戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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廿漆話 両陣笑う

 死滅回游〈総則〉

 

 1、泳者は術式覚醒後、十九日以内に任意の結界にて死滅回游への参加を宣誓しなければならない。

 

 2、前項に違反した泳者からは術式を剥奪する。

 

 3、非泳者は結界に侵入した時点で泳者となり、死滅回游への参加を宣誓したものと見做す。

 

 4、泳者は他泳者の生命を絶つことで点を得る。

 

 5、点とは管理者によって泳者の生命に懸けられた価値を指し、原則術師5点、非術師1点とする。

 

 6、泳者は自身に懸けられた点を除いた 100点を消費することで管理者と交渉し 死滅回游に総則を1つ追加できる。

 

 7、管理者は死滅回游の永続に著しく障る場合を除き、前項によるルール追加を認めなければならない。

 

 8、参加または点取得後、十九日以内に点の変動が見られない場合、 その泳者からは術式を剥奪する。

 

 ★

 

「こんだけ呪術師が集まることなんてないんじゃない?」

「ああそうだな。先程からなぜ私は注目を浴びている」

「呪力ダダ漏れ。弟クンの肉体で遮断されてた諸々が溢れてるぞ」

「……つまり?」

「真顔でブチギレてる人みたいな」

「……。収まったか?」

「あんまり」

「別にいいだろ。昔と同じだ。この状態の巌勝、俺の気配全消しだからよ」

 

 高専生、以下。

 虎杖悠仁。伏黒恵。猪野琢真。乙骨憂太。パンダ。禪院真希。

 以上。

 

 大人組、以下。

 脹相。夜蛾正道。庵歌姫。冥冥。憂憂。九十九由基。伏黒甚爾。継国巌勝。伊地知潔高。

 以上。

 

 楽巌寺嘉伸、夜蛾正道を殺害未遂。日下部篤也により殺害。

 狗巻棘、片腕欠損。不参加。

 禪院真依、禪院真希に受肉。

 禪院直毘人、隠居。

 西宮桃、大怪我のため不在。

 加茂憲紀、家族に遭遇。不参加。

 東堂葵、片手欠損。術式使用不可のため不参加。

 日下部篤也、妹の保護に専念。不参加。

 三輪霞、メカ丸、家入硝子、天内理子、黒井美里。以上、非戦闘員。不参加。

 

 主力とも言えるメンバーが禪院の別荘に集まる。古きを温めすぎる禪院家には暖房などない。火鉢がずらりと並べられ自然にそれを囲んだコミュニティが作られる。それぞれがこうして一堂に会するのは稀である。京都行の飛行機で寝ていたものは初の顔合わせとなるメンバーも多い。

 行儀よく正座で座るもの。だらしなく胡座をかくもの。手をついて寝転ぶもの。立ち並ぶもの。揃って両掌を前に差し出す。

 

「真希さん久しぶり。パンダ君も」

「おー。棘には会ったか?」

「うん。かすり傷だってさ」

「てか総監のじじいをどう言いくるめた」

「いないよ」

「は」

「全員甚爾さんがやっちゃった」

「やっちゃったってな。いや、いやいやダメだろ」

 

 腐ったミカン、頭が固いなどと散々な嫌われようを見せてくれた呪術総監部。

 補助監督のまとめ役。呪霊通報の解決。地域呪霊傾向のデータ。一般人への情報統制。内閣総理大臣と協力し、合理的な呪霊対策。呪詛師認定。

 多少なりとも価値はあった。そもそも呪術師を纏めあげる組織としては彼らが一大である。彼らが抹殺され、1番影響が出るのは一般人。一応二人で止めはしたが、甚爾にとっての復讐である。格安でこき使ってきたツケである、と。

 

「先生、京都校のみんなは」

「東堂はメカ丸達と義手を作ってるわ。真依以外は怪我しちゃった子が多いの。死滅回遊には参加できそうにないわ。

 というか教師として学生のみんなはあんまり参加して欲しくないのだけど」

「真依さんは?」

 

『ここよ』

 

 真希の頬から口が現れる。悠仁で慣れている高専組よりか、大人組がギョッとした。

 

『話せば長くなるわ。だから話してあげない』

「宿儺みたい」

『しばくわよ……真希が』

「それ戻るんすか」

『戻るらしいわ。フュー〇ョンってやつかしら』

「アウトです真依さん」

「あと加茂は家族といる。なんかそこら辺のエレベーターでばったり会えたらしい」

「生き別れの家族とエレベーターか」

「想像するだけで気まずいじゃん。まあパンピーらしいし守ってあげないとね」

 

