・山口 夕輝(やまぐち ゆうき)
本作の主人公。ヒロインの夢同様、これといった特徴がない。
・八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)
十種影法術最後の式神。あらゆる事象に適応する権能を持っている。
・朝霧 夢(あさぎり ゆめ)
本作のメインヒロイン。これといった特徴がない。
・斎藤 雨矢(さいとう あや)
夕輝の幼馴染。地銀で絶賛横領中。
・天ノ川 小百合(あまのがわ さゆり)
夕輝の上司。昼はプロジェクトマネージャー、夜は……。専用のチャンスアップ演出アリ。
・加藤 空(かとう ひろ)
夕輝の大学時代の同期。フリーターバンドマン。ギターとベースの見分けがつかない。
・清水 涼香(しみず すずか)
夕輝の会社の同期。高学歴で高慢。空の〇〇(不明)を開発中。
・山口 紗夜花(やまぐち さやか)
夕輝の妹。授業中に電子辞書と見せかけてDSをプレイしている。
★
朝のオフィス。
パソコンの起動音と、コーヒーメーカーのカチャカチャいう音が響いている。
魔虚羅はいつも通り黙ってデスクに座り、静かにタイピングしている。
その隣の席、朝霧夢は書類をめくりながら、ちらっと魔虚羅の横顔を見た。
(……今日も、ちゃんと来てる)
巨大な体格に不釣り合いなほど静かな存在。魔虚羅。本名は八握剣異戒神将魔虚羅。
見た目は少し怖いけど誰にでも同じように接しているようで、なぜか夢は彼の小さな動作に、いつもドキッとしてしまう。
「夢、そこのコピー取ってー。あと魔虚羅さんにこれ渡しといて」
と、天ノ川小百合が、印刷ミスした書類の束を渡してくる。
「……うん」
夢は軽くうなずいて、資料を魔虚羅の机に差し出した。端を見るだけでも重要な書類であることがわかる。
魔虚羅は一瞬だけ夢を見て、うなずいたあと、そっと資料を受け取る。
(……ちょっと目が合った、かも)
夢の心臓が少しだけ跳ねた。なお魔虚羅に目はない。鼻もない。
**
昼休み。食堂にて。
「魔虚羅さん、またカップそば?」
と斎藤雨矢が笑いながら言う。
「それもう習慣病だよ。たまには焼きそばパンとかにしろよ、な?」
「魔虚羅さんは変わらないからいいのよ」
と、清水涼香が言って席に座る。
夢は少し離れた席から、魔虚羅の背中を見つめていた。
(……なんでだろ。全然喋らないのに、話したくなる)
一方その頃、魔虚羅も、夢の席をちらりと見た。
夢が笑った。誰かの話に、ふっと笑っていた。
魔虚羅の手が、カップそばの箸を止めた。
**
夕方、退勤前。
オフィスの隅で、空と夕輝がギターの話をしている。
「魔虚羅さん、俺の新曲のデモ聞いてくれたかな……無反応だったけど、輪っかが回ったからたぶんイケる」
「たぶん、それ“ノイズキャンセル”してただけじゃね?」
そのそばで、紗夜花が学校帰りに兄である魔虚羅を迎えにきていた。
「夢さん、兄さんのこと、好きなんでしょ?」
「ぶっ……え、な、何急に……」
「いや、わかるよ。わかりやすいもん、その視線。兄さんの方陣も嘘つかないし」
夢は真っ赤になりながら誤魔化した。
でも否定できなかった。
