戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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感想、誤字報告ありがとうございますほんとうに


第廿伍話 天元

「ようこそ。呪胎九相図、道真の血、禪院の子、宿儺の器」

 

 何も無い空間。見渡す限りが白で埋め尽くされており、一歩踏み出せば白い壁にぶつかりそう。遠近法が発揮されすぎて混乱する。そんな呪術師達を出迎えるは四つ目の異形。ただその像にノイズが走る。崩壊と再生を繰り返す。消えかけのコンピュータという言葉がしっくりくるだろうか。

 集まったのは悠仁、恵、乙骨、脹相。そして巌勝、甚爾、由基。真希は諸事情により休んでいる。

 

「なんかムズムズします」

「あいつ厨二病なんだよ」

「俺、一括りにされました?」

「あいつサボり魔なんだよ」

「聞こえているぞ」

 

 折角の登場が台無しだと言わんばかりに頭を搔く。人間らしい仕草に学生たちの緊張が削がれる。

 

「由基さんは呼ばれてませんね」

「付き合い長いんだよね。悪い意味で。てか巌勝も甚爾も呼ばれていないと思うけどな」

「……」

 

 全員の目線が天元に行く。謎の2つ名で呼称された皆。規格外の3人を天元が何と呼ぶのか。

 

「禍津星、天与の暴君、戦国の鬼狩り」

「むず痒い」

「うーん。0点」

「ゴリラ、ゴリラ、ゴリラだろ」

「黙ってろ甚爾」

「……サムライゴリラ。スターゴリラ。インビジブルゴリラ」

「ノリがいいな」

「天元さまの口からゴリラって単語出るとなんかおもろい。絶対横文字使わなさそうなのに」

「空気を読むな天元」

 

 天元は少し遠くに現れていた。さすがに会話する距離では無いために皆が歩み寄る。しかし一向に距離が縮まらない。絶妙に遠い。まるで心の距離。

 

「天元サマ、なんか距離遠くない?」

「…………気のせいだろう」

「はい1年生諸君。天元の術式ってなんだと思う?」

「…………『精神と時の部屋?』」

「不死……ですよね」

「ピンポーン。だから『天逆鉾』を持っている甚爾は苦手なんだよ。ワンパンだし」

「継国さんは何したんですか」

「神殺し」

 

 由基と巌勝の目が合う。言わずともわかる。言葉は必要ない。絶対の信頼をのせた目線。

 

 巌勝は由基の中にいる星漿体を殺した。

 由基は巌勝に憑いていた前妻を殺した。

 

 二人にとって過去や因縁との決別であり、この星に産声を上げた時でもある。互いが互いの引けない引き金を引いたのだ。

 

「おかげで私の本体には未だ首に切り傷がある。魂を直接斬りつけている故に反転術式でも治せない」

「よく会う気になりましたね」

「四の五の言っている場合では無いからね。正直かなり怖いけど君たち若人が潤滑油のような存在になってくれれば御の字だよ」

「就活生みたいなこと言わないでください」

「仕返しと言ってはなんだが、貴様ら三人の黒歴史の一部をそこの若人達に披露しよう」

「「「?」」」

 

 天元の前に日本地図が浮かび上がる。空想領域だからこそ為せる技。悠仁が感嘆の声を漏らす。ただ、京都を中心とした円。鹿児島県と宮崎県の県境を中心とした円。滋賀県全体。沖ノ北海道島全域。

 その全てが赤く塗りつぶされている。

 

『1つ目、今日山国御陵浄界を滅却』

「浄界って?」

「結界のひとつ上。とりあえず無くなったらやばい。伊地知さんとかが帳下ろせるのもこれのおかげ」

「なんで消したんですか!?」

「特級呪詛師が悪用してたから」

 

『2つ目、天逆鉾の奪取』

 

「あんなん突き刺さってたら取っていいぞって言ってるようなもんだろ」

「貴様にはそう見えただろうが、一応浄界による隠匿がされていた。結界の強度をあげる要石として呪術的意味があったのだぞ」

「あー。なるほどね。次行こう」

 

『3つ目、シン・陰流当主の殺害』

 

「これは許す」

「誰」

「門徒から寿命を奪うみたいな縛り作っててさ」

「げえ」

「巌勝が殺した」

「惰弱、貧弱、脆弱」

「雑魚だったんだ」

「今は口伝になったよ。ペラペラ喋ったら喉が潰れて死ぬけど」

「ええ」

 

『4つ目、沖ノ鳥島の巨大化』

 

「いつだっけ。あれ島って言えるならさ、いっそ北海道レベルにでかくしようって話してて」

「呪術師しか住めないような町が必要だとも話してて、じゃあでかくするかってなった」

「そのノリだと確か酒の席だな」

「ニュースで見た。急にでかくなったみたいな。あれみっちー達だったんだ」

「俺の家族がそこに住んでる」

 

『5つ目、滋賀県の水陸逆転化』

 

