戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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アイルーが喋るの面白かった


第廿参話 渋谷事変 閉門

「私好みになったようだね」

 

 耳朶に響く男の声。激痛に苛まれる体を頭だけ起こす。巌勝は動かないのではなく動けない。受肉の反動が来ている。体の痛みでは無い。耳元でガラスを引っかかれているようなそれは魂の痛みである。悠仁を見送って実に半刻の時が過ぎた。しかしまだ思うように動けない。ただいつでも血鬼術を打てるように片膝だけを立てる。

 歩いてきた男がゆっくりと近づき輪郭を撫でる。思い出すように。犬を撫でるように。

 

「夏油傑……いや誰だ?」

「ふふ」

 

 特徴的なのは頭の縫い目。何よりも脳の形で見分けた。外見は夏油傑を大人にした姿そのもの。しかし仕草や立ち振る舞いが傑のそれでは無い。

 

「……羂索か」

「久しぶりだね。巌勝。江戸で斬られたぶりかな。たったいま君は今死んだんだよ」

「どういう意───」

「肉体の死。君を閉じこめる檻であり、魂の出力を底上げする道具でもあった継国縁壱の死だ。どんな生物でも死の瞬間には脳の異変が起こるからね。受肉体とはいえ肉体が死ねば中の呪いも死ぬ。でも君の場合、脳が死んでも心臓は生き残った。もちろん心臓だけでは生きていけないから受肉による肉体の再生という最後の切り札を取らざるを得なかった。結果、君はまた生まれ変わった。一度目の死は大正時代。これで君は二度目の死だ。普通の生物なら一回死んで終わり。受肉体なら二回で終わり。おおよそ生物が一度経験して終わることを君は二回経験した。そしてなによりもこうして生きている。分からないのか? 君は今、生物として有り得ざる次元にいるんだよ」

「? ……??」

 

 この間十秒。エ〇ネム並の早口で捲し立てる姿はただのオタクである。もちろん巌勝は何一つ理解していない。

 遅れて、水から浮かび上がるように思い出した全て。鍵のかかった記憶が今開く。受肉の申し出。来る殺し合いへの挑戦状。そして縫い目の男を刻んだ記憶。

 

「何故──」

「江戸の一件の後は受肉させようか迷ったさ。縛りとはいえまた私の前に立ちはだかったら嫌だからね。だから私は時間を早めたんだよ。死滅回游ではなく六眼が生まれた時と同じ時間に目を覚ますように。君の六眼は呪術的意味なんておまけ。動体視力に全振りしてるようなものだから、ラッキーパンチとかであわよくば六眼を殺して欲しかった。そっちもそっちで色々あったみたいだしそこは加味するよ。私も私でやりたいことが変わってね。宿儺に頼んで器を殺して受肉させてもらった。案の定君は六眼として開眼した。そして封印されたとはいえ五条悟は健在。六眼が二人ならば星漿体も……。これはまだ持論に過ぎないからいいや。んで弟くん食べたでしょ。どう? 悲しい? それとも開放され……………………ん? 

 

 ふと、羂索が巌勝の指元に目を止める。そこには無いはずの傷跡。彼は受肉した。というのに治癒していない左手薬指の歯型。つまり魂を傷つけている。魂の位階が高い鬼に対して消えない傷を刻む相手。呪具、もしくはより魂の位階が高い相手。例えば、現人神。星漿体。

 

「だっ…………」

 

 瞬間、羂索の脳内に駆け巡るかつての日々。この場合には珍しい存在した記憶。

 

『君に刀の才能はないよ』

『なんでそこまでして鬼を殺す?』

『食事ぐらいさ、何か好きな物食べなよ。がちがちに栄養を考えただけの不味い食べ物なんてやめときゃいいのに』

『もう諦めな。よく頑張ったとは思う。人並みの幸せを選んでも撥は当たらないとおもうかな』

『あーあ。あの目に数字ついてるやつでしょ? 無理だって勝てないって。真人間の君には術……張り合える特別な力なんてないのにさ。まあ死にかけたら助けてあげるけど』

『え。勝った。まじか。まあ運んであげ……え、歩けるの? なんで? まさかこっから帰るつもり? ふーん。やるね』

『おかえり』

『その通り。天才と違って私たちは理論で説明できる。比べて凡人は本当に度し難いね。学ばないくせに自分を高く評価して努力しない。え? ううん。こっちの話さ』

『なんのために刀を振るうの』

『あ、あのさ。よければだけど一緒に時代を超えてみない? 死体ならすきにしろ? ほんと!?』

『ふふ。会ったら私のこと思い出してよ。約束だから』

『……負け? なんで。君なら勝てたでしょ!? なんで。そんなあっさり死ぬの。弟になりたかったなんて……ふざけるな! お望み通り弟の肉体にしてやる! お前の努力も積み上げた経験も全て無駄だった! 弟に何も勝てなかった! 最期の最後まで本当にしょうもない!!』

