月輪より滴り   作:おいかぜ

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《65》異句慟音

 

 天羽彼方。パスパレの初期メンバーで、最初のギター担当。彩ちゃんと同じくアイドルスクール出身で、そして、1stライブの直後にパスパレに見切りをつけて立ち去った。あたしはそのくらいの情報しか知らない。

 

 全く興味がなかったからだ。歌もダンスもギターも凡庸。その時点で特に興味が惹かれる要素はなかったし、競合相手になりもしない、立ち去った背中を追いかけるだけ無駄というものだ。

 

 なんだか、白けてしまった。

 

 彼女を使ってプロデューサーが何をしたいのかは、よく分からない。

 彩ちゃんのモヤモヤした後悔を払う場所を作ったに過ぎないのかもしれないし、あたしを刺激する材料にしようとしたのかもしれない。

 

 それはどうでもいいけれど、これは間違いなくパスパレへの『不利益』だった。

 

 起爆剤のつもりかな。くだらない。

 

 よろしく、と差し伸べられた手を握り返すこともしない。紫苑の瞳をぱちくりと瞬かせて、少し困ったような表情でこちらを見るのに、にっこりと笑ってみせるだけ。

 

 特に話すこともない。どうだっていいから。

 あたしは別に、彼女に負い目も興味もなければ、敵意も好意も抱いていない。

 

 プロデューサーへの苛立ちと、これを使ってあの人が何をしようとしているのか予想する思考が綯い交ぜになる。

 

 その1、悪意あるドラマ作り。パスパレ最初期の激動を、ここで蒸し返すことによって長持ちさせようとしているのでは無いかという予想。本来は天羽彼方がパスパレを見捨てた側だけれど、言い方によってはいくらでも印象を操作できる。彼女を引き込むことで不和の種を撒き、順風満帆なパスパレを谷底に突き落とすことで、ドキュメンタリー『らしい』エピソードを作ろうとしているのではないか、と疑うことに筋は通る。

 

 その2、ただのお節介。本当に善意から、彩ちゃんが最初期に抱いたであろう後ろめたさを、話し合いで解消しようとしている可能性。話し合えばいがみ合いなんか起こらない、とメルヘンな思考回路が爆発しているのでもない限り、こんな馬鹿げたことはしないだろうと思うけど。

 

 その3、あたしへの挑発。もしくは問題提起。価値観を擦り合わせろ、同じ視座に立てとうるさいのだから、今のままでは解決ができない問題を放り込んでくるかもしれない。これくらい乗り越えろ、とでも言うような試練の押し売り。これが一番納得できる予想。

 

「久しぶりね、彼方ちゃん。それで、私たちになんの用件があるのかしら」

 

 その4。或いは──

 

「うん、もう1回パスパレに入れてもらおうと思って。日菜ちゃんはもうやる気ないらしいし、丁度いいでしょ? 私ベースも弾けるよ」

 

 ──あたしの代わり、とか? 

 

 千聖ちゃんが口火を切った。そして、返ってきた言葉に面食らったような表情。ちょっと面白い。

 彩ちゃんが何か言おうとして、千聖ちゃんに制されて踏みとどまる。

 

「……記憶が改竄されたわけではないのよね。本気で言っているの?」

「え? うん」

「あなたはパスパレに見切りをつけて立ち去った。私たちは残って、軌道修正をして、なんとか生き延びた。今更戻ろうだなんて、ムシが良すぎるとは思わないのかしら」

「べつに不義理を働いたわけじゃないと思うけどね。辞めた理由の大部分は事務所の失態のせいだし、千聖ちゃんだってパスパレ辞めようとしてたじゃん?」

 

 話が通じないタイプだ、とすぐにわかった。その割に、千聖ちゃんが言い返しにくい言葉の選び方をする。あまりにも状況が異次元過ぎて、少し面白く感じていた。

 

「いいえ、あなたは私たちを見捨てたのよ。一緒にしないでくれるかしら。あなたは損切りをして、私は結局最後まで残った。……あの時点での彼方ちゃんの判断が間違っていたとは思わないわ。あなたはあれ以上損をしない選択肢を選んだ。私は不利益を飲んででもここでやっていくことを選んだ。思想がどうあれ、結局はどう行動したかでしょう。──言っていることが理解できる?」

