戦国の鬼狩り、呪うは己   作:みくりあ

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火をつけろ、燃え残った全てに


第捌話 伏黒恵

 呪術師。

 呪いを操り、呪霊を祓う人達。汚れ仕事だと子供の頃から勘づいていた。親父は言わずもがな、なによりあの人の赤い瞳は血腥い狂気を孕んでいた。

 

 

 

 

 

「殺せ」

「は?」

 

 縛られた男女二人を前にして、親父がそう言う。状況が全く理解できない。いきなり路地裏に連れてこられて殺せと言われても混乱するだけだ。

 

「説明してくれ、こいつらはなんなんだ」

「男の方は呪詛師。何人か忘れたが、確か十人ちょい殺してる。お前は殺しに慣れるべきだ。式神は禁止な。自分の手で殺せ」

 

 親父からナイフ状の呪具を渡される。悪人ならば仕方ない。仕方ないんだ。

 

「……」

 

 思考を停止し、勢いのまま男の胸にナイフを差し出す。

 

「っ……!!」

「……」

 

 心臓の鼓動がナイフ越しに伝わる。何度か痙攣した後に、男は絶命した。無意識に息を止めていたらしく、酸素を求めて体が息切れしている。淡々と振舞おうにも気分は最悪だった。できるものなら二度と殺したくない。

 

「よし、じゃあ次はこいつだ」

 

 親父は隣の女を指さした。驚き、逃げ出そうと藻掻くも芋虫のように這いずることしか出来ない。

 

「なんで」

「何も一人とは言ってねぇ。こいつは呪詛師に情報を与えた。言わばただの仲介人。だが呪術規定通りなら即抹殺だからな。見逃せば逆にこっちがペナルティ食らう」

 

 女の左手薬指には指輪があった。要するにさっきの奴とは違い、少し悪党な一般人。呪いを知らない人間。俺の中学にゴロゴロいそうなやつ。

 呪いの世界は罪が重い。ただの万引きでもそれがコンビニの弁当ではなく呪具の場合、即刻死刑。こいつも軽い気持ちで情報を流したのに死刑。ここはそういう世界だ。

 

「…………クソ親父」

「なんとでも言え。呪具はしっかり握れ、汗で滑るぞ」

 

 女の前にしゃがむと、目に涙を浮かべながら首をふりだした。これから自分が死ぬと理解したらしい。化粧が涙と溶け合い、黒い線を残す。汗の滲む首筋にナイフを当て、一気に掻き切る。陸で溺れるように女は死んだ。

 

「おつかれさん。呪術師は仲良しこよしで化け物退治ってわけじゃねぇ。こういうこともある。まぁ、よく頑張ったな」

『<:^2<:=|÷ (〃^∇^)』

 

 頭に乗せられた手を八つ当たりで振り払う。何が面白いのか親父はケラケラと笑った。親父の呪霊が俺を見てなんか話した後、ゆっくりと死体を丸呑みしていく。

 

「焼肉でも食うか。明美には恵も晩飯要らねぇって言ってある」

「人殺した後に肉はないだろ」

「そうか?」

 

 初めて人を殺した。いつかは殺すと思っていた。でもこれで殺した人間より多くの善人を救ったと思えば少し心が軽くなった。

 底抜けの善人だった津美紀が呪われ、高専への入学が決まった中学三年の秋、多分その時が俺を呪術師にさせた。

 

 ★

 

「いや重いわ。世間話するノリで話さないでよ」

「お前が話せつったんだろうが」

「あんた、世間話にこんなクソ重い話カテゴライズしてんの? 闇深いわね」

 

 宿儺の器、俺の同期でもある虎杖が死んだ。あいつは善人だった。ただ巻き込まれただけの一般人。今までに何人も同僚が死んでるが、今回はさすがに堪える。

 気を使ってくれたのか使ってないのか、真希さんが俺たち一年をジュース買いにパシらせた。

 

「でも親子揃って呪術師って言うところは同じね。私の場合おばあちゃんがそうだけど。人殺したらフラッシュバックとかするんでしょ?」

「もうしない。それに親父は呪術師って訳でもない……気がする」

「はっきりしなさいよ」

「仕事はしてない。姉の看病でずっと家にいる」

「いいパパじゃん……何その顔。ああ、働いて欲しいってこと?」

「いや、たまに人体実験に協力してるから金は稼いでる」

「だから闇深いって」

 

 呪術師かどうかと言われると微妙。良い父親かと言われると、あれは決してそうじゃない。遅いのに適当。丁寧で早いあの人と真逆だ。しかも母さんが働けるようになった瞬間ヒモを決め込みやがった。

