月輪より滴り   作:おいかぜ

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《90》ラストノート

「コラボカフェ……ネトゲにもあるんですね」

「そうなんです。週替わりの限定グッズがあって、行きたいんですけど、一人で外食に行くのが苦手で……」

 

 NFOカフェに付き合っていただけませんかと、恐る恐るといった様子で白金さんが声を掛けてきたのはミーティングが終わった直後。なぜだか他の3人もことの成り行きを見守るように黙っているものだから、神妙な雰囲気が漂っていた。

 

「付き合うのは構いませんよ。ゲームの方を知らない私でも良ければですが」

 

 宇田川さんを誘わないのは、タイミングが合わないからだろうか。わざわざ言及しないだけの想像力はある。そうでなくとも女性心理が分かる人間ではないから、慎ましくしているべきだという判断。

 指定された日は空いていたし、特に断る理由もない。

 

「ほんとうですか! ありがとうございます」

「いえ、楽しみにしています」

 

 まあその前に仕事なのだが。

 時計を見れば1時過ぎ。晴海さんに連絡を入れて、4人と別れる。この後ランチに行くらしい。紗夜抜きで行くのは申し訳ない、みたいなことは言われたけれど、用事があるのだから仕方がなかった。

 

 駐車場にいます、と返信が来たので地下に降りる。

 社用車をロータリーに横付けして、晴海さんが待ってくれていた。助手席のドアを開けると、まずはお疲れ様ですの交換から始まる。

 

「お付き合い頂いてすみません。本来は私だけで済ませる仕事なんですが……」

「そういうのは言いっこなしですよ。私がいた方が話が早いんですから、それくらいは付き合います」

 

 晴海さんの付き添いで仕事の打ち合わせに向かう。自動車メーカーのCMのタイアップだ。楽曲提供と、こちらは未確定だがCMへの出演らしい。

 タイアップの依頼は、晴海さんにとっては苦い経験を思い起こさせるものらしい、と聞いた。アパレルブランド「エルデ」とのタイアップで相当に揉めたらしい。内容を聞くに、「Roseliaらしい曲を」と言いつつ提出したものに抽象的な否定を投げつける発注側と、具体的な指示を求めない受注側の齟齬と言おうか。晴海さんは湊さんに自由に作曲してほしかったのだろうが、詳細は煮詰めた方が良い、という話をした。

 

 車で20分。都内の営業所に着く。受付で駐車許可証やら入館許可証をもらって、案内の通りにエレベーターに乗り込むと、そこそこ大きな会議室に通される。五分ほどお待ちくださいと指示があって、その間にタブレットのファイルを整理しておいた。イメージの共有のためにも実際の音を聴いてもらうのは大事だ。今日どこまで踏み込んだ話をするかは分からないが。

 

「お待たせしました! 広報室の喜田と申します」

「お世話になります、Roseliaのマネージャーを務めさせて頂いております、上田晴海と申します」

「Roseliaの氷川紗夜です。よろしくお願い致します」

 

 担当者は若い男性だった。30代前半に見える。名刺交換を済ませて、書面上のやり取りや前提知識の擦り合わせをしているところには口を挟まず、案件の雰囲気を汲み取るように思考をめぐらせる。相手の熱意はどれくらいなのか、温度感を見極めるのは大事だ。

 実際にどうなるかはさておいて、こちらを舐め腐った態度を取るようなら案件を受ける必要はないと思うし、こちらを高く買ってくれるのならばそれに応えるべきだと思う。

 

「氷川さん」

「はい」

「実はですね、その、娘がファンなんです」

「Roseliaのですか? 光栄です」

「Roseliaさんもそうなのですが、特にあなたが好きみたいで」

「バンドのギターをですか……お幾つですか?」

「13になります」

「ますます珍しい気がします。楽器をやってらっしゃったり?」

「ギターを始めたばかりです。つい最近強請られまして」

 

 気を使ったわけではないと思うが、不意に話題を振られた。アイスブレイク、ではないが、話を詰める前の導入には上々だろう。お世辞だと思って聞いておく。

 