「そうだね。私が抜ければパスパレはメンバーが足りなくなって、じきに解散すると思ってたんだけど……そうはならなかったからね。率先して抜けてあげるくらいの気持ちだったのになー」

 

 あたしに矛先が向く。

 どう足掻いても、天羽ちゃんがパスパレに再加入することを千聖ちゃんが認めるとは思えない。けれど、天羽ちゃんの理論武装もなかなかだった。物は言いようだなぁと言うか、よく口が回る。

 

「プロデューサー、黙ってるけどさ。あたしたちが『入れていい』って言ったら天羽ちゃんは再加入するの?」

「ん〜、問題ないはず。誰とは言わないけど、上の許可は出てるんだよね」

「へぇ? やる気云々の話は?」

「私もマネージャーも、報告書は上げてるからね。どっかから拾ったんじゃない?」

 

 冗談でも演技でもなく、天羽ちゃんはパスパレに戻ろうとしているわけだ。

 

「やる気無くしてる日菜ちゃんよりも、モチベーション増し増しの私の方がパスパレに良い影響を与えるとは思わない?」

「思い上がるのもいい加減にしてもらえるかしら」

「えー、でも、日菜ちゃん辞めちゃうんじゃない? だって千聖ちゃん、もう日菜ちゃんとの約束守れないでしょ?」

 

 明確に、千聖ちゃんの表情が動いた。プロデューサーの方へ視線を向けて、それから、無表情に戻る。

 

「ね、日菜ちゃん。私と代わってくれないかな?」

 

 情欲に訴えかけるような懇願と笑み。所作が染み付いている。さすがにこの世界で生きているだけはあるなぁ、と感心する。

 けれどべつに、この子に興味は無い。胆力だけは驚嘆ものだけど、それだけ。それよりもこの局面に、パスパレのみんながどんな反応を示すのか気になっていた。

 

「他の4人が『良い』って言ったら良いよ」

「ほんとに!?」

 

 パスパレのみんなが、あたしの事をどうとも思っていないのならどちらにせよ残る意味が無い。少なからずショックは受けるけど、そこはまぁ。

 

「日菜さん!?」

「んー?」

「どうしてそんなことを……」

「なんか槍玉に上がってるのあたしだし。心配してくれるなら麻弥ちゃんが『嫌だ』って言ってくれればいいだけだよ」

 

 言ってから、ちょっと絵踏みたいなことをしてしまったなと思った。好感度測定というか。気持ちが悪かったから、少し反省。

 

「あ、別に日菜ちゃんが抜けなくても、ギター担当2人でもいいんだからね」

「それはナシかな。あたしはキミとバンドやりたくないし」

「ひどーい」

 

 彩ちゃんが酷い顔をしていた。あたしを引き留めるときに話題に出したように、彩ちゃんにとってパスパレのメンバーを1人欠いたことは大きな後悔になっているらしい。

 そんな過去が迫ってきて、しかも原因が尊敬しているプロデューサーだというのだからトラウマものだろう。

 

「彩ちゃんは? 私を受け入れてはくれない?」

「わ、私は──」

 

 あたしが同席していると、彩ちゃんにとっては圧になるか。彩ちゃんとしては天羽ちゃんのこともばっさりと切り捨てて良いものでは無いのだろうけれど、言い淀むほどあたしの心象が悪くなることも考えてしまうはず。

 

「プロデューサー、来て」

 

 席を立つ。

 しばらく黙っていたプロデューサーを呼び出せば、特に何も言わずについてくる。話をまとめておいて、と言い残してミーティングルームを出る。同じフロアの別室へと移動してプロデューサーと一対一になると、にわかに苛立ちが戻ってきた。

 