 至極当然ではあるが、いかに一般人とかけ離れた価値観でも受け入れ難いものがある。受け入れるかどうかは本人次第。周りに受け入れられるかも本人次第である。家族ともなれば、もはや言葉は必要ない。

 

「虎杖……それ誰だ。背後霊か」

「あー。伏黒この前まで寝てたもんな。こいつは脹相。俺の兄を自称する…………男だ」

「悠仁。何度言えばわかる。俺はお前のお兄ちゃんだ」

「兄……東堂みたいなものか?」

「そんな感じ」

「わかった。よろしく脹相。程々にしてやってくれ」

「受け入れるのが早すぎる」

「悠仁。あのような男と俺を一緒にするな。あれは兄を自称する異常者だ。これと血の繋がりすらないぞ」

「お前だよ」

 

 事実、脹相は悠仁の兄である。受胎九相図たる彼は羂索の血が混じっている。それは悠仁も同じ。つまりこの場合間違っているのは悠仁である。

 ふと、脹相は由基達と話している巌勝へと視線を向ける。宿儺と相見えたらしいが想像以上の巨漢。羂索から聞いていたがあれに数百年の激戦、その経験が乗っていると考えるだけで冷や汗が溢れてしまう。

 それだけでは無い。なにか悠仁のような親近感を感じていた。

 

「お久しぶりです夜蛾学長。日下部さんは?」

「伊知地か。日下部は妹の元へ行った。来なくても恨まないでやってくれ。私にとっては恩人なのだ」

 

 夜蛾正道は渋谷事変の首謀者として拘束されていた。もちろん誅殺ルートだったが、甚爾の襲撃に乗り合わせた日下部によって救出された。続けてパンダを救出しようとしたところで楽巌寺嘉伸と遭遇し、交戦。勝利した。

 ちなみに総監部を抹殺しに来た甚爾を総監部側に雇われた護衛だと勘違いした日下部は、対峙したその時、死を覚悟した。

 

「恨みませんよ。ちょうどいい優しさになったものです。楽巌寺殿のことはなんと言ったらいいか」

「いい。時が来れば私が自首する。私なりのケジメだ」

「そうですか」

「お前も背負う必要は無い。今まで皆背負いすぎていたぐらいだ。俺達もあの子たちも」

「ねぇさま。僕たちは参加するのですか?」

「憂憂は参加したいかい?」

「ねぇさまが参加するなら」

「そうだねぇ。まあ不参加かなあ」

 

 呪術師はブラックである。いわば毎時間通報の入る警察のようなもの。呪霊の数は増える一方、術師の数は減る。呪詛師も増えている。理由は古いシステム。されど変革には犠牲を伴う。五条悟はその犠牲すら払えないほど今の呪術界が腐っていると判断した。故に育てた。

 だが今、甚爾が壊した。呪霊も呪詛師も溢れかえった世界でそれらは運良く結界に集中した。

 もう上も払うべき呪霊もいない。

 言ってしまえば大人組は肩の荷がおりたのである。

 

はーい。ちゅうもーく。まずは目標を決めよう。世代も実力も関係もバラバラなんだ。せめてやるべきことは一点にね。

 まずは状況だ」

 

 視線が由基一点に集まる。

 

「結界自体は都道府県よりもはるかに小さい。それが十個。青森、岩手、宮城、東京だけ二つ、京都、愛知、大阪、広島、そして鹿児島だ。

 敵、羂索の目的は平安の再臨、一億国民総呪霊ってのは飛行機で話したね。今回の死滅回游はその〝慣らし〟だ」

 

 天元から聞いた話をそのまま話す。目的は明白。理由は不明。天元は既に羂索の手に落ちたという。ならば一億国民総呪霊は慣らしが終わればいつ発生してもおかしくない。

 

「つまり私たちは死滅回游に参加して慣らしが終わる前に羂索を殺せばいい。

 宿儺は爆弾だけど、悪意のない爆弾より悪意のある爆弾さ。奴の術式は三つ。呪霊操術、脳を入れ替えて肉体を奪う術式、そして重力に干渉する何か」

 

 羂索の3つ目の術式は割れている。渋谷事変にて真人を拘束するために使った術式。何故か悠仁を守るように展開されたそれは紛れもなく重力であった。

 

