戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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お久しぶりです(許
数日もしないうちに短い幕間も投稿します


廿玖話 ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!ガコン!

・山口 夕輝(やまぐち ゆうき)

 本作の主人公。ヒロインの夢同様、これといった特徴がない。

 

 ・八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)

 十種影法術最後の式神。あらゆる事象に適応する権能を持っている。

 

 ・朝霧 夢(あさぎり ゆめ)

 本作のメインヒロイン。これといった特徴がない。

 

 ・斎藤 雨矢(さいとう あや)

 夕輝の幼馴染。地銀で絶賛横領中。

 

 ・天ノ川 小百合(あまのがわ さゆり)

 夕輝の上司。昼はプロジェクトマネージャー、夜は……。専用のチャンスアップ演出アリ。

 

 ・加藤 空(かとう ひろ)

 夕輝の大学時代の同期。フリーターバンドマン。ギターとベースの見分けがつかない。

 

 ・清水 涼香(しみず すずか)

 夕輝の会社の同期。高学歴で高慢。空の〇〇(不明)を開発中。

 

 ・山口 紗夜花(やまぐち さやか)

 夕輝の妹。授業中に電子辞書と見せかけてDSをプレイしている。

 

 ★

 

 朝のオフィス。

 パソコンの起動音と、コーヒーメーカーのカチャカチャいう音が響いている。

 魔虚羅はいつも通り黙ってデスクに座り、静かにタイピングしている。

 

 その隣の席、朝霧夢は書類をめくりながら、ちらっと魔虚羅の横顔を見た。

 

(……今日も、ちゃんと来てる)

 

 巨大な体格に不釣り合いなほど静かな存在。魔虚羅。本名は八握剣異戒神将魔虚羅。

 見た目は少し怖いけど誰にでも同じように接しているようで、なぜか夢は彼の小さな動作に、いつもドキッとしてしまう。

 

「夢、そこのコピー取ってー。あと魔虚羅さんにこれ渡しといて」

 

 と、天ノ川小百合が、印刷ミスした書類の束を渡してくる。

 

「……うん」

 

 夢は軽くうなずいて、資料を魔虚羅の机に差し出した。端を見るだけでも重要な書類であることがわかる。

 魔虚羅は一瞬だけ夢を見て、うなずいたあと、そっと資料を受け取る。

 

(……ちょっと目が合った、かも)

 

 夢の心臓が少しだけ跳ねた。なお魔虚羅に目はない。鼻もない。

 

 **

 

 昼休み。食堂にて。

 

「魔虚羅さん、またカップそば?」

 

 と斎藤雨矢が笑いながら言う。

 

「それもう習慣病だよ。たまには焼きそばパンとかにしろよ、な?」

「魔虚羅さんは変わらないからいいのよ」

 

 と、清水涼香が言って席に座る。

 夢は少し離れた席から、魔虚羅の背中を見つめていた。

 

(……なんでだろ。全然喋らないのに、話したくなる)

 

 一方その頃、魔虚羅も、夢の席をちらりと見た。

 夢が笑った。誰かの話に、ふっと笑っていた。

 魔虚羅の手が、カップそばの箸を止めた。

 

 **

 

 夕方、退勤前。

 

 オフィスの隅で、空と夕輝がギターの話をしている。

 

「魔虚羅さん、俺の新曲のデモ聞いてくれたかな……無反応だったけど、輪っかが回ったからたぶんイケる」

「たぶん、それ“ノイズキャンセル”してただけじゃね?」

 

 そのそばで、紗夜花が学校帰りに兄である魔虚羅を迎えにきていた。

 

「夢さん、兄さんのこと、好きなんでしょ?」

「ぶっ……え、な、何急に……」

「いや、わかるよ。わかりやすいもん、その視線。兄さんの方陣も嘘つかないし」

 

 夢は真っ赤になりながら誤魔化した。

 でも否定できなかった。

 ただ、口に出すには、あまりにもその背中が大きすぎるのだ。

 

 **

 

 夜。皆が帰ったあとのオフィス。

 

 夢はUSBを机に忘れて、ひとり戻ってきた。

 すると、まだ一人、魔虚羅が残っていた。

 

「あ……魔虚羅さん、まだいたんだ」

 

