戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

32 / 35
前々回が三十話でした。皆さんここまでついてきてくれてありがとうございます!!完結まで何卒お付き合い下さい!
感想、誤字報告、ここすき、そして評価。全部見てます大変励みになります!!!!!


丗話 禪院家再び

 目の前に聳える禪院の門。立ち塞がる大男。立ち往生する三人と一匹(?)。

 

「……おい。なんで入れねぇんだ」

「黙れ。出来損ないを宿した癖して偉そうに。今の貴様は受肉体と何ら変わらん。無駄に増やした頭でもわからんのか」

『かっちーん。真希、全部壊して』

「そんな軽いセリフだったか?」

「まあまあ落ち着いて」

「なーんか大騒ぎしてんな」

 

 禪院真希&真依、パンダ。乙骨。あと猪野琢真。

 彼らが訪ねたのは何やら慌ただしい禪院家である。理由は死滅回游の準備のため。つまるところ戦力がほしいのだ。結界の数に対して圧倒的に数が不足している。

 出迎えは一番インテリからかけ離れた甚壱が出てきた。無精髭を絶やさず、それでいて威圧的。

 

「こちとら特級術師九十九由基さんの代理で来てんだ。あと当主様のお許しがあんでね。ほら恵のサイン」

元当主がおるぞー。入れてやれぃ。あと直哉、直哉はどこいった。腹も減った。飯を用意しろ」

「認知症かよ」

「あはは……」

「ちっ。どいつもこいつも」

 

 奥からでてきた直毘人が許可を出すだけ出して消えていく。片腕ないのに元気だなと心をひとつに思った。ただ権力は健在。甚壱も顔を歪めるが、すんなりと座敷に通される。

 真希達を無下にできないのは禪院側も戦力を欲しているから。

 

「アイヌ呪術連と連絡を取れ!」

「総監部と連絡が繋がらん」

「信明様、猿どもが食べ物をよこせと」

「構ってられるか!」

「結界の構築は浄界を楔としろ。天元様なしで隔離結界を作る」

()()、廊下を走ってはいけません。転けますよ」

()()ぃ。今それどころではな───ふぎゃ」

「五条家に連絡を取れ! いや走っていけ! どうせ電話は繋がらん」

「当主が封印されてるってのに誰に繋ぐんだ」

 

 ドタバタと廊下を走り回る躯倶留隊や使用人。あとその他協力者。溢れかえった呪霊や押し寄せる一般人の対応に追われる。緊急時とあって、男女、戦闘員非戦闘員、強者弱者関係なく四肢を動かす。

 中でも一部が庭にある巨大な包みを中心に奔走している。異様な雰囲気を醸し出すそれが真希の目に止まった。

 

「なにあれ」

「核だ」

「核?」

「核」

 

 核兵器。タブー中のタブー。非核三原則なぞ素知らぬ風。至極真面目に甚壱は答えたが、本来あってはならないものである。

 

「今お前たちが考えたことを当ててやろう。あれは一億呪霊に有効だ」

「……ダメですよ。倫理的に」

 

 倫理。今それが必要か。否か。

 諸説あるが、歴史の流れとして日本を敗北に導いた原因の一つでもある。仮想敵は日本そのものの呪霊。効く可能性は大いにある。

 

『もしその呪霊が日本人としての性質を持つなら、核が弱点でも可笑しくは無いわ。さすがに胸糞悪いけどね』

「うーん」

「問題は扱えるかだナ」

「落とすとなると空飛ぶ何かが必要になりますけど」

 

 琢真はひとり頭を抱える。一級に手をかけた呪術師でもスケールの大きさに辟易した。

 敵は呪霊ではなく巨悪であり、呪詛師ではなく歴史である。勝たなければ日本の歴史は白紙となる。

 隣のパンダは何考えているのか分からない。

 

「説明書はあるのか?」

「躯倶留隊が必死に読んでる」

「英語読めんのか」

 

 甚壱は首を振った。

 

「読めん。そこいらの書店で買った辞書とにらめっこだ。WiFiも通ってないからな。一級術師達が異国の言語に頭抱えてる様は涙が出たぜ」

『やーい偏差値30』

「黙れ。文句があるなら手伝え」

『英語分からないわよ』

「よく馬鹿にできたな」

 

 良くも悪くも呪術に優れているか否かなど全く関係ないので禪院トップたる躯倶留隊の炳メンバーと女中見習いが肩を並べて辞書を見る。今までは絶対に起こりえない異様な光景も、既に当たり前の風景となった。

 真希が英語で書かれた何かを手に取る。真依も同じくこれが説明書なのかすらも分からない。高専も同じく、呪霊がほぼ日本でしか発生しない以上外国語は全く習わない。

 

「あ、ジジイは何でアニメ見てたんだよ」

「DVDだが?」

「……直哉はゲーム機持ってただろ。あれがあるならネットは通ってる。それ使えよ」

「今の日本でネットが通っているとでも?」

「なるほど。お手上げだ」

 

