戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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第拾肆話 渋谷事変 開門

2018年10月31日19時ごろ

 

 東急百貨店東横店を中心に半径凡そ400メートルの帳が渋谷に下ろされる。悉くの光を吸収し黒く在る球体。その帳には一般人のみが閉じ込められ、術師は自由に出入り可能。帳の中心で何かあったのか縁まで逃げてきた一般人は口々に五条悟を呼んでこいと叫ぶ。

 これを複数の呪詛師による計画的な犯行と断定。術師側は一級術師を班長とした数班を手配した。

 

 ★

 20時39分。青山霊園。

 

 冥冥班

 メンバー。冥冥。憂憂。虎杖悠仁。もちろん一級は冥冥である。帳の外側にて待機を命じられた三人は時折雑談を加えつつ時間を潰していた。

 

「その烏って冥冥さんの術式っすか」

「ふふ。知りたいかい? でも……健気な学生に金銭を要求するのは胸が痛むね。いいだろう。同じ班になったことだし特別に教えてあげるよ。

 私の術式はね、烏を操る術式さ」

 

 術式の開示は呪術師にとって特別な意味を持つ。それだけで出力を底上げ出来るのだ。しかし冥冥の術式開示に術士歴が浅い悠仁はあまりピンと来ていない。憂憂が大事そうに抱える斧状の呪具こそが術式関係だと予想していたからである。

 

「……烏ぅ?」

「姉様の術式を知ることが出来たというのに、なんだその反応は」

「すげぇぇえええ!! 俺、冥さんに一生着いていきまス!!」

「よろしい」

「よろしくないよ?」

 

 憂憂。シスコン。彼女にとっての彼は荷物持ちであり、領域対策であり、利害関係のある他者である。本人もそれは承知の上で冥冥を姉と慕う。その程度の関係ですら冥冥にはかなり親しい部類に入る。

 

「みっちーも似た術式かな」

 

 ぴくりと冥冥の耳が動く。冥冥は巌勝の術式を知らないのだ。二人の仲は悪くない。戦闘狂は敵の領域にすら嬉々として突っ込んでいくため、彼女にとっては命を天秤にかけずに報酬を得られる相手。任務帰りには共に食卓を囲むことすらある。

 

「みっちー……継国先輩のことかな。どうしてそう思うんだい?」

「うぉえっ」

「ん、なにかおかしかった?」

「五条先生もそうだったけど、冥冥さんも先輩って言ってるってことは……」

「あの見た目でも私よりいくつか上だよ。確実に30は超えてるだろう」

「嘘お!? てっきり同年代かと」

「ふふ。若く見てくれているのは嬉しいけど女性に年齢の話はタブー。習わなかったのかい? 授業料を徴収しようかね」

「姉様に対する無礼の数々、許すまじ」

「す、すんませんした!!!」

 

 腰を90度どころか100度曲げて頭を下げる悠仁。良くも悪くも後輩らしい彼に冥冥は歌姫の姿を重ねる。

 

(つくづく、賑やかな後輩たちと縁があるね。私が後輩の時はこう見えていたのかな。まあ大目に見るとするか。先輩ならそうする)

 

 余談だが冥冥を一級に推薦したのは巌勝である。

 

「構わないよ。それよりも私の質問に答えて欲しいな」

「術式のこと? だってみっちーは烏と会話してたからさ」

「見間違えたんじゃないか? 彼に術式はないはずだよ。なしであそこまでやれるんだから、君も頑張ればああなれるよ」

「五条先生と同じこと言ってる。強いは強いんだろうけどさ、どのくらい強いかわかんないんだよ」

「ふふ────着信だ」

 

 冥冥の携帯が鳴る。悠仁は浮き足立つ。

 彼の特性からして待機を好まない。その善性は弱きを助け強きをくじく。間違っていない。だが正義の反対は悪ではなく別の正義であることを、彼は今日知ることになる。

 

「明治神宮前に帳が降りた。走るよ。ついといで」

「押忍!」

 

 冥冥班、突入。

 

 ★

 

 21時25分 都心メトロ渋谷駅 B5新都心線ホーム

 