『そうか。私がいてもいなくても君は弟しかみえてなかったのか。でも残念。私を置いて死ぬなんて許さない』

 

 そう。それまるで片思いの相手に付けられた結婚指輪。いや、それよりも冒涜的なマーキング。呪術的に星漿体と天元は同一の存在。ならばそれは散々馬鹿にしてきた努力しない凡人にたった一手で先を越されたような。全国大会へ向けて努力する相手のため、積極的にならず遠くから見守るだけだったのに、急に現れた別の存在にうつつを抜かし全国大会も諦めたような。

 

 

 

 

「誰よその女!!!」

 

 

 

 

 

 端正な顔を醜悪に歪める。当の本人はこれまで早口で何か言われた挙句、急にブチ切れてくるのだから困惑を通り越して恐怖である。

 

 ❝穿血❞

 

 空気を切り裂いて放たれた赤い光線を紙一重で避ける。そこには味方のはずの脹相。そして彼の服に張り付いている機械。

 

『九相図兄! あれが黒幕だ!』

「分かっている!」

 

 宿儺と戦う前。脹相との戦いは早々に決着が着いた。それもメカ丸が破壊されないような形で。気絶した悠仁にとどめを刺そうとした脹相。その頭に溢れ出した存在しない記憶。打ちひしがれる彼に声をかけたのは他でもないメカ丸である。

 打ち出した光線が速いのは初速だけ。しかしある程度の方向転換はできる。合わせた両手が追尾する。

 

「死ぃぃぃぃねぇえええ!!!」

 

 ❝極の番 うずまき❞

 

 キャラ崩壊。ミステリアスな羂索にはまるで似つかわしくない。感動の再会だと思っていたのだ。相手もそう思ってくれていると思っていたのだ。だが現実は残酷。本人にとってはNTRもとい逆NTRも同義。さらに相手が星漿体ともなればBSSもといWSS。羂索の(本体)は破壊された。

 怒りに任せた出力は地面ごと削り取り、虚空へと消える。殺しきれたかなどどうでもいい。当分は動けない。

 

「巌勝。君は刀だ。刀たる君が愛などにかまけてはダメだ。凡人が満足してしまえばそれで終わりなんだよ。全部捨てるんだ。欲望。希望。羨望。私は全部捨てられなかった。だからこそその先が見たい。見せてくれ」

 

 狂気を孕んだ瞳が巌勝を覗く。彼は宿儺が捨てた生き方で宿儺の前に立ち塞がった。そして羂索と同じ生き方で羂索の前に立ち塞がった。まだ見ぬ目標に向かって努力する羂索と、見える目標に向かって努力する巌勝。他ならぬ羂索の手によってたどり着いたとて得たもの。それは羂索や宿儺が既に捨てたものだった。彼らは永遠に理解し得ない。

 瞬間、遠方で地盤が割れる。亀裂は肥大化し陥没した。無数の触腕が暴れ狂う。

 

「みっちー!?」

「夏油ォ」

 

 地下から躍り出た悠仁と真人。傷の数は悠仁の方が圧倒的に多い。ゆえに天秤は真人の方へ傾いているが、ほぼ互角。だがそこに東堂の姿は無い。悠仁の黒閃が真人に炸裂する。吹き飛ぶがまだ余力を残している真人。

 羂索は笑みを深めた。

 

「探す手間が省けた。いい感じに真人も削ってくれたみたいだね。さあおいでよ宿儺」

 

 〝契闊〟

 

 悠仁の体に再び刺青が刻まれる。唖然する真人には目もくれず空を蹴って羂索と巌勝の元へ向かった。

 

「さっきぶりだなァ。ふむ。らしい顔になったでは無いか。だが、目がよっつ、口ふたつ、腕が四本の俺に比べれば」

「知る限りでは目がふたつ、口ふたつ、腕が十四本あるやつがいるが」

「呪術的に最強だぞそれ」

「腕や口ぐらいならば無数に生やせる」

「羂索。こいつは呪詞や掌印を知らんのか」

「器が呪いを封じてたんだよ。もう意味無いけど」

「ああ。縛り通り、器は破壊した」

「君は巌勝の肉体を破壊する。私は君を回収して()()。いいね」

「違えるなよ」

 

 悠仁もとい宿儺の左手小指が黒ずむ。それを無造作に引きちぎると羂索へと投げた。契闊の効果中は誰も傷つけないことが条件。しかしその対象に悠仁は自分を入れていない。いま彼が持つ全ての指がひとつに集約され、呪い自身の意思により切り離された。これでもう宿儺の器ではなくなった。

 

「任してく…………死ねぇえええああああああ!!! 