「どこから引っ張ってきたの、アレ」

「私の差し金じゃないよ。都合が良いから乗っかったのは事実だけど」

「パスパレを壊すつもり?」

「まさか。でも、今まで何となくでやってこれてた部分は修正しておかないと。氷川にしたってそう。見ればわかるけど、丸山のこと甘やかしてきたでしょ」

「……もし、あたしたちが今まで挫折してきていないことを言っているのなら、お門違いだよ」

「そうじゃない。丸山をリーダーに据えてる意味は何? さっきのを見ればわかるでしょ。リーダーなら、即座に天羽を切り捨てなければいけなかった。自分の甘さを理由にして、氷川を軽んじているのに気が付いてもいない。パスパレを背負っている自覚もない。丸山を、判子を押すだけのリーダーに育ててきたのは氷川だよ」

「それは、プロデューサーが思うリーダー像でしかないでしょ。あたし達の中で彩ちゃんに期待される役割はそうじゃない。全部気持ち悪い押し付けじゃん」

 

 東中野ナオという人間について、あたしはほとんど何も知り得ない。パーソナルな情報も、インターネットで手に入れられる程度のことしか知らない。それでも何となく、話している内にわかってくることはある。彼女が抱えているコンプレックス。こんな意味不明なことをしでかす理由、その根源。

 

「Marmaladeの後悔を押し付けるの、いい加減やめてくれる?」

 

 結局のところ、それに尽きる。

 彩ちゃんに対して思うところがあるのは、最初からわかっていた。前回の時点では、彩ちゃんとあたしをぶつけたいのかもしれないとも思ったけれど、どうもそれだけでは無い。

 

「……」

「Marmaladeとパスパレを重ねて、()()と彩ちゃんを重ねて、何勝手にイラついてるのさ。試練を与えて、あたし達を鍛えてるつもり?」

 

 プロデューサーは、目に見えて動揺した。

 天羽彼方という劇薬は、実の所パスパレに対して大きな効果を持たない。そもそもあたしは全く興味がないし、千聖ちゃんが利己的な主張を許すはずもないからだ。麻弥ちゃんやイヴちゃんがあたし達を振り払ってまで天羽ちゃんを庇うには、二人が交流した期間が短すぎる。

 

 もともと、彩ちゃん以外には大した効き目のない爆弾だった。

 

「……そう見える?」

「あたしにはね。彩ちゃんに八つ当たりして、あたし達を啓蒙しているつもりになって舞い上がってる」

 

 自覚してさえいなかったのか。馬鹿らしい。

 

「アイドルが苦手? それはそうだよね。プロデューサーは『失敗』したんでしょ? Marmaladeの解散は、アイドル『あゆみ』の引退は、──」

「──もういい、氷川。……そうだね、私は引き摺っているよ、今も」

 

 深く息を吐いた。

 

「私たちは、ずっとボタンを掛け違えたまま走ってきた。自分の信念を曲げず、信頼なんて言葉を過信して、がむしゃらに走り続けてきた私たちは、頂を前に自壊した」

「パスパレはMarmaladeじゃないよ」

「だけど、パスパレには『あゆみ』がいる」

「いないよ。いるのは丸山彩だけ。……馬鹿にしないでくれる?」

 

 彩ちゃんの原点。憧れのアイドルとの類似性は、あたしからみてもそれなりに強い。彩ちゃんが『あゆみ』の真似をしているわけではなくて、自分と似ていて、それでいてずっと輝いている『あゆみ』に惹かれたのだろうけど、プロデューサーにはそれがどうしても耐えられないらしい。

 

「……そうだね。パスパレはMarmaladeじゃない。けれど、必ず同じような末路を辿る」

 

 ノート型のケースに入ったタブレットを乱雑に投げ置いて、プロデューサーが足を組んだ。背もたれに背中を預けて、投げやりに吐き捨てる。

 

「ユニットの一人一人に人気があるなら、ユニット売りは効率が悪い。必ず、パスパレを解散させようという流れが生まれる。今はまだ音楽面での収益が大きいけど、いつか必ず下り坂になる。そうなるとタレント売りを始めるのがこの事務所だ。ユニット活動の頻度を落として、独立させようとする。そうなれば氷川、飽きて辞めるでしょ。白鷺もそうだね。女優方面にまた舵を切るのかな」

