月輪より滴り   作:おいかぜ

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《45》妹分

 

『助けてください』と宇田川さんからメッセージが入っていたので慌てて返信を返したら、編曲のことだった。どこから手を付けていいのか分からない、との事。人騒がせな、と溜め息を吐く。

 

 日菜のサブベースを弄り回していた手を止めて、外出の準備をする。宇田川さんのインスピレーションを湧かせる手伝いとなるのか、単に編曲の手法の一例を解説すれば良いのかは分からないが、会って話をした方が楽なのには違いない。

 ついでにCiRCLEのホームページを見れば、手頃なライブイベントが。毎月開催しているイベントだったはずだ。Roseliaでも出たことがある。

 刺激にはなるだろうか。当日券が取れないかダメ元で聞いてみることにした。

 

『はい、お電話ありがとうございます。ライブハウスCiRCLEです』

「お世話になっております、Roseliaの氷川紗夜と申します。本日そちらで開催されるライブイベントについての問い合わせなのですが、当日券の販売はありますか?」

『あ、紗夜ちゃん? 当日券もあるから大丈夫だよ! 今日は初めてウチで出てくれる子達がいるから、ぜひ観に来て欲しいな』

「では後ほどお伺いします」

『お待ちしてまーす』

 

 宇田川さんも1日フリーらしいから、丸一日付き合うことになるだろう。ヒントもないままいきなり編曲をやってみる、なんて無茶なのはわかっていたから、遅かれ早かれ誰かが相談に乗ることになるのは自明だった。

 ただ、宇田川さんは今井さんを頼ると思っていたから少し意外ではある。もしくは、姉の巴さんに。

 白金さんは元からピアノをやっていたらしいし、理論自体の知識は持っていそうだから1人で何とかしてしまうかもしれない。

 

 何を着ていこうか迷って、先日白鷺さんと出掛けた時に買ったジャケットが目に付いた。クローゼットの手前の方に掛かっていたというだけなのだが。

 

 現役女優兼アイドルの見立てに間違いは無かろう、ということで、キャップを被って黒スキニーとシャツにジャケットを羽織る。

 日菜曰く、「おねーちゃんのビジュアルには似合う」らしい。人間性には合っていないということだろうか。ストリート系のファッションが私にあまり馴染まないのは自覚しているつもりだ。

 

 時刻を見れば11時30分。宇田川さんが集合場所にファストフード店を指定したので、そこで昼食も済ませてしまう腹積もりだった。ハンバーガーひとつで満腹になる自分の身体には未だに慣れない。以前は2つや3つ、普通に食べきれてしまったのに、あの食欲はどこに行ってしまったんだろう。

 

「あ、紗夜ちゃん」

「松原さん。バイト先、ここだったんですね」

「うん。彩ちゃんも一緒だよ。今日はシフトじゃないけど……」

 

 見覚えのある顔だと思ったら、レジの店員が松原さんだった。ドリンクとフライドポテトと、新発売のチリソースバーガーを買って席に戻る。知り合いが増えたせいなのか行動範囲が広がったせいなのか、バイト中の同級生に出くわすことが増えたが、バイトの邪魔になるから話し込むこともできないし、若干気まずくなるだけだ。

 

 ランチには若干早い時間だったからか、壁際の2人席が空いていた。席を確保しておくのを失念していたが、トレーを持ったまま店内をうろつく不審者にならずに済んだらしい。

 

 ……思ったよりも辛い。

 辛い食べ物は好きでも嫌いでもないが、辛さを覚悟をしていなかったからか痛覚にキた。

 食事の好みと言うと、私はかなり得な味覚をしていると思う。辛いものも苦いものも酸っぱいものも行き過ぎなければ美味しく食べられるし、特に苦手な食べ物も思いつかない。性別が変わって、明らかに甘いものを好むようにはなったが。

 日菜に似たのか、それとも日菜が似たのか、姉妹揃って味の濃いものを好む傾向がある。日菜の場合は嫌いなものが多いから、幼い頃は母が日菜に私の真似をさせて野菜を食べさせようとしていたのを思い出す。

 