 魔虚羅は、驚いたようにこちらを見る。

 大きな手に、マグカップを持っていた。

 

「……あのさ。私、魔虚羅さんと、ちょっとだけ……帰り、歩きたいなって」

 

 言ったあと、夢は顔を伏せる。

 魔虚羅は何も言わず、ただ立ち上がって──

 

 ──環を、少しだけ静かに一回転させた。

 

 それが「はい」の合図だと、夢は知っていた。

 

 そして、ふたりは会社の門を出て、

 無言で並んで歩いた。

 

 言葉はなかった。でも、ほんの少しだけ手の距離が近かった。

 

 **

 

「「「「内容うっっっす……」」」」

 

 

「激アツじゃねぇか!」

 

 恋愛漫画に最強の式神が降臨。破綻したストーリー。原作ファンならブチ切れる改変、いや改悪。内容も薄っぺらい。

 金次はパチカスとして、パチンコに身を落とした作品の多少の穢れは許容する。感動シーンが甲高い電子音に溢れていようと、たとえ主人公の枠に最強の式神が割り込もうと。熱ければいいのだ。

 

「なんだあれは」

「秤の領域展開だ。説明すると頭がおかしくなるから簡潔に言う。当たりを引けばバフがかかる。以上だ」

「なんだそれは」

 

 恵は余裕そうにポケットに手を突っ込む。制服は他と少し違い、両ポケットが内部でつながっている。つまり相手に見えずに影絵ができる。そして余裕そうな仕草で相手の冷静さを欠くという狙いもある。

 なお黒スーツに身を包んだ式神を従えているため台無しである。

 

「カッケーな伏黒。絵面は終わってるけど」

「離れるぞ」

「せんせー。私の術式言っちゃうのはないでしょー」

「詳細は話していない。言い訳をさせてもらうが、お前の術式と俺の傀儡とは相性が悪いからな」

「まーいっか。んでその子誰。加茂君の親戚?」

「脹相。虎杖の兄だ」

「へぇ。似てないねぇよろしく」

 

 脹相の中で綺羅羅の評価が下がる。

 

「まあでも似ない方が持ちつ持たれつになれるんじゃない? 知らないけどさ」

 

 脹相の中で綺羅羅の評価が上がる。

 

 

 

「行くぜぇぇぇぇ!!」

 

 土煙が晴れる。

 秤金次の領域展開は一度当たればバフがかかる。バフとは4分11秒の不死身。破格も破格。彼の攻撃毎に演出が挟まれる。それ自体に攻撃力はないが、妨害として働く。

 また当たればその次は当たりやすい。つまり、一度当たればあとはなんとかなる。

 

 ガコン。

 

 魔虚羅も適応したため、その攻撃も演出となる。適応の形はジャグラーとして現れた。縦に並んだ三つの方陣である。八握剣だけあって、方陣の辺は八つ。刻まれた数字は全て一桁。8×8×8。

 

「ジャグラーか」

 

 秤はニッと笑った。拳を構える。

 

「よし、確変引いてこいよ……俺の人生、いつだってクライマックスだ!」

 

 CR私鉄純愛列車が展開される。現れた演出は電車の中。ちなみにこっちは普通の登場人物である。魔虚羅は出てこない。

 車内で運命的に出会う二人、雨の列車。無遠慮な車輪の音。水滴が窓を撫でる。暗闇が顔を映す。中には二人だけ。そして“運命のキス”。

 

(魔虚羅、お前の同僚寝盗られたぞ)

 

 ズドンッッ!! 

 

 大当たり——! 

