ばぶみとおぎゃりの賢者の物語   作:みたけ

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一応の決着

 

「あー、疲れた」

 

 昨夜から翌日の夕方まで聞き取りを受けていた俺とモーブ伯爵とマサヨシ君。

 ずっとばぶおぎゃしている2人と一緒に居たので脳が壊れるかと思った。

 家に帰るってのは良いな、本当に。

 そう思いながら部屋に入る。

 

「おかえりなさいませ、ドライ様」

「お疲れ!ドライ!」

『……』

 

 部屋にはルビスとブレイブと……なんかモコモコした少し汚れているがクッソ可愛い犬が居た。

 

「なんだ、その可愛い小型犬は?」

 

 ついついモフモフしようと手を近づけるが威嚇されてしまった。

 少し……少し残念だが自身椅子に座る。

 

「こいつ昨日の魔獣だぜ!なんか姿変えられるみたいだ!」

『うるさいな!お腹空いてるからできる限り体力使いたくないの!』

 

 ブレイブがそう言うと子犬の口から昨日の魔獣の声がする。

 マジかよ、姿も変えられるとはマジで優秀だな。

 魔獣って全てこいつ位の生き物だったのか?

 そう思っていると目の前にコーヒーが置かれる。

 

「それでどうなったのですか?」

「色々聞かれたけど結局モーブ伯爵の罪の自白が決め手でモーブ伯爵が魔人達を唆した、で終わったぞ」

「「『罪の……自白?』」」

 

 周りからは訝しげな声が出るが、俺には聞こえない。

 天才の耳には都合の悪いことは聞こえないのだ。

 

「さて、それじゃあ今度は魔獣側の話でも聞くか。お前達何で人族の街まで来たんだ?今の情勢で魔人族が人族の街まで来るのは危険だったろ」

『その前に一個確認させてくれ。アンタが戻ってくる前にそこの女の人から話を聞いたんだけど……。現時点でアンタの失伝魔法の、ばぶりーる・おぎゃりーなの効果を解除することはできないのってのは本当か?例えばアンタを殺したとしても?』

「できない。俺を殺しても無駄だ」

『……そっか』

 

 俺の言葉を聞き気を落とす魔獣。

 子犬がしゅんとした姿に見える。

 可愛い、モフモフしたい。

 そんな邪な考えを持っている俺とは別に魔獣がぽつぽつと語り始める。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 魔獣の名はケイン。

 その記憶は気が付いたら魔王ルーレに拾われたところからしか始まってない。

 名前も拾われてからそう名付けられたのか、元々そういう名前だったのかすら覚えてない。

 魔王ルーレはケインに対して優しかった。

 魔王はケインが魔獣だと知ったのだろう、過保護に部屋の中でいるよう厳命していた。

 だがケインにとってそれは苦しくもなんともなかった。

 何故ならケインにとっての世界は優しい魔王と彼の部屋でしかなく、閉じられた世界だったからだ。

 

 ――彼の世界が崩壊したのは人魔対戦の終結、和平会談の後だ。

 

 人族、魔人族の前で見事なおぎゃばぶを見せた魔人王のルーレ。

 その姿を恥じたのか。

 ルーレは自身の後任として親人族のゴートを魔人族を導く立場に指名。

 その後姿を眩ませてしまった。

 人魔対戦の後のルーレの姿を見ていたケインは彼の為に何かしてやりたいと思っていた。

 ばぶおぎゃの魔法が掛かってない、強く優しいルーレに戻れば、彼が再び魔王になるのではないかと考えた。

 その折にルーレの心棒者だったダミーとカースと出会い彼等が復讐を目論んでいることを知り、彼らと行動を共にすることを決意。

 人族の街に向かうことを決めた2人と1匹だが、その道のりは険しかった。

 現在魔人族が人族の街に向かうだけでも大変だったのに加えて。

 今回の大戦で住処を無くし、ごろつきになった魔人達が襲ってきたりと。

 ボロボロになりながらも彼等は人族の街に向かった。

 

 なんとかホイール街にたどり着いたケイン達。

 しかし、人族の街への通行許可証も門の魔法対策を突破する手段も無い。

 どうしたものかと考えていた時に出会ったのがタダノ・モーブ伯爵だった。

 タダノ・モーブ伯爵は親切にもケイン達を屋敷まで招き、彼等の話を聞き、それならっと俺を引きずり出す策を伝えた。

 そしてその策を実行し、昨夜までの事件に繋がる――。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 既に陽も落ち始め、部屋はオレンジ色に染まっている中。魔獣、ケインの話を聞く。