「え、滋賀県って湖だったの!? 逆!? 琵琶島が湖!?」

「沖ノ北海道島とは違って知らないわけだ。あそこは私たちが消した御陵浄界の範囲内だったから全日本人の記憶改竄ができた」

「規模がちげえ」

「なんかおかしいなとは思ってたんですけど」

「乙骨程の呪力量だとごまかせないか」

 

『6つ目、台風の消滅』

 

「旅行する日に雨とかヤジャナイ?」

「なんか総合的に頭の悪い水曜日のダウンタ〇ンみたいなことしてますね」

「恥ずかしいな。若気の至りさ。あの頃は本当に無敵だったからなあ」

「なんで呪詛師認定されてないの」

「強すぎたから」

 

 特級術師の名前は伊達ではない。一般人が罪を犯した時、司法や公権力による拘束や死刑が可能。だが彼らは文字通り対軍戦闘力を持つ。戦術核級の被害を受け入れなければどうすることも出来ない。まして先の時代、唯一の特級だった呪詛師を斃してから特級レベルは彼ら3人だけだった。呪詛師認定すら許さない強さは良くも悪くも呪術界を変えた。

 

「ラスボスか何か?」

「悠仁。あまりそいつらに近づくな。教育に悪い」

「母さんは知ってるか」

「知らんと思うぞ。全部あいつと会う前の話だからな」

「乙骨君、待ってるぜ。上でな」

「強さを盾にして好き放題するの良くないと思いますよ」

「理由があるのさ。話すと長い」

「ここまでにしておこう。私が君たちを招いた理由はそこの六眼よ」

 

 天元の目は巌勝へと注がれていた。

 

「六眼って……五条先生の」

「六眼。六つの目。酷い語呂合わせだ。何も五条家にだけ六眼が生まれる訳では無い。あの青い目と呪力が見えるのはあれだけだが、この国には古くから言霊がある。六眼。陸眼。戮眼。どれも星漿体と私とで繋がっている因果だ」

「6だったらなんでもいいの。シックスパックでも?」

「悠仁。お兄ちゃんのシックスパック見るか?」

「つまり、今この時代には六眼が二人いることになる。ならば星漿体も二人いる。五条悟と天内理子。九十九由基と継国巌勝。……同化さえしていればこのようなことにはならなかった。それを……」

 

 天元と目が合った甚爾が殺気立つ。ゆっくりと口角を上げた。獰猛な笑みとは対称的に天元は顔を顰めた。

 

「売ってんのか親指ィ」

「事実だ。同化すれば羂索の企みも阻止できた。一億国民の命を天秤にかけてみろ」

「いいぜ。試してみるか? 俺だけで傾くかをよ」

 

 一触即発。赤子呪霊の口から呪具の柄が顔を出す。焔の痣が浮かび上がる。甚爾は荒れていた。腕を失い、何よりも明美と津美紀が行方不明なのだ。

 なお、どうでもいいかもしれないが直哉も行方不明である。駆け落ちしたのでは……と嘯く巌勝を甚爾はグーで殴っている。

 

「親父。恥ずいからやめろ」

「まて。羂索の企みと言ったな。奴の企みはなんだ」

「あの子は日本人と私との重複同化を目指している。死滅回游はその慣らしだ。今こうして私が私でいられるのは結界と外界とで分断しているからだ。結界術がなければ私は私でなくなる。私はいつでもどこにでもいるのだ」

「将棋トレーニングか何か?」

「一億人の日本人。それらが文字通り空気になる。集まってひとつになる」

「空恐ろしいですね」

「でもさ、天元様が拒絶すればいいんじゃない?」

「……私は、呪霊操術の術式対象だ」

「なるほど。夏油先輩の肉体なら可能ですね」

 

 傑を知らない悠仁が疑問符をうかべる。恵は悟との呪力鍛錬で何度か面識がある。行方不明となってからは露骨に悟が元気をなくしていたことを思い出した。

 天元が懐から小さな箱を取り出す。

 

「そしてこれは獄門疆《裏》。封印を解く権利はあちらにあるが、強制的なものは同期する。しかし天逆鉾があればな」

「甚爾」

「ん? 魔虚羅にぶっ壊されたぞ」

「「「はぁ」」」

 

(よし)

 

 天元は少し安堵した。数百年生きていても死は怖い。アニメも嗜むようになった彼女は決まって不死キャラが辿る末路が悲惨なことを知っている。強制的に不死を解かれた時は苦しい死に方をするだろうと思っていた。生物と鉱物の中間になり死にたくても死ねないとある悪役を見た時は身震いが止まらなかった。

 

「ほら恵」

「何、は?」

 

 甚爾が影の中に手を突っ込む。ガサゴソと影の中を漁り始める。

 

「なにすんだよ」

「ほれ」

 

 八握剣異戒神将魔虚羅。

 

「⬛︎⬛︎⬛︎?」

「間違えた。こっちだ」

 

 魔虚羅をゆっくりと戻し、鉾の欠片を取り出す。元々天逆鉾は三又の鉾。しかし甚爾が振るっていたそれは二又。ある日から欠けていたのだ。

 甚爾が獄門疆《裏》に天逆鉾の欠片を突き刺した。

 

