ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(3)蛇の道を統べる

「ついていくとは言いましたが、まさかさいたままで来ることになるとは……」

 

 鈴紫が呟く。新緑が周囲を見回して口を開く。

 

「ここがさいたまか、来たのはガキの頃以来だが……栄えているな」

 

「それも当然です。かつては新都心とまで呼ばれた土地ですから」

 

「そうなのか? 物知りだな……」

 

「これくらい常識でしょう……」

 

「常識? そ、そうだったのか……」

 

「それならば、あのこともご存知ないのでしょうね……」

 

「何だ?」

 

「ここに南関東州の州都を移すという計画です。名称は『彩京(さいきょう)』……」

 

「さ、さすがにそれはマズくないか?」

 

「何がですか?」

 

「い、いや、このさいたまを含めて埼玉県というのは、その昔に南関東州から奪った土地なわけだろう? そこに州都を移すのは、南の連中を刺激するんじゃないか?」

 

「南の方々にはお返ししないという意思表示でもあります」

 

「騒動拡大の要因になるだろう……今は一応停戦中とはいえ、多摩地域あたりでは小競り合いが頻繁に起こっているぞ」

 

「それは知っていますよ。ですが、正式に州都に定めることでさらなる発展も望めます」

 

「理解は出来るが、少々過激な考えだな……」

 

「貴方が保守的過ぎます。いや、この場合は臆病と言った方が良いかしら?」

 

「なんだと?」

 

 新緑が立ち止まって、鈴紫を睨む。鈴紫が笑みを浮かべる。

 

「あら、怒りました?」

 

「……いや、ここで揉めてもしょうがない……」

 

 新緑が前を向く。鈴紫が首をすくめる。

 

「なんだ、つまらないの……」

 

「ねえねえ! 二人とも!」

 

 前を歩いていたラウラが振り返る。新緑が問う。

 

「どうした?」

 

「あーし、初めて来たんだけど、この街……ダサいね!」

 

「!」

 

「お、大声で何を言いだすんだ、お前は⁉」

 

 ラウラの発言に鈴紫が驚き、新緑が慌てる。

 

「率直な意見を述べたまでだけど?」

 

「こ、この土地でそれはNGワードですわ……」

 

「NGワード?」

 

 ラウラが鈴紫の言葉に首を傾げる。

 

「おいおい、姉ちゃん……」

 

「ん?」

 

「聞き捨てならねえことを言ってくれるな……」

 

 ガタイの良い男たちがラウラに近づいてくる。

 

「姉ちゃん、さっきの言葉、訂正するなら今だぜ?」

 

「……訂正する必要ないでしょ?」

 

「! ほう……生意気な姉ちゃんだ……これはお仕置きする必要がありそうだな……」

 

「おい、お前ら、ちょっと待て……」

 

「! す、すみません……」

 

 オレンジ色の派手な服装に身を包んだ小柄な男がゆっくりと近づいてくる。

 

「アンタは……」

 

「そうだ、俺はこの街で一番のチーム、『スネイクハーツ』のヘッド、橙谷陽光(とうやようこう)だ!」

 

「……」

 

「へっ、後ろの二人も含めて、驚きのあまり言葉も出ないか?」

 

「「「ダサい!」」」

 

「なっ⁉」

 

 橙谷と名乗った男がラウラたちの反応に愕然とする。

 

「自ら名乗るのもダサいし、チーム名もダサい、ってか、今時ヘッドって!」

 

「お、おい! 追い打ちをかけるな!」

 

「それはオーバーキルですわ!」

 

 まくし立てるラウラを新緑と鈴紫がいさめる。

 

「い、良い度胸しているな、姉ちゃん……名前は?」

 

「あーしは井川ラウラ」

 

「知らねえなあ……ん?」

 

「ご、強盗だ!」

 

 目出し帽を被った男たちが近くの店から出てくる。橙谷が苦笑しながら男たちに近づく。

 

「はっ、俺のシマで良い根性してるぜ……」

 

「な、なんだ! そこをどけ、チビ!」

 

「ふん……」

 

「があっ⁉ な、なんだ、これは……蛇⁉ 痛っ!」

 

 青と赤、二匹の蛇が男たちにまとわりつき噛みつく。男たちがその場に崩れ落ちる。

 

「ち、力が抜ける……ひょ、ひょっとして毒か⁉」

 

「安心しな、毒は無えよ。しばらくは動けねえがな……って、聞いてねえか。おい!」

 

 橙谷に促され、ガタイの良い男たちが強盗を運んでいく。ラウラが声をかけようとする。

 

「あのさ……」

 

「俺は『邪道』と『蛇道』……二つの『じゃどう』を極めた男だ……」

 

「また一人で喋り出してるし……まあ、いいや、あーしと勝負しようよ」

 

「あん? 勝負だと?」

 

「うん、負けた方が勝った方の言うことを聞くの。負けたらあーしについてきて」

 

「……まあいい。姉ちゃんなんて俺の操る蛇の相手じゃないぜ……」

 

「……!」

 

 ラウラが睨みをきかせたかと思うと、二匹の蛇が突然泡を吹く。橙谷が慌てる。

 

「! どうした⁉ 蛇太、蛇子⁉」

 

「ダサ……いや、シンプルな名前……大丈夫、ちょっと気絶させただけだから」

 

「蛇を睨んで気絶させる⁉ なんだお前は!」

 

「蛇が使えないなら、勝負ありかな?」

 

「なめんなよ……!」

 

 橙谷が体をにゅるにゅるとさせる。ラウラが怪訝そうに尋ねる。

 

「なに……それ?」

 

「俺は自らの体を蛇のように動かすことが出来る体術の持ち主! 蛇に頼らずとも……⁉」

 

「あらよっと……」

 

 ラウラが橙谷との距離を一瞬で詰め、羽交い締めにする。

 

「ぐっ⁉ 言っただろう! 俺は蛇のような動きを極めた! これ位の極め技など……!」

 

「生憎、あーしも極め技はかなり極めてるんで……」

 

「ぐおっ……」

 

「降参するなら今の内だよ?」

 

「だ、誰が……」

 

「……へえ、結構根性あるね、気に入ったよ」

 

 ラウラが橙谷を解放する。

 

「ぐはっ! はあ、はあ……」

 

「打撃や投げだけでなく、極め技もハイレベルだな……」

 

 新緑が感嘆とする。ラウラが告げる。

 

「多少のダサさには目をつむる! 陽光、あーしらと一緒に来てもらうよ!」

 

「ふ、ふざけんな! 俺はまだ負けてねえ!」

 

 強がる橙谷に対し、鈴紫が囁く。

 

「大人しく従った方が身のためですわよ? ラウラさんは群馬のお生まれですから……」

 

「ぐ、群馬の⁉ わ、分かった、従おう……」

 

「なんか引っかかるなあ……まあいいや、行くよ」

 

 ラウラが頭を掻きながら、東に向かって歩き出す。

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