ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第10話(4)舞姫は遅れてやってくる

「お、大きい陰の者!」

 

「合格者……ゼロでは……ノルマが……」

 

 大きな陰の者は呻くように呟く。レオナルドが頷く。

 

「あの男性ね、大分ストレスが溜まっていたのね!」

 

「……ダメ押ししたのでは?」

 

 蜜がレオナルドを見て小さく呟く。純が蜜を注意する。

 

「蜜、思っていても言ってはいけないこともある」

 

「ぎゃおおっ!」

 

「……オーディション参加者などは無事のようね……これ以上暴れる前に祓わないと!」

 

「!」

 

 レオナルドが銃を放つ。当たってはいるが、効果はほぼない。レオナルドが舌打ちする。

 

「はっ!」

 

 蜜が矢を放つ。矢は突き刺さるが、祓うまでには至らない。

 

「ならば!」

 

 純が棒で思いきり叩く。それでも効果は薄い。

 

「ウチがいく!」

 

 光が果敢に斬りかかる。剣は当たることは当たるが、祓えない。

 

「ぎゃおおおっ!」

 

 大きな陰の者が影を振りかざし、半壊していたビルをさらに破壊する。光たちとレオナルドはなんとか地面に着地するが、うかつには近づけなくなってしまう。

 

「くっ! どうしたもんかしらね……」

 

「檜ボンバイエさん!」

 

「レオナルド檜よ! 檜以外一文字も被ってないとか、どんな奇跡を起こしてんのよ⁉」

 

 レオナルドが光に対して声を上げる。

 

「レオナルド檜さん!」

 

「レオでいいわよ!」

 

「レオさん! ここはウチらに任せて下さい! 策があるっす!」

 

「……任せるわ!」

 

「そうこなくっちゃ! 純! 蜜! 準備だ!」

 

 光はレオナルドの答えに笑顔を見せ、純と蜜に呼びかける。二人は自分の楽器を準備する。

 

「……準備出来た」

 

「光、いつでもいいぞ!」

 

「上等!」

 

 光がベースを構え、マイクスタンドを立てる。レオナルドが目を丸くする。

 

「こ、これは……まさか!」

 

「ワン、ツー……ワン、ツー、スリー、フォー!」

 

「~~~♪」

 

 純のカウントに合わせ、三人が演奏を始める。

 

「~~~~~♪」

 

 光が声を張り上げる。レオナルドが舌を巻く。

 

「ほとんどシャウトのようでありながら、メロディーも感じられる……! まさに熱唱!」

 

「うぎゃおおっ!」

 

 大きな陰の者がたじろぐ。レオナルドが驚く。

 

「歌の力、音の圧で祓おうとしている……! こ、こんなことが⁉」

 

「~~~~♪」

 

「ぎゃおおおおっ!」

 

「‼」

 

 大きな陰の者が反発したことによって衝撃波のようなものが発生し、光たちは吹っ飛ばされそうになる。光が悔しがる。

 

「ウチらの音が通用しないっての⁉」

 

「あの~?」

 

「⁉」

 

 光たちとレオナルドが振り返ると、男物の着物を大胆に着崩した、スタイルの良い女性が立っている。女性は顔立ちこそやや柔和だが、男性的な髪型と合わさって、どこか中性的な雰囲気が漂っている。女性は再度口を開く。

 

「あの~お伺いいたしますが……レオナルド檜さんが審査員をされているオーディション会場はこちらでしょうか?」

 

「……は?」

 

「あ、違いましたか、これは失礼しました……」

 

 女性は頭を丁寧に下げ、その場から立ち去ろうとする。レオナルドが慌てて呼び止める。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! オーディション会場はここ! レオナルド檜はアタシ!」

 

「ああ、そうでしたか……良かった……」

 

「っていうか、オーディションどころじゃないの、見て分かるでしょ⁉」

 

 レオナルドが大きな陰の者を指し示す。女性がそれを見て頷く。

 

「これはまた大きな陰の方……気付きませんでした」

 

「いや、気付くでしょ⁉」

 

「私もどちらかと言うと……いわゆる『陰キャ』なもので……」

 

「そんな派手な恰好しているのに⁉」

 

「と、とりあえず、演奏を再開するよ! ~~~♪」

 

 光たちが再び演奏を始める。それでも大きな陰の者の勢いはほぼ弱まらない、

 

「ふむ、良い音色ですね……体が自然と反応してしまいます。~~~♪」

 

「こ、これは……!」

 

 女性が踊り出すと、彼女の体から眩い輝きが放たれ、大きな陰の者が後退する。

 

「~~隙有り!」

 

「ぐぎゃおおっ⁉」

 

「お、踊りながら、殴って、蹴った⁉」

 

 女性のパンチとキックが炸裂し、大きな陰の者は祓われ、元の男性の姿に戻る。

 

「……お粗末さまでした」

 

「……貴女、名前は?」

 

「あ、はい、御子柴心(みこしばこころ)と申します……」

 

「心、貴女は何のためにこのオーディションに?」

 

「えっと……近所の――出雲の方なのですが――お社の修繕費用を勧進するために……」

 

「……要は金のためね?」

 

「身も蓋もないことを言えば……」

 

「オッケー、光、貴女たちのバンドに彼女を加えなさい。それで全員合格よ」

 

「はあっ⁉ バンドにダンサーを⁉」

 

「あらら……」

 

「面白くなってきたわね……」

 

 戸惑う光たちと心をよそにレオナルドが不敵な笑みを浮かべる。

 

――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――

 

 日本は十の道州と二つの特別区に別れた。

 

 十の道州の内の一つ、西に位置する中国州は当初、隣接する九州からたびたび侵攻を受け、苦しい立場に立たされていた。しかし、陰と陽の気が複雑に絡み合う土地柄がプラスに作用し、陽の者たちの活躍によって侵攻を撃退することが出来た。

 

 だが、マイナス面として、陰の者の暴走に悩まされることにもなった。正規の軍人たちだけでは限界があると考えた州政府は民間からも力を集めようと考え、様々な施策を打った。広島で行われたオーディションもその一環であった。

 

 その女は舞いに優れている。

 

 男装するなど派手な人目を惹くいで立ちである。

 

 しかし、根は生粋の陰キャ気質である。

 

 勇気を持って一歩を踏み出した。

 

乱世(らんせ)舞姫(まいひめ)

 

 御子柴心(みこしばこころ)

 

 平和都市広島で新たな舞台を定められる。

 

 最後に笑うのは誰だ。

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