 ハンバーガーを食べ終えてしまって、刺激物に驚いた口の中をお茶で洗い流す。しんなりしたフライドポテトをつまめば、どうやら今日はハズレらしかった。塩味が薄い。

 

 ワイヤレスイヤホンから流れる新曲のデモ音源を聴いて、思いついたことをメモしていく。仮題『Neo-Aspect』。直訳するなら『新たな側面』といったところ。

 少し、歌詞に引っかかるところもあった。扉は開けておく、なんて誰かを待つような表現。今井さんに向けたものだろうか。あるいは。

 

 全体的には、今までの作風から逸脱していないように聴こえる。オルガンでゴシックさを表現したり、対になるギターを前面に出してメタルとの両立を図ることを前提にした曲調だ。タイトル通りにするなら、その構図は崩してみたいなと思う。

 

 本来の編曲とは、曲のパート分けやリズム作りから行うものだが、その辺は既に湊さんが仮組みしてしまっていた。私の認識が真に正しいかは定かでは無いが、極論、作曲とはメロディの作成のみを指す言葉で、編曲は音源が出来上がるまでの全般を指す、というレベルの理解でもいいはず。

 メロディだけの音源と楽譜も配られたことから、湊さんの仮組み音源はあくまで参考程度に受け取って欲しい、というところだろう。

 

「紗夜さん! お待たせしました!」

「こんにちは、宇田川さん。昼食ついでに早めに来ていただけですから、気にしないでください」

 

 ちょうどテーブルを片付けたあたりで、宇田川さんが来た。フェイクレザーのジャケットにタイツと、紫のアクセントが入ったミニスカート。つまり、まあいつもの格好だ。

 

「宇田川さんは、お昼は?」

「食べてきました。……あ、待ち合わせ、カフェとかの方が良かったですね?」

「ゆっくり話せるならどこでもいいですよ。それで、どこでつまづいているんですか?」

「えっと……最初からです」

「でしょうね」

 

 取っ掛りも何も無く、少しずつでも進められるようならこんなに早く相談してこないだろう。

 

「曲を作るのって、こんなに難しいんですね」

「そうですよ。湊さんは簡単そうに言いますが、本当にすごいことなんです」

「ですよね〜。カッコイイ曲にしたい、って思いはあるんですけど──」

「まあ、その辺から掘り下げていくしかありませんね。……飲み物を買ってきます。宇田川さんは何がいいですか」

「ええと、じゃあ、コーラで」

「わかりました」

 

 カウンターの方に向かうと、松原さんの姿は見えなかった。休憩だろうか。コーラを2つと摘む用のチキンナゲットを買って、席に戻る。既に満腹だったが、宇田川さんが食べなくても何とか処理できる範疇だ。

 

「いくらでしたか?」

「ジュースくらい奢らせてください」

「……ありがとうございます!」

 

 私の部屋に招いた方が早いだろうか、という思考が過った。ここで音源を流しながら話をする訳にもいかないし。

 コーラに口を付ける。病的に甘いが、なんだかんだで美味しく感じてしまう。

 

「何から手をつければいいのか分からないときは、一つ一つ分けて考えましょう。宇田川さんは、どんな曲がかっこいいと思うんですか」

「いちばんは、Roseliaの曲です。友希那さんの声も、紗夜さんのギターも、リサ姉のベースも、りんりんのキーボードも、あこのドラムも、全部が噛み合って、こう、ドーン! って感じで」

「湊さんの曲が理想に近い、と。しかし、湊さんが作るような曲を持ち込んでも少し味気ないですからね……」

 

 自分の中の抽象的な概念を言語化するのは難しい。少し説明に苦慮した。

 

「たとえば湊さんは、白金さんのキーボードオルガンやピアノを使って荘厳さを表現し、私のギターでロックテイストを強調する手法を好んでいますよね。どちらに寄せた方が宇田川さんの好みに合いますか?」

「えっと──『BLACK SHOUT』『ONENESS』『LOUDER』が特に好きなので、どちらかと言うと後者かなって思うんですけど」

「じゃあそういうイメージでとりあえず考えましょう。ドラムはどうですか? 例えばAfterglowの曲はRoseliaのものよりも疾走感がありますが──」

「うーん、疾走感よりは、メリハリの効いた瞬間的な盛り上がりを出したいです」

 

