フェスのコンテスト以来のライブだ。再スタートという意味でも、メンバーの気合いは十分だった。コンテストの1つ前のライブも再スタートだった気がしないではないが。
「あ、蘭とつぐみだ。どうしたんだろ」
ライブの前の楽屋の、ゴチャゴチャとした空気が好きだった。個室の楽屋を貰えることもあるが、普通のライブハウスは大抵共用の大部屋だ。三々五々、各々が荷物を置いて、ライブが始まる頃にはラウンジやフロアに散ってしまうわけだが、ライブが始まる前のこの時間は、そこそこの人数が屯していたりする。
「Roseliaの皆さん、今日はよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。いいライブにしましょう」
羽沢さんにアルバムのことを頼んでいたのは覚えていたのだが、このタイミングで持ってきてくれるとは思わなかった。……確かにライブの後はタイミングが噛み合わなかったりもするから、会えそうなタイミングでさっさと用事を済ませておくのは合理的だ。
「氷川さん、に用事があるんですけど」
「紗夜に? 面識あったんだ、意外〜」
「いや、初めてです。つぐみは何度か話しているみたいですけど」
財布を取り出すのに少し手間取って、出遅れた。もともと大したものは入れていないが、それでも一応盗難対策として分かりにくい場所にしまっている。
「初めまして、美竹さん。氷川紗夜といいます。……すみません、面倒なことを言ってしまって」
「初めまして。美竹蘭です。ライブのついでですから、別に構いません」
「それに、私たちの曲を聴いていただけるのは嬉しいです」
美竹さんと言葉を交わすのは初めてだ。だからといって、別に何も無いのだが。赤メッシュが特徴的な、Afterglowのギターボーカル。あと羽丘の一年生。私が知り得ている情報といえばそのくらいで、それで十分だった。
私が好きなのは彼女らの雰囲気とか音楽なのであって、人格は全く別の話だ。
はい、と紙袋ごとCDを手渡される。夕焼けのジャケット写真。らしくて、良い。
「身内以外に渡す、第一号なんです、それ」
「……それは、私でいいのかしら。Afterglowの記念すべき瞬間なのでは?」
「いいと思ったから渡してます」
「そうですか。……なら、二人とも、サインを頂けませんか」
少し、美竹さんのぶっきらぼうな敬語が面白かった。もともとの性格なのか、緊張しているからなのか、それともRoseliaの前だからなのか。
代金を渡して、その後サインペンをつけてアルバムを渡し返す。ペンを握り締めて固まる姿に、今井さんがニヤニヤを堪えているのがわかった。どうせいつかは自分に返ってくるというのに。
「その、まだちゃんとサインなんか考えていないんですけど……」
「別に名前だけでも構いませんよ。誰に貰ったかが重要だと思っているので」
「……紗夜さん。もしかしてお店で話したときにはもう、こうしようと思ってましたか?」
「ええ。その方が面白いかと思って、羽沢さんにはサインを強請ろうと考えていたわ。美竹さんは巻き添えと言えば巻き添えね」
踏ん切りがついたのか、美竹蘭、と書き込んで羽沢さんに順番が回ってくる。逆さだからよく見えないが、いやに達筆だった。
「……サイン、全員分付けましょうか」
「え! みんなのところに持っていくの!?」
「あたしたちだけってのも収まりが悪いでしょ」
「そうだけど……ひまりちゃんが……」
「それはいつもの事だし……」
道連れを増やす相談を真剣にしている二人をよそに、少しふざけ過ぎたかと内省する。初めて会った後輩を揶揄うのはまあ、褒められた行いではない。
「5人揃って貰えるのなら、それが一番嬉しいですが」
「それなら、少し預かります。ライブの後には返しますから」
つぐちゃんを揶揄うと面白いんだよね、と日菜が言っていたのを思い出した。先輩としてはどうなのだと思ったものだが、今になって少し気持ちが分かってしまった。
「……紗夜さんって、そういうところ日菜先輩に似てますよね」
「そうかしら」
