戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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息抜き大事


第壱話 戦国の鬼狩り

「鬼という生物を知ってるかい?」

 

 ショートカットの女が話す。顔は整っていると言っていい。齢二十歳過ぎぐらいの女子から女性に変わったあたりの雰囲気。特徴的な縫い目が額に一直線見えていた。所作は女性らしいがどこか違和感を覚える。

 名を羂索、平安時代から生きる呪術師である。本体は矮小な脳であり他人の肉体を乗っ取ることで生きながらえているのだ。文字通り人の尊厳を踏みにじり唾を吐く行為である。当の本人にとって殺人は手段のひとつでしかない為、罪悪感の欠片も抱いていない。

 そこまでする理由は彼の底なしの好奇心にある。一般人に呪霊を孕ませたり、日本国民全てを一匹の呪霊にしたりしようとするのも全て彼の好奇心から来る衝動に過ぎない。

 

「一言で表すと一般人にも見える呪霊。でも殺す方法が太陽で焼くか特殊な刀で首を切るしかないから下の方でも二級。天井は鹿紫雲とかその辺とタイマン張れる。

 〝生存〟については限りなく完璧に近い生物だよ」

 

 女は白髪に紅の入った髪色を持つ少年とも少女とも取れる人物に話しかけていた。だが女の話に首も眉も不動を貫いている。羂索から提供されたティーカップの紅茶にも口を付けなかった。

 名は裏梅。こちらも平安時代出身の呪術師。生きる目的は宿儺という平安時代の時から仕える主のみ。だからこそ羂索の無駄話にも我関せずさして興味もない。

 

 ちなみに二人がいるところは羂索の今の体が持っている家である。体の持ち主は虎杖仁との学生恋愛の果てに結婚。そして殺され体を乗っ取られた。

 愛する人が他人に変わったのだ。気が付かないわけが無い。だと言うのに仁はそのまま夫婦を演じている。愛しているから。惚れたから。いつか自分も殺されるとわかっていながら羂索を、彼との子を愛した。歪な愛と言われようが仁にとっては純愛で、一つだけ確かに言えることは紛れもなく愛に変わりないこと。

 羂索はそんな旦那がとにかく気持ち悪いので近寄りたくない。今日も今日とて適当な理由を付けて一時的に追い出し、平安ティーパーティーと洒落こんでいる。二人しかいないが。

 

「人間は淘汰されている筈が、そうはならなかった」

「……」

「鬼殺隊といってね。まぁまともじゃない。そうだな……

 術式も呪力も持たない人間が自らの体を全て毒にしたり、熱病に犯されながら戦ったり。何より鬼を絶滅させていることがイカれている確かな証拠だ。大正の時代に鬼の始祖は討伐されたんだよ。めでたしめでたしだ」

 

 

 

「…………それが宿儺様となんの関係がある」

 

 

 

 初めて裏梅が口を開いた。剣呑さを宿した瞳で羂索を睨む。宿儺復活についての話をするためにわざわざ足を運んだというのに、いざ会ってみれば開口一番無駄話である。

 

「まぁ聞けって。鬼殺隊の方にね、興味深い人間がいたんだ。戦国に存在したとある兄弟の弟の方だよ

 これが本人は全く面白くない。私が声をかけてもなんとも思ってなさそうだった。自我も存在感も薄いし誰も恨まないから呪いとは無縁だった」

 

 羂索は頭の中に一人の侍を思い浮かべる。植物のような人間。何故か近寄るだけで羂索の外道は見抜かれ刀を向けられた。敵意が無いことを全身で示したが、『我らは交わるべきでは無い』と死滅回遊の参加を拒否した。

 不機嫌な裏梅の前で調子を狂わせず、羂索は口の端を吊り上げて笑う。

 

「面白かったのは兄の方だよ。自身より優れた弟を目指して何百年も鍛えたんだ。もう一度言う! 何百年もだ! もはやそんじょそこらの呪物よりよっぽど怖い。

 しかも! しかもだ! 死に際に自らの呪いの本質に気がついたんだ! 『弟になりたかった』なんてクソしょうもないつまらないことにだ! それでも本質は本質だ! 呪いの主が呪いの本質に最後にたどり着いたんだよ! 