ただ、口に出すには、あまりにもその背中が大きすぎるのだ。
**
夜。皆が帰ったあとのオフィス。
夢はUSBを机に忘れて、ひとり戻ってきた。
すると、まだ一人、魔虚羅が残っていた。
「あ……魔虚羅さん、まだいたんだ」
魔虚羅は、驚いたようにこちらを見る。
大きな手に、マグカップを持っていた。
「……あのさ。私、魔虚羅さんと、ちょっとだけ……帰り、歩きたいなって」
言ったあと、夢は顔を伏せる。
魔虚羅は何も言わず、ただ立ち上がって──
──環を、少しだけ静かに一回転させた。
それが「はい」の合図だと、夢は知っていた。
そして、ふたりは会社の門を出て、
無言で並んで歩いた。
言葉はなかった。でも、ほんの少しだけ手の距離が近かった。
**
「「「「内容うっっっす……」」」」
「激アツじゃねぇか!」
恋愛漫画に最強の式神が降臨。破綻したストーリー。原作ファンならブチ切れる改変、いや改悪。内容も薄っぺらい。
金次はパチカスとして、パチンコに身を落とした作品の多少の穢れは許容する。感動シーンが甲高い電子音に溢れていようと、たとえ主人公の枠に最強の式神が割り込もうと。熱ければいいのだ。
「なんだあれは」
「秤の領域展開だ。説明すると頭がおかしくなるから簡潔に言う。当たりを引けばバフがかかる。以上だ」
「なんだそれは」
恵は余裕そうにポケットに手を突っ込む。制服は他と少し違い、両ポケットが内部でつながっている。つまり相手に見えずに影絵ができる。そして余裕そうな仕草で相手の冷静さを欠くという狙いもある。
なお黒スーツに身を包んだ式神を従えているため台無しである。
「カッケーな伏黒。絵面は終わってるけど」
「離れるぞ」
「せんせー。私の術式言っちゃうのはないでしょー」
「詳細は話していない。言い訳をさせてもらうが、お前の術式と俺の傀儡とは相性が悪いからな」
「まーいっか。んでその子誰。加茂君の親戚?」
「脹相。虎杖の兄だ」
「へぇ。似てないねぇよろしく」
脹相の中で綺羅羅の評価が下がる。
「まあでも似ない方が持ちつ持たれつになれるんじゃない? 知らないけどさ」
脹相の中で綺羅羅の評価が上がる。
「行くぜぇぇぇぇ!!」
土煙が晴れる。
秤金次の領域展開は一度当たればバフがかかる。バフとは4分11秒の不死身。破格も破格。彼の攻撃毎に演出が挟まれる。それ自体に攻撃力はないが、妨害として働く。
また当たればその次は当たりやすい。つまり、一度当たればあとはなんとかなる。
ガコン。
魔虚羅も適応したため、その攻撃も演出となる。適応の形はジャグラーとして現れた。縦に並んだ三つの方陣である。八握剣だけあって、方陣の辺は八つ。刻まれた数字は全て一桁。8×8×8。
「ジャグラーか」
秤はニッと笑った。拳を構える。
「よし、確変引いてこいよ……俺の人生、いつだってクライマックスだ!」
CR私鉄純愛列車が展開される。現れた演出は電車の中。ちなみにこっちは普通の登場人物である。魔虚羅は出てこない。
車内で運命的に出会う二人、雨の列車。無遠慮な車輪の音。水滴が窓を撫でる。暗闇が顔を映す。中には二人だけ。そして“運命のキス”。
(魔虚羅、お前の同僚寝盗られたぞ)
ズドンッッ!!
大当たり——!