ライブではよろしくお願いします、ともう一度言い残して去っていく二人を見送った。心做しかジトっとした目で見られた気もするが、正直これだけのファンを集めるバンドになってなおサインを考えていなかった方が驚きだ。相当ファンサが悪いのだろうかと、少し心配にもなる。
これからサインを考える会でもやるんだろうか。どうせならちゃんと固まりきる前の初々しいものが欲しかったりする。
「結局、何を買ったの? Afterglowのアルバム?」
「ええ。作ったと聞いたので、売ってくれないかと羽沢さんに頼んでいたんです」
「あこも持ってます! おねーちゃんに貰ったんです。ね、紗夜さん、今度感想言い合いっこしませんか?」
「いいですね。でも、ドラムのことしか言わないのはナシですよ」
「あこだってAfterglowが好きなんですー! ……それはそれとしておねーちゃんのファン1号ではありますけど……」
宇田川さんと話すと姉のドラムのことしか言わないような気がして、事前に釘を刺した。そうでなくとも『闇の力が〜』とか言われると解読に時間がかかりそうだから、白金さんにも助けを求めた方がいいんだろうか。
……そういえば、私と話しているときはあまり厨二言語を使っていないようなイメージがある。
「えー、いいなー。アタシも買おっかな」
「どれだけ作ったのかは知りませんから、欲しいなら早い方が良いとは思います」
「だよねぇ。モカに聞いとこう」
チューニングは本番前でいいか。道具の再確認だけをして楽屋を出る。
「あこ。今日の主役はあなたのお姉さんではなくあなた。Afterglowではなく私たちよ。……紗夜も。私たちはAfterglowの後なのだから、それに影響を受けるなんて無様は見せないで頂戴」
「わかってます! あこ、おねーちゃんに負けないようにって思うようになったんです。だから今日の対バン、すっごく楽しみにしてました。ぜったいに、飲まれたりしません!」
「あこちゃん……頑張ろうね」
「うん!」
「……私も大丈夫です」
「そりゃー、紗夜は大丈夫でしょ」
「ベースが乱れると私も乱れるかもしれませんね」
「ちょっと、やめてよ」
宇田川さんはとにかく上昇志向が強い。どうすれば自分が上手くなるか、心の持ちようをどうすれば良いのか、常に考えているような気がする。ドラマーとしてひたすら反復練習を重ねている上で試行錯誤しているのだから、この数ヶ月での成長は目覚しい。
姉の影響が大きいのだろうか。追い付こうというモチベーションは何よりの燃料になる。
本番にも強いし、一年後には見違えているんじゃないだろうか。中学生でここまで完成された精神性を持っている人はあまりいないように思う。
「……演奏に関しては信頼しています。その緊張癖の誤魔化し方だけ学んでもらえれば」
「自分も緊張しがちだって言ってたのに」
「本番に引き摺ったことはありませんから」
一般客に交じってフロアに出る。そこそこの頻度で湊さんが話しかけられたりもするが、楽器隊としては平和なものだ。
CiRCLEでは演者にもサービスがあるのでドリンクを貰ったり、宇田川さんと白金さんはゲームの話をしていたりする。観客の前でこれからのライブの話をするわけにもいかないので、本番直前ながら音楽の話を封じられるという不思議な状況に陥るわけだ。
「あ、あのポスターに写ってるのってヒナ?」
「そうですね。最近はアイドルをやっているみたいなので」
「……え? そのテンションで言うこと?」
「どのテンションで言えばいいんですか」
「いや、バイトとか部活始めたみたいなノリで言うことじゃないでしょ……てかアタシ、ヒナから何も聞いてないんだけど」
「貴方も日菜にバンドをやっていることを言っていなかったじゃないですか。お互い様でしょう」
「……そういう問題かなぁ」
そこそこ目立つ位置にPastel*Palettesのポスターが貼ってあった。確かに日菜と月島さんは結構親しげに話していることが多かったけれど、ライブハウスに金を落とすわけでもないバンドにこんなことをしていいのだろうか。売れている訳でもないのに。
