戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。
20話到達記念として。かなり短め
感想、誤字報告ありがとうございます!
羂索の性別ってなんなんだ


幕間 片割れ月

 月明かりが辺りを照らし静謐に陽の名残を鎮める。透き通った夜風が藤の花弁を揺らせばしゃらしゃらと乾いた音が響く。宛ら藤の雪。それは何人がみてもため息が出るほど美しい景色だった。

 

「……」

「……」

 

 暦は皐月の上旬。時は真夜中、子の刻。

 藤色絨毯の上に男が女を押し倒している。幻想的な雰囲気も相まってどこか浮世離れしている。しかし仲睦まじいのでは無い。現に男は女の腕を切断している。男の目は情欲にギラついておらず、鉄のような瞳で睨む。

 対して薄ら笑いを浮かべ、男の瞳を凝視する女の額には()()()があった。

 

「女性の体に乱暴はして欲しくないなあ。たまに勘のいい男がいるんだよね」

「……」

「冗談さ。でもいい動きだ。見えなかった。不意に近づいたのは詫びるよ。道に迷ったんだ」

 

 時は群雄割拠の戦国時代ではあるが、今の彼女───羂索は戦闘向きの肉体では無い。刀と槍が勝敗を決める時代に挙って呪術師は息を潜めている。そんな彼らを探すために探知と隠蔽の術式を選択したのだ。

 そもそも、平安を終わらせた武士を羂索はあまり良く思っていない。

 

「よしてくれ。戦う気はないんだ。ほぉぅら。さぞ眼福だろう?」

 

 羂索が着物をはだけさせる。もちろん彼女は無作為に肉体を選んでいない。性能の二の次だが、うまく世を渡るために見てくれの良い肉体を選んでいる。夜を溶かしこんだような美しい髪。意志の強さを感じさせる切れ長の目。瑞々しい首筋。形のいい乳房。筋の見える腹。長い足。そして、つい数十秒前に切り落とされた左腕。流れる血はもちろん赤かった。苦痛に喘ぐはずの口元は弧を描き、蠱惑的。

 死して尚、肉体を道具にされ尊厳を破壊される哀れな被害者。もはや名前と記憶すら奪われた骸。

 しかし、巌勝の瞳に毛ほどの情欲が湧いていないのを感じると肩を竦めて着物を正した。

 

「朴念仁め。にしても不思議だな。鬼を殺すのに体術はいらないんじゃない? ってか刀より体術の方が才能あるよ。んで刀より槍。槍より弓だね。うん。そっち伸ばした方が強くなると思う」

「死ね」

「ありゃ」

 

 逆鱗を掴み取るが如し。本人に煽った自覚のない所が余計に神経を逆撫でする。巌勝は拳を振りかざした。それは羂索の頭があったところに突き刺さる。盛り上がる土。呪術師ですらないただの人間が放っていい威力ではない。

 羂索はくるりと身を翻し、気持ち多めに距離を取った。

 

 

 

 木を背に……

 

 

 

「コホン。まずは───

 

 

 

 

 «月の呼吸 肆ノ型 虧月突»

 

 

 

 

「ひ」

 

 

 羂索の真横に飛来した刀が突き刺さり、木を貫通する。頬から流れる血、美しい黒髪のひと房がはらりと落ちる。視線を動かせば固まった己の笑みを刀身が反射していた。

 

「あのさ。侍があんまり刀を殴らない方がいいよ。使い捨ての刀じゃない限り得物を失うことになる」

 

 羂索は素で諭した。

 巌勝は抜刀した刀をそのまま目の前で宙に放ち、凄まじい速度と膂力を以て柄頭を殴りつけたのだ。刀は回転することなく一直線に放たれた。かの日の呼吸の技である«陽華突»を模倣した技と言えど、あまりに歪。

 

「邪魔をするな……私は鍛錬で忙しい」

「頑張るね。私も若いなりに頑張ってみよかな」

「脳は……違うようだ。腕は治さんのか?」

「はは」

 

 羂索は男らしく笑った。これ見よがしに藤の花を嫌わないから鬼としては見られていない。確定だ。

 

「君さ、そこそこの術師殺したことあるでしょ」

 

 ニコニコと笑う羂索。もはや取り繕う必要は無い。彼女は失った腕を反転術式で治した。この後、追加で三度殺されそうになる。

 男と女(?)にしては会話もほぼない血腥い出会い。それが巌勝と羂索の邂逅である。




余談
初投稿直前ぐらいまでこれがプロローグつまり一話目になる予定だった
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