだ。きっと犯人の魔法とか能力とか、そう言った素性も見抜いているんだろう?」

 

「「…………え?」」

 

 ぴたっと動きが止まるマサヨシ君とブレイブ。

 

 ――いや、お前も気付いてないんかい!

 

 「だってこんなに規則的に不審者が出てるんだろ?可能性として高いのは『何者かが何らかの目的をもって行っている』ってのが疑うべき内容だろ?んで、その目的の1つとしてこの一連の騒動が罠で『誰か、何か』を待っているってのも考えつくだろ?そんな状況なのに軽装なんだから何か対策とかあるんじゃないのかって考えるだろ?そうなると一番可能性として高いのは『マサヨシ君は相手の素性を知っていて問題ないと思ってる』だと思うけど、どう?」

 

「…………」

 

 黙り込むマサヨシ君。

 その姿を見て、より俺との距離を縮めるルビス。

 そしていつでも雷魔法を使用する準備が出来ている、俺。

 少しひりつく空気が流れ――。

 

 

「「ほ、本当だーーー!!」」

 

 

 ――なかった。

 シリアスな空気を吹き飛ばすあほみたいな叫び声。

 発生源はブレイブとマサヨシ君の2人。

 2人は叫んだ後急いで地図を見始める。

 

「た、確かに!ここまで規則的な特徴があるなら何かしらの意図があると考えるのが自然だ!」

「で、ですね!そうなると意図としては誰かを待つ罠というもの可能性が高いですね!」

「そうなると犯人の目的は……!…………。……なんだ?」

「…………何なんでしょうね?」

 

 凄い勢いで興奮し、それらを上回る勢いで大人しくなるあほ共。

 身構えてたこっちがあほらしいと思う位だ。ルビスの方を見ると俺と同じように警戒を薄くしてる。

 ちょっと耳の先が赤くなってるから、深読みしてマサヨシ君が何か企んでいると思い身構えたことを恥じてるのだろう。

 気持ちはわかる、俺も全く同じ恥ずかしさを抱えている。

 

「ま、まぁ、偶然と片付けるには少しあれですが、本当に只の偶然かもしれないですし。犯人がいるとして本当にこんな罠ですって公言しているかのような策を取るとは――」

 

 

『おぎゃあ!おぎゃあ!』

『あらあらどーしたの、ダミーちゃん、そんなにおぎゃおぎゃ泣き出して!』

 

 

「「…………」」

 

 

 ルビスの言葉を遮って向かう先から聞こえてくるばぶばぶおぎゃおぎゃしてるような声。

 それを聞き絶句する俺とルビス。

 

「ほ、本当に不審者が現れた!やるな!マサヨシ!」

「えへへ、ありがとうございます!さぁ、向かいましょう!」

 

 反対に喜んで向かうあほ2人。

 

 

 ――なんか頭痛くなってきた……。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 声がする方向に向かった俺達。

 そこには地獄が顕在していた。

 

「やぁーなの!ぼくちゃんもっと散歩するの!」

「まぁ、しょーがない子ね、ダミーちゃんは。それじゃあもう少しだけお散歩しましょうかねー」

「わーい!ママだいしゅきー!」

 

 身長2mを超える浅黒い肌をした半裸の男達がばぶばぶおぎゃおぎゃしてた。

 お姫様抱っこをしている筋肉ムキムキの男達というあまりに直視したくない光景のせいで脳みそが止まってしまった。

 その後再稼働した脳が強い命令を出してくる。

 ――早くこの場から逃げないと脳が焼き切れるぞ、と。

 

「私帰っても良いですか?」

「あ、じゃあ俺も帰るわ、後よろしく」

「駄目ですよ!なんの為にここまで来たんですか!?」

 

 踵を返そうとした俺とルビスを止めるマサヨシ君。

 

「君達!そこでばぶばぶおぎゃおぎゃしている2人組!止まりなさい!」

 

 そう呼びかけ近づいて行く男、マサヨシ君。

 なんと、彼はあの光景を見ても前に進める胆力の持ち主だったそうだ。

 俺は久しぶりに、尊敬に値する人と出会ったようだ。きっと彼は後年第二の勇者と呼ばれる存在になるだろう。

 だからもう帰っても良いかな?駄目?

