戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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おまたせ


第参話 六眼と呪霊操術

「これじゃろうて」

「理子様お上手!」

「どうじゃ黒井!」

 

 ウィンク出来ない者が無理やりウィンクするようなとんでもない形相をしたセーラー服姿の少女が自らのメイドにマウントをとる。彼女のメイド、黒井は自らの主を上げると思いきや、彼女も本気。調子に乗った理子は失敗しやすいことを知っていながら煽てている。

 そこに主とメイドは存在しない。まるで姉妹のような二人がいた。

 

「ジェ〇ガごときであんなに盛り上がるか? 普通」

「悟も混ざってきたらどう?」

「程度が低い」

「……この前無限張ったくせに私と硝子に惨敗したからかい?」

「うるさい。つーかいいのかよ。こんなカビくせぇ宿でよ」

「付近の安全は確保してあるさ。この調子で明後日まで逃げ続けれることが出来れば、理子ちゃんは自由だ」

 

 理子に掛けられた懸賞金目当ての呪詛師集団『Q』は壊滅。天元と穢れた星漿体との同化を阻止したい盤星教は一般人の集団故に警戒に値せず。というか阻止したいのは五条悟達も同じである。悟達にとっては癪だが目的は似通っていた。

 後は逃げるだけ。同化の拒否が全ての術師に大打撃を与えるとしても、彼らは止めない。質の五条と量の夏油。誰が最強達を止められようか。

 

「傑がそう言うンなら」

 

 気の抜けた声で悟が返答する。そして大きな欠伸を一つ。

 

「眠ると術式が解除される。極力寝ない方がいいね。追っ手を相手するのも面倒だ」

「そんなん、別にボコせばいいだろ」

「私も名前しか知らないけど、特級術師九十九由基。多分彼女が来るんじゃないかな。術式が不明だから一筋縄ではいかないよ」

「へー」

「当分野宿だろう。申し訳ないけど女の子二人には我慢してもらうさ」

「なら、この近くにいい所がある」

 

 

 

 

 

 

 

「「「お帰りなさいませ」」」

 

 聳え立つ建物……は遠く。四人の前にはずらりと両脇に並んだ人の列。丁度のよい着物が揃い、気後れするほどの所作で頭を垂れる。枯山水の庭園は趣深く、分単位で整備され続けたよう。

 ここは最高級のホテル。和と洋を兼ね備えたそれは、外国の賓客を迎えることすらある程。

 

「悟、まさか、君……野宿をしらない?」

 

 これだからボンボンは……と、目頭を揉む傑。彼は一般家庭の出。自分より何倍も歳をとった人々に頭を下げられて気後れしていた。任務で得た金でそれなりの贅沢をすることはあった彼でも、ここまでのホテルは知らなかった。いわゆる初見さんお断りのホテルである。

 

「ダイジョーブ。外より中の方が守りやすいって」

 

 立ち並ぶ女将に目もくれず堂々と真ん中を歩く悟。理子と黒井は慣れているとしてもここまで豪勢な出迎えは初めて。少し萎縮しながら悟について行く。

 

 部屋は勿論スイートルーム。最上階のくせして庭があるし、プールもあるしで悟と理子は大はしゃぎ。対して傑は見張り呪霊を放つ量が増えたためにぐったりとしていた。

 

「傑! 酒だ! 酒が置いてあるぞ!」

「飲まないでよ」

「一本だけ、いいだろ!」

「よくない」

「ちぇ。……じゃあお前が飲め」

「なんでさ」

「妾がのむ!」

「「「駄目」」」

「ぬぅ。く、黒井までも……じゃが妾は飲んでみたい!!」

 

 ボトルを持って走り去ろうとする理子。それを呪霊が摘んで傑の元へ返す。

 舞い上がっている悟。疲れ果てた傑。不貞腐れた理子。窘める黒井。沖縄旅行の続きを彼らは堪能していた。きっとこの四人にとって一生忘れられない思い出になるだろう。

 

 

 時間が経ち、理子は火照った体を冷やすためにバルコニーで涼んでいた。今の彼女の状況を考えると危険極まりないが残穢は入念に消されているし、このホテルは夜ですら警備員が徘徊する。

 

「理子ちゃん、風邪ひくよ」

 