 よって呪いは益々強まった! 〝愛〟だよこれは!」

 

 手を挙げ、足を投げ出し嗤う。人の顔で呪いのように笑う。ニタニタとゲラゲラと呪いが人の皮を被って笑う。それはまるで生前の女の悲鳴のようだった。

 

「信じられるかい? 一般人並の呪力しか持たない生身の人間が握力だけで刀を赤熱化させ、無傷で名のある呪いすら葬るんだよ? やっぱりおっかないね、人間は」

 

 

「……宿儺様の器にするつもりか」

 

 

 裏梅が問いかける。俄に信じ難い話だが、今ここで羂索が嘘を吐く理由もない。実在はしたのだろう。そして羂索の話した通りなら正真正銘の化け物だ。呪いとは真逆の存在。宿儺の器にすれば、呪いの王とはいえ興味の対象となる。そうすれば褒めてもらえるかもしれない。

 

「お。君も興味がわいてきちゃった?」

 

 裏梅は羂索を睨みつけた。そんな裏梅をまぁまぁと宥めてくる羂索に興味ではなく殺意が湧いた。

 

「それがね。肉体が兄の魂以外受け入れなかった。きしょくない? もはや兄のために存在しているようなものだよ。いや夫婦かっての」

「……お前が夫婦を語るとはな」

「ふふ。まぁ無理矢理っていう手もあったんだけどね、魂が自らの肉体を呪ってるんだ。これ以上のベストマッチもないからさ。

 一般人だから術式もなし。強いて言うならただの肉体強化かな。自分の体内が領域みたいなものさ。誰も呪わず、自らに呪い呪われながら呪力は廻り続ける。恐ろしいだろう、何百年もただ一人のみを呪い続けた濃密な呪力が一人の人間の体内で蠢いてるんだ」

 

 裏梅は息を飲んだ。右耳から左耳へと話を流していたがよく良く考えればおかしい。異常なまでの執着だ。

 呪力の量は兎も角として質は確実に宿儺を上回っているかもしれない。天与呪縛でないのなら一般人でも呪力はもっているが、呪術師ですらない一般人の呪力量などたかが知れている。だが、ただ一人を恨み、憧れ、何百年も呪い続けたのなら質は限りなく高い。何せ人の寿命すら軽く上回っている。成程、確かに愛だ。

 

「なんでそんな化け物をつくったんだ」

「人間の可能性だ。受肉体よりもさらに人間に近い性質を持つ彼なら、人間として最高点に到達してくれる。天才の肉体と努力の魂ってところかな。

 まぁ、武の研鑽にしか興味が無いから放ってたんだけど、なんか肉体も魂も、気配とかを完全に遮断する能力があるみたい。率直に言うと多分もう生まれ落ちてるしどこで何してるかわかんない」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「眠った夢を…………見ていた気がする」

 

 二人が鬼について会合する数年前の午前零時。

 ある家で七歳の誕生日をすぎた直後に痙攣を起こした子供がいた。先天的色素欠乏症により銀色の毛髪と雪のように白い男の子供であった。そして生まれつき額に炎を象った痣がある。しかし首元にも痣が見えている。奇しくも痣の付き方は魂の前世の肉体と同じであった。

 流れ込んでくる前世の記憶を、継国巌勝、双子の兄だった方は他人事のように追体験している。

 

「負けたのだな私は……負けたというのに白々しく生き恥を晒している。性懲りも無く生まれ変わってまで……」

 

 口調は七歳とは思えないほど落ち着き、静かである。

 武士たるもの常に勝たなければならぬ。武を極めんとするためにまやかしに手を出した。半信半疑の巌勝だったが今こうしてこの場にいる事実は羂索と名乗った男が虚言を吐いていない証拠だった。

 

「この姿は……ふっ……そうか。子は七つを迎えるまでは神の子とはよく言ったものだ。迎えてしまえば、蛇蝎磨羯にすらなろうと神は無関心よな」

 

 目に焼き付いた姿。髪や肌の色は白い。だが何よりも目を引く顬の炎のような痣。口から聞こえる全集中の呼吸術の音。

 巌勝は武者震いが止まらなかった。彼の特別な瞳で凝らして見ても肉体は童だが潜在能力は計り知れないのは明らか。

 巌勝は縁壱になれたのだ。何百年も希う夢が叶った。

 

「弟の肉体で……類稀なる強者との戦い……血湧き肉躍るとあの時は思った。……思っていたのだ。だが……私は私だ。謳歌して見せよう……生き恥を晒しながら醜い武士らしく……な」

 

 前世で弟の光に灼かれ、濁った瞳に正気の色が見えている。色々と吹っ切れた彼にはやることが山ほどある。きっと敗れているだろうかつて仕えた主の最期、呼吸の確認、刀の選定。

 羂索の予想より遥かに早い目覚め。五条悟が世界に生まれ落ちる数年前。天与の暴君や唯一の女特級呪術師と同い年であることを巌勝は知らない。




裏梅「結局宿儺様のこと関係ないやんけ」

羂索
適当に泳がせておいて人間がどこまで行けるのか結果だけ見たかったけど、なぜか伏黒甚爾と九十九由基に絡むようになって何回か計画を邪魔される。胃痛もとい頭痛のタネ。