 駅構内では全ての決着が着こうとしていた。否、着いていた。純白のホームに映えるむせ返るような血潮は人と改造人間のサラブレッド。立ち尽くす人々は蓬け、しかし深刻なダメージは負っていない。阿鼻叫喚の景色に似合わぬ静寂が場を支配していた。

 

「はあっ。はぁ……ふぅぅぅ……」

 

 そんな彼らの中心で息を荒らげる最強の呪術師、五条悟は特級を何体も相手にしながら戦い続けた。そして改造人間と呼ばれる人の成れの果てが入り乱れた瞬間に領域を展開。その時間、0.2秒。

 六眼も、領域展開後のために無下限呪術も使えない。彼は持ち前の体術と呪力操作のみでおそよ1000体の改造人間を5分足らずで殺したのだ。1秒に3体以上殺さなければ成り立たない事実。紛れもない偉業。

 

(改造人間は全て殺した。あとは特級。無量空処が効いている今なら瞬殺できる)

 

 

 獄門疆 開門。

 

 

 

「は?」

 

 

 

 振り返れば瞳。血塗れたそれがいっそう無念を曝け出している。

 獄門彊は高専の忌庫から盗み出された源信の成れの果て。その効果は条件が揃えば強制的に対象を封印するというもの。

 その条件とは、1分間対象をその場に居させること。しかし脳内時間での1分も可能である。先日の高専襲撃時に盗まれた封印に特化した呪具。それを五条悟が知らないわけが無い。

 

 

 

 

「や」

 

 

 

 

 そして悟の目の前に現れる親友本人。夏油傑。

 

(すぐ……る)

 

 彼の頭の中で疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消える。なぜ急にいなくなったのか。なぜここにいるのか。なぜ今になって現れたのか。今すぐ胸ぐらを掴んで小一時間問い詰めたいと思った。

 手を掲げ屈託なく笑う顔はどう考えても本物。六眼で観測した事実は揺るがない。ならば──

 

「久しぶりだね」

「げ……なんでお前がいんだよ。助けろよ」

 

 最強が隣を任せる術師。ひいては親友。

 原作では己の手で命を奪ったのに生きているという事実との乖離から困惑していた。しかし此度の傑の扱いは行方不明。死体が見つかっていなかったこともあり、ほぼ完全に傑の生存を悟の脳が受け入れた。

 悟は口角を上げる。話したいことが沢山ある。新しい1年生が才能豊かなこと。おすすめのラーメン屋を彼の先輩が紹介してくれたこと。まだ傑の両親は彼を探していること。

 

「背中は任せたぞ」

「……」

 

 しかし彼らにはまだやることがある。悟は掌印を結び構えた。傑に呪霊をばら撒いてもらい、己は特級呪霊の祓除に徹するのだ。久しぶりの共闘。相手も不足なし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、獄門疆が悟を捕らえる。

 

「残念、殺したよ。

 このシュチュエーションと呪霊操術が欲しくてね。上手くいってよかった。漏瑚達も無事でなにより。花御がいない分、よく頑張ったね」

「……は」

 

 もはや悟の攻略は確定したものとして目もくれない。起き出した呪霊と労い合い始めた。

 夏油傑の死。その事実が悟の肩に重く伸し掛る。彼の死は心の底でどこか受け入れていた。しかし同時に生きていて欲しいと願っていたのも事実。故に嘘だとしても信じる。親友とはそういうものである。それは人が受け入れるべき弱さ。そこを突かれた。よく視れば中身が親友では無いことすら分かっていたのに。

 

(……)

 

 上げて落とされ残ったのは純粋な殺意だけ。親友の体を弄ぶ邪悪をこの手で誅したいという思い。獄門疆に捕らえられた今、それは叶わないが。

 

「君は封印され、夏油傑は私の体。うん、完璧。パーフェクト。

 いやー。やっと天内理子を殺せるよ! 同化に失敗したとはいえ、星漿体が生きていると万が一もありうるからさ。第二の天元になってもらったら困るんだよね」

「何ほざいてんのかわかんねぇけどぜってー殺す。俺を封印して終わった気になってるだろ。俺がいなくてもセンパイ達がいるからなあ」

「六眼が人頼みかい? 確かに私もあれがどこまでたどり着くか興味を持ってるよ。ただし術式を欠いている。術式さえあれば……タラレバを話しても仕方ないか」

「ひひひ」

 

