戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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感想、誤字報告、評価ありがとうございます!
高評価を入れてくださった方がいらっしゃって日刊ランキングにのることが出来ました。……ので調子に乗って筆が進みました。


第拾伍話 糾合

「五条悟が封印? 何を根拠にそんなことを?」

『根拠は無い。あえていうなら俺がココにいることダ。俺は既に10月19日、真人という特級呪霊に殺されていル』

 

 2級呪霊 蝗GUYを圧倒的フィジカルで祓った虎杖。帳の楔も砕く。

 冥冥と再合流し地下鉄から渋谷駅に向かい始めたのも束の間、メカ丸の小型デバイスが悠仁の耳に吸着する。彼が言うには彼の本体は既に死亡しており、夏油傑が渋谷で起こす企みを阻止したいとのこと。そこで一番内通者である確率の低い悠仁と冥冥のコンビに白羽の矢がたった。

 メカ丸の説得もあり、五条悟の封印が確定したものとして冥冥と悠仁の2人に伝えられる。

 

「ふーん。まあ、信じてあげようじゃないか」

『……やけにあっさり信じるんだナ。もう少し疑ってかかると思ったガ』

「聖人の悪行も、悪人の善行もどちらも明確な裏切りだからね。贖罪にはいい機会だろう?」

『お見通しカ』

「飲むと口が軽くなる後輩がいるからね」

 

 冥冥の価値基準は用益潜在力、つまり金。彼女にとって命の重さ、価値はそれに比例する。金を得るには目利きも舌の回りも必要。最低限の犠牲で最大限の成果を得るために彼女は呪い以外も嗜む女である。

 

『今渋谷には四枚帳が降りている。

 A、一般人を閉じこめる帳。

 B、五条悟を閉じこめる帳。

C、術師を入れない帳。

 D、一般人を閉じこめる帳、ダ

 

 今、冥冥と悠仁のいる地下鉄の線路はCとDの間。つまり先に帳を解かないとC以上に侵入は出来ない。一度地上に出て帳を破る必要がある。

 冥冥は懐から携帯電話を取り出した。

 

「先輩と連絡を取った方がいいね」

「先輩って」

「継国先輩。君はみっちーだったか。私の烏が捉えたよ。……電波も遮断されているようだ」

「え! みっちーきてるの!? 激アツじゃん!」

『盛り上がっているところ悪いガ、俺は反対だ。一番怪しい。そもそもなぜこのタイミングで渋谷に来たのか謎だ。あまりにも出来過ぎている。主犯の一人でもおかしくナイ』

 

 地下線路の上で話し合う二人と一機。メカ丸単体の戦闘能力は皆無なので二人の協力が得られなければ渋谷は敵の思うがまま。五条悟奪還どころか術師全滅も有り得る。

 メカ丸の言うことは尤も。彼にとって呪術師なりたての悠仁と索敵に長けた冥冥が明治神宮前に派遣されている事実は二人が内通者ではないと信用するに足るものである。反して巌勝は五条悟よりも術師としての歴が長く素性があまり割れていない。そんな人間が偶然渋谷に現れたとは言い難い。

 

「でも戦力的に先輩が味方だとすれば心強い。そして訂正を。伊達に10年以上あの人の下で後輩してない。主犯ではないよ。賭けてもいい」

『だガ』

「訂正を」

『……すまなイ。早とちりした』

「よく出来ました」

 

 少し濁りが見え始めた冥冥の瞳に気圧されてメカ丸が言い直す。しっとりという言葉では生温い湿度のこもった空気に悠仁は距離を置いた。一歩間違えれば彼も地雷を踏んでいたかもしれない。

 憂憂はただムスッと頬を膨らませていた。

 

『……では虎杖は明治神宮前に戻り、地上から渋谷に向かってくレ。五条封印を術師全体に伝達、五条奪還をコチラの共通目的に据えロ』

「おう!」

『冥冥は……』

「分かってる。お客さんの相手。行きな虎杖君。私と憂憂が殿を務めよう」

「うす」

 

 冥冥班、動く。

 

 

 

 ★

 

 

 

 21時22分。

 

 五条悟の封印直後。改造人間は一般人を襲い始めた。呪術師達は即座に救出を開始。同時に降りた術師を入れない帳の解除を並行しながらの任務遂行となる。

 