五条悟
たまたま入ったマックとかで、呪力一切無いフィジカルギフテッドゴリラと、唯一の女特級呪術師と、肉体に宿る即死レベルの怨嗟を澄まし顔で受け入れている主人公が談笑してるのを発見して持ってるパレット落としてハンバーガーとかぶちまける。
主人公は作中最強としての彼に縁壱とかが持ってる最強故の余裕とか感じるけど本人はフッ軽でクズい性格で似ても似つかないから、何かと仕事を押し付けてくる手のかかる後輩だと思ってる。五条はなにか頼んでもだいたい二つ返事で受け入れてくれるから逆に申し訳なくなる。
二人が戦ったら「透き通る世界」で肉体的な行動を予知出来るけど天逆鉾みたいな無敵を破れる技を持ってないから、長期戦になる。しかし理不尽な無下限呪術と領域展開で押し切られる。でも多分六眼の片方ぐらいはもっていく。
「僕無下限なかったら、わりとマジで勝てるか微妙な気がする」

伏黒甚爾
悪友その1。
さしす組は問題児とはいえ学生で若いが、下手に年取って理外の力を持った三人が連む悪夢。
十歳すぎぐらいで呪力的な監視を抜けられることに気がついた甚爾が家を抜け出してコンビニとかで立ち読みしてたら主人公と会うし、互いに呪力なしの肉弾戦して絆が深まる。主人公は甚爾にモラルとか社会性とかを教えるけど無駄だし、甚爾は主人公にナンパのやり方とかパチンコとか教えるけど無駄。
娘の津美紀は、絵本からでてきたお姫様みたいな見た目の九十九が大好きだし、息子の恵はザ・サムライな巌勝に憧れている。
「お前さ、見ただけで肉体の質とか調子とか不具合とかわかるんだったよな?……よし、馬を見に行くぞ」

九十九由基
悪友その2。
硬っ苦しい口調ととにかく落ち着いた振る舞いな主人公に、オープンな九十九は最初うへぇって思う。イラついて殴り掛かり、主人公の刀を砕いた黒歴史がある。けど何かと思い切りがいいし筋は通ってるから信頼するようになる。彼女の好みが泥臭い男だが主人公は泥臭いし人間くさいしでドンピシャ。抱くのもいいし、抱かれてもいいと思っている。もはや時間の問題。何故か九十九にだけ他とは違う優しさを見せる時があるから、強すぎて女扱いされたことのなかった九十九はキョドるし、周りは二人がデキてると思ってる。
本人は知らないが、主人公は九十九が前世の妻に見た目がかなり似ており、蝶よりも花よりも丁重に扱う。しかし黒髪は金髪だし、お淑やかは陽キャ……というふうに見た目は清楚からギャルになった彼女なので脳が破壊されている。
伏黒甚爾へは大金と引き換えに渋々体を調べさせて貰っている。九十九単体なら逃げ切れるが、借りた金を全てスった罪悪感から主人公からは逃げない。それでも面倒いものは面倒いから主人公の奢りで〝3人〟でご飯に行ったりする。あれ?
「おい……私を通して誰を見てやがる」

両面宿儺
主人公にガチで興味を持つ。伏黒恵へは乗っ取る体としての興味でしか無かったが、主人公に対しては羂索と同じく人間としての限界を見せて欲しいと渇望。厄介オタクといえば伝わりやすいか。
渋谷の領域展開は完全に殺す気であったが、主人公が見えない斬撃の雨を満身創痍ながらも全て捌ききったことでさらにオタク度が増した。
「〜!!(声にならない叫び)継国ッッッ巌勝ゥ!!!」

巌勝in縁壱
縁壱目指して研鑽と修練を目的に羂索の誘いに乗ったが、縁壱になりたかったという目的は達成済み。イメージは振る舞いを除いて武士らしさとかを抜きにしたきれいな黒死牟。
体内を巡る呪力が濃密すぎて体内が領域みたいなもの。傷つけられたり欠損したりしても、肉体が自動で反転術式を行使する。秤金次は泣いていい。領域展開すると六つ目の鬼になる。
原作通りに身長190cmで五条悟と同じ。銀髪だが先端にいくにつれて赤みが増している。縁壱が前世着ていたような着物を着用。着物が似合う男なので平安勢から色男扱い。月の呼吸用と日の呼吸用に刀を二本、左腰に差している。余談だが密かに武器庫になる呪霊を探している。
五条悟が封印された後は、死滅回遊でほぼいなかった頼れる大人になる。

続く……?

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