セトリを決めてしまえば、1回か2回の合わせで意外と何とかなる。
多忙な日菜の予定に合わせて無理やり組んだスケジュールで、おそらくは山吹さんにそれなりの負担をかけつつ迎えたライブ当日。
RiNGの設備はかなり新しくて、眺めているだけでも面白い。音響も良いし、これなら近頃のAfterglowが頻繁にここを利用していたのも頷けるというものだ。
出演ボードにある『MiDDay-Moon』の文字に、小さく『with RiNGスタッフ』と付け足されているのに気が付いて笑みが漏れた。
「RiNGの制服で出ます?」
「それはさすがに……」
「冗談です」
「おたえには言わないでくださいね。本気でやりそうなので」
「別に、やったっていいと思いますけどね」
「うーん……」
「……嫌なんですね。黙っておきます」
RiNGスタッフで演奏会なんかもしていた気がするけれど、それはまた別なのだろうか。受付をしている日菜が戻ってくるのを待ちながら、山吹さんと2人で駄弁っていた。
「おたえがライブやりたいって言ったの、実は結構意外だったんです」
「私たちと、という話ですか」
「はい。おたえはポピパ以外の人ともライブやったりするタイプではあるんですけど、どちらかと言うと誘いに応じているような感じで……あんまり自分から外に出ていくような気質でもないですから」
寂しかったのかな、と山吹さん。確か、今年いっぱいまでは牛込さんが海外留学中だったか。
花園さんのことは正直あまり分からないから、山吹さんが言うならそうなのかも、というくらい。私にはいつも通り──というか、高校の時とあまり変わっていないようにしか見えない。
ライブの充足感を知っていれば、メンバーが足りなくてライブができないつまらなさも多少はわかるというものだし、都合よく山吹さんが誘われていたから自分も噛ませて貰いに来た、というくらいの話なのだろうという解釈だった。
「山吹さんは、寂しくないんですか」
「私は……そうですね、少しだけ」
「ん、さーや、寂しかったの?」
「おたえ!? まだバイトじゃ──」
「ライブのために早上がりしていいよって言われた。……沙綾も寂しかったんだね。一緒だ。んふふ、またうさぎのパジャマあげるね」
「……うーん、遠慮しておこうかな」
紗夜さんもいる? と言われたので丁重にお断りしておいた。うさぎなら日菜に着せておいた方が良いかもしれない。黄色とかどうだろうか。
早く揃ったのなら都合が良いかと、スタジオに入って本番前最後の練習。とは言いつつ、半ばウォーミングアップのセッションに成り果てる。
「『ホテル・カリフォルニア』? よくわかんないチョイスだね」
いや、いい曲だけどさ、と日菜。いささかオルタナ寄りのサウンドになった、ロック屈指の名曲。エレキギターのソロにドラム、ベース、そして私のギターも合流する。今世では初めて弾くかもしれない。
歌詞はいささか陰鬱で暗い曲だ。意外な程に滑らかな発音で歌い始めた花園さんに、日菜が並んでデュエットが始まる。山吹さんも叩けているのを鑑みるに、花園さんの十八番だったりするのだろうか。いや、それ抜きにしてもロック好きなら誰でも知っているような曲ではあるけれど。
ライブでやる曲を通して、グダグダと話していたらあっという間に予約の1時間が経ってしまった。慌てて片付けして退散して、リハに加わる。
花園さんと日菜がずっとUSロックの話をしているものだから、山吹さんが苦笑いしていた。あんなに語っているのは見たことがない、との事。
それから、他のバンドの子達から花園さんや山吹さんが話しかけられる度に、良い先輩をやっているのだなぁと感嘆してしまった。花園さんは楽器店の店員として色々相談に乗っていただろうことが窺えるような会話の内容だったし、山吹さんもバンドのことで諸々アドバイスしているようだった。
こういった先達がいるのは絶対に心強いだろうし、懐かれるのも分かる。私はそんなに社交性がある人間じゃないから、少し羨ましくも思ったりする。気疲れしてしまうだろうから、実際にそう成りたいわけではないけれど。