 そんな中、猪野琢真が一人手を挙げた。

 

「俺、少しなら読めるっスよ」

 

 場の注目が一斉に琢真に向かう。言外になぜだという視線。

 

「呪霊のいない海外に転職考えてたんで。七海さんと一緒に

「よし。真希、こいつ借りてくぞ。一番戦力になる」

「らしいですけど」

「せっかくここに来たんでやることはやるよ。終わったら俺も死滅回游に合流するぜ」

 

 死滅回游編。猪野琢真、棄権。戦力を得るどころか戦力を持ってかれた。

 

「とりあえず、乙骨は忌庫に行ってくれ」

『誰かに案内させた方がいいんじゃない?』

「蘭太をつける。あいつも暇だ。蘭太」

「ここに」

「忌庫を案内してやれ。二級程度なら見逃してやれ」

「分かりました!」

「ついて行くよ!」

 

 てちてちと、二人で去っていく。どこか似ている。きっと気が合うのだろう。

 

「やけに羽振りがいいな」

「お前たちに構っている暇などない。大方死滅回游に参加しろってことだろ」

 

 話は早いと真希は笑った。首筋の真依も笑う。

 

『わかってるじゃない』

「初めに言うが、躯倶留隊は死滅回游に参加しない

 

 真希がムッとした。甚壱は何処吹く風。

 

「普通に考えろ。相手は良くて準一級。最悪特級がうじゃうじゃしてる。比べてこっちは数も質も負けている。どうせ戦うなら殺しあって数を減らしてから戦う。

 まあ見たこともない当主サマが、死んでもいいから参加しろって言うなら別だが」

 

 甚壱の言うことは一理ある。いや、正論と言ってもいい。混乱具合で言えば一般人が溢れる外の方が大きい。だからこそ禪院は今それに追われているのだ。

 真希が黙り込む。

 

「改めてただの一般論を言わせてもらう。死滅回游は殺し合いだ。ルールも穴がある。中には猛者がうじゃうじゃ。誰が行くか。

 ………………じゃあ俺たちは何をサボってんだって顔だな。簡単だ。禪院家は一億呪霊と外患を何とかする」

 

 外患。つまり外国からの侵略である。

 

「俺は作戦を立てる人間じゃない。だから詳しく知らないが、外国に妙な動きがある。中国、ロシア、アメリカ。その他諸々。十中八九呪力の存在がバレたな」

「こんな時に」

「こんな時だからだ。日本はもう日本じゃない。総理大臣諸々が全員死亡。呪力とかいう謎のエネルギーをもつ宇宙人だ。

 外国共は恐らく首魁から唆された。死滅回游が始まることを知らずして独立国家相手にこの展開の速さは不可能だ」

 

 敵が多すぎる。真希は喧嘩腰にカチコミをかけたことを恥ずかしく思った。文字通り力を合わせないと勝てない。宿儺と羂索を斃したとして、外国に漁夫られては元の木阿弥。

 

「お前たちは死滅回游を終わらせ、羂索とやらを殺す。俺たちは外から守る。それでいいだろ。今すぐ首謀者を殺したとて、既に侵略は止められん」

 

 世界VS日本。その上一億呪霊も同時に相手するという最悪の構図が高専組の脳裏に浮かぶ。

 だがそれでも。五条悟が復活すれば、あの3人が死滅回遊を終わらせれば好転する。

 

「……相手は軍人だぞ」

「こっちは呪術師だ。伊達に年がら年中化け物と戦ってねぇし、なにも禪院だけじゃねぇ。九十九も五条もあと数百の分家もいる。ノコノコ上陸してきた客に思い知らせる。小さな島国にお前たちの神はいないことを」

 

 甚壱は好戦的に笑った。真希と真依、そしてパンダも思わず笑う。最悪の状況で得た利害の一致は謎の頼もしさがある。皮肉にも敵の存在が柵を取り去ったのだ。

 交渉は決裂した。禪院家その他は、外国という羂索の放った一手に対応しなければならない。つまり死滅回游はほぼほぼ高専組で何とかするしかない。

 解決すべき問題、

 死滅回游の終結。

 羂索の殺害。

 宿儺の殺害。

 一億国民総呪霊。

 加えて、外国への対処と国内の平定。

 何ひとつとして容易なものは無い。

 

((((やることが、やることが多い))))

 

『いいわ……具体的にどうするか教えて頂戴』

「甚爾が総監部を潰したらしいな。びっくらぽんだが、いまは好都合。日本のトップはいない。

 とりあえず誰でもいい、まとめ役としてお飾りの総理大臣を作る。それを裏で禪院が操る。アイヌから沖縄まで。相手は量も量。こちらも数が要る。総力戦だ。敵を返り討ちにし、侵略不可能だと思わせる」