湊さんがファンの一団に囲まれているのを眺めながら、ライブの開演を待つ。あと数分だし、特に厄介な相手というわけでもなさそうだから助け舟はいらないだろう。
「紗夜さんもNFOやりませんか?」
「NFOって確か……MMORPGですよね?」
「そうです。俗に言う、ネトゲ……です」
「……ダメですね。多分ハマってしまうと抜け出せなくなるので」
「もしかして紗夜さんって、ゲームとかやる人なんですか? MMORPGなんて単語、普通の人からはあんまり出てこないですよ」
「いえ、ほとんどやった記憶がありません。家に携帯ゲーム機はありますが、それにもほとんど触れていませんし」
そういえばゲームもほとんどしてこなかった。一緒に遊ぶ男友達でもいれば良かったのだろうが……いや、大の大人が小中学生に交じってゲームをしているのもアレか。女児向けのゲームは面白いと思えなかっただろうから、やるとしたらRPGかアクションゲームだっただろう。
ネトゲは本気でハマってしまいそうで良くない。匿名で、適度な距離で付き合える人間というのが如何に私にとって毒になるのか、凡そ想像がついてしまう。今こそマシにはなったが、幼い頃はかなり孤独に堪えていた時期もあった。
「それはイメージ通りです……」
「でしょうね」
「紗夜さんって、お休みの日は何をしてるんですか?」
「ぼうっとしています。寝ていたり……本を読んだり、音楽を聴いたり。大抵寝ていますね」
昼前まで寝て、昼食を摂って、ぼうっとして、夕食を摂って、ぼうっとして、寝たら一日が終わる。自由時間に何をしているかと言えば、実質的には何もしていないようなものだ。ギターを弾いていればまだいい方で、最近は本もあまり読まないし、勉強もそれほどしなくなったし、隠居老人みたいな生活をしている。
日菜に振り回される時間が無くなったから、本当に無に近づいてしまった。
「ウィンドウショッピングをしたりおしゃれなカフェで休憩していたりするんじゃないんですか!?」
「私をなんだと思っているんですか? ──ほらそこ、笑わない」
「あこの表情が面白くて……あはは、ヤバいって……!」
「だって紗夜さんはカッコイイじゃないですか!」
「まあ確かに似合いそうだけどさ……あーおかしい」
過剰に驚いてみせるものだから、今井さんのツボに入ってしまったらしい。震えている背中を眺めながら、そんなに立派な人間に見えているのかと困惑する。宇田川さんは歳上へのあこがれが結構あるようだから、特別そう見えるだけなのかもしれないが。私だって中学生の頃は高校生が大きく見えたし、高校生の頃は大学生が特別な存在に見えた。
「学校の氷川さんは……あこちゃんが想像しているのと、近いと、思います」
「ほんとに!?」
「人前では私も相応に取り繕いますから。カッコイイかは知りませんが」
巴さんが可愛がる気持ちが分かる。白金さんもか。
「始まるわよ。お喋りはそこまで」
ライブが始まって、演者が出てくるとまずざわめきが大きくなる。それからMCが始まるかいきなり曲が始まるかは演者次第だけれど、このバンドは一礼をした後に一言も発さないまま曲に入った。
静寂を待つのではなく、ざわめきをそのままコールに変えてしまうような勢いのドラムとギター。コピーバンドなのだろうか。街角で聴いたことがある曲だった。
コピーバンドやカバー曲の方が、下手なオリジナル曲よりも盛り上がってしまう事があるのはご愛嬌だと思う。お目当てのバンドならまだしも、全く知らないバンドの演奏を聴くなら曲だけでも聴き知ったものの方がノりやすいのは道理だ。その分下手だと露骨にわかってしまうのだが。
CiRCLEで演奏するのはほとんどが学生バンドだ。理論を詰めて作曲や作詞ができる高校生がどれだけいるのかを考えれば、コピーバンドが多くなるのは仕方がない。2組続けてコピーバンドが演奏をして、その次に出てきたのはAfterglowだった。
「おねーちゃんだ!」
「ライブ前には会わなかったんですね」
「雑念が入るからーって」
Afterglowは前回、1曲目の後にMCを入れていたような気がしたが、今日は最初にMCを持ってきたらしい。