「『MyGO!!!!!』のドラマーも山吹さんの後輩なんでしたっけ」
「ああ、立希ちゃん。バイトの後輩なのと、一応高校も一緒でした。紗夜さんとは入れ違いになっちゃいましたけど」
あとで挨拶にいく時に紹介しますね、とのこと。楽しみだとも言わずに頷いておいた。
最近、初対面の人に対してどう接すれば良いのか分からなくなってきている。芸能関係の人達は、Roseliaがメジャーレーベルのバンドだからといって過剰に持ち上げたりもしないし、社会人として丁寧に接してくれるから、相応に返せば良い。ただ、こういうライブハウスや学校での出会いに関しては、相手の盛り上がりについていけないところがある。自分を下げるのも誠実ではないような気がするし、かと言って身の丈を超えて褒められるのも申し訳がないので、ただ居心地が悪くなる。
逆順でリハを終えて、他のバンドと入れ違いに楽屋へ引っ込む。せっかくだから挨拶回りに行こう、という山吹さんの提案に、日菜が面倒くさそうに欠伸をした。
「あの子いるんでしょ?」
「ええと、たぶん……」
「沙綾ちゃんとおねーちゃんで行ってきてよ。全員で行くもんでもないと思うし、あたしおたえちゃんと遊んでるから」
生徒会時代にもこんな調子だったのだろうか。羽沢さんとの関係を見るに、当たらずとも遠からずと言ったところだろう。まあ、きっちりしたイベントでもないのだし、本来挨拶回りさえする必要は無いくらいなのだから、待っているというのならそれで構わない。山吹さんはここのスタッフとして様子を見て回りたいのだろうし、それに付き合うくらいどうということはないはずだ。
「2人で行きましょうか」
「……そうですね」
いつの間にか好きなギタリストの話を始めている2人に悲しそうな顔をしている山吹さんを連れて通路に出る。
「もう4年くらいバイトしているんでしたっけ。そうなると、今日のライブに参加するバンドのほとんどが知り合いだったりするんじゃないですか?」
「そうですね。花女の後輩も多いですし、バンドで横の繋がりも増えましたし──そういえば、紗夜先輩との繋がりもそんな感じですよね」
「……たしかに」
いくつか部屋をノックして、2つが空振りだった。3つ目のドアを叩いたときに返事が返ってきて、山吹さんが扉を開く。中にいたのは、ちょうど先程話題に上がっていた『MyGO!!!!!』のメンバーだった。リードギターの要さんは席を外しているようだったが、それ以外の4人は揃っている。
「こんにちは〜。挨拶回りに来たんだ」
「えっ、沙綾先輩も今日出るんですか」
「うん、先輩のサポートだけどね。それでせっかくだから紹介しておこうと思って」
山吹さんに続いて部屋に足を踏み入れると、4人から視線を浴びる。山吹さんの後輩らしいドラマーの椎名さんと、ベースの長崎さん、サイドギターの千早さん、ボーカルの高松さん……だったはずだ。バンドの曲はいくつか知っているものの、メンバーの顔とか名前は正直うろ覚えだった。要さんは話したことがあるからまだ覚えているのだが、生憎ここにはいない。
「『MiDDay-Moon』の氷川紗夜です。よろしくお願いします」
「え、え、Roseliaの氷川紗夜!? やっぱり本物だったんだ! ってか自己紹介しなきゃ──千早愛音です、MyGOのギターやってます!」
「愛音ちゃん、そういうのやめてって言ってるよね。……ベースの長崎そよです。よろしくお願いします」
「椎名立希です。ドラム担当してます」
「……高松燈、です。よろしくお願い、します」
千早さんに握手を求められたのに反射的に手を差し出すと、そのまま両手で包み込まれる。テンションが高い人だなと思っていると、長崎さんと椎名さんが嫌そうな顔をしていた。これだけで何となく日頃の関係性が分かる。
「今日はRoseliaで出るわけじゃないんですけどね。メジャーバンドでもなんでもありませんから、そんなに畏まっていただく必要はありませんよ」