「……親父はどこにいる」

「大阪府知事を守らせている。だが真希、お前が真依を呪物として取り込んだと知った時、きっとあいつはお前を殺す」

「『わかってる』」

「ならいい。俺たちは五条悟か九十九由基が欲しい。乙骨のような特級レベルじゃねぇ。デカくてゴツいこと出来る術師。つまり核兵器級呪術師だ。分かりやすく国に対するカウンターだな」

 

 猪野琢真の辞退により高専組追加参加者マイナス1。いや、協力者と対処すべき問題が両方増えた。つまりプラマイゼロ。仕方ないと腹を括り、真希達は禪院家を後にした。

 なおこの後、歌姫や三輪など非戦闘員が禪院本家に人手として駆り出される。

 

 

 

 

 ★

 

 

 

「平和か」

 

 喧騒の反対、静寂。核が置いてある庭とは真反対のこじんまりとした庭。直毘人の私室として最低限の使用人しかここにはいない。本家人間ですら立ち入りを制限されている場所。

 その縁側に直毘人はいた。核を購入した張本人。欠伸を躊躇いなくつき、失った腕を摩る。塞がった傷口に寒さがしみる。

 

「政治機能は麻痺。スケールがデカすぎる。陀艮よ、この戦いに勝者も敗者も存在せんな」

 

 例えば高専組全員が死亡すれば一億国民総呪霊は確定。それを止める人材はおらず、世界中に呪霊が溢れかえる。差別階級が複雑化し、新たな戦争の火種となる。そもそも一億呪霊により世界が滅ぶかもしれない。

 

 例えば高専組が勝利し、羂索も宿儺も斃したとする。だが他国に呪力の存在が知られてしまった以上、衝突は避けられない。もしかすると一億呪霊は最後のあがきに出されるかもしれない。

 

 

 

「混乱の時代。王が、必要だ。呪いも人も束ねる絶対強者が」

 

 

 

 脳裏に浮かぶ人物は───

 

 

 

 目を閉じる。

 

 

 

 

 目を開く。

 

 

 

 

呪霊がいる。目の前に。

 

 

 

 

「んお?」

 

 直毘人は構えなかった。ただ睨みつける。風格は特級。圧はない。なぜか親しみすら感じる。

 

「虫め。羂索の尖兵か?」

 

 呪霊は応えなかった。キョロキョロと周りを見回し、ゆっくりとそれを置いた。

 それは死後まもない女の遺体であった。見覚えのあるくせっ毛。なるほど、孫の髪は母譲りであったか。直毘人は全てを理解した。

 

「……逝ったか」

 

 生者だったものから目を離すと、既に呪霊は姿を消していた。間もなく後ろの障子が勢いよく開け放たれる。

 

「直毘人様! ご無事ですか!?」

「呪霊の気配が!」

「……遅いわ。土産置いて帰ったぞ」

 

 直毘人は立ち上がり、遺体に触れた。

 

「土産……? は? な、なぜここに一般人の死体が。呪霊も、結界が張られていたはず」

「あれは禪院の血のみ無条件よ」

 

 死体の正体を知るのは呪霊の親たる直毘人だけ。だからここに置いたのだろう。共にいるはずの娘の死体がないこともそういうこと。羂索の呪物に蝕まれた結果。

 

「今起こったことの口外を禁じる。特に高専どもにな。その死体は禪院だ。忌庫に放り込んでおけ」

「は、はい。しかしあの呪霊は」

「…………放っておけあんな馬鹿野郎」

 

 直毘人は改めて、呪術界はクソだと再認識した。

 

 一般人の死に慣れた。

 同僚の死に慣れた。

 知り合いの死に慣れた。

 家族の死に慣れた。

 山ほどいる息子の死には───

 形は違えど認めた孫、その母の死には───

 

「当主。車の用意ができました。別荘で夕餉をご準備しております」

「あ? 元当主だが?」

「我々にとって、直毘人様は当主です」

「頑固者め」

 

 裏門に迎えの車が訪れる。

 背後の喧騒から抜け出せばもうやることは無い。十分頑張った。あとは理想の生活が待っている。腹心を引連れ、権力と富をもったままの隠居。当主の座に座ってから追い求めたものがすぐそこにある。

 直毘人はニイッと凄惨に嗤った。

 

(息子と孫が俺を超えたか)

 

「俺はやるべきことが出来た」

「その身体でですか……」

「ん? 死滅回游にはいかん。何も戦いは結界の内だけでは無い」

 

 直毘人は天にその声を轟かせる。

 

「行く先は日本の新首都、大阪。お飾りのリーダーが必要と言うか。ならばこの俺が総理大臣とやらになってやろう。供をしろお前たち。

禪院を3キルしたドブカスに一泡吹かせてやるわ! がははは!」




死滅回游編始まって六話。次でやっとやっと結界に入ります

兄上は……

  • 仙台(四すくみボスラッシュ)乙骨別結界
  • 東京第二(鹿紫雲その他)秤パンダ別結界
  • 桜島(呪霊直哉その他)真希真依別結界
  • どれでも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。