 思ったよりすんなりと意見が出てくる。

 湊さんの歌唱を聴くに、サビに盛り上がりを集約するというのはこの曲のポテンシャルを活かす上でかなり有効だろう。

 

「それじゃあ、イントロはドラムなしで立ち上げて、Aメロからサビに向けて盛り上げる形にするとか、サビの直前で一瞬音を切ってブレイクを入れるとか、そういう方向でどうでしょうか」

 

 私が考え過ぎてもいけないが、方向性を考える手伝いくらいは構わない、はず。宇田川さんからの聞き取りと提案をまとめたメモ帳のページをちぎって彼女に渡す。

 

「紗夜さん! すごいです! あこよりもあこのことわかってるみたい!」

「考え方の一例を教えただけですよ。ここからまたしっくり来なくてやり直したり、根本から考え直したりする作業が待っているんですから」

「それは、そうですね……まだあこの『カッコイイ』が少し見えてきただけですし」

 

 話しながらちびちびと飲み進めていたコーラの残りを飲み干した。チキンナゲットは結構宇田川さんが処理してくれたから、私は一切れ摘んだだけだ。食事自体は好きだから、この食の細さには少し不満がある。

 

「宇田川さんが良ければ、ウチに来ますか? 一応、作りかけの私の例も見せられますし、私が編曲している時の考え方の話もできます」

「え!? いいんですか!?」

「ええ別に……そんなに喜ぶものでもないと思いますけどね」

 

 思いの外宇田川さんが嬉しそうな反応を示したので、その期待に応えられるか不安になった。ごく普通の子供部屋なのだが。

 

「そういえば、自宅に誰かを招くのは初めてかもしれません」

「それなのにあこがお呼ばれされちゃってもいいんですか?」

「呼ぶ機会がなかっただけですから。ですがもしかすると、最初で最後かもしれませんね」

 

 トレーを返して立ち上がる。昼のピークに差し掛かった店に長居するのも申し訳なかったし、頃合だっただろう。

 家を出る時に掃除をしてくればよかった。昨日掃除機は掛けたけれど、ベッドなんかは荒れたままだ。

 

「それから、後でライブに行きませんか? 宇田川さんと同学年の子達のバンドがあるらしいんですが」

「それってもしかして、月ノ森のMorfonicaのことですか?」

「ええ。私はライブハウスのバンド紹介を見ただけなのですが、月島さんからの評価も悪くなさそうでしたし、観ておく価値はあるかと」

「行きます行きます! 少し前に話を聞いてからちょっと気になってたんです」

 

 月島さんの話を聞いてからホームページを眺めてみたが、Morfonicaというバンドを言っているのだろうということはすぐにわかった。モルフォ蝶のモチーフを身につけているものだからそちらが由来だと思ったのだが、バンド名の由来は「Metamorphose」なのだとか。それと、「Symphonic」もか。

 楽器編成にヴァイオリンが入っているのが少し珍しいから、なにか新しい刺激になるかもしれない。

 

「ここです。今日は誰もいないけれど」

「おじゃまします! わ、メダカだ」

「母の趣味よ。最近飼い始めたの」

 

 ヒメダカとミナミヌマエビが入った水槽が、最近玄関に置かれることになった。母が趣味として始めたのだが、日菜も結構気に入っているらしかった。たまに眺めている。

 

 2階へ上がって、自室に宇田川さんを招き入れる。ベッドの上の毛布はとりあえず畳んで隅に置いておいた。

 

「なんというか、すごくらしい部屋ですよね。いい匂いもするし」

「そうですか? 匂いは多分、日菜が作っている香油の匂いですね。本棚の上にあるやつです」

 

 飲み物を取ってきます、とだけ言い残して、一階へと踵を返す。お茶請けはあっただろうか。

 冷蔵庫からオレンジジュースとチョコレートクッキーを見つけたので、これでいいかともう一度階段を上った。

 

「何も無い部屋でしょう?」

「でもオシャレですよ! アクセサリの飾り方とか、家具の統一感とか」

「その辺は半分以上父の趣味ね。でも、ありがとうございます」

 