「そして宿儺の術式は斬撃や切断そして炎だ。つまり術式は〝料理〟ときた。俄に信じ難いが領域は閉じないし半径200~300メートル……っていうのがこれの証言」

 

 由基は巌勝を指差す。反論しようとした各位はそれをやめた。最古参であり、ある意味五条悟よりも信頼出来る男である。何よりも宿儺と交えて生き残った事実が裏付ける。

 もうこの3人でいいんじゃないか、と何人かは思った。

 

「第一に戦力だ。これは死滅回游に参加する前のハナシ。もういくらあっても足りない。ただ相手は歴戦の呪詛師共だ。下手な戦力は無駄死ににしかならない。

 ああ、もちろん五条くんが帰ってきたらけっこう楽になるよ。だから術式を無効化する泳者の『天使』は探してほしい」

「はいしつもーん。見た目は?」

「知らなーい。多分羽生えてる」

「ええ」

「第二に死滅回游のルール追加。これは死滅回遊参加後のハナシ。100点でできるからさ。

 まずは巻き込まれた人を救うために泳者間のポイント譲渡を可能にしよう。総則を見る限り、一定期間ポイントの変動がない泳者は強制死亡だからね。

 あと、結界に干渉するルール追加は慎重に。結界が出入り出来ればそれはそれで呪霊や呪詛師が出てきちゃうから。

 とりあえず以上」

 

 甚爾がくぁと欠伸をひとつ。しばしの沈黙。やはり情報が少なすぎる。これでは敵の罠にまんまとかかりに行くようなもの。

 

「東京高専生」

「はい」

「ハイッ」

「お前たちは俺と一緒に秤を連れ戻す。準備が出来次第出発する」

「学長、誰っスかそれ」

「一言で言えば休学中のギャンブル中毒者だ」

 

 目を輝かせた甚爾を由基が引っぱたく。

 虎杖悠仁(と背後霊(脹相))、伏黒恵、夜蛾正道は秤金次と星綺羅羅を連れ戻しにかかる。

 

『私たちは禪院家に行くわ。直哉さんなら協力してくれるし。そうね、もう一人ほしいかも』

「んじゃ俺、猪野琢真がついてくぜ」

『いいんですか?』

「ここだけのハナシ、直毘人さんに一級の打診を受けてるんでお礼がてら」

『助かります』

「僕もついて行っていいかな」

「乙骨はさっさと結界入った方がいいだろ。主戦力だし」

「あの3人よりも?」

「……わーった。ついてこい」

「パンダ君もおいでよ。せっかくみんな集まったんだからさ」

「ばっちこーい。パパ、いってきます」

「ああ。行ってらっしゃい」

 

 禪院真希真依、乙骨憂太、パンダ、猪野琢真は禪院家へ応援や呪具の収集。

 

(特級術師乙骨憂太……こりゃまた俺空気になるな)

 

「このぐらいかな。んじゃどんどん結界に入っていけ」

「軽いな」

「アドバイスだが、結果がどこに出るかわからない。空中だったり、だからスポーン狩りだな。入った先が既に相手の領域ということも有り得る。

 ……ここにいる全員が五体満足で帰ってこい。解散」

 

 

 ★

 

 呪術師達がそれぞれの行動を開始する為に部屋を出ていく。残ったのはいつもの3人。ずらりと並べられた火鉢を囲むまでもない。先程は一応威厳のためにしなかったが、平熱40度の巌勝に二人でひっつけば寒さなどどうってことない。両肩に頭が乗る。

 

「緊張した」

「おつかれサン」

「……いきなりで悪いけど、明美ちゃんは」

「あー。分かってる。津美紀にうつったカスが明美と禪院の次期当主殺して死滅回游に参加した。正直1番有り得る。わんちゃんばったり会うかもな」

 

 再三になるが死滅回游は日本を彼岸へと渡す〝慣らし〟である。これ程大規模な計画と重なるにしてはタイミングが良すぎる。故に甚爾は受肉タイプの泳者が津美紀に受肉したと考える。付きっきりの明美、見舞いに行ったという直哉達も運悪く巻き込まれたと。

 

「殺せるか?」

「……十秒待て」

 

 甚爾は目をつぶる。その十秒は彼を唯一の人間たらしめる十秒である。紛うことなき彼の弱さであり、巌勝には無いもの。

 