 ★

 

「でさー。言ってやったわけよ。なぜ笑わないんだい? 彼の大喜利は上手だよ? って」

「ちっ。どうでも良い。獄門疆は?」

「胸ポケットにしまってあるよ。袈裟って動きにくいけどこういう時便利だよね」

 

 羂索と裏梅は並んで山道を歩いていた。それは死滅回游が機能しているかの確認がてら、宿儺の依代探しである。他愛ない会話を振る羂索に裏梅はうんざりしていた。女の体に生まれ変わってまで望んだ未来が今目の前にある。さっさと依代を見つけて受肉を願うのみ。

 

「獄門疆は一つだけか?」

「残念ながら定員一名だよ。君が何を言おうとしているか分かるよ。でもさすがに暴君と鬼まで封印する代物も余裕もない。片方は宿儺の地雷だからね」

「お前の地雷でもあるがな」

「ふふ。いまからプレートの間に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニョキっ。

 

 

 

 

 

 

 

 羂索の胸元から手が出てくる。誰のと疑問に思うことは無かった。雪のように白いそれは紛れもなく先日封印したバランスブレイカーのものである。

 ゆっくりと人差し指が立てられる。

 

「……」

「……」

 

 ❝術式反転・赫❞

 

 生まれた極小。広がりは無限。辺りを赫が染め上げる。

 即座に展延で身を守る二人。裏梅は驚いた顔を、羂索は諦めたような顔をしていた。

 

 暗転。

 

 瓦礫と岩石の海から二人が浮かび上がる。煤けた服を払い、失った肉体の部位を反転術式で治す。羂索に至っては咄嗟に挟んだ数万の呪霊が消し飛んでいる。雑魚とはいえ集めた苦難の道が泡になった。羂索は遠い目をした。

 

「どうする」

「どうするも何もどうしようもないよなんとかしてよ」

「馬鹿言え。お前が何とかしろ」

 

 ふたりが見つめる先には獄門疆。それは源信の成れの果て。生きた結界。時代を経る超特級呪物。条件さえ揃えば誰でも封印できる代物。

 腕が生えている。それでいてしっかりと中指が天を指している。

 

「シュールだね」

「阿呆」

「多分天元側が術式無効化の何かをもってたんだけど、不完全だったみたいだね。でも近づくと赫飛んでくるよ」

「延々と中指立てられると腹が立ってくるな」

「とりあえず領域展開で腕潰して運ぼう」

 

 ★

 

「どうだ?」

「ちょっと裂けただけ」

「意味ねーじゃん」

 

 落胆の空気が流れる。天逆鉾の欠片を捨てるように恵の影に戻す。他になにかとんでもないものが入っているのでは無いか。そう思った恵が影に両手を突っ込む。身に覚えのないエロ本が出てくる。甚爾が爆笑する。恵がブチギレた。

 

「ならば術式を解除する術式を持つ『天使』を探せ。彼女もプレイヤーとして死滅回游に参加している。

さあ帰った。もう伝えることは無い」

「……………………なんて?」

「めっちゃ離れてる!?」

「鉾の欠片が怖かったんだろうね。ほらほら怖くないからねー。最後に護衛として誰が残るか決めなきゃだからさ」

「必要ない」

「は?」

「恐らくだが、既に肉体は奴の手にある。要するに手遅れだ。未だ〝慣らし〟が終わっていない故に同化はまだ先だろう。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 衝撃の事実に一同が驚愕する。

 五条悟を封印したとはいえイレギュラー三人は健在。その三人に薨星宮を守られれば羂索は詰む。よって渋谷事変直後、実際に薨星宮へ向かい巌勝と由基を発見。二度目の脳破壊をくらって回れ右している。しかし二人がすぐにそこを後にしたのは羂索にとって嬉しい誤算だった。それは天元が、今度こそ殺されるのではないかと言葉を交わすことがなかった事も原因である。

 可哀想なことに彼女からすれば羂索も二人も同レベルの脅威である。

 

「俺達も呪霊になるんですか」

「大丈夫だ。呪術師はそうならない。改めてもう会うことは無いだろう。次会うときは私は私では無い。死滅回游で君たちが生き残り、私を殺してくれることを願う。天内理子と黒井美里を頼んだぞ」

 

(いいのか? 一億呪霊を黙っていたことといい、俺としては一発ぶん殴ってもいいと思うが)

(もう私に天元は必要ない。好きなように生きるのがせめてもの贖罪だ。それに私だって鬼じゃない。責任をもって死滅回游は終わらせるさ)

 

 天元が遠のく。景色が目まぐるしく変わる。悠仁が手を振ると四つの目をにこやかに曲げ、手を振り返した。

 

 死滅回游、開幕。




次回、直哉

25の最終巻で大幅加筆は血涙歓喜なんですが、平安組の過去が明かされた時とこれとで矛盾が出来たらしれっと書き直します。(だとしても大幅な変更は)ないです。
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