 現れた傑が理子にブランケットをかける。

 

「……本当にこれでよいのであろうか。妾の我儘でたくさんの人が不幸になる中、妾だけ幸せになってもよいのか」

「へぇ。罪悪感はあるんだ」

「うぅ」

「確かに、同化しないということは天元様が文字通り別物になる。もしかすると結界術が格段に使えなくなり、帳ですらままならなくなる。関係の無い呪術師が苦労するだろうね」

 

 理子は俯いた。傑の言葉は的を射ている。二人を巻き込む訳には行かない。黒井も、十分仕えてくれた。十分夢は見させてもらった。

 もう、誰もついてこなくていい。自分は天元と同化するために生まれ、育てられてきた星漿体。そうで無くなればただの女子中学生。いや、呪霊が見えるだけ普通の女の子より危険も増す。特別は特別ではなくなった。もはや自分は価値の無いお荷物なのだから。

 

「まぁ、だからなんだってハナシ」

「え?」

 

 理子は驚いた。彼は何も気負っていない。高専どころか呪術界の全てを敵に回すことをしているというのに。そして理子を同化させれば面倒事にはならない。ならないというのに。

 

「理子ちゃんは胸を張って生きればいい。後のことは全て、私達が保証する。呪いのない君の人生はここから始まるんだ」

「ってことよ。俺たちは最強だからなぁ」

 

 アロハシャツで現れた悟が傑と肩を組む。理子の目に映る二人は強かった。呪詛師と戦う時も薄ら笑いを浮かべ、余裕を崩さなかった。少しチャラいところはあるものの頼もしい二人。理子は憧れを抱いた。

 

「おっと。悟、二体祓われた。追っ手がきたらしい」

「かっこよく決めたところなんだけどなあ」

「追っ手を倒したらもっとかっこよくなるよ。ってことで任せた」

「おう」

「二人とも着いといで」

 

 事の重大さを察したのか、黙って傑について行く理子と黒井。悟は一人の時が一番強い。それを理解しての行動である。三人を見送った悟は挑発するようにバルコニーの手摺の上に立って下を睥睨する。彼の場所まで地上から数十メートルはある。

 

 

 

 

 

 

「五条悟だな」

 

 

 

 

 

 

 もう一人、男が悟と同じようにして手摺に降り立つ。男は地面を陥没させるほどの跳躍力で一瞬にして飛び立ってきたのだ。彼が理子達を狙うのなら即座に叩き落としたが、正面から挑むのなら話は別。彼らが逃げるまでの時間稼ぎができる。

 男はスーツ姿には似合わない出刃包丁を片手に持ち、感情の起伏が感じられない口調で語りかける。女性のように長い髪を後頭部で一括りにした髪型。額には焔の如き痣があった。因みに彼、巌勝と悟は同じ身長である。

 

「ナニモンだ。一人で来るなんて余裕綽々だなぁ、おい」

「特級術師、九十九由基……」

「へぇ。やっぱり」

「……の、パシリだ」

「は?」

「一応問うておく。天内理子を引き渡せ。さすれば悪いようにはせん。五条の坊」

「ハッ! ……悪役かつ三下なセリフどーも!」

 

 ❝術式順転 蒼❞

 

 鉄筋コンクリート。木製の扉。銅線が剥き出しの電球。砕けた窓ガラス。天蓋の着いた寝具。ソファ。冷蔵庫。全てが一点に吸い込まれていく。形容し難い音が鳴り響く。

 

(ほう、これが無下限。数奇なり)

 

 巌勝も吸い込まれればズタズタに引きちぎれるだろう。故に彼は距離を取った。効果範囲から逃れてしまえば術式は作用しない。

 だが一発。たった一発の術式が最高級の一室を瓦礫の山に変えた。天井は崩れ去り、月の光が漏れ出ている。

 

「壊しすぎだ。控えろ」

「テメェこそ、帳くらい張れよ」

「呪具は置いてある。しかし張れん。何故か知らんが天元はお前たちの味方をしているようだ。同化にも反対だろう」

 

 巌勝はお返しとばかりに暗器を投擲。しかし無限の壁に音もなく阻まれ、軽快な音を立てて悟の足元に落下した。顎を上げて見下す目をする悟。口だけニタリと笑った。

 

「避けれねぇよなぁ!」

 