「いや、そうは言っても……」
「えー、ホントですか!? ──あ、そういえばMyGOのアカウントフォローしてくれてましたよね?」
「ええ。直接交流があるわけではありませんでしたが、縁はそれなりでしたし」
千早さんの食い付きが凄い。こちらから話を広げる必要がないのは有難かった。
SNSでの繋がりに限れば、私もそう閉鎖的なわけではない。バンドの関係者はだいたいフォローしているし、そこにはもちろんアマチュアバンドも含まれている。メッセージアプリの大規模グループにも参加しているし、話しかけられればなるべく真摯に対応するようにしている。なんなら、MyGOのアカウントはこちらから進んでフォローしたような記憶がある。
「……Afterglowさんとのライブ、めちゃくちゃ良かったです」
「椎名さんも来てくださっていたんですね。ありがとうございます」
「えー、りっきーあのライブ行ったの!? 聞いてない!」
「お前には言ってないし」
……もしかして仲が悪いんだろうか。軽口の範疇な気もするが、なんというか、別れるかどうかの瀬戸際にいるカップルみたいな雰囲気。山吹さんを見ると「あちゃー」みたいな表情をしているから、これが平常運転なんだろう。なんとも独特な雰囲気のバンドだ。……いや、どちらかと言うとこういうスタンスのバンドの方が多数派のような気もするが、周りには仲良しグループとして長続きしているバンドが多いから麻痺しているのかもしれない。ウチのバンドだって一時期のボーカルとドラムはこんな感じだったような、気も──
「そういえば、野良猫見てませんか」
「楽奈ちゃん? 私たちは会ってないけど……」
「いつもギリギリには戻ってくるんですけど、今日はロビーにも通路にもいなくて……」
「あ〜……、なるほど。うん、見つけたら連れてくるよ」
「お願いします」
言いながら、山吹さんは心当たりがあるようだった。挨拶程度で長居するのも良くないかと早々に場を辞して、二人通路に戻る。高松さんがなにか言いたげだったのが気にかかったが、こちらから先手を打って尋ねるのも威圧的かと思って控えた。
「要さんの居場所に心当たりでもあるんですか?」
「たぶん、私たちの楽屋にいると思います」
「……日菜に懐いているとか、スタッフさんが言っていましたね。そういえば」
となると、日菜は要さんを回避するためについてこなかったのに、無事に捕捉されてしまったわけか。
元きた道を引き返して、部屋に戻る。ドアを開けると、なかなか面白い光景が広がっていた。花園さんと日菜が、私たちが部屋を出る前と同じ位置に座っている。ただし、日菜の膝の上にもう一人、小柄な少女が身体を預けて座っていた。いつの間にか持ってきたらしいケータリングのお菓子を、餌付けでもするように花園さんが要さんの口元に運んでいる。
「おかえり」
「……ただいま」
「2人と入れ違いに入ってきたんだけど、見逃した?」
「いいえ。でも、MyGOの人達が要さんを探していたわね」
「だってさ。帰りなよ」
「まだここにいる」
ばっさりと拒否されて、日菜が面倒くさそうに眉を顰める。ベタベタに甘えられているのも面白いし、日菜が誰かに振り回されているのも珍しい。嫌がっていそうなのに、要さんのことを振り払わないのも。
山吹さんが、本番前に送っていけばいいかと諦めたように腰掛けた。察するに、私が東京にいない間に何度か繰り返された状況ではあるのだろう。
「どういう関係なの? 日菜、要さんに何かした?」
「何にもしてないよ。ベース弾いてたら交ざってきて、それ以来こんな感じ」
あたしが聞きたいくらいなんだけど、と溜息。
横で話を聞いていた花園さんが、首を傾げた。
「ネコ仲間じゃないんですか?」
山吹さんが露骨に焦ったような表情になる。どうフォローしたものかと考えて、日菜がどういう反応を示すのか測りかねて諦めたような。