 

「にしても暑っつい。クーラー搭載した式神持ってない?」

「持ってるわけないだろ」

「使えねー」

 

 十種を使えないっていうの、多分世界でお前だけだぞ釘崎。でも家入さんは五条先生に『無下限使えねー』とか言ってそうだ。

 

「自販機のレパートリーすっくないわね。三段もあるのに一段全部水ってなめてんの?」

 

 そんなこんなでだらだらと話していると、人の気配が近づいてきた。

 男女の二人組。偶然にもどちらとも知った顔だ。これから行う姉妹交流会、その交流相手である京都校の生徒。しかし開催は数日後のはずだ。

 

「恵くーん、久しぶりねぇ」

「真依さん」

「伏黒恵ィ!」

「………………東堂」

 

 東堂葵。形上は兄弟子。一応先輩ではあるが尊敬の欠片もないから一切敬語は使わないでいる。中坊の時から何度もボコられた。こいつの術式は俺の術式と相性が悪い。

 禪院真依。真希さんの双子の妹。会う機会はあまりない。初対面は五条先生が面白半分に五条家と禪院家の会合に俺を連れていった時だ。あれはただの事件だった。一歩間違えたら死人が出てた。

 

「何、二人とも知り合い?」

「女の方が禪院真依先輩。男の方が東堂葵。両方先輩だ」

「やっぱり双子? 苗字もそうだし何より似てるもん」

「あら女の子じゃない。仲良くしたいから真依って呼んで」

「うお、オトナの色気ー!!!」

「うふふ、ありがとう」

 

 見えない尻尾を振り回しながら釘崎が真依さんに擦寄る。あいつの謎な後輩力はなんだ。真依さんは真希さんとバチバチに仲悪いの教えてあげるべきだろうか。

 姦しい女二人を後にして、東堂が俺の方に躙り寄る。

 

「さてさて。何を聞きたいか、分かっているな?」

 

 東堂は上着を脱ぎ捨てた。釘崎がドン引くのを横目に、影の中にしまってあるジュースを全て外に出す。こいつと戦う時はできるだけ身軽の方がいい。

 

「何度聞いても変わらねぇよ。揺るがない人間性。俺が女性に求めるのはそれだけだ」

「……つまらん!」

 

 突然東堂は肉薄し、俺を殴り飛ばした。咄嗟に腕で防御したが打撃は重く、受け流すので精一杯。前会った時より速さも威力も上がっている。来るとわかっていたのに避けられなかった。この交流会は三年の奴にとって最後の交流会だ。仕上げてきやがった。

 

「"玉犬・渾"」

 

 一先ず玉犬に体を受け止めさせる。玉犬の白と黒を併せ持った渾。見た目は人狼だ。白黒のままでは出来なかったが、今なら吹っ飛んだ術師一人ぐらい難なく受け止められる。

 俺の怒りに呼応した玉犬が唸り声を上げた。眼光はギラつき、東堂を見据えている。

 

「何すんだ」

「相変わらずつまらん男だが、兄弟弟子だからな。高め合うのは運命(さだめ)よ。一年でどれ程成長したか、この俺が確かめてやる!」

 

 東堂は涙を流しながら拳を構えた。相変わらずキモイ。こんなのが由基さんの弟子なのか未だに信じられない。

 モラルとか絶対教えてないだろ。

 

「来い!」

「そう言いながらお前が向かってくんのかよ!」

 

 "貫牛"

 

 貫牛は牛の式神。突進距離が長ければ長いほど高威力。こいつの単発火力は万象のスタンプに比肩する。貫牛は一声嘶くと、東堂に向けて突貫した。

 

 

パン!! 

 

 

「ぐっ……!?」

 

 東堂が手を叩いた瞬間、隣にいた玉犬が消えて貫牛が現れた。突進の威力はそのまま俺にぶつかったらしい。いつの間にか入れ替える向きも自在になったのか。

 〝不義遊戯〟それが奴の術式。呪力を持ったもの同士を入れ替えるシンプルなもの。集団戦でそのポテンシャルを遺憾無く発揮するというのにこいつは集団戦が苦手。

 由基さん集団戦も教えてないだろ。

 

 状況を理解し、俺のカバーに動いた玉犬が東堂に襲いかかる。当たれば円鹿の治療は避けられない牙と爪を東堂は器用に避ける。

 

 "円鹿"

 

 その間に傷を癒す。骨は折れていないが腕は腫れていた。何がなんでも腕と指は最優先で治す。円鹿の鼻先が腕に触れると腫れが引いていく。

 

「俺の術式を忘れたのか? 式神を増やすほどオマエは不利になるぞ……そんなことよりぃ!」

 

 東堂はズボンからチケットを二枚取り出した。待て、どこから取りだした? ポケットだよな? 