「っしゃあああああああああ!!!」
無敵モード、発動。軽々しく当てたそれは1パーセントにも満たない確率。運では金次に軍杯があがる。
秤の足元から紫の呪力がほとばしる。すかさず魔虚羅の退魔の剣がうなりを上げ、秤の腕を切った。内容を知らない術師達が少し焦る。
「継続ゥ!」
——が、次の瞬間、ズルンと肉が巻き戻るように再生され、秤は笑いながら飛び退いた。
「いてぇな、でも全然イケるわ。次はこっちの番だぜ?」
拳が魔虚羅の顔に炸裂する。石像のような顔が少しだけ傾いた。
そこからは止まらない拳の雨。大当たりとそうでない時とでは雲泥の差。増幅された威力は魔虚羅に膝をつかせる。
ガコンッッッ。
ハンマー音と共に法陣が回転する。数字は不揃い。しかし魔虚羅の剣が軌道を変え、秤のパチンコ演出の隙を狙ってきた。
「……マジで“打ち手のクセ”まで読んできたか。やべぇな、こいつ」
秤は笑う。が、その目は真剣だった。
退魔の剣が稲妻のように振るわれる。秤の肩が吹き飛び、反射的に反転術式が発動。
だが、次の瞬間、魔虚羅の体も傷を受け、同じように再生する。領域で不死身となった金次。適応で傷を癒す魔虚羅。〝ジリ貧〟その言葉が彼の脳裏を過ぎる。
「オイオイ……マジで“不死身ループ”をやる気か……!?」
秤の〝運の良さ〟に適応されれば、にわかに信じ難いが勝ち目はなくなる。100パーセント当たれば終わり。演出が文字通りただの演出となり、不死身が永遠に続いてしまってもおかしくない。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!』
突如、世界が塗り替えられる。
(まさか……いや早過ぎる!)
電光掲示板が光る。そこは駅のホーム。金次はまだフィーバータイム。ともすれば魔虚羅の演出。つまり魔虚羅の領域と言っても過言では無い。
『魔虚羅君っ』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
汗ばんだ頬。さっきみた。このセリフは大当たり確定。既に大当たりは始まっているようなもの。
《列車が参ります。危ないですから、黄色い線の内側に立ってお待ちください》
駅のホームに電車が現れる。ありえない。終電はとうに過ぎた。そのような演出はない。そのはずだった。
「まてぇぇぇえええ!!!」
本来なら『終電なくなっちゃった』の台詞が続き、大当たりになるはず。それを演出に割り込んで止めた。
「????」
「魔虚羅が大当たり引きかけた……っていうか演出まで完コピ……?」
「それに秤が魔虚羅の演出に侵食している」
パチンコの相手は台であり、運であり、己である。
だが、先に当てた方が、当て続けた方が勝つとは初めて。
さらに、二人で織り成す演出。カスとカスのデュエット。
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!』
なお、その相手は大当たりが外れてブチギレている。怒りのままに金次を列車に向けて投げ飛ばす。受身を取る金次。飛び込んできた魔虚羅を迎え撃つ。
ガコン。
社内の飲み会。居酒屋。壁に貼られたメニュー表。盛り上がったテーブル。
そこから抜け出す。二人だけの背徳感。アルコールの回った頭。期待の眼差し。
『魔虚羅さん。家だれもいないですよ。ふ、二人で飲み直しませんか?』
「いたいた、魔虚羅。社長命令だ。酌しろだとよ」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!』
ガコン。
真夏の海。青い空。白い砂浜。ビーチパラソル。クーラーボックス。
羞恥に焼かれた頬。緑のサンダル。艶のある日焼け止め。上目遣い。華奢な肉体に不釣り合いな谷間は蠱惑的。タオルケットから覗く生足。ゆっくりとそれを開く。
「魔虚羅さん。その、水着似合ってます……か?」
「ん? 人違いかな。ああ、彼氏君なら向こうにいるよ」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!』
術式そのものにより外れるならば理解ができる。だが邪魔されることは魔虚羅にとって許せなかった。決まっていた大当たりを他ならぬ相手の力技で止められる。それはギャンブルではない。
魔虚羅の台パンが音割れを起こす。全然楽しくない。
(なるほどな)
金次は冷静だった。本能的に演出に割り込んだが、この術式はそれを許容した。つまり、領域が融合している。今この場には術者が二人、領域が一つ。領域の特性上、当たるのは一人。
