ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第2話(1)新幹線にて

                  弐

 

「よう、どうだい、調子は?」

 

 北陸の地を南西に進む新幹線の車中で、色眼鏡をかけた大柄な男性が、ガムをくちゃくちゃとさせながら、眠りについていた痩身の、これまた眼鏡をかけた男性に声をかける。

 

「……」

 

「おっはー」

 

 大柄な男性は両手をパッと広げておどける。瘦身の男性は不機嫌そうにシートから半身を起こし、声を上げる。

 

「……車掌さん、迷惑客がいます」

 

「おおい! 迷惑客扱いすんなよ!」

 

「どこからどう見ても迷惑客だろう……」

 

 痩身の男性は大柄な男性をまじまじと見つめる。白いつなぎには、よく分からない色が所々付着しており、必要以上にはだけた胸元からは金色のネックレスがぶら下がっている。極めつけはその真っ赤に染まったリーゼントスタイルの頭だ。乗車マナーを正しく遵守するような人間には見えない。

 

「人を見かけで判断するのは良くないぜ」

 

 大柄な男性は右手の人差し指を立てて、『チッチッチ』と舌で音を立てながら左右に振る。その仕草もまた瘦身の男性の気に障る。

 

「おっしゃる通りだが、実際に貴様は他人に迷惑をかけている……よって、その発言には説得力が伴っていない」

 

「ん?」

 

「私の睡眠を邪魔したからだ」

 

「声をかけたらすぐ起きたじゃねえか。どうせ仮眠のようなもんだろう?」

 

「それでも体を休める貴重な時間であることには変わりはない」

 

「まあいいじゃねえか、起きたんだし」

 

「起こされたのだ」

 

「ちょっと話でもしようや」

 

 大柄な男性が瘦身の男性の隣に座る。瘦身の男性が顔をしかめる。

 

「勝手に座るな」

 

「じゃあ座らせてもらうぜ」

 

「私に許可を取ればそれで済む話ではない。チケットを所有しているだろう? そのチケットに記された番号の席に座れ」

 

「こんだけ空いてんだから良いじゃねえか」

 

 大柄な男性がわざとらしく両手を広げ、軽く振り回す。

 

「空いていたからそれで良いとはならん」

 

「相変わらず真面目だねえ……」

 

「真面目ぶっているつもりはない。これが普通だ」

 

 痩身の男性がズレた眼鏡をクイっと上げる。

 

「移動時くらい脱げば良いんじゃねえか、その服?」

 

 大柄な男性が瘦身の男性の姿を指差す。瘦身の男性は真っ白な軍服を折り目正しく着用している。

 

「これが正装だからな」

 

「堅い、堅いね~もっと柔軟に行けよ、俺みたいにさ」

 

「貴様は柔軟と奔放を履き違えている」

 

「そうかい? どういうところが?」

 

「貴様と無駄話をするつもりはない……」

 

 瘦身の男性は広げていたテーブルに置いていた文庫本を手に取る。大柄な男性が珍しいものを見たかのような表情になる。

 

「今時、紙の本かよ?」

 

「悪いか?」

 

「悪かねえが、このご時世、普通は電子書籍だろうが」

 

「……このご時世と言っても、特にこの地域においては古いもの、新しいものはあまり意味がないだろう……」

 

「それはそうかもな……しかし、しおりまで挟んで」

 

 大柄な男性が文庫本に挟んであったしおりを、ひょいと引き抜く。

 

「ああっ⁉ 何をする⁉」

 

「そんなに騒ぐなよ、他のお客様のご迷惑になるぞ?」

 

 大柄な男性がいたずらっぽい笑みを浮かべながら、口元に指を当てる。指にはこれでもかとばかりに指輪がついている。

 

「どこから読むか分からなくなるだろう……!」

 

「そんなこと大体覚えているだろうが」

 

「前回読んだときの続きへスムーズに移行したいのだ!」

 

「細かいねえ~」

 

「返せ! まったく……」

 

 瘦身の男性がしおりを取り返し、ぶつぶつ言いながら本に挟む。

 

「それじゃあよ、軍人らしい真面目な話をしようぜ」

 

「……なんだ?」

 

「俺の部隊は『あの地』を制圧しつつあるぜ」

 

「その報告は逐一受けている……」

 

「それでよ、制圧が完了した暁には……」

 

「暁には?」

 

「この『北陸甲信越州』の州都を長野に移そうと提案するつもりだ。賛同してくれよ」

 

「賛同はしかねる」

 

「なんでだよ?」

 

「理由は二つある」

 

 瘦身の男性は右手の指を二本立てる。大柄な男性が首を傾げる。

 

「二つ?」

 

「まず一つは、長野は『あの地』に近すぎる……」

 

「新潟や山梨と連携を密にするには、長野は地理的にもベストだろう」

 

「貴様の地元だというのも気に入らん」

 

「なっ⁉ それが二つ目の理由かよ⁉」

 

「違う、もう一つは……私は別の考えを提案するつもりだからだ」

 

「別の考えだと?」

 

「ああ、金沢への再遷都だ。今の州都はやはり西に寄り過ぎているからな」

 

「それは却下だな~」

 

「なんだと?」

 

「金沢に戻すっていうのは、後ろ向きな考え方だ。もっと前向きに考えるべきだぜ」

 

「貴様の考えは前向きではなく、前のめりというものだ」

 

「お前さんの地元に『あの方』をお招きしたいという下心丸出しの考えよりはマシだぜ」

 

「そ、そんなつもりではない! 本来の州都に戻した方が何かと安定する!」

 

「内外へのアピールも大事なんだよ、分かるだろう?」

 

 大柄な男性が自分の頭を指差す。

 

「貴様のそれは単なる目立ちたがりだ」

 

「お前さんだけには言われたくねえぜ?」

 

 大柄な男性が瘦身の男性のやや黄色い髪を指先でつまむ。瘦身の男性が振り払う。

 

「これは生まれつきそういう髪色なのだ! む……」

 

 新幹線が停車する。大柄な男性が席を立つ。

 

「まあ、そんなことを言っていたら着いたぜ」

 

「まったく……」

 

 男性たちがホームから改札を抜け、駅の外に出る。

 

「……お待ちしていました」

 

 ヨレヨレの白衣に身を包んだ、丸眼鏡をかけた小柄な男性が二人を出迎える。

 

「貴様がわざわざお迎えとは……」

 

「急ぎの用ですので……それぞれこちらに乗って下さい」

 

「おおっ……」

 

 白衣の男性が指し示した先には、全長4~5メートルの二足歩行の恐竜が数頭いた。

 

「福井県福井市、『竜京(りゅうきょう)』名物、恐竜バイクです……」

 

 

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