 悟は笑った。傑が不可解な顔をする。

 

「何か面白いことでも?」

「そうか。お前がセンパイを受肉させたヤツか。ばっかでー。先輩は術式もってるぞ」

「何?」

「なんだおまえしらねーの? 先輩、領域展開できるけど

 ……ハハハハ!!! いい顔してるなぁ寄生虫! 俺一人にここまで頑張ったお前が! 先輩に勝てる!? 冗談は脳だけにしろ。中身は空っぽか?」

「獄門疆、閉門」

 

「ハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 まるで悪者のように高笑いを残して消えていく悟。

 呪術界は五条悟のワンマンプレーではない。腐ってはいるものの、原作のそれと比べると新鮮も新鮮。悟が教師を志したのは学校という若人の迷い家が好きだったから。彼はそういう人間なのだ。

 だからこそ彼は1人では無い。彼が育てた若葉も、彼を育てあげた大樹もいる。

 夏油、否。羂索にとってそんなことはどうでもよかった。悟さえ封印できていればあとはどうとでもなるはずだった。実際彼の認識では巌勝は漏瑚以上、悟以下。尚且つ術式も持たないために領域対策は耐えるのみ。

 その前提が覆る。

 

「術式が付与? いや、六眼が言っている。術式は前からあったと考えていい。先天的か後天的かでだいぶ話は変わってくる。いつだ? 漏瑚の腕を奪ったのは純粋な技だった。ではあの無尽蔵な体力が術式? 1番ありうるのはそれか」

「夏油?」

「肉体強化の術式と仮定しよう。果たしてそれは兄弟どちらの術式だ? 双子による術式と呪力の乖離はよくあるケース。天与呪縛の可能性も捨てきれない。だが、呪いのない環境で前世を過ごしてきたから安易な定義付けは通用しない。例えば双子とも術式を持っていたのなら。魂が二つあったのなら。

 それはまるで宿」

「夏油!」

 

 羂索は我に返る。周りを取り囲む呪霊達が心配そうに己を囲んでいる。呪いらしからぬ人情に苦笑した。かなり信頼されているらしい。

 

「……すまない。耽ってしまった」

「らしくないね」

「うん。焦っていた自分に驚いた自分に驚いた自分に驚いたよ」

「夏油が壊れちゃった」

「壊れた? なんかそういうデータとかあるの?」

「おい。先程から何を言ってる」

「ごめんごめん」

「……」

 

 羂索は少し逡巡する。やる気のない脹相は兎も角、漏瑚と真人はかなり消耗している。花御を埋めた分、過重労働になってしまったのだ。安く見積って万全の半分。領域を展開すれば削り切り、取り込めるかもしれない。取り込んだら真人の術式を発動。そのまま高専に行って天元を取り込む。

 

(やめておこう。せっかく大詰めなんだ)

 

 だが、ここで賭けに出るほどギャンブラーではない。石橋を叩いて渡った千年を一時の好奇心で無下にする訳には行かないのだ。

 すると真人が笑って話し始めた。

 

「夏油、五条悟は封印したしもういいでしょ、虎杖殺しても。宿儺はこれの保険って言ってたけど成功したんならもういらなくない?」

「駄目だ」

 

 羂索は真人の提案を一蹴する。強い口調だったので一瞬真人が呆ける。今羂索の頭はかなり回転している。五条悟が頼る程の存在に対処しなければならない。

 

「アレが術式を開花させている以上、保険がいる。プラン変更だ。宿儺を起こすよ。漏瑚、指を悠仁に食わせて。私はここで獄門疆を見る。

 真人の言う通り、元々宿儺は封印に失敗した時の保険だったけど……やっぱり備えといて良かった」

「お、おい夏油。まさかとは思うが」

「勘だけど継国巌勝が渋谷に来ている。君たちにとっては三つ巴の鬼ごっこだ。

 彼に見つからないように、宿儺の器を見つけて指を食わせる。器はきっと継国巌勝を探しているだろうから器と巌勝が合流しても負けだよ。一応呪詛師にも応援を頼むからね」

 

 漏瑚の右腕が疼いた。

 今もなお続く痛みが脳裏に思い起こさせる。

 

 

《は! は! は! は! よいぞ!! まさに地獄の業火なり!! 

