「おねーちゃん、エゴサーチとか全然しないよね」
「別に芸能人じゃないもの。匿名の誰かからギターのアドバイスでも受けろって?」
「……承認欲求の方だよ」
「ああ。探さずとも動画のコメントなんかでメッセージは貰えるから、別に」
ローテーブルにノートパソコンを置いて、先日のライブの動画を観ていた日菜が口を開いた。アンコールの『競宴VIORED』部分だけ、Afterglowの動画チャンネル及びSNSアカウントで公開されているから、SNSでも結構話題になっていた。
Afterglowのメジャーデビューの準備らしい。話題作りが大事なのは重々承知しているし、湊さんがすすんで協力しているのだから私がとやかく言うつもりもない。
「日菜もでしょう」
「あたしはめちゃくちゃエゴサしてるよ〜」
「市場調査のためにね」
「うん。応援コメントで元気をもらったりはするけど、彩ちゃんみたいにそれが目的になるほどじゃないかな」
不健全と言えばそうなのだろうが、丸山さんももう芸歴5年とかそこらだ。承認欲求で身持ちを崩している感じもしないし、アンチの言葉に触れて──まあ、傷付くことはあるだろうけれど、それで心折れたりするような感じもない。言っても今更というか、むしろ折り合いをつけてモチベーションを維持できているのなら一周まわって健全な趣味と言えるのかもしれない。
冷やしていた水出しの緑茶をグラスに注いで、日菜の隣に腰掛ける。ソファに深深と体重を預ければ、昨日のライブの疲労ごと包み込まれるような心地がした。
慣れてきたとはいえ大きなライブの後は疲れる。2日間のオフを貰ったけれど、アクティブに出かける気にはなれなかった。
「あ。今日商店街でお祭りなんだって」
日菜が言うのとほぼ同時に、テーブルの上の私のスマホが震えて、ホーム画面にメッセージを表示した。羽沢さんがグループに投稿したらしい。
「半端な時期ね。夏休みも終わりでしょう」
「神社の例大祭と合同なんじゃない? 予算無さそうだし」
「滅多な事を言わないの」
日菜の声のトーンがひとつ上がったのが分かって、これは出かける流れかと少し気重い。行けば楽しいに違いないのだけれども、足は根を張っていた。
「つぐちゃんは誰かと回るのかな〜」
「手伝いかAfterglowでしょう」
「声掛けるだけ掛けよっと」
放り投げられたギター雑誌を片付ける。日菜がスマホを触っている間に、流れっぱなしの動画のコメントを辿ってみる。単純な褒め言葉。うまいとか、楽しそう、とか。それから、ソロフレーズの引用元の考察。上原さんのだけ外している。……まあ、分かるわけない。紙月と揺籃を当てたことを褒めるべきだろう。
メンバーのエピソードや来歴の紹介。これは割と助かる。興味を持ってもらえる裾野を拡げることは重要だ。
「……湊さんの相棒は今井さんなのだけどね」
「バンド内の関係性なんて外からわかんないからねー。それに、おねーちゃんにはドラマがあったから」
「理解はしているわよ。別に、いちいち訂正したりもしない。……けれどやっぱり、湊さんと今井さんは互いに特別な関係だと思うし、宇田川さんと白金さんもそうなのよね」
「おねーちゃんにはあたしがいるもんね」
「…………はぁ。ええ、そうね」
メッセージを打ち終えたのか、肩にもたれかかってくるように倒れ込んできた日菜の体を受け止める。そのままズルズルと体重を預けてきて、日菜の頭は太ももの上に収まった。いわゆる膝枕の体勢。あとで足が痺れるのが既に予見されて面倒だった。
私と真反対の生え際を撫で付ける。いくぶん癖の強い浅葱の髪を指で梳けば、猫みたいに目を細めた。
「RiNGにもいかなきゃ」
「ライブの予約ね。別にCiRCLEでも構わないけど」
「おたえちゃんと沙綾ちゃんがRiNGでバイトしてるんでしょ? そっちの方が面白そうかなって」