 ❝術式順転 蒼❞

 

 再び無限の圧縮。出力は先程よりも上。それを見た巌勝は、突貫した。自殺行為も甚だしいが、悟は少しびっくりした。

 

「ははっ。まじかよ」

 

 巌勝は忍ばせていた呪具を抜き放つ。しかし再びそれは無限の壁に阻まれた。無限の吸い込みを利用した一撃。壁を張るのが遅ければ届いていた。悟は巌勝に対する警戒レベルを上げた。

 攻撃が阻まれた巌勝。次に来るのは瓦礫の密集した力場。彼は持っている出刃包丁を両手に持ち替えた。

 

 «日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光»

 

 瓦礫の塊に向かって回転しながら周囲を切り刻み、空を蹴って離脱。人ならざる離れ業に悟の笑みが引き攣る。六眼で観測した事実として術式では無い。単純な身体能力で成したのだ。

 

「オマエさっき天元サマが理子の同化に反対してるって言ったよな」

「ああ」

「なら帰れよ。同化する本人同士が反対してるんだ。ここでやり合うこと自体茶番くせぇ」

「厳密には違う。天内理子が拒んだ場合、他の星漿体候補が同化する」

 

 悟は初めのような仁王立ちではなく、片足を引き、拳を握った構え。

 呪詛師達が相手取るのは主に一般人である。安くない金で民間の闇から依頼を受け、人を呪い殺す。故に呪術師相手に馴れた呪詛師は稀。

 しかし、悟は目の前の者は対人経験が豊富の呪術師と判断。しかも高専側。追い返すのではなく、戦闘不能にしなければならない。

 

「あ? 尚更こいつじゃなくてもいーだろ。頭沸いてんのか」

「奇遇だな。私も同じ理由だ」

 

 巌勝が構える。正眼のそれは持つ得物が刀であれば形になったであろう。しかしそれでも十分すぎる殺気を悟にぶつけた。

 

「私の知り合いに星漿体が居る。それだけだ」

「……へぇ。互いに下らねぇ正義の押し付け合いってわけか」

 

 悟は嗤う。やはり目の前の男は呪術師だ。傑では相性が悪かった。どんな呪霊でも正面から叩き潰されるであろう。領域持ちなら或いはという感じである。目の前の男はここで倒さなければならない。

 二人の緊張が最大限に高まる。

 

 

 

 

 

 

 

 ひたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 滴る水音。硝子かなにかで切ったであろう傷が巌勝の頬に刻まれている。包丁から手を離し、人差し指で血を拭う。その色は鮮やかな赫であった。弛緩した雰囲気に怪訝な顔をする悟。

 

「ああ、すまない。すまないな縁壱。怪我をさせてしまったな」

 

 巌勝の耳飾りが揺れる。再び血の滴る頬をゆっくりと撫で付ける。彼の傷口から〝それ〟は現れた。〝それ〟は瞳の形をとった。そして呪力は戻る。吹き出した血が傷口に吸い込まれ、跡形もなく消し去る。

 六眼は巌勝よりも鮮明にあるがままを悟に伝えた。巌勝は呪力を回していない。愛を回している。肉体に愛され、肉体を愛している。そして愛ほど歪んだ呪いは無い。

 

「は、おまえ……何」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお」

 

 

 

 

 

 

 

 防御のための術式が解かれる。悟にとっては未知の感覚。

 背後に立っていた甚爾がほぼ同時に両手足の腱を断ち切り、得物の腹を悟の頭に振り下ろした。

 倒れる五条悟。

 

「いっちょあがり」

「……捕らえたか?」

「ああ。星漿体と星漿体のメイドと前髪団子だろ?」

「天内理子と黒井と夏油傑だ」

「あってるじゃねーか」

 

 二人にとっては賭けだった。

 甚爾が握るは天逆鉾。術式の強制解除という異質な能力を持つそれよりも、巌勝の呪力の方が異質と六眼が判断したからこその勝負。そして見事、天逆鉾の呪力反応は巌勝の呪力反応に覆い隠された。

 

「こんなチンケな目眩しに引っかかるとは……ざまぁねぇ」

「なんだ、面識があったのか」

「一方的にな」

 