私はと言うと、笑いを噛み殺すのに必死だった。いつか、日菜のことを猫みたいだと言ったのを思い出す。けれども猫らしさで言えば、要さんには敵わないだろう。白髪に、青と黄金のオッドアイ。白猫によくあるカラーリングの容姿と、気まぐれな立ち居振る舞いはいかにも猫らしい。椎名さんの「野良猫」呼ばわりも頷けるというものだ。『MyGO』を居場所に定めているのなら、飼い猫なんじゃないかとは思ったが。
「それつぐちゃんにも言われたよ。シツレーしちゃうわ」
「……? わたしは猫でもいい」
「あたしはホモ・サピエンスを自認してるんだよね」
日菜が振り回される側に回っているこの珍しい状況を楽しんでいる私がいた。山吹さんの隣に腰掛けて、事態を静観することに決め込む。
「紗夜は日菜に似てない」
「それは、容姿の話ですか?」
「……性格?」
不揃いの瞳が私を覗き込む。腹の底まで見抜かれるような感覚は要さんから受けないけれど、少しズレた視点から人を見ていそうな要さんの言葉は少し気に係る。日菜の膝に乗ったままでは些か格好がついていないが。
「紗夜は、音楽は言葉になると思う?」
「音楽が、言葉に? それは、代替になり得るかという意味ですか?」
「ん」
「まあ、部分的にはなるんじゃないですか。情報を伝えるツールとして音楽は言語に劣りますが、感情を表現するという点においては音楽が勝る場合がいくつもあります。『悲しい』という言葉を発するのと、『悲しげな響き』をまとったマイナーコードをいくつか弾いてみるのでは、後者の方が共感されやすいのではないかと思います。言語の方がメッセージ性が強いけれど、音楽の方がより直接的に心に訴えかけやすい。声楽曲はまさに、両者の良いとこ取りをしているわけですね」
こういう話を求められているのかはよく分からなかったが、とりあえず持論を投げてみる。とはいえ、そんなに深い話でもない。路上演説と路上ライブではどちらが心を動かしやすいか、みたいな話だ。感情を共有するのに、音楽はとても有効だと思う。
「日菜は、音楽じゃ分かり合えないって言った」
「そりゃそうでしょ。音楽だけじゃ無理だよ。言葉も心も尽くして、その上で音楽が最後のピースになることはあるけど。もしくは、言葉を交わすまでの最初の一歩とか」
「んぅ……」
「だから燈ちゃんと一緒にいるんでしょ?」
「うん」
顔を間近に付き合わせて日菜と要さんが話しているのが、妙におかしかった。真面目な話をしているはずなのに、流れる空気は生ぬるい。
「日菜のベースは、喋ってた」
「あたしの演奏がどうとかじゃなくて、曲に内包された文脈が鮮やかだっただけだよ。ラデツキー行進曲を聴いたら楽しくなるでしょ? 結婚行進曲を聴けば、第9を聴けば、トルコ行進曲を聴けば。リスナーが脳裏に描く『情報』が、勝手に音楽に色を付けるだけ。それって、歌詞があるのと大して変わんないでしょ」
「わかんない」
「じゃああたしも知らない」
「でも、わたしは日菜の音につられてここにいる」
「おねーちゃんの音も好きなんだっけ。それなら単に上手いから懐いてるだけじゃん」
「紗夜は、おじいちゃんみたいな音」
「そんなことないでしょ。若返ってるよ」
矛先が再び私に向いたのが面倒になって、ため息を吐いた。ジジくさい演奏ってなんだよと思う。前世を合わせても49、オジサンではあっても爺さんとは言い難い。加えて貧困な社会経験では精神的な老成も望めないだろう。
「若返ってるってどういう意味よ」
「自覚ないの? 沙綾ちゃんはわかるよね?」
「えっと……これどう答えたら角が立たないんですか?」
「どう答えてもおねーちゃんは怒らないよ」
「……派手になったなとは、思います」
「そちらの自覚はありますが……」
何一つ憂いなくギターにのめり込むのは、前世の高校時代以来なんじゃないだろうか。近頃は童心に返ったような気持ちでピックを握っている。そういう意味で派手になったとかガキっぽくなったとか言われる分には分からなくもない。
「ああ、今何となくわかりました。私のギターや日菜のベースが、高松燈さんの『叫び』に比類する熱量を持ち得るか、という話ですか?」