 

「っしゃあああああああああ!!!」

 

 無敵モード、発動。軽々しく当てたそれは1パーセントにも満たない確率。運では金次に軍杯があがる。

 秤の足元から紫の呪力がほとばしる。すかさず魔虚羅の退魔の剣がうなりを上げ、秤の腕を切った。内容を知らない術師達が少し焦る。

 

「継続ゥ!」

 

 ——が、次の瞬間、ズルンと肉が巻き戻るように再生され、秤は笑いながら飛び退いた。

 

「いてぇな、でも全然イケるわ。次はこっちの番だぜ?」

 

 拳が魔虚羅の顔に炸裂する。石像のような顔が少しだけ傾いた。

 そこからは止まらない拳の雨。大当たりとそうでない時とでは雲泥の差。増幅された威力は魔虚羅に膝をつかせる。

 

 

 

 

ガコンッッッ。

 

 

 

 

 ハンマー音と共に法陣が回転する。数字は不揃い。しかし魔虚羅の剣が軌道を変え、秤のパチンコ演出の隙を狙ってきた。

 

「……マジで“打ち手のクセ”まで読んできたか。やべぇな、こいつ」

 

 秤は笑う。が、その目は真剣だった。

 退魔の剣が稲妻のように振るわれる。秤の肩が吹き飛び、反射的に反転術式が発動。

 だが、次の瞬間、魔虚羅の体も傷を受け、同じように再生する。領域で不死身となった金次。適応で傷を癒す魔虚羅。〝ジリ貧〟その言葉が彼の脳裏を過ぎる。

 

「オイオイ……マジで“不死身ループ”をやる気か……!?」

 

 秤の〝運の良さ〟に適応されれば、にわかに信じ難いが勝ち目はなくなる。100パーセント当たれば終わり。演出が文字通りただの演出となり、不死身が永遠に続いてしまってもおかしくない。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!』

 

 突如、世界が塗り替えられる。

 

(まさか……いや早過ぎる!)

 

 電光掲示板が光る。そこは駅のホーム。金次はまだフィーバータイム。ともすれば魔虚羅の演出。つまり魔虚羅の領域と言っても過言では無い。

 

『魔虚羅君っ』

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』

 

 汗ばんだ頬。さっきみた。このセリフは大当たり確定。既に大当たりは始まっているようなもの。

 

《列車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側に立ってお待ちください》

 

 駅のホームに電車が現れる。ありえない。終電はとうに過ぎた。そのような演出はない。そのはずだった。

 

「まてぇぇぇえええ!!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 本来なら『終電なくなっちゃった』の台詞が続き、大当たりになるはず。それを演出に割り込んで止めた。

 

「????」

「魔虚羅が大当たり引きかけた……っていうか演出まで完コピ……?」

「それに秤が魔虚羅の演出に侵食している」

 

 パチンコの相手は台であり、運であり、己である。

 だが、先に当てた方が、当て続けた方が勝つとは初めて。

 さらに、二人で織り成す演出。カスとカスのデュエット。

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!』

 

 なお、その相手は大当たりが外れてブチギレている。怒りのままに金次を列車に向けて投げ飛ばす。受身を取る金次。飛び込んできた魔虚羅を迎え撃つ。

 

 ガコン。

 

 社内の飲み会。居酒屋。壁に貼られたメニュー表。盛り上がったテーブル。

 そこから抜け出す。二人だけの背徳感。アルコールの回った頭。期待の眼差し。

 

『魔虚羅さん。家だれもいないですよ。ふ、二人で飲み直しませんか?』

「いたいた、魔虚羅。社長命令だ。酌しろだとよ」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!』

 

 ガコン。

 

 真夏の海。青い空。白い砂浜。ビーチパラソル。クーラーボックス。

 羞恥に焼かれた頬。緑のサンダル。艶のある日焼け止め。上目遣い。華奢な肉体に不釣り合いな谷間は蠱惑的。タオルケットから覗く生足。ゆっくりとそれを開く。

 

「魔虚羅さん。その、水着似合ってます……か?」

「ん? 人違いかな。ああ、彼氏君なら向こうにいるよ」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!』

 

 術式そのものにより外れるならば理解ができる。だが邪魔されることは魔虚羅にとって許せなかった。決まっていた大当たりを他ならぬ相手の力技で止められる。それはギャンブルではない。

 魔虚羅の台パンが音割れを起こす。全然楽しくない。

 

(なるほどな)

 

 金次は冷静だった。本能的に演出に割り込んだが、この術式はそれを許容した。つまり、領域が融合している。今この場には術者が二人、領域が一つ。領域の特性上、当たるのは一人。

 八握剣異戒神将魔虚羅という無限に適応してくる化け物。だが今、土俵は同じ。再三、大当たりが出るのは一人。漲る呪力で殴る相手は、外れて無防備な一人。

 まるで空気を読むかのように金次の大当たりが幕を閉じる。

 