 つまりこいつの目的は復讐、ではなく魔王ルーレにかかったばぶりーる・おぎゃりーなの解除が目的だった、と。

 だからこんなに大人しくなってるのか。

 現時点で魔王ルーレにかかったばぶりーる・おぎゃりーなを解除できないと知った故に。

 

『だから良いよ、もう。殺せよ、研究素体にするんだろ?』

 

 そう諦めたように床に転がるケイン。

 まるで犬が服従のポーズをするかのように寝そべるケイン。

 その姿を見て、尚思う。

 

「あぁ、けどお前が本当に魔王を元に戻したいなら研究素体以上の役割があるぞ」

『……なに?』

 

 ――こいつが欲しい、と。

 

「お前さ、俺の研究助手にならないか?」

 

 そう告げると起き上がり、怪訝な声を出すケイン。

 

『は?研究助手?』

「そうだ。俺の目的は『ばぶりーる・おぎゃりーな』の解除魔法の創造だ」

『……は?アンタが?なんでだよ?』

 

 なんでだと?

 そんなの決まっている。

 

「簡単だ。天才のこの俺様が今後も【ばぶみとおぎゃりの賢者】なんて忌まわしき称号を呼ばれるなんて俺が耐えられない。だから俺は俺の為に『ばぶりーる・おぎゃりーな』を()()()()()してみせる。その為にはお前の協力が必要だ。ばぶりーる・おぎゃりーなが生まれた古代の生物の生き残りであり、かつ言語を話すことができる魔獣のお前こそが」

『……』

「その暁には真っ先に魔王、いや、ルーレに施してやっても良いぞ」

『……』

「さて、どうする?」

 

 俺の言葉を聞き考えるケイン。

 今回人族に利用されたこともあり、そう簡単には人族を信じることができないだろう。

 

 けど、そんなのは関係ない。

 俺の目的の為にはこいつが必要だ。

 全然前に進まなかった、ばぶりーる・おぎゃりーなの解除魔法創造の為には。

 

『……1つ聞きたい』

「なんだ?」

『僕が協力したとして解除魔法の創造が本当にできるのか?』

「できる」

『根拠は?』

 

 根拠?そんなの決まっている。

 

「この俺、ドライ・ホイール様が天才だからだ」

 

 そう、俺は天才なのだ。

 ばぶりーる・おぎゃりーなを復活させた時ですら自分の才能のみを信じてた。

 それが解除魔法の創造になるだろうが、何も変わらない。

 俺が天才であること以上の根拠は必要ない。

 

『……わかった、信じてみるよ』

「よし、契約成立だな。じゃあブレイブそいつの身体洗ってきてくれ。身なりが汚すぎる」

「おいおい、俺に命令する権利なんて随分偉く――」

「夕飯は好きなだけご馳走してやる」

「よし、早速行くぞ、魔獣けーろいん、だっけ?!」

『お、おい!首の後ろを持つな!後僕の名前はケインだ!』

「よし、じゃあいこうぜ、ケイン」

『だから待てってば、おい!』

 

 そう言ってドタバタと部屋を出ていくブレイブとケイン。

 騒がしいのが嫌いな俺としては思うところもある、が。

 

「……。ふ……。ふっふふっく。くくく!」

「何が面白いのですか?ドライ様?」

 

 今はそれ以上の歓喜が全身を巡っている。

 ついつい笑みが漏れてしまう位には、今俺のテンションは高い。

 

「決まっているだろ!?魔獣、しかも知恵のある存在だぞ!」

 

 前魔王ルーレが部屋に閉じ込める訳だ。

 間違いなく古代に最も近い存在。

 既に滅んだトピア大陸の古代文明。

 ばぶりーる・おぎゃりーなと同等以上の強力な魔法やノウハウがあった時代。

 そこへの通行許可証になり得る存在を確保した。

 これで……、これでようやく!

 

「これでようやく!ばぶりーる・おぎゃりーなの解除への道が開かれるかもしれないんだぞ!」

 

 そう興奮しているとルビスが俺の頭を抱いてくる。

 目には腕が回され視界は閉じられる。

 その結果豊満な胸が頭の後ろに当たっている感触が強く、生々しく感じる。

 驚きすぎて頭真っ白になったが、動揺を飲み込んで問いただす。

 

「……なんの真似だ?」

「別にいいじゃないですか、解除魔法なんて作らなくても。今のまま【ばぶみとおぎゃりの賢者】と言われて。適当に依頼を受けて楽しく過ごしていけば」

 

 閉じられた視界は何も映さない。

 その言葉の甘さと頭の後ろに感じる暖かさと暗闇に。

 まるで夢の眠りにつくような心地よい感触が全身を巡る。

 堕ちて堕ちて堕ちる寸前。

 