 猪野班

 メンバー 猪野琢真。伏黒恵。

 帳を目の前にして二人には命令が下された。すなわち、全ての一般人を救出し事態を収束させろと。しかし互いにほぼ初対面なので意見交換がてら作戦会議と洒落こんでいた。

 彼らはまだ五条悟の封印を知らない。

 

「はい」

「お、悪いな……ってブラックかよ! 糖分ゼロでやってけねぇって! 呪術師は脳が命なんだぞ!」

「この状況で後輩パシらせるのもまぁまぁブラックだと思いますけど。っていうかなんで俺たち2人だけなんですか」

「そりゃ、お前に一級相当の実力があると認められたからじゃね。この前特級も相手にして五体満足で帰ってきたらしいじゃねぇか」

「そうですけど」

「くぅぅぅ!! 後輩に追い抜かされるのは慣れねぇなあ。ここいらで武功挙げて一級術師の仲間入りだあ」

 

 拓真はちびちびと缶コーヒーを飲み始めた。恵は仄暗い蛍光灯に誘われた虫から逃れるように数歩動く。

 一級術師になるには同じ一級術師からの推薦が必要。そしてまた違う一級術師の監視の元、一級相当の任務を受ける。実力が認められれば晴れて一級術師を名乗ることが出来るのだ。

 ちなみに特級術師はその条件から斜め上に位置づけられている。いわゆる規格外のレッテル。つまり、一級が最高位の術師と言っても過言では無い。

 

「猪野先輩は誰に推薦貰うんですか」

「俺? 俺はコネとか特にねぇからな。今んとこ夜蛾サンに頼もうかなとおもってるぜ。そういう伏黒は?」

「俺はもう決めてますよ」

 

 恵は少し投げやりに答えた。考えるまでもない。

 子供の頃から家族を守ってくれた存在。刀を教え、父親曰く母親の恩人でもある人物。恵にとって、認めてもらいたいと思うのは当たり前の感情である。

 

 

 

 

 

ブラザー!!! 

 

 

 

 

(黙れ)

 

 イマジナリー東堂を押しのけて心を入れ替える。渋谷で何が起こっているか定かではないが確実に大きな何かが起こっている。半端な気持ちで向かうことは出来ない。

 因みに既に東堂らによって推薦は行われているため手遅れである。

 

「巌勝さんに頼もうと思っています」

「そいつってあのドMバーサーカー? 敵の領域に突っ込んでいくっていう」

「……行きましょう。手柄を横取りされたくないです。敵も無策では無いでしょうが」

「お。へへっ……んじゃあいくか!!」

 

 何はともあれ猪野班、突入。

 

 

 ★

 

 

同刻、21時22分。

 

 禪院班

 メンバー 禪院直毘人。禪院真希。釘崎野薔薇。

 この班も五条悟の封印を知らない。ただ待機を命じられていた。改造人間が一般人を襲い始めても班長たる直毘人は何処吹く風なので動けなかった。術師至上主義の禪院らしい判断と言える。

 しかし真希は兎も角、野薔薇の冷たい目線に重い腰を上げた。男は誰であれ、年下の女性に使えないやつ認定されるのは堪らない。それでも最低限の動きしかしない。

 

「真希さん」

「言うな。これでも実力は確かだ」

「あぁ〜? 喧嘩売ってんのか真希ィ!? 背ぇばっかり高くなりやがってああ?」

「真希さん」

「言うな。電柱を私と勘違いしても禪院の現当主だ」

 

 飲んだくれ。酔っ払い。

 とても特別一級術師にみえないのがアルコール独特の刺激臭を振りまきながらふらふらと前を歩く直毘人。それに追従するように野薔薇と真希は進む。

 

「そんなんで禪院はやってけんのかよ」

「ははは。放逐されたというのに何を言う」

「勝手に没落されても後味悪いんだよ」

「ちぇっ、めんどくさあい。あのバカ息子に聞け」

「直哉は何してんだよ」

「甚爾の娘に付きっきりだ。気色悪ぃ」

「東堂と言い、姉弟揃ってゲテモノばっか集めるじゃねぇか。

 そういや野薔薇、恵の姉ってどんなだ。やっぱ頭爆発してんのか? 目つき終わってんのか?」

「あー……」

 