「Roseliaさんにオファーをかけた理由の一つには、そういう私情もあります」

 

 もちろん実績や演奏、曲のクオリティが一番の理由ですが、と補足を入れてくるあたり、大まかな感性は信用して良さそうだ。コネや縁も大事だが、あくまで作品を見られてこそ。タイアップもこれが初めてというわけではないからか、話の進め方が手馴れている。ある程度相手の想定した流れに合わせて進めた方がやりやすそうだ、というのは晴海さんも同様に感じているだろう。

 

「さて、具体的な話に参りましょうか。改めまして、お願いしたいのは来季の新車種を売り出すCMのテーマ曲の制作と、キャストとしての出演です。こちらの新車種はエレガントなデザインを売りのひとつにしておりまして、ファミリー層よりも独身男性層が主なターゲットになります。こちらのイメージに沿った曲を作って頂きたい」

「……楽曲の方向性の話から始めた方が良さそうですね。氷川さん、よろしいでしょうか」

「ええ、勿論」

 

 先に詳しい契約内容などを詰めなくても良いのだろうか、とは思ったが、締切や金額の話はメールのやり取りである程度なされているのかもしれない。あくまで主導は晴海さんだから、彼女が持っていきやすいように交渉を進めるのに否やはない。

 

「こちらの話になりますが、前提として、Roseliaの曲調はいくつかのパターンに分けられます。大雑把に平たく言ってしまえば、メタルロック調か、ゴシックな雰囲気か、ポップスに寄っているか。もしくは、ギターが目立つ曲か、ピアノが目立つ曲か。テンポが早いか遅いか。大まかな認識の擦り合わせとして、サンプルとして持ってきた音源を聴いていただいて、意見を述べて頂きたいのです。私どもが御社の車を見て抱いた印象と、御社が自社の製品に抱いているイメージのすり合わせも含めて、なるべく齟齬が出ないように作っていきたいですから」

「……なるほど。当社と致しましては、Roseliaさんの自由にしていただいても構わないのですが」

「最終的にはそうなると思いますが、何事にも芯となる部分と、方向性を決める部分は重要でしょう」

「ええ、ええ。分かります。そういうことでしたらもちろん協力させて頂きますよ」

 

 言いなりで作るわけではないが、おなじ方向は向いておきたい。近頃の私は概ねこんな感じで案件を進めていた。

 例えば、「重々しい曲」と言われて、何を思い浮かべるだろう。人によっては、聖歌を思い浮かべるかもしれない。ミサで歌うような、教会音楽かもしれない。或いは、時代劇のBGMに使われているような、エフェクト増し増しの曲かもしれないし、低音が強調されたスローテンポのロックかもしれない。

 全ては主観に過ぎないのだ。ある音を聴いて「軽やかな音だ」という人もいれば、「軽々しい薄っぺらな音だ」という人もいるし、「弾んでいて楽しい音だ」という人もいる。

 

 エレガントさはピアノなのか、オルガンなのか、湊さんの歌い方に依存しているのか、或いは曲調そのものなのか。相手が求めているものが分からなければ、提示された要素を掘り下げても真反対に進んでしまいかねない。

 

 それこそスネアの音1つで曲の印象は変わる。

 そういう部分まで調理するのがコンポーザーの、バンドの腕だと言われればそれまでだが、割けるリソースも限られている中でできるだけ良い作品を作るには、可能な限り近道を通った方が良いという判断。

 

 このあたりは、主義や哲学の領域だけれど。

 

「準備の間に一つお尋ねするのですが、Roseliaで免許を持っている方はどのくらいいらっしゃるんですか」

「免許を持っているのは私と宇田川さんと今井さんですね。今井さんはペーパーだったはずですが」

 

 なるほど、と言って考え込んだ喜田さんにタブレットの画面を見せる。仕事の始まりだ。運転手役はなるべく宇田川さんに任せよう、と心に決めて、まずは1つ目、白金さんのピアノをメインにした音源を再生した。

 

 

 

 ♦

 