 

「継続だ!」

 

 

 

 ❝領域展開 坐殺博徒❞

 

 

 

「さあ。最終局面だ」

 

『⬛︎⬛︎』

 

 

 

 夕方。最も熱い時間。

 駅のホーム。行き交う人々はただの背景。今、この世界には三人しかいない。

 切り取った一瞬に今までの永遠を重ねる。当たれば勝ち。外れれば負け。それはパチンコに限らず、生物が幾星霜繰り返してきた運命である。勝敗は絶対では無いのだから。天に委ねるべきそれを己の実力で彩る。だからこそ賭け事は逃れられぬカルマ」

「声に出てるよ金ちゃん」

 

 降って湧いたパチンコ友達。そもそも呪術師にパチカスはいない。そんな暇があったら任務が割り振られている。金次も歯を食いしばってその事実を受けいれていた。きっと、一生自分は己の術式とひとりで向き合わなければいけないと。

 だが、もうひとりではない。仲間がいる。かけがえのない絆がある。

 

「夢、俺を選べ!」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!』

「ええっ!?」

 

 金次の言うとおり、最後。

 差し伸べられた手は二つ。取るべきは一つ。朝霧夢は瞠目した。ソプラノ調の驚きが響く。両手で口元をおさえる仕草は可憐。軽く巻かれた髪が風に揺れる。

 

『金次さん、魔虚羅さん!? で、でもっ。私ギャンブルするような人は』

「もうギャンブルはしない! 賭けてもいい!」

『賭けてるじゃないですか!』

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』

『ま、魔虚羅さんは、よく私の仕事手伝ってくれますし……』

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(好きです)』

「金文字!? まずい、激アツじゃねぇか!!」

『魔虚羅さん!?』

「夢、君をコンプリートしたい」

『金次さん!?』

 

(魔虚羅、お前の初仕事がこれか)

(演出とはいえ可哀想)

(化け物相手に五分五分に持っていったのはすごいけど、かっこわるいよ)

(もうフラれてしまえ)

(パチンコってこんなんだったっけ)

(悠仁、目を瞑れ。教育に悪い)

(こいつ!? 脳内に直接!?)

 

 同情がヒロインに集まる。ここにいるはずの主人公は名前すら覚えられていない。紛れもなく一番かわいそうなのは彼。

 

『わ、私は』

 

 選ぶ。勝ちと負けを決める。

 

 ゆっくりと手を伸ばす。

 

 秤金次が、八握剣異戒神将魔虚羅が、聴衆が息を飲む。

 

 心臓が脈打つ。

 

 

 

 

ドクン。

 

 

 

 

 

ドクン。

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱり選べませーん!!!』

 

 

 不揃いの数字が表示される。

 消える風景。領域が解除され、無骨な駐車場が広がる。なにもない。双方外れ。

 

「は」

 

 茫然自失。白熱の告白も、甘酸っぱい焦りも、大当たりの期待も全てが瞬きのうちに冷めた。金次と魔虚羅が膝を折り、膝を着く。

 

「え、なん。え?」

『……』

「当たらなかった……? この俺が」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……』

 

 魔虚羅が手を金次の肩に置く。

 

「そうだよな。こんな日もある。逆に考えろ、当たらない確率の方が低かったんだ。運が良すぎたんだよ、俺たちは」

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!』

 

 ふたりは立ち上がった。

 

「ああ。勝負をしなければ、勝つことも出来ない。結果的には負けたかもしれない。だが、負けたと思うのは諦めてから。勝負し続けるということはまだ負けていない」

「何語話してんすか」

「恵くんだっけ? またやらせてよ魔虚羅と」

「いやです」

「私もパチンコやってみようかな」

「金次、綺羅々。死滅回游に参加しろ」

「この流れで?」

 

 秤金次。星綺羅々。死滅回游参加決定。

 




高羽よりコメディしてるかこれ

兄上は……

  • 仙台(四すくみボスラッシュ)乙骨別結界
  • 東京第二(鹿紫雲その他)秤パンダ別結界
  • 桜島(呪霊直哉その他)真希真依別結界
  • どれでも
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