 野薔薇はたどたどしく口を動かし目線を逸らす。

 彼女は恵から姉がいることは聞いていた。しかし血の繋がりはない。本人は気にしていなさそうだったが、野薔薇にもデリカシーはある。当人が居ないところで込み入った話は気が滅入る。どう説明しようか一瞬考え込む。

 

「み、見たことないっすね。でも呪力はな」

「血ぃなど繋がっておらん。あれは甚爾が拾った(みなしご)よ。呪力のじも知らんくせにあいつが家に迎え入れたせいで呪詛師にとってはいい人質だ。予想通り去年呪われおったしな、笑えるだろ?」

「「クソジジイ」」

 

 野薔薇は理解した。直毘人は凡そデリカシーと呼ばれるものを持ち合わせていない。真希も彼の言葉でなぜ野薔薇が言い渋ったのかも理解した。その上で両者の矛先は直毘人へ向かう。

 女性陣からの目付きがさらに鋭くなるが、彼は面倒くさそうにため息を吐いた。

 

「どぉ〜せ五条悟が何とかやるだろ。だが五条悟が着いてそこそこ経ってからの〝術師を入れない帳〟だ。奴の身に何かあったんだろうて」

「やけに買ってんじゃねぇか」

「俺より速いからな。それぐらいしてもらわないと困る」

 

 そこへ真希の携帯が震える。禪院班に突入の命令が届いたのだ。

 

「お怒りだ。油売ってないでさっさと突入しろだとよ。介護しねぇからな」

「だる。もっと老骨をいたわらんか」

「真希さん。行きましょう」

 

 禪院班、ぐだくだと突入。

 

 ★

 

 同刻、21時22分

 

 日下部班

 日下部篤也を班長とした班であるが、班員はパンダのみ。班というよりはタッグ。猪野班と同じである。

 

「虱潰しに捜せよ。マンションの一部屋一部屋しっかりとな。ひとりとして見逃せないからな」

「らじゃー」

 

(って言って、俺は帳に入りたくないだけなんだけどな。まぁ一般人の捜索してるんだ文句は言えまい)

 

 日下部篤也は慎重な男である。そして何よりも己の命を優先する男である。こう聞くと薄情な人間だと思われるだろう。しかし仲間を見捨てられない人間味、筋の通った信念、それでいて任務は抜かりなく熟す手腕は彼を一級術師へと押し上げた。

 

(ヒカリエには恐らく特級がうようよいやがる。化け物共の相手は他の奴らに任せるか。にしても後手に回りすぎだろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 日下部班もほかの班と同様に命じられたのは一般人の救出。しかし彼は改造人間の討伐では無いことを逆手に取り、確率の低いマンションを捜索する。理由はもちろん命を懸けた戦闘をしたくないから。後輩であるパンダにはかこつけて説得し顎で使う。

 

「ぼちぼちと目をつけられないように頑張りますか。二人でできることなんて限られてるしな」

 

 コロコロと舌で棒付きキャンディを転がす。ただ帳方面への警戒を怠ることなく構える。

 日下部にとってここは身の丈を知らない者から死んでいく世界。例え知っていたとしても時に報告と異なる呪霊を相手取ることも稀では無い。今回の事件は一級ですら荷が重いレベルだと彼は踏んでいた。そしてそれは事実である。

 

「篤也ー。女の子みつけたー」

「まじか。ほんとに居やがった。夜蛾サンとこまで運ぶぞ」

「すぐそこだけどね」

「ひとりぼっちはかわいそうだろーが」

 

 日下部班、突入済み。

 

 ★

 

 帷の外。ひたすらに携帯電話と対面する男が一人。彼の名前は伊地知潔高。呪術師の任務を支える補助監督の一人である。彼は補助監督のまとめ役と言っても過言では無い。現に現地の司令塔として補助監督らをまとめあげているのは彼なのだから。

 

「新田さんはもう一度帳の外へ…………」

 

「~♩」

 

 そこに鼻歌交じりに忍び寄る死の影。伊地知は気が付かない。呪詛師の術式も関連しているのだろうが。

 

「今から補助監督らで連絡網を確立…………」

 

 伊地知が見誤っていたのは渋谷事変の規模。まさか呪詛師が補助監督を殺して回っているなどと思わなかったのである。

 呪詛師は無防備な背中目掛けて呪具を差し出した。

 

 

「えいっ!」

「ひぃっ!?」

 

 

 

(あれ?)