バイト先でライブをするのが恥ずかしいというタイプでもないだろうから、RiNGでも構わないだろう。既に日程は打ち合わせてあって、あとは予約を入れるだけだったりする。どうせバイト先なのだから2人のどちらかに予約を頼んでも構わなかったが、私は今までRiNGをほとんど利用したことがなかったから、顔合わせというか面通しをしておいた方が無難だろうという判断。
「つぐちゃん釣れないよ〜。運営のお手伝いだって」
最近付き合いわるーい、とスマホを手に、人の膝の上でぐずる姿に歳上の威厳はない。羽沢さんも忙しいだけなのだろうが、もし避けられていても文句は言えなさそうだ。普段から羽沢さんのことを振り回しているに違いないのだし、たまには少し省みたら良い。
「Pastel*Palettesの誰かを誘ったら?」
「え、おねーちゃんと行くからいいよ」
「……いえ、行くのは構わないけれど、じゃあどうして羽沢さんを誘ったのよ」
「つぐちゃんはおねーちゃんのこと好きだし、おねーちゃんもつぐちゃんのこと気に入ってるし、あたしは2人とも好きだから、ほら、三方良しじゃない?」
「私はPastel*Palettesのメンバーのことも好きだけどね」
「うーん、ナシかな」
「そう」
「だいいち、おねーちゃんもRoselia紹介してくれなくない?」
「勝手に仲良くしてるでしょう」
そうじゃないんだよなぁ、と言いながら起き上がる。外出の準備らしい。
「お昼も外で食べよ」
「何が食べたいの?」
「うーん、パスタ」
「……祭りの屋台で何か買うだろうから、控えめにしておいたら?」
「夕方にはお腹空くから大丈夫だって」
おねーちゃんは控えめの方がいいかもね、とソファーから立ち上がる背中より一言。おっしゃる通りです。
足が痺れる前にどいてくれて良かった。足を伸ばして、コップに半分残った緑茶を飲み干す。
「ここ行こ。クリームチーズのパスタが美味しいんだって」
「前から思っていたのだけど、そういう店ってどこで見つけてくるの?」
「SNSで見たのを覚えてるだけだよ。あとはケータリングで美味しかったお弁当とか、ロケで行ったところとか。勝手に詳しくなっていくよね」
日菜と出掛ける時はコーディネートを考えなくていいのが楽だ。これとこれとこれ、と日菜が指定してくるから、その通りに着るだけ。白いワンピースを見ながら悩んでいた日菜に「確実に汚す」と言えば、だよねぇ、と思案に暮れる瞳。結局デニムパンツとテーラードジャケットという比較的ラフな格好で外に出た。ワイドパンツの方が好きだ。体型が出ないから。
楽器を持たずにライブハウスに行くのは久しぶりかもしれなかった。日菜と手を繋いで駅までの数分を歩く。
何が嬉しいのか定期的に私の手の感触を確かめるように力を強める日菜を窘めつつ、パスタの専門店へ。少し早い時間だったからか並ばずに入ることができた。話題になったタイミングならそれでも並ぶことにはなったのだろうけれど、日菜が私をそういう店へ連れてくることはほとんどない。
待つことは苦ではない。それはそれとして、長時間並んでまで食べたいと思えるほど食事への情熱もない。
ボロネーゼのソースを白いシャツにこぼすことなく器用に食べる日菜を見ながら、私は小動物みのある人に惹かれるのだろうかと思った。昔は食べるのが下手でよくこぼしていたのに、なんて未就学児時代の記憶だ。
「クリームチーズのパスタが美味しいんじゃなかったの?」
「おねーちゃんが頼んでるんだから良いじゃん。一口ちょーだい」
「構わないけど、そういうところよ」
世話を焼かれるのが好きなのは、私の育て方が故だろうか。そのせいで羽沢さんに迷惑をかけているのだとしたら、些かの責任感を覚えるところではある。
雛鳥みたいに開いた口にフォークを突っ込んだ。バターとクリームチーズとレモン。ローズマリーとマッシュルーム。酸味を強調してステーキソースにした方が美味しそうだな、と思った。ぶっちゃけると、あまり好みでは無い。
「んー? おねーちゃん、もしかして好みじゃない?」
「そうね。美味しいけれど、リピートはしないかも」