 サイドテーブルにチョコレートとコップを置いて、PCを立ち上げる。

 メダカやエビが増えすぎたら私の部屋にも水槽が出張してくるかもしれない。卵を保護しなければ勝手にお互いに食い合う気もするけれど。

 

「ベースも弾くんですか?」

「最近練習中です。まだ下手ですよ」

「紗夜さんの言う下手はあてにならないんですけど」

「驕るよりはいいでしょう」

 

 スタンドに立てかけられた日菜のサブベースが目に付いたらしかった。実際、まだまだ下手だ。ギターの技術を応用できる部分はあるが、それにしたってギターとベースは見た目こそ似通えど全く違う楽器なのだと痛感する。

 弾いているだけで手の甲の筋や上腕三頭筋あたりが痛くなる。

 

「まだ1番を仮で作ってみただけですけれど、私の方向性としてはこんな感じになります」

 

 まだまだ拙いところも多い『Neo-Aspect』の草案を流す。Roseliaらしい曲を作るという点では湊さんに及ぶべくもないからと、かなり雰囲気を変えたアレンジにしてみた。

 リファレンスをRoselia楽曲ではなくて外部に求めた形だ。白金さんのオルガンを前面に押し出して、ギターはリズムギターに徹する形にして主張を控えめに。その代わりにベースをある程度好きに動かせるようになったので、ドラムと併せてオルガンとの対比構造に持ってくる。ゴシックな雰囲気を出しながら、キャッチーなリズムでノリ易くする意図があった。

 

「ちょうど宇田川さんの方向性とは真逆のテーマになりますね」

「……こんなに変わるんですね」

「編曲とはそういうものですから」

「友希那さんがギターに入れてたリフをキーボードに持ってきたのは、ギターの主張を無くすためですか?」

「そうですね。Roseliaらしくないと言われればそれまでですが、少しくらい変わり種があってもいいでしょう」

 

 これくらいやったっていい、という励ましでもある。どうせこの案は大幅に練り直すことになるだろうし、コンペでも採用されるとは思えない。

 

「宇田川さんは何かソフトとかを使っていますか?」

「何がいいのかわかんなくて、今は無料のやつ使ってます」

「EDMを本格的に再現したいのでもなければ、とりあえずはそれで構わないと思います。やり方は我流になりますが、個人的にはリズムから作っていくのが楽ですね。これはパーカッション、ベース、ギター、キーボードの順で組んでいます」

 

 触ってみますか? と尋ねるとやりたいと返ってきたので机を明け渡す。後ろから様子を見ていると、思ったよりもすんなり作業が進んでいた。リズム感覚は私よりもずっと良いだろうから、当然と言えば当然ではあるが。

 こうして見ていると、やはり私が作るリズムはかなり単調だと思う。昔散々に指摘されたときには散々思い悩んだものだが、結局改善されていない。

 

 2時間くらいは没頭していただろうか。初めて触るソフトで良くぞここまで作り込めるものだと感心する。それと、ベースを触り始めた辺りで頭を抱え出したのには少し笑ってしまって申し訳なかった。

 

「このソフト、すっごい使いやすいですね!」

「有料ですけどね。作りかけのデータは後で送っておきますよ」

「ありがとうございます。あこも買おうかなぁ……」

「それほど高くもないので、音楽が好きなら買っても後悔はしないと思います。私も結構使っていますし」

「わ、これ『HEROIC ADVENT』ですか? ジャズみたい」

「ジャズの本を読みながら組んだやつですね。こうやって勉強もできますし、既存曲を解体して分析することもできますから、案外楽しいですよ」

 

 ハンガーにかけていたジャケットを羽織り直して立ち上がる。ライブハウスに向かうのにもいい時間だ。

 

「そろそろ出ましょうか」

「はーい。……やっぱり紗夜さんって、スマートなオトナって感じですよね」

「そうですか? ……そういえば、私は後輩から怖がられているらしいのですが、宇田川さん的にはどういうところを直せばいいと思いますか?」

「そのままでいいです! 絶対! 紗夜さんはクールでカッコイイんですから、そのままでいてください!」

「しかし、この間も生徒会の後輩と一切目を合わせて貰えませんでしたし……」

 