 白金さんの大学──四ツ葉女子大学の正門で待ち合わせる。朝の一限だけ用事があったらしく、ルート的には都合が良かったから、私が迎えに行くと提議した。

 段取りは私が組むので氷川さんはついてきてくれるだけで大丈夫です、とのことだったので、お言葉に甘えるつもりで来た。お金を下ろして、コラボカフェのメニューを事前に少し眺めたくらいだ。

 

 白金さんを待っている間、それなりに視線を集めてしまった。Roseliaの4人がここに通っていることは知られているだろうから、わざわざ用件を聞きに来るような人はいなかったけれど。

 

「お待たせしてしまいましたか?」

「いえ、待ったと言うほどでもありません」

 

 20分程度で白金さんがやってきた。あまり寄り付かない場所は距離感覚が掴めないから、待ち合わせにも早く着いてしまいがちだ。早めに来すぎた私が悪い。

 

 行きましょうか、と駅の方へ、私が半歩先を歩く。

 普段のRoseliaでのゴシックな装いとは少し離れて、シックで上品な色合いで揃えた白金さんのコーディネートは、なんというか、如何にも大学生、という感じだ。薄手のカーディガンが良く似合う。

 

「……氷川さんって、香水をつけていることが多いですよね」

「大抵は貰いものです。日菜が押し付けてくるものとか。棚に飾ったままというのも申し訳ないですし、それなら普段から使ってみようという感じですね」

 

 香水のことを話題に出されて、もしや付けすぎただろうかと袖口を嗅いだ。匂いがキツイのは苦手だから、香水をつけているとは言っても極小量にしているつもりだった。

 

「……キツかったですか?」

「いえ、良く似合うなぁ、と思って。自分で選んだわけではないんですね」

「ええ」

 

 私に似合うようにと選ばれたものだ。私自身が自分に合うものを探すよりも余程、客観的にはマッチした香りなのではないだろうかと思う。そこに私の好みが絡んでくればまた別の話にもなるのだろうけれど、今のところ私に特に好みはないし。……好みというかこだわりか。

 

「興味がないわけではないんですが、基本的に私は自分のセンスを信じていないので。ファッションは人に任せきりですね」

 

 日菜が選んで買う分で、普段使いには過剰だという面もある。私がわざわざ買う必要がないくらいに、クローゼットは日菜の愛で溢れている。

 

 足並みを揃えて某百貨店へ。電車の混み具合が控えめでよかった。通勤ラッシュを避ければ大きなストレスになるほどのものではないだろうけれど、白金さんも人混みが苦手だったと思うから、少し気を遣う。

 

 神経質で口下手だと白金さんは言うけれど、彼女と話すのは結構楽しい。会話が下手なのは私もだし、変に神経質なのもそうだから、特段耳障りに感じたりはしないし、それよりも話題が共通することが多いのが心地好い。本に関しての話題だったり、衣装に関しての蘊蓄だったり、日常の生きにくさの話だったり。

 繊細な感性に驚かされたり、人混みを嫌うあまり避難所としてワンタッチ式のテントを持ち歩こうと発想する豪快さに笑ったり。例に漏れず面白い人ではあると思う。

 

 1階のコスメコーナーをすり抜けるようにエレベーターを探す。先程まで香水の話をしていたから、香水ブランドの看板が目に付いた。白金さんも同じだったようで、視線が同じほうを向く。

 

「……予約までまだ少し、時間がありますね」

「ええ。気になるんですか、香水」

「ひとつ欲しいな、とは思っていて……でも、どういうものが似つかわしいのか、よく分からないんです」

「見るだけ見に行きましょうか。買わないにせよ、試供品……何と言うんでしたっけ……あの香りをつけた紙を嗅いで試すことはできるでしょうし」

「ムエットですね。……以前から気になってはいたんですけど、1人で入る気にはなれなくて……お付き合いいただいてもいいですか?」

「もちろん」

 

 匂いに惹かれる、とか、良い香りを身にまといたい、とか。あるいは香りにパーソナリティが表れる、とか。正直なところあまりわからない。

 自分の香りを消すために使っている部分が大きいから、私が香水をつける動機はマイナスな由来のものだと言えるかもしれない。

 