 甚爾は悟の片足を掴むと、ズルズル引きずって連れていった。そして階段ですら持ち方を変えなかった。甚爾は不機嫌そうな御機嫌そうな顔をしていたので、巌勝は咎めることをしなかった。

 

「使えるか?」

「切れ味も悪い、取り回しも悪い。どういう呪具なのだこれは」

「1980円。ただの出刃包丁。嫁が寝ている隙にもってきた」

「……」

 

 ★

 

 

 

 

「ぁあ?」

 

 悟は目が覚めた。今彼は後ろ手に縛られた状態で椅子に座っている。辺りは呪符がびっしりと貼られ、物々しい雰囲気を醸し出していた。六眼から読み取れる呪符の効果からして、罪人を閉じ込めておく場所と言ったところ。

 

「おはよう。ぐっすり眠れたかい?」

 

 そして目の前には金髪の女がいた。そして彼女を取り巻くように蛇状の式神が螺旋を描いている。暴力的な、今にも襲いかかってきそうな呪力。

 

「特級術師。九十九由基だ。どんな女が……なんて、聞くよりも優先することがあるね」

「はい」

 

 悟が声のする方に目を向けると気が付かなかったが傑がいた。彼も悟と同じように縛られている。二人はほぼ同時に目を覚ましたのだ。

 傑は口を開けた。

 

「悟のアフロみたいなたんこぶについて聞いていいですか?」

「オイ」

「夏油君、いい質問だね。そしていい耳飾りだ」

「……ピアスですよ。ってかピアスを耳飾りなんて言う人初めて見ました」

「ふふっ。彼のそれについては、うちのゴリラが気絶した悟君の片足をもって運んだらしくてね、しかも何故かエレベーターを使わなかったんだ」

「……」

「あとは分かるだろう? 階段でゴンゴンゴンさ」

 

 扱いが酷すぎる。そして無様すぎる。

 甚爾と悟は一方的に甚爾が知っていただけ。しかしこれで互いに面識を得た。悟は気絶する前の最後の記憶。鉾を持ち、ニタニタと嗤う甚爾の顔を思い出して青筋を立てた。次会ったら殺すと。

 

 だが、悟にとってそんなことはどうでもいい。一番聞きたいことがある。そんな彼の心境を知っているのに触れようとしない目の前の女に腹が立つ。縛られた手に力が篭もる。無下限の力が縄を拒絶する。弾け飛んだ縄だったもの。

 立ち上がったが、由基は椅子の背を抱え込んで微笑んだまま。

 

「……理子はどうなった」

「色々あって生きている。同化は失敗ってことだ。君たち二人にはすまないと言っていた。後で会ってやるといい。

 そんなことよりも、自分の置かれた状況を心配するべきだと私は思うね」

「……」

「君達を死刑にするって言う話も出たんだよ?」

 

 悟は不貞腐れた顔をした。自分たちは最強でなんでも出来ると思って、負けた。相手が呪詛師側ならば、理子も黒井も死んでいた。ifの話をしても仕方ない。自分たちは悪に変わりなく、裁かれる時が来たのだ。

 

「けれど、そうはならなかった。でなきゃ、私達が今ここで生きている訳が無い」

「うん。これについては私も反対したし、彼の実家も反対した。若気の至り……で済む事件じゃないけれど、上は保守的だから脅せばなんとかなるんだ。結果的に形だけの謹慎処分ってトコロ」

 

 あとは何とかするから。と、去っていく由基。どう考えても説明不足。傑は頭の上に疑問符を浮かべて困惑。悟は覚悟をしていた分空回り。目が点になっている。

 彼女は理子のために死力を尽くした二人の死刑求刑に対して、星漿体候補として反対した。それでも全ての声を潰せる訳では無い。だが事実として呪術界全体を敵に回した二人を実質無罪にした。

 それが彼女。特級術師、九十九由基。彼女の怒りは星の怒り。敵に回すことはすなわち死を意味する。

 

「いつぶりかな。会えるのは」




五条
覚醒はちょい先。だって頭鈍器で叩かれて覚醒するなら、とっくの昔に夜蛾センの拳骨で覚醒してる。

伏黒甚爾
六眼と星漿体の因果から脱却した運なしが運んだ。故に同化に間に合わなかった。羂索もにっこり。

天内理子と黒井
生きてる。
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