 後輩と関わる、という気がサラサラなかったから、年下にどう見られるのかということには疎かった。部活動でもしていればそのうち交流が生まれて、宇田川さんのように接してくれたのだろうが、生憎何もやっていない。

 それにしても、市ヶ谷さんに怖がられたのは少しショックだった。嫌われているわけではないと思うのだが……

 同じ場所にいた白金さんも我関せずという感じだったし、仕方ないな、という感じの認識なのだろうか。

 

「友希那さんだって怖がられてますから、そういうものですよ。先輩って怖いじゃないですか」

「それは一理ありますが……」

「それに、紗夜さんが一日中微笑んだりしてたらそっちの方が怖いです」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。こういうところでズバッと刺してくるあたり、妹だなぁと感じる。

 春先の道は、随分と歩きやすくなった。梅雨に入るまではしばらく過ごしやすい気候のままだろう。

 CiRCLEにはすぐに着いた。もう歩き慣れた道だ。受付には例の、新人スタッフさん──恐らくもう新人ではない──しかいなかったから、結局月島さんには挨拶していないが、問題なくチケットは買えた。

 ドリンクを交換して、フロアの前の方に立ち位置を確保する。私一人ならいつもは後方寄りで見ていることが多いのだが、宇田川さんがどうせなら前に行きたいと言うのでそれに付き従った形だ。

 

『初めまして、Morfonicaです! 今日はCiRCLEさんでライブをさせてもらえることになって、もう夢みたいで──』

 

 バンド活動を始めたばかりなのだそうだ。楽器未経験者ばかりで曲がりなりにもバンドの体裁を保っているのは、素直に凄い。

 宇田川さんが困惑したような表情をしていたのが、印象的だった。

 

「始めたてのバンドなんてこんなものですよ。むしろ、かなり上手い方です。ヴァイオリンの方が抜きん出て上手いので差が強調されてしまったのもあるとは思いますが……」

「違うんです、別に下手だと思ってるわけじゃなくて──うう、言葉が出てこない」

 

 上手いか下手かで言うと、まあ下手だ。でもバンドとして成立しているし、音楽を楽しんでいるのも伝わってくる。()()拙いだけで、すぐに見違えるだろうという確信もあった。月島さんも、わざわざ私への話題に出したということは同じようなことを思ったのだろう。

 何より、観客が盛り上がっているのだから、それが全てだ。

 

「あとで話してきてもいいですか?」

「それは構いませんが」

 

 目の前の演奏に耳を任せる。みんな素直なのがよく分かった。ヴァイオリンが上手いから、全体をカバーできるように弾いているし、それに対してギターがムキになる。少しでも調和が乱れると露骨にドラムが走り出すのを、一切ブレないベースが何とか引き止めている。

 

「ちょっと、初期のRoseliaを思い出しました」

「私が入る前ですか?」

「はい。あこが友希那さんのところに押しかけて、リサ姉とも一緒に3人でバンドを組むことになって、りんりんを誘って──それでも友希那さん以外ボロボロで……溜め息を吐いたり、少しギスギスしたり……ライブで上手くいくようになったのも、紗夜さんに会う少し前くらいだったんです」

 

 それほど意外だとも思わなかった。1度バラバラになる前のRoseliaには、割とそんな空気があったからだ。

 

「今は、最高に楽しいんです。あこの『カッコイイ』をありったけ詰め込んだ曲を、皆で弾けたらどれだけ楽しいだろうって、今、思いました」

「……頑張りましょうね、審査も、コンテストも」

「はい! 紗夜さんが絶対忘れられないようなライブにします!」

 

 ライブが終わって、フロアに出てきたMorfonicaのメンバーの方へと歩いていった宇田川さんの背中を見送る。

「Roseliaの宇田川さんじゃん!?」という声が聞こえてきた。

 オレンジサイダーで喉を潤す。

 

 私の最高は塗り替えられずとも、この人生で最高のライブにはしたい。

 バンドを抜けるという、ただそれだけの行為に感じてしまう後ろめたさに、苛立ち交じりの息を荒く吐き出した。

 

「紗夜さーん! 透子ちゃんが話したいって言ってますー!」

「……今行きます」

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