次は違うのにしよう、と話しながら会計を済ませて店を出る。決して嫌いではないけれど、これだったら違うのを頼むかな、というくらい。外食をするなら自分好みのものを食べたい。
氷川日菜じゃん、とすれ違う2人組が話しているのが聴こえた。日菜が振り返ってヒラリと手を振る。きゃあきゃあと黄色い声。日菜が私のキャップのつばを下げた。
住んでいる世界が違う。私と日菜は同じ。以前の私と、今の私は違う。以前の私は芸能人でもなかったし、他人との繋がりが深い人間でもなかった。
「おねーちゃんさぁ、やっぱりキャップ被った方がいいよ」
「そう?」
「うん。フランクに見える」
下げられたぶん視界が遮られたのが気になって、指先でつばを押し上げた。
「サングラスでもした方がいい?」
「……何言ってるのさ」
「ほら、大抵セットでしょう」
「昔親しみやすさの話をしてたから話題にしたのに、サングラスなんかかけたら変な人になるでしょ。……あ、これは千聖ちゃんの悪口じゃないよ」
山吹さんや市ヶ谷さんに恐れられていたらしかったのを気にしていたときの話か。結局、あれは諦めた。
よく知らない人のことは恐ろしい、という思考は至極真っ当なものだと思うし、まして年上の、先輩ともなれば、そういう印象はより強くなるだろう。いじられキャラだったりすればまた変わってくるのかもしれないが、私はそういうわけでもなかったし。あるいは、今井さんみたいな社交性があれば。
羽沢さん曰く、彼女も最初は日菜のことを恐ろしいと思っていたらしいから、仕方がない。日菜みたいな可愛らしいハイテンションキャラでも後輩にそういう印象を持たれるのなら、私はどうしようもないというか。
「白鷺さんはなんでも似合うもの」
「あれでも努力してるんだからね、千聖ちゃん。どっちかと言うとなんでも似合うのはおねーちゃんの方。『着れる』のと『着こなせる』のは違うんだから。メイクも合わせれば結構どうにでもなるんだけど」
「……努力しているだろうというのは、そうね。他人の努力を察せずに軽々しく言うのは失礼だったかしら」
「おねーちゃんがそういうのに疎いのは千聖ちゃんもわかってるから気にしないでしょ。……それに、そんな間違ってもないというか、一般人に比べたら千聖ちゃんも大概だし」
日菜との共通の知人、友人について話をすることは結構ある。その度に思うのは、日菜の方が余程相手を見ているということ。
視点の違いはもちろんある。どこまでいっても私の自意識は男性よりなわけで、女性ならではの感性に対する共感とか、苦労を汲み取る感性が薄い。私と日菜の共通の人脈となれば女性率が高くなるから、性別も含めた視点の違いは大きく響いているだろう。
ただそれはそれとして、人間関係のスタンスとか、そもそもの観察眼の鋭さもよく出ているなと思う。良くも悪くも(と私は思っている)、私は他人に深入りしない。良い所を知れれば良いなとは思うけれど、汚い部分を深堀しようとは思わない。付かず離れず、相手のトゲが刺さらない位置で握手を交わせば良い。
日菜は、仲良くなりたい相手には踏み込むタイプだ。そもそも頭が良くて目敏いから、少し話しただけで相手の情報を詳らかにしてしまう。
そういう違いが、ひとつのコミュニケーションから得られる情報の違いを生んでいるんだろうと思う。私が測るのなんて、パーソナルスペースの広さとモラルくらいだ。最低限付き合うのにはそれだけの情報で十分で、代わりに踏み込む必要性を失う。
孤独であれば改めるべきだろうけれど、幸いにして私は周りの人間に恵まれている。大きくスタンスを変える必要はないだろう、というのが今のところの結論。
電車一本で池袋へ。RiNGには、予想に反して高校生が屯していた。夏休みも終わった平日の昼下がりなのだけど、と思ったが、始業式か。制服を着ている人も多いから、間違った推理でもなさそうだ。
「あ、スタッフさん。ライブの予約したいんですけど」
「ああ、日菜ちゃん。誰のライブ?」
「や、観るほうじゃなくてやる方で」
「……え、ほんとに? 冗談めかして誘っても頷いてくれなかったのに!」