八握剣異戒神将魔虚羅という無限に適応してくる化け物。だが今、土俵は同じ。再三、大当たりが出るのは一人。漲る呪力で殴る相手は、外れて無防備な一人。
まるで空気を読むかのように金次の大当たりが幕を閉じる。
「継続だ!」
❝領域展開 坐殺博徒❞
「さあ。最終局面だ」
『⬛︎⬛︎』
夕方。最も熱い時間。
駅のホーム。行き交う人々はただの背景。今、この世界には三人しかいない。
切り取った一瞬に今までの永遠を重ねる。当たれば勝ち。外れれば負け。それはパチンコに限らず、生物が幾星霜繰り返してきた運命である。勝敗は絶対では無いのだから。天に委ねるべきそれを己の実力で彩る。だからこそ賭け事は逃れられぬカルマ」
「声に出てるよ金ちゃん」
降って湧いたパチンコ友達。そもそも呪術師にパチカスはいない。そんな暇があったら任務が割り振られている。金次も歯を食いしばってその事実を受けいれていた。きっと、一生自分は己の術式とひとりで向き合わなければいけないと。
だが、もうひとりではない。仲間がいる。かけがえのない絆がある。
「夢、俺を選べ!」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!』
「ええっ!?」
金次の言うとおり、最後。
差し伸べられた手は二つ。取るべきは一つ。朝霧夢は瞠目した。ソプラノ調の驚きが響く。両手で口元をおさえる仕草は可憐。軽く巻かれた髪が風に揺れる。
『金次さん、魔虚羅さん!? で、でもっ。私ギャンブルするような人は』
「もうギャンブルはしない! 賭けてもいい!」
『賭けてるじゃないですか!』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
『ま、魔虚羅さんは、よく私の仕事手伝ってくれますし……』
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(好きです)』
「金文字!? まずい、激アツじゃねぇか!!」
『魔虚羅さん!?』
「夢、君をコンプリートしたい」
『金次さん!?』
(魔虚羅、お前の初仕事がこれか)
(演出とはいえ可哀想)
(化け物相手に五分五分に持っていったのはすごいけど、かっこわるいよ)
(もうフラれてしまえ)
(パチンコってこんなんだったっけ)
(悠仁、目を瞑れ。教育に悪い)
(こいつ!? 脳内に直接!?)
同情がヒロインに集まる。ここにいるはずの主人公は名前すら覚えられていない。紛れもなく一番かわいそうなのは彼。
『わ、私は』
選ぶ。勝ちと負けを決める。
ゆっくりと手を伸ばす。
秤金次が、八握剣異戒神将魔虚羅が、聴衆が息を飲む。
心臓が脈打つ。
ドクン。
ドクン。
『やっぱり選べませーん!!!』
不揃いの数字が表示される。
消える風景。領域が解除され、無骨な駐車場が広がる。なにもない。双方外れ。
「は」
茫然自失。白熱の告白も、甘酸っぱい焦りも、大当たりの期待も全てが瞬きのうちに冷めた。金次と魔虚羅が膝を折り、膝を着く。
「え、なん。え?」
『……』
「当たらなかった……? この俺が」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……』
魔虚羅が手を金次の肩に置く。
「そうだよな。こんな日もある。逆に考えろ、当たらない確率の方が低かったんだ。運が良すぎたんだよ、俺たちは」
『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!』
ふたりは立ち上がった。
「ああ。勝負をしなければ、勝つことも出来ない。結果的には負けたかもしれない。だが、負けたと思うのは諦めてから。勝負し続けるということはまだ負けていない」
「何語話してんすか」
「恵くんだっけ? またやらせてよ魔虚羅と」
「いやです」
「私もパチンコやってみようかな」
「金次、綺羅々。死滅回游に参加しろ」
「この流れで?」
秤金次。星綺羅々。死滅回游参加決定。
兄上は……
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仙台(四すくみボスラッシュ)乙骨別結界
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東京第二(鹿紫雲その他)秤パンダ別結界
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桜島(呪霊直哉その他)真希真依別結界
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どれでも