 激しい怒りとも憎しみとも似た黒く濁った罪悪感が頭を冷やす。

 

 ルビスの腕にそっと触れ、椅子から立ち上がる。

 

「は!駄目だね、そんな称号は天才の俺にふさわしくないからな!時間も時間だし、夕飯の準備を頼む。俺は身体を清めてくる」

 

 頭を冷やさないといけない。そう思い部屋をでる直前。

 

「……良いじゃないですか、今のままで」

 

 そう呟く声が聞こえたが無視して部屋を出る。

 天才の耳には都合の良いことは聞こえないのだ。

 今の彼女の顔を見る勇気は、俺には――無い。

 

 

 

 〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●

 

 

 ホイール街にある牢屋。

 犯罪を起こした者が入れられるそこに、一人の男がいた。

 

「何故私がこんな目にあっているのだ……」

 

 そう、タダノ・モーブ伯爵。

 彼は今回のばぶおぎゃ不審者事件の黒幕であると自白した身。

 明日にでも王都に連行され、そこで王と諸侯の判決に晒せられる。

 

「これもばぶみとおぎゃりの賢者達のせい……、で?」

 

 彼がこんなところに居る原因となったドライ・ホイールやブレイブ、失敗した魔人達に対しての怒りが湧く。

 その怒りは兼ねてより欲しかった、魔人族の目を入手できなかったこと。

 美術品に目がない彼は、それを入手できなかったことへの怒りと失望を持ち。

 それと同時に疑問に思ってしまった。

 

「あれ?」

 

 そう、根本的な疑問。

 

「何故私はこんなことをしたのだ?」

 

 何故自分はこんな策を用いて魔人族の目を入手しようとしたのか?

 確かにモーブ伯爵は人魔対戦前から魔人族の目が欲しかった。

 機会があれば欲しかった。

 だが、こんな自分が捕まり家名を傷つけるほどのリスクを背負うつもりはなかった。

 

「確かに私はあの魔人達に策を伝えた」

 

 覚えがある、魔人達を自身の屋敷に招き、策を伝えた。

 と、同時にその策以外の良案などないように魔宝石を用いて最上位洗脳魔法を掛けた。

 結果彼等は思う通りに動いた。

 

「何故その時に洗脳して無力化し、殺さなかった!?」

 

 油断している魔人族に洗脳魔法を使い無力化するように仕向けることもできたはず。

 今になってその考えが浮かぶモーブ伯爵。

 自身がリスクを負うことを嫌っている自身が、その考えが出てこなかったことに驚く。

 

「……そもそも……あの魔法が使用できる宝石、を。どうやって手に入れた……?」

 

 その言葉と混乱が闇に包まれた牢屋へと溶け込む。

 

『おやおや、混乱しているようですね』

 

 するとモーブ伯爵の言葉に応えるように闇からナニかが出て来た。

 

「な、なんなんだ、貴様は!?」

 

 現れたナニかは黒い法衣とピエロの仮面をつけた人の姿をしている存在だった。

 人族なのか亜人族、もしくは魔人達なのかすら見た目ではわからない。

 ただこれだけは間違いない、とモーブ伯爵は確信できる。

 

 ――こいつを見ていると気持ち悪い。

 

『やはりこの程度の洗脳だと他の魔法の干渉を許してしまうようですね。それともこれがばぶりーる・おぎゃりーなの効力なのでしょうか』

 

 闇から現れた存在は何かを呟いている。

 仮面をつけているのでわからないが、恐らくモーブ伯爵を観察しているのだろう。

 見えないが感じる視線を浴びせられているモーブ伯爵は自分の身体が震えていることに気付く。

 

「……何だ、貴様は、何を言っている……?」

『あぁ、気にしないで良いですよ。魔宝石を身に付けてない以上洗脳が解けるのは計算済ですし』

「なにを言ってるんだ、貴様は!?」

 

 その事実を認めたくないのだろう、必死に大声を出すモーブ伯爵。

 

『あぁ、混乱させてしまってすみません。では、貴方の混乱を無くしてあげましょう』

 

 大声を出すモーブ伯爵に向かって手を挙げ優しく、親しく、残酷に告げるナニか。

 

『最上位忘却魔法:パッパラパリン』

 

 ナニかから放たれた光は牢屋を覆っていた薄い光の膜を貫通しモーブ伯爵に突き刺さる。

 気を失ったのだろう、床に崩れ落ちる男。

 それを見て満足そうに頷くナニか。

 

『さて、では証拠の魔宝石を回収してきましょうかね』

 

 そう呟いて闇に溶けていく身体。

 牢屋には沈黙だけが残った。




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