 

 呪詛師が受け取った感触は肉を断ち貫く柔らかさではなく、鉄を貫こうとした反動。彼が刺し貫く筈の冴えない補助監督は情けない声を零しながらも無傷。

 己が振りかざした呪具の先には刀。ちょうど差し込むように殺されている。

 

「呪詛師だな? 名を名乗れ」

「ひいっ!」

 

(こいついつの間に!)

(五条さんの先輩! なんでここに……!)

 

 天から響く声にギョッとしたのも束の間。今度は呪詛師の方が情けない声を出す番だった。呪具を持った片腕を捕まれ宙吊り。呪具を振り回そうにも関節が曲がらず溺れるように藻掻くだけ。

 巌勝は任務地へ走って向かうために補助監督との繋がりが薄い。しかし補助監督並に任務報告はしっかり熟すため、任務を渡せば後処理済みで返ってくる。つまり補助監督の間では仕事が楽になるレアな人物という認識。

 

「……ありがとうございます継国一級術師。そちらの方は私が情報を引き出し……」

「なんてね、簡単に捕まらないよーん!!」

 

 春太はわざと呪具を離し、捕まっていない方の手でキャッチ。躊躇うことなく切っ先を巌勝に差し出す。至近距離で振り上げられた呪具に巌勝は不動。

 巌勝は刀を抜いている。侍たる己に牙を剥いた敵を生かすほどぬるま湯に浸かっていない。まして最低限の礼儀たる名乗りすら無視する侮辱。

 

「……」

 

(空が回って……え?)

 

 するりと、風に吹かれたように頭が落ちた。

 呪詛師の本名は重面春太。彼の術式は『日常の小さな幸運を貯め、身にかかる不幸な現象を肩代わりする』術式である。

 しかし幸運にも限度がある。

 鬼の首を切ることに特化した技が人間一人の首を斬り損じる訳が無い。

 

「なんだよ。絞ったら吐いたんじゃね」

 

 釈魂刀を肩に担ぎ現れたのは甚爾。歩道橋の手すりに立っている。天運を盾にした死者を、天運を捨てた生者が見下ろす。もとより春太の生存は絶望的であった。

 

(昔高専に来ていた恵君の父方!)

 

「これ程大規模な計画を組み立てる奴だ。有象無象など捨て駒だろう。それに、呪詛師はこれ一人ではない。先に行け、私はこれらを殺して回る」

「はいよ」

 

 甚爾は釈魂刀を格納呪霊に仕舞い、飲み込んだ。そして音もなく去っていく。彼にとって一般人を入れない帳も、術師を入れない帳も、五条悟を閉じこめる帳も関係ない。圧倒的な〝個〟であるが故。

 巌勝は死体を検分しようとした伊地知を手で制し、春太の死体に指を突っ込む。

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」

「ひえぇ!?」

 

 口どころか首自体がないので切り口から声にならない叫びが漏れ出る。伊地知は春太に殺されかけた時よりも大きな叫び声をあげた。尋常ではない痙攣を起こしのたうち回ること数秒。

 やがて全身の肌が赤黒くなるとゆっくりと立ち上がった。肉がひきちぎれるような音を立てて首が再生する。

 そこに居たのは重面春太ではない。一匹の鬼である。

 

「そこの男を守れ」

『おっけー』

「な、何を」

「伊地知殿。それは護衛だ。好きに使ってくれて構わない。用済みになれば〝死ね〟とただ一言命じるだけでいい」

「は」

「失礼する」

『行ってらっしゃーい』

 

 これにて全ての班と術師が帳の中へと入った。魔境と化した渋谷へ、まだ何が起きているか分からないまま。

 

『見て見て。前世の俺の首。ほらジ〇ッドみたいでしょ。ありゃ、ポ〇モンわかんない? じゃあこっちの方が有名か。一回首を落として……』

『『サ〇ンドラ!』』

「……あ、あはは」

 

(どう報告しましょう。……うう、胃痛が)




基本的に場面の切り替えはアニメと並行しています。
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