 

「ふふん!俺とダミーちゃんのおぎゃばぶは止めることはできなーい!ねー、ダミーちゃーん!」

「そうだね、ママ!ここうるさくなってきたから違う場所でおぎゃばぶしよーよ!」

「良い案ね、ダミーちゃん!それじゃあ、行きましょう!」

 

 その言葉と同時に2人の身体から湧き上がる黒い靄のようなもの。

 それと同時に感じる魔力の奔出。間違いなく魔法を発動している。

 詳細は不明だが、今までの情報から存在感を消す系の魔法か転移系の魔法か姿を消す系の魔法だろう。

 なので俺もそれらの魔法の解除魔法を唱える。計3つの解除魔法の高速詠唱は大変だが、俺なら出来る。

 

「…………あ、あれ?姿が透明にならない!?」

「どーしたの、ママ。失敗したのー?……いや、これは、解除魔法……か?」

「……おそらくそうだ。魔力は消費しているのに効果が出てない。そこの眼鏡の男が魔力を放っていた。きっと我々の魔法を見て即座に解除魔法を使用したのだろう」

「……と、いうことは!ついに、来たのか!?」

「あぁ!その可能性が高いだろう!そこの男!眼鏡をつけてくたびれた服を着ている黒髪のお前!名を名乗れ!」

 

 おぎゃばぶしている姿から魔法が妨害されたと認識すると同時に俺を指さし、神妙な口調と表情になる男達。

 その落差に頭がいかれそうになる俺。

 

「ふふん!聞いて驚け!こいつこそこの街最高の魔法使い!ドライ・ホイールだ!人呼んで【ばぶみとおぎゃりの賢者】だ!」

「貴様達不審者を捉える為【ばぶみとおぎゃりの賢者】であるドライ様に協力してもらったのだ!大人しくお縄につけ!」

 

 俺の前に出てでそう言い放つブレイブとマサヨシ君。

 2人の後ろ姿に上級爆発魔法を撃ち込まなかった俺は世界一やさしい男だと思う。

 

「ついに!ついに!見つけたぞ!【ばぶみとおぎゃりの賢者】ドライ・ホイール!」

「こんな屈辱的な方法で待った甲斐があったぞ!ドライ・ホイール!」

 

「「魔王様の仇!」」

 

 言葉と同時に男達の姿がぐにゃりと歪む。

 歪みが直ると同時、そこには薄紫色の肌をした大柄の男が2人いた。

 

「魔人族か。擬態魔法とか何かで人族に化けていたか」

「『魔王様の仇』と仰ってましたね。この不審者事件の目的はドライ様への復讐目的だった、と」

「なんという真っ直ぐな忠義の心でしょうか!立派な心意気ですね!」

「マサヨシ君はちょっと黙ろうか」

 

 君あれだろ?正義や忠義、信じる心とか大好きなタイプだろ?

 

「えっとさ、そこの魔人族の人達さ。多分敵討ちなんだろうけどさ。俺達そこそこ魔王とやれる位には強いけどそれでもやる?」

 

 ブレイブが腰の短剣を引き抜きまるで相手を煽るかのように言うが、多分本心で聞いてる。

 客観的事実としてブレイブは強い。あの魔王が直接矛を交える必要があると判断をする位コイツは別格の強さだ。

 魔人族――人族と比べると圧倒的な身体能力と強大な魔力を抱えるトピア大陸一の優秀種。通常なら人族が一対一で勝てる存在ではない。

 とは言え、そんな魔人族が相手とは言え、2人程度ではコイツに勝てない。

 相手がそれを知らないならどうとでもなるが――。

 

「……ふん、貴様は勇者ブレイブか。癪だが知っているさ、貴様の強さは、な」

「貴様も居るのは不運だが……こちらもその場合を想定はしていた!無策という訳ではない!」

 

 ――だよねー。

 ブレイブの強さを少しでも知ってるなら隠し玉を用意してるのは当然。

 

「お!なんかあるのか、とっておきの手が!」

 

 ワクワクしたような声で話しかけるブレイブ。

 今のうちに先制攻撃すればコイツなら倒せるだろうに。

 ――しょうがないやつだ。

 

「あぁ、来い!『ケイン』!」

「コイツらに味合わせてやれ!お前の!いや、俺達の怒りを!」

 

 その言葉と共に地面から転移の魔法陣が現れる。

 咄嗟に魔法陣の解除を唱えようとするが、自分の知る術式ではないことに気付く。

 悪い癖だと自覚しているが、少し魔法陣の観察を優先する。

 結果魔法陣から出て来たのは毛むくじゃらの四足動物が出て来た。

 鋭い牙に敵を射抜くかの如く鋭い眼。見た目は灰色の狼だ。

 魔人達の使い魔かと思ったが、よく観察するとその狼から魔力を感じることに気付く。

 

 ――魔力を感じる、獣…………!?

 

「ま、まさか!?その狼は!?」

「流石、良く気が付いたな【ばぶみとおぎゃりの賢者】!」

「だが気付いたところでもう遅い!コイツは【ばぶみとおぎゃりの賢者】貴様の天敵のはずだ!」

 

「「さぁ、いけ!魔獣『グレム』!俺達の恨みを晴らすのだ!」

 

 その言葉と共に太古の昔に滅んだと言われる魔獣が咆哮を挙げた。

 

 

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