「熱、じゃない。言葉になる? 話すのは苦手だから、
「……観客には伝わらないかもしれません。同じステージに立つのであれば、あるいは」
そう言うと、要さんはやおら立ち上がり、私の方へと歩み寄ってきた。そしてそのまま、私の膝の上に座る。
「あー! ダメだよ! そこはあたしの席!」
「うらぎったのは日菜」
「最初からキミの味方なんかしてないでしょ!」
「いっしょにライブするって言った」
「言ってない」
飼い主のところに帰りなさい、と日菜が要さんの手を引いて部屋を出ていく。私のところに来たのは日菜にちょっかいをかけるためだったらしい。去り際の要さんの表情は満足気だった。
ドアの向こうに二人が消えて、山吹さんが苦笑を零した。
「行っちゃった」
「嵐のようでしたね。いつもあんな感じなんですか?」
「いつもはもうちょっと日菜さんが優しいような気がします、けど、だいたいこんな感じです。……あの、日菜さんって、楽奈ちゃんの事を嫌ってるわけじゃないですよね?」
「むしろかなり気に入ってると思いますよ。じゃないと、自分のペースを崩してくるような相手と接したりしませんし」
「なら、いいんですけど……楽奈ちゃんの事を日菜さんに紹介したの、私なんです。だから、迷惑していたら申し訳ないなー、とは思っていて……」
私が面白いので良いと思いますよ、とは言わずに、シワが寄ったスカートを軽く叩いて水を飲む。
音楽がどうとか、言葉がどうとか、そういった理屈を要さんが持ち出した理由は分からない。彼女の中では大きな疑問であり目標なのかもしれないが、私にとっての音楽とは娯楽で、祈りで、生業である。言葉の代替にしようとは思わないし、音楽は音楽であるままに楽しみたいと思う。
悩みがあるのなら協力してあげたいとは思うものの、要さんは独りぼっちではないわけだし、お節介を焼くのもはばかられる。私よりもずっと彼女のことを理解していそうな日菜が何も言ってこないわけだし、この判断は間違っていないのだろう。
「もし気になるのなら、羽沢さんにでも日菜のことを聞いてみるのが良いと思いますよ。あの子が如何に他人に冷たいかわかると思います。……最近はそうでもないような気がしますが、少なくとも嫌いな人間を構ったりはしません」
アンプに繋がない生音でLet it beを弾いている花園さんを他所に、MyGOというバンドについて山吹さんの話を聞いていたら、すぐにライブの時間がやってくる。スタッフさんが準備を促しに来るのと同時に日菜が戻ってきて、4人で廊下に出た。
「Let it be、やりたかったりします? 今ならギリギリ、やれないこともないですが」
「最初はビートルズを練習したな、って懐かしくなっただけですから」
「ああ、なるほど。私は邦ロックから入ったので、花園さんほど洋楽には馴染みがないんですよね」
当然ながら、今更緊張するわけもない。高校時代ならいざ知らず、最早ステージも日常のひとつだ。
「じゃあアドリブはなしですよ」
「はーい」
幼稚園児みたいにまっすぐ手を上げた花園さんに笑ってしまいそうになるのを堪えながら、ステージ脇に控える。
「MyGOちゃん達はあたしたちの次なんだっけ」
「そうだったはずです」
「ん、じゃあ、温めておいてあげないとね」
白色のベースを撫でて、日菜が笑った。
未だに素人臭い私の歌唱が高松さんに並べるとは思えないから、日菜に頑張ってもらおう。
前のバンドと入れ違いに暗いステージへ立って、ライブハウスにしては大きめのフロアに感心しながらセッティングを済ませる。いつものRoseliaのライブよりは少しだけアウェイ寄りの観客。私たちはともかく、山吹さんや花園さんまで見くびられては困るので、気を引き締め直した。
『こんにちは〜、「MiDDay-Moon」です! あたしとおねーちゃんの二人バンドなんだけど、ここのスタッフの2人にサポート頼んじゃいました。自己紹介はソロ回しでやるから、早速聴いてください、「薄明」』