「ああ。殺せる。俺が殺す」

 

 自分に言い聞かせるように覚悟を決める。

 

「私たちも殺すからそのつもりで」

「ああ。早い者勝ちだ」

「…………ちっ。虫がいいようで悪いが」

「恵クンには殺させないし、殺すところも見せない。任せな」

「相手は平安の上澄みだぞ」

「じゃあこっちは現人神と戦国だ。勝てるさ。なんなら宿儺も同時に相手してやる」

 

 ★

 

 地下鍾乳洞。聖域の深奥部。古来、龍穴と呼ばれるそこは結界の要である。一介の呪術師では入った時点で濃密な呪力により気を失う。

 並ぶ肉体。そのどれもが成人男性である。日本人よりも比較的屈強な外国の軍人。先遣隊として本土に上陸したエリート。呪力が少ないそれを呪力により()()ことで慣らす。

 

「さーて。誰にしようかな」

「適当に選ぶなよ」

「女でもいい?」

「……」

「でも虎杖悠仁みたいなのがポンポンいるわけないでしょ。諦めてよ」

 

 裏梅は苦虫を噛み潰したような顔をした。主がその程度を気にする器では無いことは分かっている。懸念すら無礼になるかもしれない。ただ期待するのは自由だろう。たとえ肩を並べずとも傍に在るだけで愛を感じるのだから。

 

「あの男に何がある」

「え、あげないよ」

「いらん。私の質問に答えろ。奴の再生能力は人外所以。頭を潰しても死なないのは正直驚いた。だが、足りん。あの強さは異常だ」

 

 羂索は両手を広げた。その顔には自慢する幼子のような表情を浮かべる。

 

「彼は奴隷さ。ずっと何かに従ってる。誰かのために命を賭けられる。呪いみたいな劣等感を払拭すればなんとかなると思ったけど、400年の生き方は変えらなかった。その気持ちは痛いほどよくわかる。そんな奴隷が王になって、生まれながらの王を倒すのを見たくはないか。渋谷の比じゃない。きっと日本全土を巻き込んだ大怪獣決戦みたいになるよ。もっとできるはずだ。人間の可能性はこんなものじゃあ無い。既に宿儺は準備を終えている。彼が鬼として覚醒した時、王として座した時、その先がみたい」

「前から思っていたがお前そんなキャラだったか?」

「んで王を決めるのに外野は邪魔でしかないだろ? だから消えてもらおうかなって」

「……呪霊はそれだけか?」

「見たくないと言えば嘘になるけど、大体の見当はついてるし変な顔だったらおもしろいなーぐらいさ。メインはふたり」

 

 互いに産まれは忌み子。弟殺し。化け物と呼ばれる。屍の山を積み上げた。

 または平安と戦国。術師と侍。天才と努力。人と鬼。捨てたものと背負うもの。王と従者。呪いと愛。

 似ているようで違う。違うようで似ている。

 

「でもね」

 

 全て用意した。ただし懸念は左手薬指。

 六眼との戦い。特級怨霊『菅原道真』との死闘。全ては彼を完成させるため。

 だが無意味になるかもしれない。

 いくら蛹の中で成長したところで羽化しなければ蝶にはなれない。王をただの侍に縛る檻は縁壱の肉体だけではなかった。正直ガッカリした。元々誰かに従う器ではない。その立場に甘んじるから成長もしない。守るべき主、背負うべき意思。それは鎖。

 

「全く……きみは私がいなければ何も出来ないな」

 

 軍人にも術師にも依代として申し分ない肉体はなかった。ではどうするか。呪霊を使えばいい。ただの呪霊ではない。呪霊寄りの人間。人間寄りの呪霊。

 こんなこともあろうかと羂索は天元を取り込んでいなかった。取り込んだ呪霊は成長を止めてしまうから。そして宿儺の木乃伊を使う。『不死』の術式と木乃伊。上手く行けば再誕が可能。それは本人が決めるが。

 

「すまないね裏梅。天元は女だから」

「私はいい。宿儺様次第だ」

「埋め合わせはするよ。さあ宿儺、九十九由基を殺そう。君なら楽勝さ」

兄上は……

  • 仙台(四すくみボスラッシュ)乙骨別結界
  • 東京第二(鹿紫雲その他)秤パンダ別結界
  • 桜島(呪霊直哉その他)真希真依別結界
  • どれでも
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