 

 その身を紅蓮に包み、炭化と再生を繰り返す肉体を動かし呪いへと迫る。口元に悪辣な笑みを貼り付け、瞳孔の細い瞳は対象を獲物としてしか見ていない証。

 鬼だ。鬼がいる。魑魅魍魎の王。御伽噺の悪役。人の意思から産まれ落ちた呪霊とはまるで違う。圧倒的な個。それが鬼。

 一歩、鬼が歩みを進める。

 一歩、呪霊が後退る。

 領域の中だと言うのに簡易領域すら展開せず、術者に向かい続ける。

 

「お前は……何だ」》

 

 

「俺が触れれば勝ちでしょ」

「はい。甘ちゃん」

 

 ピシッと羂索から向けられた人差し指を不満そうに跳ね除ける。

 

「なんだよ」

「人じゃない、鬼なんだ。伊達に千年以上前から悪の象徴してない。魂の強度で言えば……君が返り討ちにあった宿儺より上だよ」

「へ?」

「呪いの王って言われても宿儺は人間だからね。

 対してあれは魂が違う。発生からして歪。何から生まれたかすら定かじゃない。鬼の魂を唯一適合する肉体に宿し、人に格落ちさせたのは良かったんだけど。なぜか肉体もまた鬼に戻っている。人として肉体を殺すんだ」

「なんでそんな奴が俺たちの敵なんだよ。境遇的に味方だろ」

「ははっ。それ言えてる」

「……機嫌いいね」

「もちろんミッションコンプリートしたからさ」

「それだけじゃない気がするなー」

「さあね」

 

 羂索は鬼の発生原因についてあまり知らない。首魁が同じ時代の人間と言うくらい。青い彼岸花の存在すら分からない。呪いとは関係ないが、より魔に近い存在だということだけ。

 故に鬼は羂索の興味の対象であり続ける。

 

 

(……ああ、素晴らしき哉。本当に巌勝、君を誘ってよかったよ。彼の生まれからして宿儺もきっと気に入るさ。サイコー。神。ワクワクしてきた。

 みんなでやろう♪ 死滅回游♪

 

 平成、泰平の世に君臨した鬼。

 鬼は増える。その血を他者へと与えることで無限に増やすことが出来る。かつての首魁は鬼舞辻無惨だが、今は継国巌勝。彼が望めば一夜にして鬼の大群すら生み出せる。先代がそれを行わなかったのは裏切られる恐怖から。今の巌勝にそれはない。

 鬼殺隊の全盛は戦国である。ならば鬼の全盛も戦国である。

 羂索の手から離れた混沌はいつの間にか彼が予期せぬ方向へと向かっている。行動の全てが好奇心の羂索にとって嬉しい誤算というもの。

 

「我らは呪い。宿儺が起きれば確実に我らの世が来る」

「俺バカだからわかんないけど、宿儺って呪詛師であって呪霊ではないからさ。俺たち祓われちゃうんじゃない? え? なんで俺たち今から俺たちを殺すやつを迎えに行くの?」

「……」

「うそうそ冗談。100年後の荒野云々でしょ」

「わかっているのなら良い。だが、指は全てワシが持つ。もしお前が器を見つけたのならワシを呼べ」

 

 漏瑚は既に己の命を天秤にかけている。だが今になって仲間の命を天秤にかけるのを躊躇った。まるで無鉄砲な孫を気にかける爺のような人間らしい感情。

 

「そうさせてもらうよ。ありがとうね」

「ふん」

 

(はは。なんか言ってら)

 

 羂索は未来を妄想する呪霊達を冷えた目で見つめる。明日を他者へ委ねることのなんと怠惰なことか。やはり人から生まれた呪霊は人の範疇を出ない。人の体は土に還り感情は呪いに転ずる。転じた呪いの行先は無。何も残さない存在が成すものに興味は無い。

 

(始まる。人の全盛、平成。呪いの全盛、平安。鬼の全盛、戦国。

 さあ、混沌を始めようか)

 

渋谷事変、開幕。




気づいている方は気づいてると思いますが、バチバチの戦闘よりもじゅじゅさんぽみたいな日常系を好むオタクです。
つまりもっとキャラと絡ませたい

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