 

 まあ、一人で芸能界に残ろうとは思わないだろう。そこまで追い込まれれば、だけど。

 

「夢を持ってパスパレにいるのは、丸山と若宮だけ。パスパレには、共通の夢がない」

「共通の目標が必須だとは、あたしは思わないけど。アイドルの高みを目指す。それだけで、あたし達は今のところ同じ方向を向いてるよ」

「挫折したとき、それでどうやって立ち直る? パスパレに所属していることによるデメリットがメリットを上回ったとき、あるいはパスパレが価値を提供できなくなったとき、どうやって持ち直す?」

 

 辞めればいいさ、とプロデューサーは嗤った。

 

「氷川は辞めればそれでいい。パスパレに執着なんかないんだから、飽きたら辞めればいいんだろう。白鷺も、キャリアの邪魔になればパスパレを切り捨てる覚悟くらいできているはず。それで、お終い。丸山は? 若宮は? 大和は?」

 

 知ったことか、と思う。あたしにとってもパスパレは大事なものだけれど、己の人生のすべてというわけではない。

 考えられる限りの手段を用いて、足掻いて、それでもパスパレが立て直せなくなったのなら、それが寿命だったというだけだろう。

 

 彩ちゃんは、『アイドル』とは心の持ちようであり、観客に魅せる姿であり、その在り方に宿るものだとかつてあたしに宣言した。それが嘘でないのなら、彩ちゃんは一人でだってアイドルでいられるはずだ。そこにあたしが責任を負うことはない。彩ちゃんがあたしを引き込むために振りかざした理論なのだから。

 

「氷川の問題じゃない。氷川にとっては問題にならないから。……パスパレの問題だよ。パスパレが今の5人じゃなければいけない理由も、氷川には無い」

 

 それならあたしじゃなくて彩ちゃんに言うべきじゃない? というツッコミはさておいて。パスパレであることを主軸に置くなら、マネージャーの主張を理解できなくはない。あたしにとって価値のあるパスパレではなく、彩ちゃんに必要なパスパレを存続させるため、という意味では。

 

「ほんと、よくできたユニットだよ、パスパレは。Vivid Canvasみたいな後続アイドルと棲み分けができるバンド路線、事務所の影響力や自分たちのビジュアルを上手く活用できるアイドル路線、その両立。夢や理想とは対極の泥臭いマーケット分析と努力を土台に、際立った才能とバランス感覚によって為される理想的な舵取り。メンバー全員が氷川みたいな視野を持てるのなら、おそらく問題は無いだろうね」

 

 まあ、そうじゃないんだけど、と言いたいのは分かる。

 

「感覚のズレを感じたんでしょ? 氷川は、パスパレなら自力で武道館ライブも実現できると思ってる。丸山は、武道館ライブなんて夢物語だと心のどこかで思ってる。もう1つ言うなら、白鷺は音楽人にとっての武道館がどんなものなのか、いまいち把握してない節があるね。全員がバラバラの方向を向いて、それでも釣り合いが取れているのは氷川が指先で天秤を調節しているから。本来なら躓いて立ち止まるような問題を、氷川が払い除けてしまっているから。もうとっくに、パスパレは氷川のワンマン独裁組織になってるよ。そして、認識のズレはだんだん大きくなる。釣り合いを取るのが難しくなって、氷川の許容量を超えた瞬間に、パスパレは崩壊する。──或いは、氷川の予測をすり抜けた困難に直面した瞬間に」

 

 そんなことは無い。そう言葉にしなかったのは、内心で納得してしまっているから? まさか。

 予想外の困難というのがどんなものを指しているのかはさておいて、そんなに張り詰めた運営をしているつもりは無い。どんな失敗をしようと、立ち止まって、振り返って、修正ができるくらいのゆとりを持って動いているはずだ。

 認識のズレとは言っても、そんなものアイドルに対する捉え方からして全く違うのだから今更だ。

 

「ほーら、わかってない。氷川は理性だけでアイドルをやっているからそう思うのかな。自分が特別であることを自覚しなよ。理性だけでアイドルなんて非効率な職分は務まらないんだから」