 ああ、でも、ひとつ。誰かに想いを馳せるきっかけのひとつに、匂いが加わるのは素敵だと思う。

 近頃の日菜がブラックベリーの香りを好んで纏っていたり、高校時代の日菜が柑橘系の香りを想起させたり。そういうのは、様々なことに無頓着な私でも素直に素敵なシチュエーションだと思える。

 

「正直なところ、どんな香水を選べば良いのか、私には分かりません。市販されているものなんてほとんどが良い香りだし、店頭で試して見ても、時間が経てば香りは変わっていくものですし。第一印象でパッと決めてしまうか、おすすめされたものを付けてみて少しずつ知識を増やしていくしかないように思えます」

「……それじゃあ、選んでくださいと頼むのは、酷、ですか……?」

「……期待しないで欲しいと言いたいだけです」

 

 空気を読んでくれた店員が、「少しだけお手伝いしますよ」と言ってくれた。手渡されたのはアンケート用紙のような、個人に抱いているイメージを挙げていくだけの質問用紙。

 香水の似合う似合わないは、極論イメージにあっているか否か、という印象があるから、大きく逸脱しない範囲で方向性を示してくれるのはありがたい。

 

「考えてみれば、少し気恥しいですね。私が白金さんをどう想っているのか、詳らかに述べるようで」

 

 モダン、クラシック、スイート、ウッディー、フローラル、オリエンタル。目が滑るようなステータスやパラメーターが並ぶ説明を理解するのを早々に諦めて、性格診断のようなシートに丸を付けていく。

 

 よく飲んでいるのはコーヒー、とか、本を読むタイプ、とか、体温が低い、とか。服装がシックだとか、大まかな香りのイメージはフローラル系だとか。

 

 人にギフトを選ぶときは、その人が欲しがりそうなものをストレートに渡す場合ももちろんあるけれど、それよりも本人が選ばなさそうで、それでいて気に入りそうなものとか似合いそうなものを選んだ方が良いと思っている。

 何も考えずに白金さんの香水を選ぶのなら、上品で且つ艶美な、ローズやウッドの香りを選ぶべきなのだろうと思う。フェミニンな甘さではなく、落ち着きのある、トーンを抑えた香り。

 

 上品で清楚な印象はそのままに、明るくて柔らかい香りのものにしたいんです、と告げた。

 

 トップノートしか試せないのですけど、という前置きのあとに、いくつか試させてもらって気に入ったものを選ぶ。立ち上がりはグリーン系の香りで、爽やかなミュゲから、ジャスミン、ローズやイリスのフローラルで気品のある香りに移り変わっていく……らしい。近い香りのものを嗅がせてもらってイメージはできたけれど、こういうのは結局本人が気に入るかどうかだから、なんとも言えない。

 

「これで……どうでしょうか」

 

 自信もないし気恥しい。どういう表情を取り繕えば良いのかさえ分からないまま、薄紫の小瓶を指した。

 

「私が貴方に纏って欲しい──貴方に似つかわしいと思える香り……だと思います」

「氷川さんのイメージの私は、こんな香り……」

 

 いくつも弁明や言い訳を考えていたのに、白金さんがあまりにも嬉しそうに微笑むものだから、二の句を継げなくなった。これなら少しくらいは教養として勉強しておくんだった、とか、そんな思考がよぎったのを振り払う。

 

「ありがとうございます」

 

 何が楽しいのか、いつになくテンションが高いまま会計に向かった彼女を、苦みばしった表情で見送った自覚がある。

 

 小さな紙袋を持って戻ってきた白金さんの、ご満悦な表情に当てこするために息を吐く。これみよがしに、白金さんが手首にひとつ吹きかけた。

 

「氷川さんっていつも余裕があるから、こういう状況は新鮮ですね」

「私としては不本意ですよ」

「知っています。実は入れ知恵があったり……」

「どうせ宇田川さんでしょう」

「正解、です」

 