 

「喜べ。高田ちゃんの個握を入手した。相変わらずつまらん男のままだったが、それでも誘うのがファンというもの。俺とオマエでちょうど二人分ある。

 今から準備し」

「……" 万象"」

 

 象の式神で辺り一体に水を撒き散らす。キメ顔のまま濁流に飲み込まれていく東堂。

 いや、全身浸かっているように見えて水面からチケットを持った手首だけ出している。

 

「オイッ! 濡れたらどうする!」

「まじで何しに来たんだよ」

 

 水だと言うのに腕だけ器用に避ける。全身ずぶ濡れになってもチケットだけ濡らそうとしないのはファンの鑑なのか。

『高田ちゃん』か、そういえばこいつに話すことがあった。

 

「東堂、高田さんのメアド持ってるけど、いるか?」

「め???? あ?? ど」

「この前握手会連れてかれた時に渡された。話したいだろ」

 

 東堂は臨戦態勢を解いた。そして暫しの沈黙。

 

 

 

 

 

うぉあああああああああああ!  

 失念していた……髪質は終わっているが、整えれば親父そっくりのナイスガイだった! あの呪詛師殺しをヒモたらしめた『顔の良さ』。伏黒恵はそれを受け継いでいた!!! いやまて。連絡先を渡すのはアイドルにとってタブー。高田ちゃんは絶対にそんなことはしない。だがっ!!! 俺の中の高田ちゃんは伏黒恵に強い興味を抱いている。つまり、伏黒恵が高田ちゃんにとってそれほど魅力的ということ!! 

 では、俺は伏黒の趣味をつまらないと言ったが、それは高田ちゃんそのもので……ま、待ってくれ、俺の中の高田ちゃぁあああああ」

 

 まずい。何言ってるか分からないが東堂の呪力が荒れている。暴走? そんなことが有り得るのか? 殴って治すか。由基さんだってそうしてたし。

 

「……東堂落ち着け!!」

 

「なんだ?」

 

「急に落ち着くな!」

 

「ふふ、ふふふふふ。至ったぞ、我が弟弟子。俺はただのファンだ。プライベートでは部外者でしかない彼女自身の好みに口を出す権利は無い。お前が幸せにするんだ。

 俺は俺の信じる彼女を推し続ける。それが俺に出来る唯一の贖罪だからな」

「東堂……なんだその……澄んだ瞳は」

「個握は俺一人で行こう。上着どこやったっけな」

 

 本当になんなんだこいつは。訳が分からない。あと万象で濡れたから上着を羽織っていようと下半身はずぶ濡れだぞ。

 一先ず嵐は去った。顕現している式神達を影に帰す。自動販売機の前に戻ると釘崎と真依さんが談笑していた。釘崎の飲んでいるジュースは俺のだし、真依さんの飲んでいるジュースは真希さんのだ。

 

「伏黒、あんたの父親やばいわね」

「真依さん。何を吹き込んだんですか」

「別にぃ〜?」

「釘崎、何を吹き込まれた」

「ダメよ。多分恵クンも知らないことだから、これは野薔薇ちゃんとのヒミツよ」

「そーだぞ伏黒、女の秘密に口だすな」

「はぁ。いいですけど、先輩たち待たせてるんで俺達はここで失礼します」

「オイ、勝手に終わらすな」

「いーのよ野薔薇ちゃん、恵クン。交流会で会いましょう」

 

 背を向けて去っていく真依さん。釘崎はその姿に目を輝かせている。階段をおりて背が見えなくなるまで手を振っていた。

 

「いい? 伏黒、あれが女の余裕よ。きっと私達を元気づけに来てくれたんだわ。おちおち後ろ向いてらんないわね」

「……!」

 

 あの二人が俺たちを元気づけるために来たのか。東堂さえもそうだとしたらどこまで本気だったんだ? あの奇行も全て俺たちのためだってことになるか。

 

「ないな。うん、ありえない」

「はぁ? ありえないってなによ」




東堂
この後気を使った真衣が個握について行った。脳内高田ちゃんは消滅した。存在していたのかすら怪しい。

伏黒恵
父親が生きてることによって、禪院と切っても切れない縁がある。そして原作ほどギラついていない。少しマイルド
真希真衣は兎も角として禪院と縁を切りたい恵VSなんとか関係を持ちたい禪院家VS恵が当主になるなら関係を持ってもいいと考えている甚爾VSダークライ
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