早速日菜がスタッフさんに声を掛けに行ったのを尻目に、バンド募集の掲示板を眺める。一か月前と余り変わらない雰囲気。花園さんのギター教室に興味があったんだった、と思い出した。さすがに今日はやってないだろうか。
「まあいいや、そういうことなら大歓迎! パスパレで出るわけじゃないよね?」
「うん、『MiDDay-Moon』ってバンドで」
「……お姉さんと?」
ああ彼処に、と目が合ったので受付の方へと寄って挨拶を交わす。最近はMiDDay-Moonの氷川紗夜です、と名乗ることも増えたような気がする。まともにバンド活動を始めたから、という理由以上のものでもないのだが。
「ギターとベースかぁ。楽奈ちゃんは悲しむかもねぇ」
無事に予約が取れたところで、スタッフさんが挙げた名前に日菜が嫌そうな顔をした。楽奈と言えば、要楽奈さんだろうか。MyGO!!!!! というバンドのリードギターをやっていることくらいしか知らない。あとは少しセッションをしたことがあるくらいだろうか。白髪オッドアイの、ひどく人目を惹く容姿をしているから印象には残っている。
「要さんと何かあったの?」
「一時期懐かれてただけ。よくわかんないけど」
「よくわかんないって……」
「あの頃は楽奈ちゃんも楽器を弾く機会に飢えてたみたいだったからねー」
本当に面倒くさそうな表情。
いくつか注意事項を聞いたり名前を書いたりする間にスタッフさんとしばらく話してから別れる。気さくな人だったから話しやすかった、と振り返って思う。
初めてのハコの割には話がすんなり通ったのは、一応プロミュージシャンの特権と言えるだろうか。このハコがどうかは知らないけれど、大抵の場合オーディションというか音源審査くらいはあるものだから。オーナーに軽く弾いてみろ、と言われることは珍しくない。ライブハウス側も客から料金をとってライブを開いている以上は、あまりにも酷い演者を出すわけにはいかないから、妥当ではある。もちろん、ある程度弾ければ拒否されることなんてほとんどないはずだ。
帰り際、楽器店を覗いてみたけれど花園さんはいなかった。流石にお祭りの方へ行っているらしい。
「おねーちゃんってさ、実は人見知りだよね」
「あまり酷くはないと思うけれど、そうね。逆に貴方達が早く馴染み過ぎて恐ろしくなることがあるわ」
湊さんや今井さん、日菜や丸山さん達を見ているとどうにも、コミュ力と社交性の違いを思い知らされる。あるいは、物怖じのなさ。私は、結局のところ他人に脅えている。そういう意味では、白金さんや市ヶ谷さんの方に親近感が湧く。
「お祭り行こっか」
「あまりにも混んでいたら心が折れるかも」
「だいじょぶだって」
3度目の移動。この時点で私の消耗は著しい。
元々疲れていたのもあるけれど、気疲れも含まれている。近頃は外出頻度もかなり高いとはいえ、スタジオでレコーディングやセッションをしているだけの外出と、日菜に連れ回される外出はかなり違う。
いっそ、私主導で連れ回した方が気楽かもしれない。
商店街に行くと、早速屋台が出ていた。いつもよりも狭くなった道に、いつもよりも多く人が歩いている。
「お腹は?」
「減ってない」
「でしょうね」
ガラス細工やら射的やら、あとは大半が食べ物の屋台だ。ベビーカステラとか、フランクフルトとか。
「つぐちゃん冷やかしに行こ」
「邪魔はダメよ」
運営側のブースの方へ、人の波に乗って歩く。商店街の人たちのものだろうハンドメイドのアクセサリの店舗などもあって、存外大きな催しになっていた。
「りんご飴って美味しそうだけど、労力に見合わないよね」
「食べにくいって話?」
「うん。あと大きすぎ」
「りんご丸ごと使ってるのだから、そこは仕方ないでしょう。小さい品種を使ったものとか、いちご飴もあるわよ」
「……今はいいかな」
花火が上がるわけでもなし、浴衣を着ている人もほとんどいないような時期外れの祭り。なんだか祭りに染まりきっていない、日常との連続性を感じる独特の雰囲気だ。