オーディエンスへの感謝から、アルバムの告知、そしてメンバー紹介へと繋がる。
『リードギター、モカ!』
青葉さんと目が合った、気がした。ピックが振り下ろされて奏でるのは──聞き覚えのあるリフ。
音が違えば随分と軽やかに聴こえるものだ。
「『BLACK SHOUT』ね。ファンサービスか、それとも、挑戦状かしら」
「モカはそういうことしそう」
「……いえ、こちらを見られてもやり返しませんよ」
「えー? 紗夜って後輩に甘くない?」
「そうよ。Roseliaが舐められるじゃない」
「悪ふざけしているでしょう、二人とも」
羽沢さんと上原さんが慌てているから、挑発ではあったらしい。
今井さんは青葉さんと仲がいいと聞いていたのだが、煽り返すことを奨励してもいいのだろうか。お遊びだと言われればまあその通りなのだが、如何せん青葉さんと面識がない故に、無視してしまった方が楽な気がしてしまう。
「スルーする方が収まりが悪いわ」
「それは一理ありますが……」
Afterglowの曲のリフなんて覚えていない。この場でギターもなしにライブ1発で耳コピしろというのもまあまあな無茶振りだった。
「宇田川さん。Afterglowのアルバム、スマホに落としてありますか?」
「あります、けど」
「Afterglowの演奏が終わって楽屋に戻ったときに、スマホを貸していただけませんか」
「いいですけど、やり返すんですか?」
「……貴方が嫌ならやめますが」
「ちょっとカッコイイな、と思って。強者だけが通じ合えるやつって感じじゃないですか、これ」
「強者はアドリブでやるんじゃないですか? 私は少しでも練習しなければ無理です」
小声で話している間にもメンバー紹介が終わったので口を噤む。
Afterglowのライブを聴いていると特に思うが、やはりギター2枚の音の厚みが羨ましく感じる。今のRoseliaに不満があるとかではなくて、ずっとギター1枚のバンドでやってきたからなんとなく憧れがあるという話。アコギでもいいから湊さんも弾かないだろうか。少し興味がある。
『That Is How I Roll!』
『Scarlet Sky』
『True Color』
この3つは前回も聴いた曲だった。やっぱり歌詞が好きだ。
美竹さんの歌唱があればこそ、という感じもするが、感情に沁みてくる。
何より、楽しそうに弾いている。互いへの信頼が嫌というほど伝わって、眩しい。
毛色が変わったのは最後の曲だった。
『Hey‐day狂騒曲』。確か、こんな字が当てられていたと思う。ヘイデイカプリチオ、なんて随分と変わったタイトルを持ってきたと思ったら、なんというか、思いっきりはっちゃけてみました、みたいな曲だ。
ドラムもキーボードも暴れ回っているし、ギターもこれまでの曲にないサウンドを取り入れていて、よく作ったなという感じ。完全に歌詞は聴き取れなかったから、歌詞カードで読みたいやつだ。
ギターソロに入る。青葉さんはやっぱり上手い。私の代わりにRoseliaに入ったりはしないだろうか。……しないだろうな。歩きながら前を見てこのフレーズが弾けるのなら相当の練習を積んだはずだし、明らかにアレだ、陰で努力しているタイプ。忙しく水をかく白鳥のような。
『ありがとうございました!』
「盛り上がるわね、Afterglowのライブは」
「かっこいいですからね」
「……あこの語彙が
Afterglowが掃けてしばらくした後に楽屋に向かう。着替えとか片付けとか、どうやったって時間がかかってしまうものだから楽屋がひとつだとタイミングに気を遣ったりする。
「おつかれ〜!」
「素晴らしい演奏だったわ」
「ありがとうございます。あたし達もフロアから楽しませてもらいます」
「ま〜す」
廊下ですれ違うときに、今度こそ青葉さんと目が合った。それから、ハラハラとした様子でこちらを見ている羽沢さんと上原さんとも。
そんなに気が短いわけでも狭量なわけでもないのだが。これは私が単純にそう見られているのか、日菜や湊さんの風評被害なのかどちらなのだろう。
「アレは、嫌われているんですかね」
「いや〜、違うと思うけどな。なんというか、拗ねてる?」
