ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第9話(4)己の道を邁進する

「ここは……?」

 

「越谷ですわ」

 

 新緑の疑問に鈴紫が応える。

 

「そうか、しかし、これはどこか変わった街並みだな……」

 

「商業施設の延長線上みたいなものだからな」

 

 新緑の呟きに今度は橙谷が応える。

 

「商業施設……ひょっとして?」

 

「ああ、いつの間にか街そのものがほとんどぞのまま商業施設になっちまったんだよ」

 

「そ、そんなことがあるのか⁉」

 

「実際こうして起こったんだから仕方がねえだろう」

 

 橙谷が両手を広げる。新緑が首を傾げる

 

「むう……昔の人は一体何を考えていたのか?」

 

「利便性を追求した結果、こうなったのでしょうね。やや極端過ぎる気もしますが……」

 

「で、ここに何の用なんだ? アイツ……」

 

 橙谷が三人の先を歩くラウラに目をやる。ラウラはいつの間にか猫を拾って、両手で大事そうに抱えて歩いている。鈴紫が首を傾げる。

 

「……さあ? とにかく勝負の結果、ラウラさんについていくと決めたわけですから」

 

「そうだ、自分たち全員、手も足も出ずに負けたからな……」

 

 新緑が自嘲気味に呟く。

 

「アイツ、マジでなにもんだよ……」

 

 橙谷があらためてラウラに目をやる。しかし、視線は自ずと、ぷりぷりと揺れるお尻の方へと行ってしまう。鈴紫がそれを横目で見て、冷たい声色で告げる。

 

「おかしな気を起こさないように……」

 

「ばっ⁉ ち、違えよ!」

 

「それなら良いのですが……もっとも、返り討ちに遭うのが関の山でしょうけど」

 

「ははっ、それは十分にあり得るな……ん?」

 

 ラウラが迷彩服を着た集団に囲まれる。その中で上官らしき男が告げる。

 

「失礼、井川ラウラさんですね?」

 

「そうだけど?」

 

「自分たちは北関東州軍の者であります!」

 

 リーダーの敬礼に合わせて集団が敬礼する。ラウラがうんざりした様子で答える。

 

「……それは見れば分かるよ」

 

「貴女には召喚命令が出ています。直ちに州都『学京(がくきょう)』まで御足労願いたいのですが」

 

「なっ⁉」

 

「州都からの呼び出しとは……」

 

「あ、あいつ、マジでなにもんだ?」

 

 新緑たちがそれぞれ驚く。

 

「イヤだ」

 

「「「ええっ⁉」」」

 

 ラウラの即答に三人は揃って驚く。上官が表情を崩さずに問う。

 

「何故でしょうか? 理由をお聞かせ願いたい。自分で言うのもなんではありますが、我々はエリート部隊です。その我々がお迎えに上がった……礼は尽くしているつもりです」

 

「どうでも良いよ、ナンパは断るようにしてんの。はいはい、つくばに帰った帰った」

 

 ラウラが手で追い払うような仕草をする。上官もさすがに表情をわずかではあるが崩す。

 

「む……仕方ありません……こうなれば実力行使です」

 

「うん?」

 

 集団がさっとラウラを囲む。上官が告げる。

 

「力づくでも連行しろと言われております! お覚悟を!」

 

「ちょ、ちょっと! 猫ちゃんで両手塞がってんだけど!」

 

「それがこちらの狙いです!」

 

「! あーしの好きそうな猫ちゃんを接近させるとは……なかなかやるじゃん」

 

「かかれ! 両手を満足に使えなければ、その力は半減するはず!」

 

 集団の中でも屈強な肉体の男たちがラウラに飛びかかる。上官が声を上げる。

 

「ところがどっこい♪」

 

「‼」

 

 ラウラが片手で逆立ちしたかと思うと、長い両脚を器用に使って、男たちを倒す。

 

「こっちの方が得意だったりして~」

 

 ラウラが片足を高々と上げ、綺麗なY字バランスの姿勢を取ってみせる。

 

「くっ、射撃用意!」

 

 上官の命令に従い、集団が銃を構える。ラウラが目を細める。

 

「……周囲に流れ弾が飛んだらどうすんの?」

 

「制圧用のゴム弾です! 殺傷能力はない! それに全弾しっかり貴女に命中させる!」

 

「ふ~ん……」

 

「撃て!」

 

「⁉」

 

 射撃の直前にラウラが高々と飛び上がる。ラウラが脚を振り下ろす。

 

「はあっ!」

 

「ぐおっ!」

 

 脚から衝撃波が発生し、集団は地面に押しつぶされるような形になる。上官が呟く。

 

「驚異的な跳躍力……こ、これが『魔女』……」

 

「その呼び名、好きじゃないんだよね……猫ちゃん、お帰り」

 

 ラウラが猫を名残惜しそうに手放すと、猫はとことこと倒れている上官の下に近づく。

 

「ぐっ……」

 

「猫ちゃんがそんなに懐いているなら、アンタはそんなに悪い男じゃないね。これくらいで勘弁してあげる。上の連中に伝えといて、軍に籍を置いたのはあくまで一時的なこと……戻る気はない。あーしは好きにやらせてもらう。あーしは何者にも縛られない……」

 

 ラウラがその場から颯爽と去る。新緑たちが慌ててその後に続く。

 

「……あ、ラウラだ!」

 

「ラウラお姉ちゃん!」

 

 子供たちがラウラの下に集まる。ラウラは子供たちの頭を優しく撫でる。

 

「久しぶり。元気だった~?」

 

「……その子たちは?」

 

 新緑が問う。ラウラが優しい声色から一転して、厳しさを感じさせる声になる。

 

「群馬を追われてここに避難してきた子たちだよ……」

 

「!」

 

「あーしは北関東州がどうなろうとどうだって良いの。ただ、故郷の群馬は絶対に取り返す……大地、美華、陽光、その為に力を貸してもらうよ……!」

 

 ラウラが三人を見て、自身の決意を力強く告げる。

 

――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――

 

 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。

 

 十の道州の内の一つ、北関東州は当初、三県のみの貧弱な勢力であった。しかし、埼玉県を陥落させるなど、予想以上の戦いぶりを見せた。それには『魔京』と畏怖される、群馬出身の者たち、『魔人』や『魔女』ら――本人たちはそう呼ばれることを嫌がった――の活躍に拠ることが大きかった。しかし、皮肉なことに手薄になった群馬を奪われてしまう。

 

 州政府はこの現状を重く受け止め、群馬の奪還、合わせてなにやら不穏な動きを見せる南関東州や、周辺地域への警戒を強め、軍事力の増強に取り掛かった。一人の女性を連れ戻そうとしたのもそうした動きの一環である。

 

 その女は手を使った打撃、投げ、極め技に秀でている。

 

 しかし、もっとも得意なのは足技である。

 

 誰の物でもない生き方に誇りを持っている。

 

 己が道を自由に進む。

 

天衣無縫(てんいむほう)魔女(まじょ)

 

 井川(いがわ)ラウラ

 

 商業施設でその決意を新たにする。

 

 最後に笑うのは誰だ。

 

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