 緑の爽やかな香り。貞淑で清楚な印象にはマッチするけれど、容姿やファッションに噛み合うかと言われれば少し怪しいところ。それでもこれを選んだのは、高校時代から感じていた年相応な無邪気さや、こうやってときどきぐっと仕掛けてくる純真さこそが白金さんの根幹に近いと思っているから。

 

「氷川さんが復帰してくれてから、その、別に隠しているわけではないと思うんですが……」

「なんでしょうか」

「余裕があるのが、ズルいって思うんです」

「はぁ」

 

 エレベーターに乗って5階へ。他人と一緒に入っているときは会話が止まりがちだ。こういうところが、根っからの陰なのかもしれない。日陰者というか。

 

「氷川さんと話しているとき、いつも、氷川さんの想定内に居るなって思うんです。氷川さんの余裕を崩す反応を引き出すことができていないなって」

「……それはなにか問題があることなんですか? 別に、突飛な言動をする必要は無いと思いますが」

「そうではなくて……その、感情を動かせていないというか……言語化が難しい……。誤解を恐れずに言うなら、もっと素の氷川さんのことを知りたいんです。さらりと流されてしまうのは、悔しいですから」

 

 言いながら、照れているのか目が合わない。赤みが差した頬に免じて溜飲を下げた。べつに、憤っていたわけではないけれど。

 

「戻ってきてくれたとき、氷川さんは自分のことを『嫌な人間だ』と言いましたが、嫌な氷川さんをまだ私は見ていません。強く優しい氷川さんしか、私はほとんど知りません。私は、良いところも悪いところも、少しずつ知りたいんです」

「私としては、良い面しか見せたくないのですが」

「私だってそうです、けど……良いところだけ見せるって、親しくなる上では不可能だって気がついたんです。長所と短所も引っ括めての為人(ひととなり)で──氷川さんは他人よりもゆとりがあるから、自分を隠したままで踏み込めてしまうのかもしれませんが……」

 

 好きにしてください、と返した。そんな優れた人間でも、高尚な人間でもない。幾分人生経験を多く積んでいるから、他人からはなんとなくそう見えるのかもしれないけれど。

 

「今更、何がなんでもひた隠しにしたいとまでは思いません。白金さんの言う『ゆとり』にはあまり自覚的ではありませんが、暴きたいのなら暴いてくれれば良い。それを許してもいいと思えるくらいには、私は貴方達に感謝しているし心を許しているつもりでいます」

 

 深入りしたがらない悪癖を指摘されているのだろう、ということくらいはわかっている。悪癖だと自覚していても、満ち足りているのだから私のスタンスは今更大きく変わりはしない。

 それでも歩み寄ってくれることは素直に有難いと思えるし、無下にもしたくない。

 

 そんな心境から絞り出される言葉が「勝手にしろ」なのは、自分でも目を覆いたくなるような拗らせ具合だけれど。

 

 他人へ踏み込みたいという欲求が、私には希薄らしい。助けを求められれば助けたいと思うくらいの情はあるけれど、仲良くなるためにパーソナルな部分へ踏み込んでいこうとまでは思わない。日菜に対してさえそうだったのだから、これはもう筋金入りと言ってもいいだろう。

 

 何が面白いのか、白金さんは破顔して、堪えきれないというように声を漏らして笑った。

 

「嬉しいです。……前から思っていたんですが、やっぱり私たち、少しだけ似ているところがありますよね」

 

 恐らく憮然とした表情の私は返答に困って、黙ったままコラボカフェの入口を跨ぐ。

 近頃の白金さんは妙に圧が強いというか、押しが強いところがあって、どうにも勢いで押し切られそうになることがある。垣間見せる強かさに彼女の面影を重ねたりはしていないことを救いと思うべきか、私の人付き合いにおける嗜好が浮き出ていると恥じ入るべきか。

 

 結局その日の収穫は、白金さんの本棚に香水の瓶がひとつ飾られ始めたことと、水色のカレーの前で曖昧な笑みを浮かべる私の写真がネットの海を漂い始めたことくらいだった。

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