 

 話は終わり、とばかりにプロデューサーが立ち上がって、背を伸ばす。

 

「私が本格的にパスパレを動かし始めたら、氷川がパスパレにいる理由は無くなる。今は面白いからなんとなくパスパレに残って、飽きたら居なくなるだろう氷川の不安定さが、パスパレにとって大きな問題でなくてなんだろうね」

「簡単な解決策があるじゃん。プロデューサーがパスパレを残したいのなら、これ以上ないくらいに誂え向きな状況でしょ? あたしを切捨てて天羽彼方を取ればいい。あたしの役割はもうプロデューサーが担えるんだから、今度は彩ちゃんを中心に、プロデューサーの好きな『共通の夢』を掲げてパスパレを組み直せば全て解決するよね」

 

 1度深刻な機能停止には陥るだろう。TISには間に合わないだろうけれど、プロデューサーの思うようにパスパレを再編できるなら一考の余地はあるように思える。

 少なくとも、土台はできている。千聖ちゃんがあたしを引き留めた理由は、パスパレにあとがなかったからだ。今は天羽彼方というあたしの代わりがいて、あたしの役割を丸々こなせるプロデューサーがいるのだから、千聖ちゃんには割り切った考えができるはず。

 彩ちゃんは天羽ちゃんを受け入れるだろう。そして、彩ちゃんと千聖ちゃんが受け入れるならイヴちゃんと麻弥ちゃんも追従するに違いない。

 

 まあ、今のところすすんで抜ける気はない。さすがに冗談だ。

 

「それが不可能だって分からないのかな〜」

「えー? 不可能ではないでしょ。あたしを残しておいた方が低リスクだからその選択肢を選ばないだけで。プロデューサーの言葉を採用するなら、夢がある彩ちゃんは必ず立ち直るんでしょ?」

「いいや、白鷺が絶対に受け入れないよ」

 

 端的に言い切られて、部屋の照明が落とされる。

 

「散々話してきたけど、私の認識は単純だ。私がプロデューサーになるまでは、パスパレはこのままでもある程度のリスクを孕みながらも運営できていた。そして、プロデューサーが就任したせいで、このままではたち行かなくなった。解決策は、氷川が私を何かしらの方法で排除するか、もしくは氷川が折れるか」

「単純化し過ぎだと思うけど、まあ遠からずではあるかもね」

「……私はミーティングルームに戻るけど、氷川はもう帰っていい。明日は予定通りだから遅刻しないように」

「ふーん? 早速除け者?」

「天羽のことについては、丸山も心の整理をつけなきゃいけなかったからね。氷川がいると気まずいでしょ。……それと、パスパレとMarmaladeを重ねて見ていた部分については謝罪する。自覚さえしていなかったから、手に負えないね」

 

 さっさと背を向けて廊下を歩いていく後ろ姿を見送る。

 結局、振り出しに戻っただけだった。

 

 共通の夢だのなんだのと、正直なところあまり理屈の通っていない主張だと思う。けれど、ひとつ。プロデューサーにとって、今のパスパレの最大の障害があたしであるという言葉には納得せざるを得なかった。

 

 ある意味で、事務所によってもたらされる破局には、従来のパスパレでは抗えなかったという帰結になるのだろう。

 あたし自身が言ったように、立ち止まって修正しなければならない。

 

 本当に、腹が立つ。何もかもが上手くいかない現実にも、全く足りない自分の能力にも。

 

 嗚呼、空回り空回り。

 

 全て投げ捨てて逃げられたら、と思うのに、理性がそれを許してはくれない。

 

 折れろ、と言われたって、あたしにはどうしようもない。共通の夢? アイドルであることに誇りさえ持たないあたしが、何を夢見るのだろう。

 あたしから向こう側に迎合することは難しい。何も言われてないのに説得されなよと言われるのに等しい状況。どうすればいいのか皆目見当もつかないし、我慢してパスパレで頑張りますよ、と言うのがせいぜいだ。

 

 こんなときおねーちゃんなら的確な言葉を投げてくれるのだろうか、と想像して、また寂しくなった。

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