「なんでですか」
「さぁ。つぐみが紗夜の話でもしたんじゃない? パート同じじゃん」
「それならやり返すと余計に角が立つ気がするのですが」
「いいっていいって、友希那もそのためにMC振り考え直してるんだし」
衣装に着替えて、ギターを手に取る。露出を少なく、できる限り中性的にしてくれ、なんて無茶振りを受けてくれた白金さんには頭が上がらない。未だに女性らしく映える所作には不慣れだから、あまり女性的な装いは似合わない。これに関しては私が悪いのでどこかで改善しなければと思っているのだが、体幹の癖なんかが直る前に期限が来るような気がする。
チューニングをして、宇田川さんからスマホを借りる。プライベートを覗く気もないから、音楽プレーヤーを開くところまでやってもらった。イヤホンをつけて、ここから10分で1フレーズ完璧に仕上げなければならない。……いや、言葉で言う分にはあまり難しくはないか。耳コピなんて奏者の常だ。
「どれをやるんですか?」
「『Hey-day狂騒曲』にしようかなと。面白い曲だったので」
青葉さんが軽々と弾いていたギターソロをそのまま返す。適当なリフでも良かったのだが、どうせ意趣返しとしてやるなら少し趣向を変えた方が良い。難易度的には異次元の超絶技巧ソロ、というわけでもないし、アドリブでなければ問題ない。足元が変えられないのが少し残念ではあるが、そこまでしたって仕方がないし。あのスクリームまで再現したかった気持ちもあるけれど。
「……多分、問題ないです」
「なら行きましょう。『BLACK SHOUT』の間に忘れないようにね」
「忘れたら十八番のフレーズをやるので恥はかきませんよ。……宇田川さん、ありがとうございました」
スマホを返して、立ち上がる。アルバムも受け取りに行きたいのに、面倒なことになったなという思いも無くはない。まさかサインの意趣返しだったりするのだろうか。
楽屋を出て、ステージ裏で待機する。ちょうど最後の1曲をやるところだったから、フルで聴き届けて入れ替わる。
MCの前に1曲目、『BLACK SHOUT』。実は全員が歌うパートがあるのが少し、苦手だったりする。私の声が1番曲に合わない気がして、全体のクオリティを下げているように感じるから。本当はボーカルのトレーニングもすべきなんだろう。今井さんの喉が欲しい。
「清聴ありがとう。1曲目は『BLACK SHOUT』。私たちRoseliaの最初の曲よ。
ステージの上からフロアを眺めると、Afterglowはすぐに見つかった。宇田川さん……巴さんが目立つからわかりやすい。
「ギターの紗夜よ。本番どころか練習でも間違えないの」
湊さんのフリに合わせて弦を弾く。『Hey-day狂騒曲』のギターソロをRoseliaの音のままで弾くと、原曲よりも重たく響くような印象になった。
してやったり、という顔をしているのは私ではなく湊さんだった。負けず嫌いらしいから、まあ、仕方がない。プロレスの範疇で収まることを祈ろう。
青葉さんの方へは、ちらりと目をやっただけだった。なるようになればいいというノリだから、もうどうしようもない。
ベース、キーボード、ドラムと順繰りにパート紹介をして、2曲目に移る。『Re:birthday』。コーラスがしっかりと入るから、音を外すとハモリが綺麗にならなくて酷い演奏になるという緊張感がある。
……自分が歌わされる曲が尽く苦手なのは、やっぱりどうにかしないといけないだろうか。
白金さんが前面に出る曲だから、心做しかギターは主張を小さめに。なるべく湊さんの声を意識しないようにして、釣られないようにハモリを歌う。
後ろを振り返ると、いつになく余裕がなさそうな宇田川さんが見えた。こういう状況だと姉を意識してしまうものなのだろうか。そう思う間に、宇田川さんの手からすり抜けたスティックが飛ぶ。サビの直前のタイミングで、なんとも間が悪い。
遊んでいないで宇田川さんのケアをすべきだった。
動揺からか宇田川さんの復帰が遅れているのを感じとりながら、脳内でカバー用のアドリブを組み立てる。
──もう、最悪だ。