「けひー」

 

 飛んでくる風の刃。いつもなら躱すかスマートに弾くはずだが、叩き込むはうずまき。返礼品としては過剰が過ぎる。

 さっきぶりの知り合いがなぜか怒り狂っている。あまりの情緒不安定さにさすがの宿儺もいつもの笑いが不発に終わった。そのまま悠仁の中から宿儺の残滓が消える。

 

『虎杖悠仁! それが黒幕ダ!』

「え?」

 

 いつの間にかブチギレている黒幕の真横にいると気がついた悠仁。じくじくと痛む小指から目を背ける。うずまきとかいうとんでも威力の攻撃を通算二発も打った相手に殴り掛かるなど自殺行為。彼の目の前で頭を掻き毟る相手は黒幕に違いない。違いないのだが、その黒幕が何よりも傷ついているので気が削がれる。

 脹相はうずまきを食らって動けない。メカ丸ももちろん動けない。援護に来た京都校も西宮桃を保護して精一杯。

 

 その中で一人。動いた者がいた。

 

 ❝領域展開 自閉円頓裹❞

 

 真人は理解した。全ては嘘だった。こんな終わりがあってはならない。人から生まれた呪いである自分が、ずっと人の手のひらの上で転がされていたなんて。呪いは恐怖の対象であるべきなのだ。そうでなければ呪いと呼べない。何よりも顔向けできない。自分に託してくれた───

 

 ❝領域展開 蓋棺鉄囲山❞

 

 真人の領域展開を、取り込んだ漏瑚の領域展開が相殺する。しれっと巌勝をその背に守った。

 

「お前は! なんなんだ! 夏油!」

「デケェ声出さなくても聞こえてるよォ!! 真人くぅぅううんんん!!」

 

 真人が羂索に近づく。領域ブーストがかかった今なら触れるだけでどんな生物でも変形できる。狙いはもちろん羂索……ではなく悠仁。

 

 ❝無為転変 遍殺即霊体 ❞

 

 悠仁はもう宿儺の器では無い。つまり魂を陵辱する腕から逃れられない。その上羂索の計画に欠片も価値を持たない。ただ頑丈なだけの一般人である。

 どのような形であれ真人は彼を宿儺の器以外の目で見た存在の1人である。真人は呪霊として産まれ堕ちる。そのために殺す。

 

(こいつさえ殺せれば。俺は!)

 

 その指先が触れる。しかしすんでのところで謎の力により地面に縫い付けられる。今の真人を完全に押さえつけるには呪霊では不可能。ともすれば術式。有り得ないはずの三つ目の術式。

 

「私たちの息子に近づくんじゃない」

「うわ。急に落ち着くな」

 

 それが真人の最後の言葉だった。福笑いのように顔面が崩壊する。続けて肉体が羂索の手へと吸い込まれる。そして真人だったものを飲み込んだ。遅れて領域が崩壊する。

 

 ❝極の番 うずまき❞

 

 ❝無為転変❞

 

 一級以上の呪霊をうずまきとして打ち出したときに起こる術式の抽出。一度きりとはいえその呪霊が持っていた術式の行使が可能となる。今行った«無為転変»により、遠隔で脳を作りかえられた一般人が呪術師となった。

 そしてもうひとつの縛りを解く。これにより羂索が平安から現代まで誘ってきた呪術師が受肉して目を覚ます。その数、約千人。

 

「巌勝。その体で思い出せ。凡人の宿痾。積み上げた塵芥。私たち持たざる者の強さを」

「待て」

「五条先生ぇ!」

 

 ★

 

『呪術総監部より通達』

 

『一、夏油傑生存の事実を確認。同人に対し再度の死刑を宣告する』

 

『二、五条悟を渋谷事変共同正犯とし、呪術界から永久追放。かつ封印を解く行為も罪と決定する』

 

『三、夜蛾正道を五条悟と夏油傑を唆し渋谷事変を起こしたとして死罪を確定する』

 

『四、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し。速やかな死刑の執行を決定する』

 

『五、継国巌勝一級術師を特級術師に認定』

 

『六、虎杖悠仁の死刑執行役として、特級術師継国巌勝、及び乙骨憂太を任命する』




次回。直毘人とか甚爾とか摩虎羅とか。
次次回、天元 次回と合体して一話にするかも
次次次回、直哉(死滅回遊プロローグ)
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