ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第4話(1)試される大地にて

                  肆

 

「この北海道は今、極めて困難の状況に直面しており……」

 

「zzz……」

 

 眼鏡で七三分けの神経質そうな黒いスーツ姿の男性が説明をしているが、もじゃもじゃ頭で白と黒の縦縞のスーツを着た男性はソファーの上で胡坐をかいたまま、すっかり船を漕いでしまっている。七三分けが声を上げる。

 

「聞いておられますか⁉ 大田屋さん!」

 

「! あ、ああ、聞いてます、聞いてます……」

 

「嘘でしょう! 今寝ていたじゃないですか!」

 

「ね、寝てませんよ……」

 

「いや、完全に寝ていました!」

 

「洋太よ……」

 

 もじゃもじゃ頭の前に座る禿頭の男性が口を開く。

 

「はい?」

 

「事態はいよいよと深刻なのだ……」

 

「きな臭い噂は色々と聞きますよ。恐竜女帝が派手に動いたり……」

 

「耳が早いな」

 

「そこは鼻が利くといって欲しかったな」

 

 もじゃもじゃ頭が笑みを浮かべながら鼻の下をこする。

 

「とにかくだ……」

 

「十の道州の一つである北海道、しかしてその実態は、道央、道北、道東、道南と大きく分けて四つのエリアに分裂してしまっている……」

 

「うむ……」

 

「この現状を今は名ばかりの道知事さまは憂いておられると」

 

「し、失礼な!」

 

 七三分けが立ち上がろうとするが、禿頭がそれを制す。

 

「やめろ……」

 

「し、しかし……」

 

「いいからじっとしていろ」

 

「は、はい……」

 

 禿頭がもじゃもじゃ頭に向き直る。

 

「洋太よ、その現状を解決したいと思って、お前をここに呼んだ」

 

 禿頭が両手を広げる。ここは北海道庁の道知事執務室である。机や椅子をはじめ。質の良い調度品が並んでいる。もじゃもじゃ頭が胸を撫で下ろす。

 

「ああ、そいつは良かった」

 

「良かった?」

 

「てっきりお説教でも喰らうのかと……『雪京(せつきょう)』のど真ん中で説教など笑えないですから」

 

 雪京……北海道の道都である札幌市は今、このように呼ばれている。

 

「わざわざ説教などせん、儂はお前さんの親じゃないんだ」

 

「僕が駆け出しの頃から面倒見てもらっていますから、親のように思っていますよ」

 

「それは迷惑な話だな」

 

「ご心配なく、慕ってはおりませんから」

 

「それは腹立つ話だな」

 

「「はっはっは!」」

 

 禿頭ともじゃもじゃ頭は顔を見合わせて笑う。

 

「……ごほん!」

 

 七三分けが大きく咳払いする。禿頭が真面目な顔に戻る。

 

「……話は戻るが」

 

「各エリアと友好な関係を取り戻したいと……」

 

「ああ」

 

「だけれども、長年続いている内乱で関係はぎくしゃくしている為、表立った使者は送りにくい……よってあくまでも非公式に動いて欲しいと」

 

「理解が早くて助かる」

 

 もじゃもじゃ頭の言葉に禿頭が笑みを浮かべる。対してもじゃもじゃ頭は頭をかきむしりながら苦笑する。

 

「理解というか、大体予想がつくというかね……」

 

「なんでもお見通しか、商人の大田屋洋太は」

 

「なんでもってわけではないですが、それくらいでないとここまで生きてこられませんでしたから。結構危ない橋も渡ってきましたし……」

 

「今回も危ない橋を渡って欲しい」

 

「直球な物言いですね」

 

 もじゃもじゃ頭は面食らう。禿頭が頭を下げる。

 

「お前さんにしか出来ないことだ、頼む」

 

「……見返りは?」

 

「……見せてやれ」

 

 禿頭に促され、七三分けが手に持っていた書類をめくって見せる。もじゃもじゃ頭は無精ひげの生えた顎をさする。

 

「ふむ……」

 

「満足か?」

 

「……プラス前金が欲しいですね」

 

「いい加減にしなさい! 愛する北海道の危機なのですよ⁉」

 

 七三分けが怒る。もじゃもじゃ頭は平然とした態度で応じる。

 

「郷土愛だけじゃ命は張れませんよ」

 

「くっ……」

 

「……分かった、いくら欲しい?」

 

「知事⁉」

 

 もじゃもじゃ頭が禿頭の問いに答える。

 

「う~ん、この提示額の40%かな」

 

「高い、30%だ」

 

「ここで値切りますか? ……37%」

 

「……33%」

 

「……もう一声」

 

「……35%」

 

「分かりました、道知事さまのご依頼、引き受けましょう」

 

 もじゃもじゃ頭は右手を差し出す。禿頭も右手を出し、握手を交わす。

 

「……危険な任務だ、腕の立つ護衛を数人付けよう」

 

「ああ、ちょっと待って下さい」

 

「?」

 

 もじゃもじゃ頭はポケットからサイコロを取り出して笑う。

 

「……大事なことはこいつで決めているもの……で!」

 

 もじゃもじゃ頭がサイコロを転がす。4の目が出た。禿頭が首を傾げる。

 

「……それで?」

 

「奇数ならイエス、偶数ならノーと思っていたので……護衛は結構です」

 

「なんだと?」

 

「危ない橋なら尚更叩いて渡りたい……護衛は自分で探しますよ」

 

「どうやって手配するつもりだ?」

 

「その為の前金です」

 

 もじゃもじゃ頭はニコっと笑う。

 

「ふん……払ってやれ」

 

 禿頭が促し、七三分けが別室から前金を持ってくる。もじゃもじゃ頭が金を数える。

 

「へへっ、確かに……」

 

「頼むぞ、洋太」

 

「お任せ下さい。ああ、道知事さま……」

 

「ん?」

 

「今は僕、黒田屋光兵衛(くろだやこうべえ)と名乗っておりますので……そこんとこよろしく♪」

 

 光兵衛と名乗ったもじゃもじゃ頭は軽い足取りで執務室を後にする。

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