『以上の理由から、私氷川紗夜は白金燐子を生徒会長に推薦致します。ご清聴ありがとうございました』
特に具体的な話はしなかったような記憶がある。そちらは白金さんが自分で話すだろうと考えたからだ。
なんとなく話すべきだと感じた内容をメモしておいて、半分以上はその場のアドリブで話した。原稿を作りはしたけれど、ずっと下を向いて原稿を読み上げるだけの演説の印象が良いはずもないから、やり方としてはそう間違ったものでもないと思う。
あまりいい演説ではなかったな、と振り返って思う。前置きが長いし結論が弱い。
スピーチなんて簡潔であればあるほど良いのだから、その点で言えば失格もいいところだ。
白金さんが選挙で負けたら私のせいだ。そうなったら謝らなければ。
──なんて考えていたら、3日後に白金さんが当選したという発表があった。
対抗馬はテニス部のエースの子だったから、実際のところかなり不利なんじゃないかと思っていた。それに加えて私があんな演説をしてしまったものだから、だいぶ厳しい戦いだったはずだ。白金さんの頑張りの賜物だろう。
放課後、私にひとしきり感謝の言葉をまくし立てた後に、呼び出しを受けて生徒会室へと向かってしまった白金さんを待っていた。
すぐ終わりそうにもないから、先にスタジオへ向かっていた方が良かっただろうか。
「あ、氷川先輩」
「こんにちは、花園さん、山吹さん。今から練習ですか?」
生徒玄関にほど近いベンチに腰掛けていると、Poppin’Partyの花園さんと山吹さんが通りかかった。個人的な交流はほとんど無いけれど、名前くらいは覚えている。
「そうなんですけど、香澄が課題を忘れちゃって……居残りしてるんです」
「あぁ……」
「氷川先輩は、誰かを待ってるんですか?」
「白金さん待ちです」
花園さんが、思い出したようにリボンの結び目を見た。それから、乱れていないことを確認してしたり顔。ちょっと面白いからやめて欲しい。
「そういえば氷川先輩って、生徒会に入るんですか?」
「……いえ、今のところそのつもりはありませんが、何故?」
「有咲が怖──」
「いや、そのっ、良い応援演説だったから、氷川先輩も入るのかなーって」
「……ありがとうございます。自分では拙いものだったと思ってしまいますが」
花園さんの質問に問い返すと、山吹さんが慌てたように花園さんの言葉を遮った。まあ何となくわかってしまったけれど、意図を汲んで聞かなかったことにしておく。
委員長になれば生徒会の仕事を手伝うことも多くなるらしい。そこで市ヶ谷さんと鉢合わせてしまうと、気まずいだろうか。私としては特に隔意も無いので、そこは向こうに上手く対応してもらうしかない。
「副会長にもならないんですか? あれって生徒会長が指名するんですよね?」
「特に話は来ていませんね。要請があれば考えますが……」
特に興味もないから、どうなってもいい。この時点で白金さんが私に話していない時点で、そもそも副会長に誘う気はないような気がしていた。
「私って、怖いんですか?」
「え゛っ」
ふと疑問に思って尋ねてみた。答えづらい質問なのは重々承知しているが、なんだか最近は自分が思っているよりも影響を持ってしまっているような気がして、不思議に思っていた。
クラスメイトはもう2年ほどの付き合いになる人もいるし、普段はそっとしておいてくれながらも時折話しかけてくれたり、案外気安い関係を築けていると思う。
クラスの輪には入るけど中心にはいない、程度の距離感だ。別に目立つ存在でもないし、風紀委員の仕事以外では人目に着くタイプの人間でもないと思うから、どうにも思ったより認知度が高そうなのが気になる。
それとも、私が知らなかっただけで女子校とは本来そういうものなのかもしれない。女子だけの社会だし、先輩だろうが後輩だろうが噂話や情報が出回るのが早くて、それが私の認識とギャップを生じているのかも。
「うーん、話してみるまでは怖いかも、しれない、です……」
「何が悪いんでしょうか……」
「えーっと、顔?」
「顔?」
「じゃなくて、その、表情! 表情です! 氷川先輩、おたえと同じタイプなんですよ!」
顔と言われて、困ってしまった。表情と言われても同じ。普段そんなに険しい顔をしているだろうか。
「おたえも無表情で黙っていると少し怖いところがあるんですけど、それと同じです。私の偏見ですけど、美人の顔は恐ろしく見えることがあるので……」
「山吹さんも怖いと言われることがあるんですか?」
「いや、私はないですけど……」
「さーやはかわいい系だよね」
表情と言われても、普段から微笑んでいるわけにもいかない。
山吹さんには言いづらいことを言わせてしまったと謝ってから、このイメージを手軽に払拭する方法があるだろうかと思案した。別に害はないから問題はないけれど、少し気になる。
「気にしなくてもいいと思いますけど……」
「そうですか?」
「じゃあ私たちで氷川先輩のかわいいところを宣伝する会をやります」
「それはやめてください」
「はーい」
花園さんの発言にハラハラしている山吹さんが少し面白かった。こういうことを考えているから怖いと思われるのだろうか。
風紀委員のイメージもあるのかもしれない。特に厳しいつもりはないのだが。
「うさぎを抱っこして歩いてみるのはどうですか?」
「私が抱っこしていると花園さんから没収したみたいじゃないですか?」
「そうかも」
香澄か白金先輩早く来て、という山吹さんの声が聞こえた気がした。