神社の方に運営本部があるというので、そこに向かっている。羽沢さんがいるのかどうかは、全く分からないのだけど。
すれ違う人々に二度見されながら神社へとたどり着いて、そちらにも出ている屋台を眺めながら歩いていると、徐ろに日菜が前の方へと先走って行った。向かう先には羽沢さんが。
「つぐちゃ〜ん!」
「日菜さん! 来てくれたんですね! ……ここは別になんにもないですけど……」
「来たはいいけどお腹空いてなくってさー。なんか面白いのない?」
「面白いのって……あ、紗夜さんも! こんにちは」
「こんにちは。日菜の無茶振りは無視していいのよ」
「いえ、折角なら楽しんでもらいたいですし……えっと、そうですね、もう少しで……ほら、獅子舞が来ましたよ!」
おーい、と羽沢さんが人混みの方へ手を振った。人の列が割れて、神社の参道を獅子舞が歩いてきた。それも、2匹。お母さんに抱っこされた赤子の頭を齧ったり、小さい子供の怯えた声を受けながら踊ったりしている。身体をくねらせて、お囃子に合わせて踊っては、頭を差し出した人に齧り付いていく。
「獅子舞までやるんだ。山車も出たり?」
「流石にそこまでは……春と秋の獅子舞くらいですね」
「へー。あ、こっち来た」
獅子舞の一匹がこちらへ向かってくる。何を思ったか、日菜が一歩下がって羽沢さんの方へと逃れる。特に逃げもせずそのまま立ち尽くしていたら、私と同じくらいの背丈の獅子舞が、じっとこちらを見ていた。
束の間の硬直、周囲の耳目がこちらに向いたのがわかった。氷川紗夜だ、と遠くから聞こえたのと同時に、獅子がぐわりとアギトを開く。
思っていたよりもずっと優しい感触で噛まれて、こんな感じなのか、とよく分からない感想を抱いた。口腔の暗がりに、整髪剤とか、埃臭さが香る。
「厄落とし? 辛気臭い顔してるから〜」
「見知った顔を見つけたからイタズラしに来ただけよ、きっと」
安全圏で爆笑している日菜にため息を吐きつつ、人波に戻っていく獅子舞の後ろ姿を見送る。子どもばかりを噛む中でわざわざ私を狙いに来るあたり、露骨だ。
羽沢さんがちょうど、噛まれる瞬間の写真を見せてくれた。勝手に撮っちゃってごめんなさい、と言いつつ、少し無遠慮な部分を見せてくれるようになったのは純粋に嬉しい。
「つぐちゃん写真ちょーだい。……あれ沙綾ちゃんでしょ? 体幹とか歩幅とか似てるし」
「そうですけど、よく分かりますね」
「つぐちゃんだって足音で誰かわかったりするでしょ? アレと一緒だよ。別に特別な技能じゃないからね」
はぁ、と呆れ顔。貴方にかかればそうでしょうね、みたいな諦めの感情が垣間見えて面白い。羽沢さんと日菜の関係は、私からは見えない二人の一面が色濃く出ている気がして、見てて飽きないのだった。
「……あっ、夕方のステージでポピパのライブがありますよ、そういえば」
「ほんとに? それは観て行こうかな」
「日菜さんも飛び入りで出ませんか?」
「お金かかっちゃうよ。つぐちゃんもそうなるんだからね」
手ぐしで髪を整えて、次は道の反対側を歩いて元来た道を戻ろうか、と考えていると、また見覚えのある影が見えた。
「あー! つぐが取られちゃうよ!!!」
「何言ってんのさ」
「蘭! 勝ち取ってきて!」
「ムリ」
羽沢さんと日菜も気が付いたようで、気の抜ける掛け合いに相好を崩す。ひまりちゃんってほんと面白いよね、とは日菜の談。丸山さんに似ているらしい。2人は仲が良かったような覚えがあるから、類友というやつだろうか。
「蘭ちゃん! ひまりちゃん! 5人で遊ぼうよ!」
「えぇ……」
「うわ、ひっどい!」
しかし日菜に人望はないらしい。羽沢さんだけか。それはそれで、大変納得のいくものではあるのだけど。
ケタケタと笑う日菜を小突いて、境内の奥まった方へ足を向ける。先輩とか姉に日菜がいたら嫌だろうなぁ、と心底共感できてしまうのが良くない。妹にいるぶんには、可愛い性格だと思うのだけど。
デートするんでしょう、と言うと、日菜は嬉しそうに笑った。